ピッコロとウーブは、ジニア人のドクター・スパインに仕えるスパイン師団が拠点とする星に向けて宇宙を旅していた。現在、ピッコロ達が乗っている宇宙船は、元々乗っていた船ではなく、彼等の船を誤って壊してしまった旅団が所有する物で、高性能だが、それでも何十億光年も離れた地球に帰るには無理があった。その為にピッコロ達は、地球に一瞬で移動出来るジニア人の船を入手する必要があった。
ピッコロ達と共に旅をする旅団は、スパイン師団や、それに従属するスパインボーグに故郷を滅ぼされ、命からがら逃げ延びた者達が集まって出来たグループで、全員がジニア人に深い恨みを抱いていた。しかし、同時に恐れてもいたので、ピッコロ達を船から降ろしたら、すぐに旅団だけ引き上げる手筈となっていた。
元々乗っていた宇宙船が壊されて地球に帰れなくなるなど、ピッコロ達は予想だにしていなかったので、充分な食料を持って来ていなかった。なので旅団のを分けて貰っていた。ピッコロは、水だけで事足り、ウーブや二人の科学者達は、少量の食料で腹の虫を抑えていた。もしこの場にサイヤ人が居れば、この程度の食料で足りるはずもなく、あっという間に備蓄を食い尽くしていただろう。今回、サイヤ人が一人も居なかったのは、不幸中の幸いだった。
そして、出発してから三日後、遂にピッコロ達は目的の星に到着した。予てからの手筈通り、ピッコロ達四人が降りた後、旅団の船は即座に飛び去った。
「ここがスパイン師団の拠点がある星か?その割には大きな気を感じない。サイボーグなら当然か」
「気を探れないなら、敵が何処に潜んでるか分かりません。慎重に敵の拠点を探すべきです」
「それはそうだが、もしここが敵が拠点とする星でなかったら、俺達は一生ここから出られないぞ」
ピッコロとウーブが話し合っていると、背後から大きな爆発音が聞こえた。ピッコロ達が驚いて後ろを振り向き、爆発がした現場に駆けつけると、先程まで乗っていた旅団の宇宙船が墜落していた。ピッコロ達は、まず船に乗船していた旅団の安否を確認した。旅団の中でも、スパインボーグ達と戦ってきた戦士達は軽傷で済んだが、それ以外の非戦闘員は全員死んでいた。
「何故、宇宙船が墜落したんだ?俺達が乗っていた時は、壊れているようには見えなかったが・・・」
ピッコロ達が旅団の救助作業に取り掛かろうとすると、軍服を着た戦士達が彼等の元に飛んで来た。下卑た笑いを浮かべる彼等は、すぐ側に居るのに、気を感じられなかった。
「お前達は、スパインボーグだな?彼等の宇宙船が墜落したのは、お前達の仕業だな?」
「そうだ。得体の知れない宇宙船が来たから、撃ち落せという命令を受けたんでな。この星の上空には、無数の偵察用人工衛星が浮かんでいて、それが星の内外を絶えず監視している。その為、お前達の接近は、この星に着陸する前に分かっていた」
スパインボーグは、全く悪びれる様子は無かった。
「くっ。すぐに出発すれば、彼等に害は無いと思っていたのに・・・。完全に読みが浅かった。俺達がこの星に来たいと言ったせいで、彼等に多大な迷惑を掛けてしまった・・・」
「済んだ事を嘆いても仕方ない。こうなったら宇宙船を二台奪い、一台を彼等に与え、操作方法を教える他あるまい。その前に、こいつ等を片付けるとするか」
「俺達を倒すだと?馬鹿め!スパインボーグの実力を見せてくれるわー!」
スパインボーグ達は猛然と襲い掛かった。しかし、ピッコロの実力には遠く及ばず、スパインボーグ達は呆気なく倒された。ところが、ピッコロはスパインボーグ達を完全には破壊しなかった。敵の情報を得るためだった。
「お前に訊きたい事が幾つかある。まず、お前達の拠点は何処にあるんだ?」
「だ、誰が話すか」
「自分の置かれている状況を分かってないようだな。壊されたくなければ話せ」
「ふん。例え破壊されても、ドクター・スパインに修理してもらえば、すぐに元通りになる」
「そうか・・・。だったら、修理不可能なほどバラバラに破壊してやろう。これは脅しではない」
ピッコロは、足元に倒れているスパインボーグの頭部に手の平を向け、気を溜め始めた。するとスパインボーグは、慌てて北西方向を指差した
「ま、待て!言うから壊さないでくれ!こ、この方角に百キロほど離れた場所に基地がある」
「ならば、その基地とやらにスパイン師団が四人とも居るのか?」
「基地に居るのは、スパイン師団の一人ネータ様だけだ。スパイン師団の各人は、ドクター・スパインから担当地区を割り当てられ、ネータ様は、この地区の担当だ。そして、ネータ様は基地からスパインボーグ達に指示を出している。だから他のスパイン師団は、別の星に居る」
