其の十五 ドクター・ハートの野望

ドクター・ハートは、得意満面に語り始めた。

「私達ジニア人は、昔から知能が異常に高かったわ。しかし、そのせいで脳が大きくなり過ぎてしまい、自分の脳に押し潰されて死んでしまう人が大勢居たわ。でも、救世主が現れたの。その人は、ドクター・ブレイン。彼は盟友のドクター・ラングを実験台にし、脳を縮小しても機能が衰えない手術を試みたの。手術は成功し、ドクター・ラングの脳は他種族と同じ位の大きさになったわ。それからドクター・ラングに手術の手順を教えて自らを手術させ、自分の脳も小さくなったの」

人の脳は、動物よりも脳が大きい。その分、人は動物よりも知能が高いのだが、普通の人よりも遥かに知能が高いジニア人の脳は、以前は常人の数倍大きかった。

「手術方法が確立されたので、この二人は他のジニア人にも同じ手術を執行したわ。更にドクター・ブレインは、歳を取らない体にする手術も手掛けるようになったの。お陰で私達は、永遠に知識を吸収出来るようになったわ。私達はドクター・ブレインに感謝し、彼に従うようになったわ。そして、ジニア人のリーダーとなったドクター・ブレインは、皆に提案したの。『この宇宙を隅から隅まで知り尽くそう』とね。私達は知的好奇心の塊みたいなものだから、喜んで賛同したわ」

ここで悟飯が口を挟んだ。

「知識を得たいなら、他人の星を攻め滅ぼす必要は無いはずだ!他の星の事が知りたければ、その星に住む人達と仲良くなって、教えを請えば良いじゃないか!お前達は何を考えているんだ?」

学者であった悟飯は、頭の良い人が更なる知識を得たいと思う気持ちを理解出来る。しかし、そのやり方が受け入れられなかった。

「そうね。私達も最初は、そうしてきたの。でも、それだと時間が掛かり過ぎる上に、頭の悪い連中と付き合うのが馬鹿馬鹿しくなってきたの。しかも得られる知識は、覚える価値の無い下らないものばかり。これを続けてたら何時まで経っても終わらないと思い、方針転換したの。まずは全宇宙から何の取り得も無い種族を排除する。それと同時に、知る価値のある種族のデータ等を採取する。それ等の作業を千年以内に達成する。これがミレニアムプロジェクトの源となったのよ」

苦労して知識を得ても、それが取るに足らないものばかりでは、余りにも効率が悪い。そう考えたドクター・ブレインは、まず知る価値があるか無いかで判別し、無いと判定された種族の命脈も文化も抹消する。一方、知る価値があると判定された種族の全てを強奪する。高過ぎる知能を持つが故に自分を高尚な存在だと信じて疑わず、他種族を見下し、どう彼等を扱っても良いと思うようになったドクター・ブレインの驕りが、全宇宙に悲劇を齎した。

「つまり自分達にとって価値の無い人達は、邪魔だから殺すという事だな?何て身勝手な連中だ!聞いてて反吐が出る!どんな人達にだって、生きる権利があるんだ!お前達が思い通りにして良い命なんて、一つも無いぞ!」

今まで色々な悪を見てきた悟飯だが、ここまで厚顔無恥な悪は、流石に初めてだった。

「ふん。所詮、戦う事しか能が無いあなたに、私達の崇高な考えなど分かるはずもないわ。あなただって虫を殺した事ぐらいあるでしょ?私達から見れば、何の才能もない連中など虫けら以下の存在だわ。存在自体が罪よ。そんな連中を殺すのに、何の躊躇いも無いわ」

命を重んじる悟飯と、命を軽んじるドクター・ハート。両者の考えには大きな隔たりがあり、分かり合える事は絶対にあり得なかった。二人の議論が激化しかけた時、ドクター・リブが彼等がいる部屋の中に駆け込んできた。

「ドクター・ハート!ここに居ましたか!随分探しましたよ!」
「ドクター・リブじゃない!どうして来たの?それより五十六号は?一緒じゃなかったの?」
「五十六号は・・・死にました。サイヤ人に殺されました」
「何ですって!?五十六号が死んだですって!?」

ドクター・ハートと五十七号は、ドクター・リブの報告に仰天した。

「一番強いサイヤ人は、ここに居るのよ。残った連中が、どうやって五十六号に勝てたの?」
「奴等の内の二人が合体し、一人の戦士になりました。五十六号は、その戦士に倒されました。その後、再び二人に分かれて基地に来たので、私は基地を捨て、この星まで避難しました」
「信じられない。五十六号が倒されるなんて・・・。サイヤ人の力を甘く見過ぎていたわ」

ドクター・ハートは、珍しく動揺していた。自らの手で改造した最強のサイボーグが、格下と思っていたサイヤ人に敗れたからである。また、長年に渡って五十六号と行動を共にしてきた五十七号は、仲間の死に憤っていた。

