其の二十五 異界の戦士達

レードは抵抗出来ずに殴られ続け、遂に力尽きて倒れた。しかし、ヒサッツが止めを刺すべく拳を振り下ろした瞬間、レードから放たれた気合砲により、上空高く吹き飛ばされた。レードはヒサッツが気合砲から脱出し、闘技場に戻ってくるまでの間に気を高めた。そして、レードは自分の体を拘束している鞭状の気を吹き飛ばして立ち上がり、次の変身を始めた。

レードの後頭部が大きく盛り上がり、頭部の角の数が増え、顔から鼻が消え、口が大きく裂けた。変化したのは首から上だけではない。外皮の装甲が強化され、防御力が大幅に増した。また、先の変身の時と同様、傷は完全に癒えていた。そして、レードの変身が完了した直後にヒサッツが闘技場に戻ってきた。

「さあ、第三ラウンドを開始しましょう。この変身で、ようやくあなたと互角に戦えるでしょう」

今度はレードから攻撃を仕掛け、ヒサッツは立て続けに攻撃を喰らった。攻撃を受け、終始無表情だったヒサッツの顔が初めて苦痛に歪んだ。レードは攻撃の手を一切緩めなかったが、ヒサッツは攻撃と攻撃の間の間隔を見計らい、隙を見て脱出した。何とかレードの猛攻から逃れたヒサッツだったが、レードに対して憤りを覚えた。

「殺す。貴様を必ず殺す」
「あなたには感情が無いと思っていましたが、怒りの感情だけはあるようですね」

ヒサッツは気を最大限に高め、レードに猛然と襲い掛かった。対するレードも応戦し、闘技場の中央で激しい熱戦が繰り広げられた。ヒサッツはジフーミですら見た事がない憤怒の表情で激しく攻め立てたが、レードも負けていなかった。時には殴りあい、時には光弾を打ち合い、両者の体は傷だらけになった。

控室で試合を観戦していた悟空達は、この二人による高レベルな戦いに驚愕していた。この時点で二人の動きに何とか付いていけたのは悟空とベジータのみで、前の試合で死闘を演じた悟飯やピッコロでさえ、二人のスピードを追っていく事は出来なかった。

しばらく攻防戦が続いた後、レードとヒサッツは互いに距離を置いて一呼吸ついた。レードは初めて出会った強敵との対戦に満足した笑みを浮かべ、ヒサッツは思いもよらぬ苦戦に苛立っていた。

「くっくっく。やはり私が見込んだ通り、あなたは素晴らしい戦士だ。そんなあなたを、これから粉々にしなければならないのは本当に惜しいですね」
「勝手にほざいてろ!仮に俺がこの場で死ぬとしても、その時は貴様も道連れだ!」

口では強がりを言っても、ヒサッツは内心焦っていた。まさか自分がここまで苦戦するような相手が、この世界に存在するとは考えもしなかったからである。一方、レードに焦りはなく、純粋に試合を楽しんでいた。

「そろそろ教えて頂けませんか?あなた方が何者なのかを」

機嫌を良くしたレードは、悟空達も抱いている疑問をヒサッツに投げかけた。しかし、お喋りなジフーミでさえ話さなかった事を、無口のヒサッツが話すはずがなかった。口を真一文字に結び、無言で回答を拒絶した。しかしながら、ヒサッツが答えない事を予想済みのレードは、そのまま話を続けた。

「話して頂かなくても、当てて見せましょうか?まず、あなた方はこの世界の住人ではありません。何故かと言えば、この武道会を開催するに先立ち、私は大勢の部下を銀河の隅々にまで派遣し、強い戦士のデータを集めさせました。ですが、あなた方二人に関する報告は一切ありませんでした。ほんの二・三ヶ月前には、この世界に存在しなかったあなた方が、突然現れたという事は、異世界から来た以外に考えられません」

得意気に話すレードに対し、ヒサッツは黙って話を聞いていた。なかなか的を得た意見だとは思っていたが、この時点では、まだヒサッツに余裕があった。

「この世界とは別の世界と言えば、ずばり魔界でしょう。魔界と言えば、一つ面白い事を知ってますよ。魔界では一年程前に政変が起きたそうですね。そして、その政変は何人かの戦士達の活躍によって行われたとか。その戦士達の内の二人は、あなたやジフーミでしょう。違いますか?」

