其の七 レードとの対峙

次の日の早朝、まだブルマ達が寝ている間に悟空達九人は、自分達が宿泊しているホテルの前に集合した。そして、レードのものと思われる大きな気に向かって飛び立った。それから五分後に悟空達は、大勢の兵士に囲まれた豪壮な邸の上空で止まった。悟空達は、その兵士達に見つかる事を承知の上で、邸の正面に降り立った。当然の如く、兵士達は悟空達の元に駆け寄り、取り囲んだ。

「おい、お前達!ここが何処だか分かっているのか!?」
「レードの家だろ?奴に会いてえ。ここに呼んで来てくんねえか?」
「レード様が会うわけないだろ!さっさと立ち去らないと、ぶっ殺すぞ!」

悟空達を取り囲んでいる兵士の一人が、悟空達に対して怒鳴り散らしたが、それで悟空が怯むはずはない。それどころか、悟空の後ろにいたべジータに凄まれた。

「面白い。ぶっ殺せるものなら、ぶっ殺してみろ。逆に貴様等全員を片付けてから、レードの元に行ってもいいんだぞ」
「何だと!?お前等、生きて帰れると思うな!」

べジータの挑発に、更にいきり立つ兵士達。しかし、そこに一人の男が現れ、両者の間に割って入った。それは、額に二本の突起物がある小太りの男で、彼が現れた途端、兵士達は一斉に悟空達への囲みを解き、かしこまった。

「朝っぱらから何を騒いでいるんだ!?レード様は只今お休み中だぞ!もしレード様が、この騒ぎに起きてしまったら、貴様等全員死刑だぞ!」
「シーガ様。実はこいつ等が、『レード様に会わせろ』と言って、こちらの警告を全く聞きません。仕舞いには『我々を全員片付ける』とまで言う始末でして。それで止むを得ず、このような騒ぎになってしまったのです」

シーガと呼ばれた人物は、兵士達の弁解を聞いた後、今度は悟空達の方に視線を向けて問い掛けた。

「お前、孫悟空だな?レード様に何の用だ?」
「おめえはオラを知ってるようだな。実はレードと会って話がしてと思って、ここに来たんだ」

悟空の回答を聞き、シーガは少し考え込んだ。同じく話を聞いていた兵士達は、自分達が言い争っていた連中が、実は孫悟空一味であったと知り、恐怖で打ち震えた。もしシーガが現れずに悟空達との争いになれば、間違いなく殺されていたのは自分達の方だった事に、ようやく気付いた。

「・・・いいだろう。レード様に会わせてやる。付いて来い」

シーガに先導され、悟空達は邸の中に入った。そして、客室に通された悟空達は、そこで待つように指示された。シーガは奥へと引っ込み、それから三十分が過ぎた。悟空達が焦れ始めた頃、先ほどのシーガと他二名を引き連れて、レードが客室に現れた。一人は背が高い筋肉質な男、もう一人は美形の男で、二人ともシーガ同様に、額に二本の突起物があった。

「初めまして、皆さん。ようこそ我が邸に」

レードは父親のフリーザ同様に空飛ぶ乗り物に乗り、丁寧な口調で悟空達に話し掛けた。しかし、レードの態度がフリーザに似過ぎていたため、べジータは虫唾が走った。

「本日わざわざ訪ねて頂いた用件は何ですか?もしかして、あなた方を接待するよう申し付けた私の部下が、何か粗相を仕出かしたとか?もしくは、お貸ししたホテルの部屋に満足出来ず、もっと良質の部屋に交換するよう要望しに来られたのですか?」
「いいや。違うな」
「はて?それでは、どういったご用件でしょうか?私には皆目見当がつきません」

