ウーブの勝利宣言に、ネータは思わず吹き出した。
「フハハハハ・・・。この俺を倒すだと?馬鹿め!俺は百年以上も戦い続けてきた歴戦の勇士。お前の様な若造に遅れを取る俺ではない!」
「お前は強いし、戦い方も巧みだ。経験の上では、俺はお前に敵わないだろう。しかし、その経験が何の役にも立たない場所がある。それは俺の体の中だ。クッキーになれー!」
ウーブは掛け声と同時に、お菓子光線を放った。不意を突かれたネータは、避ける間もなく光線を浴びてクッキーとなった。ウーブは、クッキーが地面に落ちる前にキャッチし、すぐに食した。
「ここまでは上手くいった。後は、ピッコロさんを無事に救えれば良いんだけど・・・」
クッキーを食べたウーブは、己の体内に意識を集中させた。体内の何処かに居るネータを探す為だった。
ウーブの前世である魔人ブウは、悟空の仲間達を次々と吸収して自分の体内に取り込んだ。そして、仲間達を助け出す為、ベジットはバリアーを使って故意に吸収され、ブウの体内に潜入した。ところが、体内に入ってバリアーを解いた途端、ベジットは元の二人に戻ってしまった。悟空曰く、ブウの体内にある空気が合体を駄目にしたそうである。ミスター・ブウを通じ、その事を知ったウーブは、ピッコロとネータを分離させるべく、ネータを体内に取り込んだ。
やがてウーブは、ピッコロとネータが隣り合い、それぞれ別々の肉の柱の中に閉じ込められているのを発見した。体内に取り込む事で、二人が分離する確証は無かったが、ウーブは一か八かで試し、幸いにも分離していた。続いてウーブは、体内に自分の小型の分身を作り、その分身ウーブが柱を引き裂いて、ピッコロの封印を解いた。ところが、ピッコロは柱から解放されても、意識を失ったままだった。
「ピッコロさん!起きて下さい!ピッコロさん!・・・駄目だ。起きない。合体している間、エネルギーを吸い取られ続けていたのだろう。俺のエネルギーを分けるか」
ピッコロは体をゆすられても目が覚めなかったので、ウーブは自分のエネルギーの一部をピッコロに送った。するとピッコロは、ようやく目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。
「ウ、ウーブか。こ、ここは何処だ?」
「ここは俺の体の中です。ピッコロさんが合体させられてしまったので、分離させる為に俺の体の中に取り込みました。こうでもしないと俺は手出し出来ず、やられる所でした」
「そうか・・・。どうやら俺は、お前の足を引っ張ってしまったようだな」
ピッコロは己の不甲斐無さを恥じつつも、まだ柱の中に閉じ込められたままのネータを見た。
「あいつは過去に俺以外の奴とも合体したはずだが、分離したのは俺だけだ。合体したばかりで、完全に一体となる前だったからだろう。忌々しい奴め。とっとと片付けるぞ」
「動けない敵を倒したくありません。目覚めさせてから改めて戦い、倒します。ピッコロさんは、ここから脱出して下さい。あの光が見える方角に行けば、外に出られます」
「分かった。脱出したら先程の基地に行き、宇宙船を手に入れるとしよう」
ピッコロは、光が差し込む方角に向かって飛行した。そして、ウーブの右の鼻の穴から脱出した。外に出た途端、ピッコロの体が元の大きさに戻った。ピッコロが外に出ると、立ったまま動かないウーブが居た。ウーブの意識は、体内に居る分身にあるので、本体は無防備だった。もし、ウーブをこの場に残しておくと、何処からかスパインボーグが来て、彼に危害を加えようとするかもしれない。ウーブの安全を守る為、ピッコロは彼を抱え、基地に向けて飛び立った。
その頃、ウーブの体内では、分身ウーブがネータを肉の柱から引きずり出していた。ネータは寝たままの状態だったので、ウーブはネータの頭を軽く蹴飛ばした。それにより、ネータは目を覚まして起き上がった。
「な、何だ?この変な所は?俺は、どうしてこんな所に居るんだ?」
「ここは俺の体の中だ。生きてここから出たければ、俺を倒してからにするんだな」
「体の中だと!?そんな馬鹿な!?」