レードの話を聞いていたヒサッツの目の色が変わった。平静を装うつもりだったが、レードの持つ情報量に舌を巻いていた。

「何故そんな事を、この世界に住む貴様が知っているんだ?」

流石に黙っていられなくなったヒサッツは、思わず尋ねた。

「私の部下に魔界出身の者が数人いましてね。その者達から話を聞いたのですよ。彼等はこうも言ってました。『その戦士達は恐ろしく強かった』とね。そんなに強い戦士なら、私も是非お手合わせしたいと密かに願っていましたが、まさかこの武道会で実現するとは思いませんでした。それにしても魔界にドラゴンボールがあるとは、さすがの私も知りませんでした。おそらく私の部下達も、この事は知らないでしょう」

ヒサッツは驚きの余り声も出なかった。別に無理に隠す必要のない内容だったが、目的のために隠密行動を心掛けてきたヒサッツには、色々な事を知りすぎているレードの存在が邪魔に思えてきた。

「これからの時代、人の上に立つには力だけでなく、多くの情報を知っていないといけませんからね」

レードは部下から告げられた情報全てを注意深く聞き、信憑性のある事柄は全て記憶していた。レードは力だけでなく、卓越した頭脳も持っていた。彼は自分の力と部下の使い方を分かっていたからこそ、短期間で大勢力を築けたのである。

「さて、長々と話しました。そろそろ戦いの方を再開しましょう。この後も試合は控えていますから、主催者として長引かせるわけにはいきませんからね」

話し終えたレードはヒサッツに飛び掛かった。対するヒサッツも身構えてレードを迎え撃ち、激しい戦闘が再開された。ところが、突然ヒサッツはレードから距離を置くと、何とかめはめ波を放った。掛け声こそ無かったものの、それ以外は全て悟空達が使うかめはめ波と瓜二つだった。観戦中の悟空達が驚いたのは言うまでもない。レードは少し驚きながらも飛び上がり、かめはめ波を避けた。

「何故あなたが孫悟空達の技を・・・」

ヒサッツのかめはめ波を避けたレードは、驚きながらもヒサッツに尋ねた。

「大抵の技は、一度見れば自分も使う事が出来る。こんな技もな」

ヒサッツは突然、レードに向けて両手をかざした。その瞬間、レードの身体の自由が奪われた。そしてレードの両方の拳が自らの顔を殴り始めた。レードは殴られながらも眼から破壊光線をヒサッツに向けて放ち、ヒサッツが飛び上がって光線を避けた時、レードに掛かっていた金縛りが解けた。

「い、今のは私のデスマジック。あなたが言った通り、あなたは他の選手の試合を観戦している間に、その選手達が使う技を見て覚えたようですね。あなたにそんな特技があるとは、さすがの私も見抜けませんでした」

体が自由になったレードは、二度目のデスマジックを喰らわないよう、ヒサッツの脇に回りこんだ。ヒサッツは今まで行われた全ての試合を注意深く観察し、その試合中に使われた技のほぼ全てを習得していた。かめはめ波はパンや悟飯から、そしてデスマジックはレードから、それぞれ観戦して会得していた。

「俺はこれまで対戦した相手や、観戦した戦いから多くの技を学び取った。だが、俺の技が全て他人の技と思ったら大きな間違いだ。俺はあるお方に造られた時、既に数多くの技を具えていた。そして日々の鍛錬からも独自の技を常に開発している。お前の実力を評して特別に見せてやろう。俺が編み出した技の一つ、魔幻拳をな」

話し終えたヒサッツがレードの周囲を高速移動すると、無数の残像が出現した。ここまでは只の残像拳だが、その残像の一つ一つがそれぞれ意思を持って勝手に動き出し、レードに襲い掛かった。残像なのに攻撃されるとダメージを受け、逆にレードがその残像を攻撃すると、それが消えた。残像を攻撃されても、本体のヒサッツは一切ダメージを受けなかった。

レードは周囲を気で吹き飛ばし、ヒサッツの残像を全て消滅させた。しかし、ヒサッツは再び魔幻拳を使って複数の残像を作り出し、今度は残像と共に自分自身もレードに襲い掛かった。そのため、レードには対戦相手のヒサッツの人数が突然増えたような印象を覚えた。ヒサッツ一人だけでも厄介なのに、こう何人ものヒサッツに同時に攻められては手も足も出なかった。散々に攻撃を受けたレードは再度倒れた。

戦闘力は互角でも、この二人の明暗を分けたのは技であった。魔界では『技の名手』という異名を持つヒサッツは、豊富な数の技を有していた。レードもある程度の数の技を有していたが、ヒサッツには及ぶべくもなかった。レードはこの時、ヒサッツという男の実力が自分の想像を遥かに越えていた事を思い知らされた。

ヒサッツはレードが倒れたのを見て自身の勝利を確信し、一方のレードは絶体絶命へと追い込まれた。しかし、レードには後一回の変身が残されている事を、この時のヒサッツはまだ知らなかった。

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