レードのとぼけた態度に、べジータは更なる憤りを覚えた。そして、思いの丈をレードにぶつけた。

「ふざけるな!貴様の狙いは、既にお見通しだ!貴様が俺達を武道会に呼んだのは、俺達を試合で殺すためだろう!親であるフリーザの敵討ちのためにな!」

べジータの態度に、レードの表情から一瞬笑みが消えた。しかし、すぐにまた元の笑みを浮かべた表情に戻った。

「ふっふっふ、なかなか鋭い読みですね。半分は合ってますよ。あなた方を試合で殺すために呼んだというのは、少なくとも間違いではありません」

予期していた返答。しかし、それをあっさり認めた事に、べジータは面食らった。

「ですが、父の敵討ちのためというのは間違いです。私は他の兄弟達と違い、あなた方が父を殺した事を憎んでいません。父は悪行の限りを尽くし、多くの恨みを買っていましたから、殺されて当然です。例えあなた方が手を下さずとも、別の誰かによって殺されていたでしょう」

フリーザが悪事を働いていた事を、当時のレードは、子供ながらに分かっていた。

「では、何のために俺達を殺そうとするんだ?」

次に悟飯が尋ねた。フリーザの敵討ちが目的でないならば、自分達を殺そうとする理由は無いはずである。

「私の強さを全宇宙にアピールするための引き立て役としてですよ。弱い人間を幾ら殺しても、強さの証明にはなりませんからね。あなた方は宇宙最強だったフリーザを倒した強い戦士達。その強い戦士達を私が倒せば、誰もが私を宇宙最強と認めるでしょう」

レードが悟空達を殺そうとする理由は、私怨ではなく、飛躍のための手段だった。

「それでは、お前は宇宙最強と認められるためだけに、武道会を開いたのか?」

続いてピッコロが質問した。

「宇宙最強と認められれば、この上ない光栄ですが、そのためだけに武道会を開くわけではありませんよ。本当の目的は、宇宙征服を楽にするためです。私の強さを知っていれば、私に抵抗しても無駄だと悟り、すぐに降伏するでしょう。私は父と違い、無意味に人を殺したりしません。人を殺せば、恨みを買って徹底抗戦され、その分だけ征服に時間が掛かりますからね。私は父とは違うやり方で、宇宙を支配して見せます」

レードの最終目標は、フリーザと同様に全宇宙の支配だった。ただし、フリーザが星に住む人間を全滅させてきたのに対し、レードは自身の強さを全宇宙に浸透させて、抵抗する意思を無くさせる。フリーザとレードは、目標が同じでも、手段が違っていた。

「じゃあ、何で予選で多数の死者が出たんだ?彼等の多くは、武道会の優勝を目指していただけであって、貴様に抵抗するためではない!多くの人が死ぬ事ぐらい、事前に予測出来たはずだ!」

今度は、トランクスがレードに噛み付いた。レードは「無意味に人を殺さない」と言っておきながら、彼が主催した武道会で、たくさんの異星人が死んだ現実に、トランクスは立腹していた。

「武道会への参加は、強制ではなくて個人の意思。そして、予選で死んだ人間は、私が殺したわけではありません。よって、誰も私に恨みを抱かないでしょう。まあ、強い人間の数が減ってくれれば、私の宇宙征服が、その分やり易くなりますけどね」

レードはそう言って、くすくす笑った。その様子は、人が大勢死ぬ様にあらかじめ計画し、それが上手くいって歓喜している事を、あからさまに示していた。

「ついでに言っておきますが、あなた方を殺すのだけが目的でしたらだ、わざわざ武道会を開く必要はありません。私一人が地球に行けば、それで済む話ですからね」
「まるでオラ達全員を一度に相手にし、それでも勝つ自信があるみてえな言い方だな」
「ええ。その気になれば、あなた方全員を片付ける事ぐらい、十秒いらないでしょう」

この言葉に、悟空以下一同が憤った。これまで色々な相手と戦う際、様々な挑発を受けたが、ここまで自分達を軽んじる言葉は、聞いた事が無かった。

「武道会には私の他に、後ろに控えている側近のシーガ・ライタ・アストレーのセモークの三兄弟が、シード選手として本選より出場します。くれぐれも私をがっかりさせるような、無様な戦いをしないで下さいね。では、武道会でお会いしましょう」

その後、悟空達は全員、憤怒の表情を浮かべながら邸を後にした。レードの余りにも自分達をみくびる態度に、怒りを覚えつつも、試合では目に物を見せてくれんと決意し、ホテルへと戻っていった。

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