死亡したドクター・リブは、銀河中に散らばった協力者一人一人に、直接命令を下していた。しかし、ドクター・スパインは、銀河を四つに分け、それをスパイン師団が一人ずつ担当し、各スパイン師団がスパインボーグ達に指令を出していた。
ピッコロ達にとって好都合だったのは、スパイン師団が一箇所に全員で居ない事だった。この星は、スパイン師団の拠点があるとしか聞いていなかったので、ここに来る前までは、スパイン師団の四人全員が滞在し、彼等全員と同時に戦う事を覚悟していた。しかし、実際は四人の内の一人の拠点に過ぎなかったので、一人しか相手にしないで済む。ピッコロは、ほくそ笑んだ。
「次の質問だ。ドクター・スパインの知能指数と階級を言え」
「何故そんな事まで?ドクター・スパインの知能指数は千で、階級はボーンと聞いている」
「千か・・・。ドクター・リブの八百より上だな。ならば、スパイン師団の実力は、トランクスが倒した超リブマシーンより上と見るべきだろう。しかし、ボーンが造ったサイボーグなら、それより階級が上のオーガンであるドクター・ハートが造ったハートボーグよりは弱いだろう」
ピッコロは、これから戦う相手の大体の力量を推察し、ウーブと二人掛かりで戦えば、勝機はあると考えた。
「質問は終わりか?俺を逃がしてくれる約束だろ?」
「そうだな。しかし、約束したのは俺個人のみ。後ろに居る連中まで、見逃すかどうかは知らんがな」
ピッコロの後ろには、宇宙船を墜落された旅団の生き残りが立っていた。彼等は宇宙船を壊し、同胞を殺したスパインボーグに激しい憤りを感じていた。当然、彼等が見逃すはずもなく、身動き出来ないスパインボーグに怒りの鉄槌を加え、跡形も無く破壊した。憎きスパインボーグを倒し、旅団の溜飲が下がったのを見計らって、ピッコロが話し掛けた。
「お前達が巻き添えを喰う羽目になったので、今度は俺達が詫びを言わねばならない。俺達に出来るのは、スパイン師団のネータとかいう奴が居る基地から宇宙船を奪い、それをお前達に渡す事だ。必ず成し遂げてみせるから、お前達は待っていてくれ。もし俺達が居ない間に、別のスパインボーグが来たら、無理に戦おうとせず、迷わず逃げてくれ」
「分かった。健闘を祈る」
ピッコロとウーブは、科学者と旅団を残し、二人きりでスパイン師団のネータが居るという基地に向けて飛び立った。やがて基地らしき建物が見えてきたので、二人は正門の前に降り立った。どうせ敵に自分達の存在が知られているなら、正面から堂々と乗り込もうとしたのである。そして、二人が基地の中に入ろうとしたら、逆に基地の中から一人の男が出て来た。この男も軍服を身にまとっていたが、落ち着いた様子で、先程戦ったスパインボーグとは雰囲気が違っていた。
「貴様がスパイン師団のネータだな?気は感じないが、只者でないと一目で分かる」
「俺がスパイン師団の一人だと分かった上で、ここに乗り込んでくるとは、頭が良いとは言えんな。それとも我が軍への入隊を望んでいるのか?それなら大歓迎だ。そこのターバンを被った男の力は、モニター越しから観ていたが、中々のものだ。お前なら優秀なスパインボーグになれるだろう」
ネータは、先程のピッコロとスパインボーグとの戦闘を観て、ピッコロの強さに興味を抱いていた。優秀な兵士は一人でも多く欲しいネータは、早速ピッコロを勧誘した。しかし、ピッコロが応じるはずがなかった。
「俺はサイボーグに改造されたくないし、それ以前に貴様等に手を貸すつもりは毛頭無い」
「そうか。残念だ。そっちの若者は、どうだ?お前の実力は見ていないが、そこそこ出来るんだろ?」
「俺の回答も同じだ。貴様等に手を貸すぐらいなら、死んだ方がましだ」
「死んだ方がましか・・・。ならば、望み通りに死をくれてやろう。スパイン師団の恐ろしさを、冥土での語り草にしろ!」
ピッコロ達が仲間にならないと分かったネータは、今度は殺さねばならないと頭を切り替えた。
「基地の前で戦えば、お前にとって都合が悪かろう。場所を変えるぞ」
「良かろう。好きな死に場所を選べ」
宇宙船を確保しなければならないピッコロ達にとって、基地の中にあると思われる船が戦いの影響で破壊される事だけは絶対に避けねばならなかった。ピッコロは、その危険性を回避するため、ウーブとネータを連れ、基地から遠ざかった。
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