惑星レードの大地に聳え立つ豪華な御殿。それは悟天とアイスが暮らすため、レードが部下に命じて建てさせたものだった。そして、その御殿には悟天達の他に、彼等に仕える多くの女中達が常勤していた。彼女達は、悟天達の身の回りの世話や、掃除等の雑務で忙しい日々を過ごしていた。
ある日、女中達が後片付けをしていると、一人の女中が躓き、大きな音を立てて転んでしまった。すると、その音に反応して、彼女達が居た部屋の隅にあるベッドで眠っていた男の赤ん坊が目を覚まし、大声で泣き出してしまった。その途端、部屋の中で作業していた女中達は騒然となった。
「大変!ゴカン様が泣き出してしまったわ!お二人に早く知らせないと!お二人は、何処に居るの?」
「おそらくトレーニングルームに居ると思うわ!早く行って!ゴカン様を宥められるのは、お二人以外には無理なんだから!」
赤ん坊を起こしてしまった女中は、大慌てで地下のトレーニングルームまで走っていった。そして、彼女は目的の部屋の前まで移動すると、勢いよく扉を開けた。
「トレーニング中、大変申し訳ありません!ゴカン様が目を覚まし、泣き出してしまいました!」
トレーニングルームの中では、悟天とアイスが組み手の特訓をしていた。悟天は修行を邪魔され、不機嫌そうに応えた。
「ゴカンが泣き叫ぶなら、君達があやせば良いじゃないか!そんな事すら出来ないのか!?」
「悟天、無茶言わないで。ゴカンは生まれた時点で、戦闘力が一万もあったのよ。戦闘力が十にも満たない女中達では、下手にゴカンに近付くと、運が悪ければ殺されてしまうわ」
「仕方ない。また俺があやしてくるか。ゴカンが生まれてから修行に集中出来ないよ」
「文句を言わないの。それが親の務めなんだから」
悟天とアイスは、半ば困り顔で子供部屋まで走っていった。悟天達が部屋の中に入ると、依然としてゴカンが泣き叫んでおり、側に居た女中達は、両手で耳を塞いでいた。ゴカンの泣き声は、普通の赤ん坊の倍以上に大きいので、一旦泣かれると、女中達は仕事を中断して、耳を塞がざるを得なかった。
「ほらほら、ゴカン。パパが来たから、もう怖くないぞ」
悟天は泣きじゃくるゴカンを抱き上げると、あやし始めた。しばらくすると、ゴカンは安心したのか次第に泣き止んで、すやすやと眠りについた。ゴカンが大人しくなったので、悟天はベッドの上にゴカンを寝かせた。
このゴカンという名前の赤ん坊は、悟天とアイスの間に産まれた子供である。ゴカンが生まれるまで、悟天は気が気でなかった。アイスは人間型とはいえ、混血を繰り返してきたフリーザ一族の末裔である。そんな女性との間に誕生する子供の姿は、人とは違うかもしれない。もしそうなったら、我が子といえども愛せるのか、悟天は不安で一杯だった。幸いにも生まれてきた赤ん坊は、通常のサイヤ人と変わらない姿だったので、初めて我が子を目にした時、悟天は心から安堵した。
ところが、悟天は赤ん坊が生まれた事を地球へは伝えていなかった。レードは悟天に、地球との交信を一切認めなかった。悟天自身も、まだ悟空に対して蟠りがあったので、無理に伝えようとはしなかった。
悟天とアイスは、ゴカンが眠った事を確認すると、トレーニングルームに戻り、修行を再開しようとした。しかし、男の兵士が部屋の中に入ってきた。
「失礼します。レード様が間もなく、こちらに来るとの連絡がありました」
「何?レード様が?何の用だろう?とにかく、お出迎えしないと・・・」
悟天は、レードを呼び捨てにするのは非礼だと思い、一度「お義父さん」と呼んだ事があった。すると、レードに無言で殴られてしまった。どうやら悟天に「お義父さん」呼ばわりされるのを、レードは快く思わないらしい。それ以来、悟天はレードの事を「レード様」と呼ぶようになっていた。
悟天とアイスが外に出て待っていると、レードが空飛ぶ玉座に乗って現れた。アイスが気軽に手を振っているのとは対照的に、悟天は緊張した面持ちで仰々しく出迎えた。レードの機嫌を損ねれば、流石に殺されはしないものの、酷い目に遭わされるからである。悟天にとってレードは、未だに恐ろしい存在だった。
「レ、レード様、お久しぶりです。何か用があって来られたのですか?」
