パンが気を高めると、髪の毛は金色に逆立ち、体は金色のオーラに包まれた。すなわち、パンは超サイヤ人に変身した。そして、変身を終えたパンは、18号に直ちに攻撃を仕掛けた。
一方、18号はパンが超サイヤ人に変身するとは、想像だにしなかった。そのため、18号は目の前で起こった出来事に驚いて反応が一瞬遅れ、パンの右フックを左頬に喰らった。更にパンは、18号の顎を膝蹴りし、上空に蹴り飛ばされた18号に対し、次々と光弾を浴びせた。一通り光弾を打ち終えた後も、18号の反撃を警戒して構えを解かなかった。
パンの形勢逆転に、控え室のモニターで試合を観戦していたミスター・サタンやビーデルは、「やった!」と喜びの声を上げた。他方、悟空は初めて見るパンの変身に感心していた。
「あいつ、とうとう超サイヤ人になれたのか・・・」
あっさり変身したトランクスや悟天と違い、パンは超サイヤ人への変身が叶わなかった。人一倍努力家のパンは、何度も挑戦したが変身出来ず、ずっと悔しい思いをしてきた。悟空はそんなパンを不憫に思い、ベビーとの戦いの後、パンに特訓を付けてやったが、結局上手くいかなかった。
パンは自分が超サイヤ人になれないのは、サイヤ人の血が他の人より薄いせいだと思い、己の体内に流れる地球人の血を呪った事もあった。それだけに、厳しい特訓の末に超サイヤ人となれた時の喜びは格別だった。傍で見ていた悟飯達も、パンが初めて超サイヤ人に変身した時は、我が事の様に喜んだ。
パンは悟空と久々に再会したが、超サイヤ人に変身できる様になった事を、決して話さなかった。そして、もし悟空と対戦する事になったら、対戦中に悟空の目の前で変身して、驚かせようと画策していた。そのためにも初戦は、超サイヤ人に変身しないで勝ちたかった。その思いがパンを焦らせ、初っ端から思わぬ苦戦を強いられた。しかし、こうして超サイヤ人になった今、パンは吹っ切れた気分で戦えた。
冷静さを取り戻したパンに対し、18号からは余裕が消えた。つい先刻まで勝利を確信し、微笑を浮かべていた時とは打って変わり、真剣な眼差しでパンを見据えた。そして、口元の血を右手の甲で拭い取った。
「あんたまで超サイヤ人に変身するとはね。それに、今の攻撃も、まあまあ良かったよ。でも、それで私に勝てると思ったら、痛い目に遭うよ」
「あの程度の攻撃で18号さんに勝てるとは思ってないわ。今のは先程までのお返し。次からは本気で行かせてもらうわ」
お互い本気モードに突入した所で、戦いを再開した。今度はパンチとキックの応酬に止まらず、双方がエネルギー波を打ち合い、地上戦と空中戦を交互に繰り広げた。片方が攻撃を受ければ、すぐにやり返す有様で、互角の様相を呈してきた。初戦からの激しい戦闘に、観客は狂喜した。控え室では、パン派と18号派と中立派に分かれて応援合戦が行われた。
戦いは互いに一歩も引かず、このまま長丁場になると予想された。しかし、長期戦になれば、18号が圧倒的に有利だった。何故なら、永久エネルギーの18号は永遠に戦い続けられるのに対し、生身のパンは途中でエネルギーが尽きれば、もう戦えないからである。そのため、パンはエネルギーが残っている内に勝負を決めたかった。
一計を案じたパンは、いきなり空高く飛び上がった。パンが逃げに転じたと思った18号は、パンの後を追った。そして、18号がパンに追いつき、下から右ストレートを浴びせようとした次の瞬間、パンが18号に対し、かめはめ波を放った。実はパンは、上空に飛びながら気を溜めていた。至近距離から、かめはめ波の直撃を喰らった18号は、闘技場の床に激突した。18号は腰を強く打ち、血を吐いて倒れた。
18号に相手の強さを測定するパワーレーダーが搭載されていなかったからこそ成功した戦法だった。もし18号が相手の強さを測定出来たら、パンが急激に気を高めていた事に気付き、追跡を止めて警戒したはずである。また、18号に余裕が無くなった事も、作戦成功の引き金になっていた。勝利に貪欲になる余り、パンの考えを読む余裕が無く、彼女の作戦に引っ掛かったのである。