「俺が再度あの星に行ってサイヤ人を倒し、五十六号の無念を晴らしてきます!」
「待ちなさい!五十六号の実力は、あなたと大差無いのよ。その五十六号を倒す実力者なら、あなたにだって勝てるかもしれないじゃない。あなたまで失うわけにはいかないわ」
「しかし、サイヤ人を野放しにしておくのは危険です。早めに手を打たないと・・・」
「確かに放っておけば、この星に来ようとするわね」

ドクター・ハートが恐れたのは、五十六号を倒したサイヤ人が、仲間の悟飯を助け出すために惑星ジニアに乗り込んで来る事だった。

「ドクター・リブ。惑星ジニアの場所が記した資料は、基地の中に置いてきてないでしょうね?」
「それは大丈夫です。必要な物は持ち出しましたし、基地の中に残してきた宇宙船には、惑星ジニアの場所を記録していません」
「それなら彼等が宇宙船を手に入れても、ここに来る事は不可能ね。彼等の相手は、オーガンでないと無理ね。でも、各オーガンの予定は埋まっている。仕方ない。今は彼等を放っておくわ」

サイヤ人の力を侮り難しと見たドクター・ハートだが、この問題を即座に解決しようとはせず、放置する事にした。側で聞いていた悟飯は、この決定に安堵した。悟空達とジニア人達との戦いが、一先ず回避されたからである。

「ところで、ドクター・ハート。ドクター・ブレインには、今回の件を報告するのですか?」
「安心しなさい。ドクター・ブレインには、サイヤ人の発見・捕獲のみを報告するわ。私にも落ち度があったし、あなたが逃げ帰って来たなんて伝えないわ。あなたには別の銀河を担当してもらうわ。それに新しい基地や工場といった施設も必要よね。すぐに手配するから、そこで待っていなさい」

ドクター・ハートが行動に移そうとした丁度その時、悟飯の頭に被せられた輪っかが鳴り始めた。

「あ!どうやら記憶の取り込みが終了したようね。どれどれ・・・」

ドクター・ハートは、ドクター・リブそっちのけで悟飯の頭から輪っかを外し、それを近くのビデオデッキに似た機械の挿入口に入れた。すると、その機械は作動を始め、その機械に連結しているディスプレイに、悟飯の半生が記された文章が表示された。ドクター・ハートは、その文章を読み始めた。

「ふむふむ。名前は孫悟飯。父親はサイヤ人の孫悟空。母親は地球人のチチ。なるほど。純粋なサイヤ人だと思っていたけど、実際はハーフだったのね。そして、子供の頃は一日八時間の勉強を母親に課せられた・・・か。ふっ。随分と短いわね。私が子供の時は、睡眠学習も含めて、一日二十三時間以上は勉強していたわ。それから父親からドラゴンボールが付いた帽子を与えられる・・・?ドラゴンボール?何それ?調べてみないと」

ドクター・ハートは、文章をスワイプし、ドラゴンボールの事が述べられている項目を探した。

「あったわ!ドラゴンボールとは、ナメック星人の竜族が作った球で、全部で七個あり、全てを集めて呪文を唱えると、ボールの中から神龍が現れて、どんな願いでも叶えてくれる・・・か。面白いわね」

ドクター・ハートは、ドラゴンボールの存在を知り、俄然興味が沸いた。彼女の態度に、ドクター・リブは慌てふためいた。

「ま、まさか、そのドラゴンボールとやらを手に入れて、何か願い事を叶えようとしてるんじゃないでしょうね?それは、サイヤ人の住む銀河にあるはずですから、奴等と戦って倒さないと手に入らないと思うのですが・・・」

ドクター・リブの懸念に、ドクター・ハートは爆笑した。

「こんな球で私の壮大な願いが叶えられるとは思えないわ。私が考えているのは、ドラゴンボールを使う事じゃない。作る事よ」
「ドラゴンボールを作るですと!?これは魔法の類で作られた物でしょう。流石に無理では・・・」
「魔法に出来て、科学に出来ない事なんて無いわ!私の頭脳を甘く見ないで頂戴!元祖の力を遥かに超えるボールを作って見せるわ!サイヤ人の研究より、こっちの方が面白そうね」

ドクター・リブと五十七号は、ドクター・ハートの計画に唖然としていたが、悟飯は強い危機感を抱いていた。魔神龍との戦いの記憶が、まだ鮮明に残っていた悟飯は、ドクター・ハートが第二の魔神龍を生み出すのではないかと危惧した。

「馬鹿な考えは止めろ!後で取り返しがつかない事になるぞ!」
「私が作るドラゴンボールが暴走し、私達に牙を剥くかもしれないとでも思っているの?そんな失敗は、しないわ。それより自分の身を心配した方が良いんじゃないの?」

ドクター・ハートは、悟飯の忠告に耳を貸さなかった。この後、ドクター・リブは別の銀河の征服に向かい、ドクター・ハートはドラゴンボールの製作作業に取り掛かった。そして、悟飯は怪我の治療すら受けさせてもらえず、薄暗い地下牢に幽閉された。

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