「用があるから来たんだ。話がある。付いて来い」
レードは言葉少なに、悟天とアイスを近くの平野まで誘った。その平野には、レードの部下が一人待機しており、その近くには、シーツを被せられた「何か」があった。三人が平野に降り立つと、レードが話し始めた。
「先日、地球に派遣した科学者から連絡があった。孫悟空達は、遠く離れた銀河でドクター・リブと遭遇し、圧倒的な力で奴を追い詰めて自殺に追い込んだとな。ドクター・リブと言えば、我が子供達の仇。出来れば俺の手で殺したかった」
惑星レードから地球に派遣された五人の科学者達は、悟空達に全面的に協力していたが、悟空達の周りで起こった出来事を、惑星レードに逐一報告していた。
「ところで、ドクター・リブを追い詰めたのは、孫悟空達の内の誰だと思う?」
「さあ?どうせ父さんじゃないですか?」
「違う。トランクスだ。トランクスが超サイヤ人4となって、ドクター・リブが製造した超リブマシーンとやらを破壊し、追い詰められたドクター・リブは、自ら死を選んだそうだ」
「トランクス!?あいつが超サイヤ人4に!?そ、そんな・・・」
トランクスが超サイヤ人4になったと聞いて、悟天は大きなショックを受けた。幼い頃からの親友であり、ライバルでもあったトランクスに、先を越されたと思ったからである。悟天は悔しい思いをし、同時にトランクスに嫉妬心を抱いた。
「トランクスとは、ライバル同士だろ?奴は超サイヤ人4になれたのに、お前はなれないのか?」
「そ、そんな事は、ありません!まだ試していないだけです!俺が超サイヤ人4になろうとすれば、すぐにでもなれます!」
「そういうだろうと思って、こんな物を用意した」
レードは、後ろで控えていた部下に目配せして、シーツを取り外させた。シーツの中からは、機械らしき物が出てきた。
「これは・・・。もしかして超ブルーツ波発生装置ですか?」
「そうだ。この程度の機械、俺に仕える科学者なら簡単に造れる。こいつを使えば、ある程度の修行を積んだサイヤ人なら、超サイヤ人4になれるんだろ?試してみるか?」
「はい!喜んで!」
悟天は離れた場所に立った。そして、レードの合図に従って、レードの部下は超ブルーツ波発生装置を作動させ、超ブルーツ波が悟天に向けて発射された。超ブルーツ派を浴びた悟天は巨大猿となり、理性を失って暴れだした。
悟天がレード達に危害を加えようとしても、レードに往なされるので、三人に被害は無かった。また、悟天が気功波を放っても、レードが即座に掻き消すので、何処も損害を被らなかった。しかし、悟天が超サイヤ人4になる気配は、一向に見られなかった。
三十分後、痺れを切らしたレードは、気円斬で悟天の尻尾を切り落とし、悟天は元の姿に戻った。成果を出せなかった悟天に侮蔑の眼差しを送りながら、レードは語り始めた。
「まだ超サイヤ人4になれないようだな。どうするんだ?トランクスに随分と水をあけられてしまったぞ。トランクスの方が、お前より優秀なのか?だとするなら、アイスにはトランクスの子を産んで欲しかった。その方が俺も安心しただろう」
悟天は悔しかった。しかし、超サイヤ人4になれなかったのは事実なので、何も言い返せなかった。そんな悟天に、レードは更に追い討ちを掛けた。
「この一年、何をしていたんだ?いずれ俺の後継者となるゴカンをアイスに産ませただけか?」
「こ、今回は失敗しましたけど、いずれ必ず超サイヤ人4になって見せます!」
「その言葉、忘れるなよ。この超ブルーツ波発生装置は、くれてやる。好きに使え」
「・・・はい。ありがとうございます」
話し終えたレードは、部下と共に飛び去った。落ち込む悟天に対し、アイスは慰めの言葉を掛けた。
「大丈夫よ。悟天なら、すぐに超サイヤ人4になれるわ。パパだって、悟天に期待しているから、あんな厳しい事を言ったのよ」
「くそっ!トランクスになれて、俺になれないはずがないんだ!次こそは絶対に超サイヤ人4になってやる!」
その後、悟天は何回かの失敗を経た後、ようやく超サイヤ人4になった。しかし、トランクスに対する嫉妬心は消えなかった。
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