しかし、18号にも彼女なりのプライドがあった。大ダメージを負ったとはいえ、そう易々と勝負を捨てるわけにはいかなかった。満身創痍になりながらも気力を振り絞って立ち上がり、パンを睨み付けた。パンもまた、戦いが続行していると悟り、地上に降り立って18号と向かい合った。
「はあはあ、よくもやってくれたね。でも私はまだ終わっちゃいないよ」
「今のかめはめ波で勝負はついたと思ったのに。さすが18号さん」
双方構え、再度激突した。しかし、ダメージのせいで18号の動きは鈍く、パンに攻撃を当てる事は、もはや不可能となっていた。逆にパンの一撃一撃が、18号を確実に追い詰めていった。
既に勝負は決していた。いかにエネルギーが無限でも、ダメージを回復させる事は出来ない。しかも、パンの度重なる攻撃が、18号のダメージを更に蓄積していた。
「18号さん、もうこれ以上戦うのは無理よ。降参して」
「うるさい!私はまだ戦えるよ」
18号はふらつきながらも、勝負を捨てなかった。最早勝ち目が無いと自分でも分かっていながら、それでも諦めない18号の信念に、パンは尊敬の念を抱くようになった。しかし、これ以上戦えば生命の危機に関わる。パンは一刻も早く勝負を決めたかった。
18号の気が一瞬緩んだ時、パンが18号の背後に回りこみ当て身をした。18号は崩れ落ち、再度立ち上がる事は出来なかった。その瞬間、パンの勝利が宣告され、戦いは終わった。観客席からは二人の健闘を称え、割れんばかりの拍手が起こった。
超サイヤ人の変身を解き、高々と誇らしげに手を上げて観衆の声援に応えたパン。一方、床に倒れて気絶している18号の元には、クリリンが訪れた。クリリンは気を失っている18号を抱き抱え、パンと向かい合った。
「まさか18号を破るなんてな。さすが悟空の孫だ」
「クリリンさん。私・・・」
「なーに、気にすんな。お前は毎日厳しい修行を積んでいた。いずれ18号を追い越すだろうとは思っていたけど、まさかこんなに早くとはな」
パンとクリリンの会話の最中に、18号が意識を取り戻した。
「パ、パン」
「18号さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。それよりもお前は勝ったんだ。堂々と胸を張れ。私を倒した以上、お前が宇宙最強の女性なんだからな」
そう言って、18号は微笑んだ。パンもまた微笑み返し、三人揃って控え室に引き上げていった。控え室に戻ると、クリリンは18号に地球から持ってきた仙豆を食べさせた。パンも次の戦いに備えて仙豆を食した。
戦いが終われば敵も味方もない。パンと18号は、二人並んで次の試合を観戦する事にした。次は悟空と悟天の親子対決である。
「分かってるだな、悟空さ。絶対に本気を出して戦っちゃなんねえぞ。あっさり負けちまったら、悟天が可哀想だからな」
「分かってるさ、チチ。でも、悟天はしっかり修行してたみてえだから、あんまり手加減しちまうと、オラが負けちまうぞ」
控え室内にいる者のほとんどは、悟空の勝利を信じて疑わなかった。しかし、控え室の片隅で、悟飯と悟天のよる密談が行われていた。
「いいか、悟天。父さんは初めから本気で戦う事はしない。最初は様子見で掛かってくる。お前が勝つとすれば、正にその時しかない。父さんが本気になる前に、一気に叩く事が出来れば、お前にも勝つチャンスがある」
「分かったよ、兄ちゃん。要するに、父さんが油断している間に倒せばいいんだね」
「そうだ。出来れば父さんを超サイヤ人に変身させなければ、充分に勝機はある」
幾ら対戦相手が自分より遥かに強くても、むざむざ負けるわけにはいかない。試合に出るからには、どんなに強大な相手に対しても、勝利を狙うのは当然である。悟天はこの時、真剣に勝利を目指していた。
悟空と悟天の登場を促す館内放送が流れた。二人は揃って闘技場に向けて歩み出した。悟天は兄と二人で立てた作戦が、功を奏するのかどうかを緊張しながら歩を進めた。
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