ウーブの話を俄かに信じられないネータは、周囲を何度も見回した。これまで様々な星を見てきたネータだったが、肉の壁に囲まれた、こんな変な所は、流石に見た事がなかったので、嫌が応にも信じざるを得なかった。
「まともに戦っては勝ち目が無いから、ここに俺を閉じ込める気か?」
「俺に勝ち目が無い?ピッコロさんと合体する前まで、俺の方が優勢だったが」
「そ、そう言えば、俺の体が合体前に戻っている。ここでは合体が駄目になるのか?」
「ようやく分かったようだな。ピッコロさんは既に脱出したので、お前が合体出来る者は、もう誰も居ない。仮に合体しても、ここではすぐに元に戻ってしまうがな」
ネータは、現在の自分の置かれている状況を理解して愕然となった。
「くっ、卑怯だぞ!男なら、外で堂々と勝負しろ!」
「殺し合いに卑怯も糞も無いと言ったのは、お前だろうが。寝ているお前を起こし、状況を説明してやっただけましに思え。もう話す事もあるまい。そろそろ勝負の続きをするぞ」
「ふん。ここがお前の体の中なら、何処を攻撃しても、お前を倒す事が出来るはずだ!くたばれ!」
ネータは周囲の肉の壁に向かってエネルギー波を放った。ウーブを内部から攻撃して殺そうとしたのである。しかし、ネータのエネルギー波は、肉の壁に少し穴を開けて少量の血が噴出しただけで、ウーブの体に大した影響を及ぼさなかった。
「今のお前は、蚤より小さい。簡単に俺の体に致命傷を負わせられると思うな。それに、俺が死なない限り、魔力で傷は治せる。このようにな」
ウーブの体全体が一瞬だけ光ると、ネータが開けた穴から吹き出した血が止まり、穴は塞がっていった。
「どの方位を攻撃しても、今のお前では俺を倒せない。余計なエネルギーを消耗するだけだ。いい加減に諦めて、俺と戦え」
「お、おのれー!」
ネータは破れかぶれになって攻めて来た。しかし、ウーブに簡単に弾き飛ばされてしまった。分身のウーブは、体が小さいだけで強さは本体と変わらなかった。こうなると実力差は明白なので、勝負の行方は見えていた。
その頃、ピッコロはネータの基地の中に居た。ここに来るまでにネータの部下のスパインボーグが何人も襲い掛かってきたが、ピッコロは難無く彼等を撃退していた。スパインボーグを全員倒した後、ピッコロは基地の中に居た非戦闘員である協力者達を取り押さえ、命までは取らない代わりに、ドクター・スパインやスパイン師団についての情報を色々と聞き出していた。そんな折、ピッコロに抱えられているウーブが目を覚ました。
「あれ?ピッコロさん。今はどうなってるんですか?」
「おお、ウーブ。気が付いたか。良い知らせだ。ジニア人の宇宙船を二台も手に入れたぞ。これで地球に帰れる。ところで、あいつはどうなった?」
「ああ。あいつならここに」
ウーブは床に向けて唾を吐いた。その唾の中には不純物が含まれており、その不純物が巨大化した。よく見てみると、それはネータの死体だった。ネータの体は散々に打ちのめされていた。ネータが死んだのを見て、ピッコロは安堵の笑みを浮かべ、彼の協力者達は騒然となった。
「人々を恐怖に陥れたスパイン師団も、こうなってしまうと哀れなものだ。しかし、スパイン師団は、まだ三人も残っている。まずは地球に戻り、悟空達と今後の事を協議しよう」
「そうですね。三日も地球に帰っていませんし、連絡すらしていませんから、悟空さん達は心配しているでしょう」
ピッコロとウーブは、協力者達に当て身をして気絶させた。ピッコロ達が去った後、協力者達がドクター・スパインに連絡して、ネータの敗北を知られるのを避けるためである。事前の約束通り、命までは奪わなかったが、しばらく目を覚まさないように気絶させたので、口封じとしては充分だった。
基地から出た二人は、それぞれ宇宙船を抱えて、外で待っていた科学者と一団の元に向かった。そして、一団に宇宙船を一台提供し、科学者が操作方法を教えた。時間は掛かったが、どうにか操作方法を覚えた一団が宇宙船を操作し、何処かの星に移動した。一団を見送った後、ピッコロ達も宇宙船を使って地球に戻った。
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