およそ三十五年ぶりに再会した悟空とラディッツの兄弟だが、再び出会えた事を、お互い手放しで喜べなかった。かつてラディッツは、悟空を自分達の仲間に引き入れようと企み、当時まだ幼児だった悟飯を誘拐し、悟空に百人の人間を殺す事を強要した。それに悟空が応じず、ピッコロを連れて我が子を取り戻しに来た。そして、兄弟で死闘を演じ、最後は双方共倒れで終わった。こうした最悪の過去があるだけに、兄弟と雖も打ち解けて話が出来る間柄ではなかった。
「久しぶりだな。兄貴って呼べば良いのか?」
「その呼び方は、よせ。俺は、兄らしい事を一つもしていない。さっさと俺を倒して、先に進むが良い」
「変わったな、兄貴。以前と比べ、人間が丸くなった」
昔のラディッツは、傍若無人で、目的の為には手段を選ばない卑劣な男だった。しかし、死後の長い地獄での生活が、ラディッツの考え方を徐々に変えていった。地獄でのラディッツは、悟空の噂話を頻繁に聞いていた。サイヤ人ナンバーワンだったベジータと互角に渡り合い、全サイヤ人の敵であるフリーザに勝った自分の弟を、今では誇らしく、そして羨ましく思っていた。
「以前は嫌いだったけど、今は同情しているんだ。兄貴がオラのように記憶を失っていれば、あんな刺々しい性格にならず、穏やかに暮らせたはずだ。兄貴があんな性格になったのは、そうならざるを得ない環境で育ったからであり、決して本意じゃなかったはずだ」
「強くなったな、カカロット。心も体も。お前の活躍は、よく聞いている。地獄では、お前に恨みを持つ者達で溢れていたから、肩身が狭かったが、兄として嬉しく思っていた」
悟空は、ラディッツの境遇を不憫に思い、ラディッツは、悟空の活躍を心から祝福した。長い時間を経て、悟空とラディッツは、ようやく互いを思いやり、心を通わせられる本当の兄弟になった。
しかし、だからといって、打ち解けて無駄話が出来る状況ではなかった。ここは敵地であり、仲間が必死に戦っているのに、悟空一人だけが穏やかな時間を過ごす訳にはいかなかった。悟空は心を鬼にして、ラディッツに頼んだ。
「もう分かってると思うが、オラ達は、ドクター・スカルの居る中心部に行かないといけねえんだ。兄貴と戦いたくねえ。ここを黙って通してくんねえか?」
悟空は、ラディッツと戦いたくなかった。それは、ラディッツも同じ考えだった。しかし、ラディッツは、首を横に振った。
「残念だが、それは出来ん。俺がお前の兄であると知ったドクター・スカルは、俺を改造した協力者に命じ、俺の体内に爆弾を仕掛けさせた。俺が裏切るかもしれないと思ったのだろう。その為、もし俺が戦いを拒んだら、それも裏切り行為と見なされ、俺の体内の爆弾を爆発させるだろう。故に俺は、お前と戦わねばならないのだ」
豊富な数の戦士を抱えるドクター・スカル陣営にとって、ラディッツは大した戦力ではなく、例え裏切られても、大勢に影響は無かった。それでもドクター・スカルは、ラディッツの動向に細心の注意を払い、裏切られた場合に備えて、彼の体内に爆弾を仕掛けさせた。これは他の生き返った戦士達には見られない処置であり、それだけラディッツが疑われている証でもあった。
「ジニア人め!何処までも汚い連中だ!」
「嘆いても仕方がない。行くぞ!カカロット!」
ラディッツは、正面から飛び掛かったが、悟空の目にも止まらぬスピードによるカウンターで、あっさり床に叩き伏せられた。
「ぐ・・・。流石カカロットだ。やはり俺が敵う相手ではなかった。さあ。止めを刺せ」
「兄貴を殺すつもりだったら、今の一撃で殺していた。兄貴を殺さない限り、この部屋から先に進めないなら、引き返して別の道を探す。その前に一つ訊いて良いか?」
悟空は、顔を斜め上に向けて、頬を搔きながら、恥ずかしそうに尋ねた。
「あ、あのさあ。オラ達の親って、どんな奴だったんだ?」
「何!?親だと?記憶を失ったから、覚えてなくて当然か。良いだろう。教えてやる」
ラディッツは体を起こし、それから語り始めた。
「父親は、俺と同じ下級戦士だ。お前にそっくりな顔で、勇敢な戦士だった。常に前線で戦い、幾度もの死戦を搔い潜ってきた為、下級戦士でありながら、エリートを上回る戦闘力を持っていた」
「オラと顔が似ていて、下級戦士なのに、エリートよりも強かったってか!?本当にオラとそっくりだな」
悟空自身も下級戦士と見なされながら、エリートのナッパを圧倒し、超エリートのベジータとも対等に渡り合った。そんな自分と父親に共通の部分が多い事を知った悟空は、つい嬉しくなった。
「母親は、戦闘の才が無く、もっぱら惑星ベジータで家事をしていた。父親とは気が合い、やがて結ばれ、そして俺とお前が生まれた」
「母ちゃんは、戦いが得意じゃなかったのか。でも、その方が良いかもな。誰かを殺す母ちゃんなんて、想像すらしたくねえ」
他の星を侵略する事を生業とするサイヤ人なら、女性であろうと戦闘に参加して大勢の人間を虐殺してきたと悟空は思っていた。そして、ご多分に漏れず、自分の母親もそうだろうと、悟空は嫌々ながら想像していた。ところが、実際の母親は、地球人の一般の専業主婦に近い存在だったと知り、悟空は一安心した。
「兄貴と話が出来て楽しかった。そして、親の話を聞けて嬉しかった。この戦いが終わったら、もっとたくさん話をしような。またな。もう悪さすんなよ」
悟空は、後ろを振り向き、来た道を引き返そうとした。しかし、何時の間にか壁が出来ていて、通路を塞がれていた。このバトルフィールド内は、中心部にある装置で、構造を自由に変えられた。その機能を利用して、これまで二人の様子を監視していたドクター・スカルは、悟空を部屋から出さないで戦わせる為に、逃げ道を封じていた。
「兄貴を倒さねえ限り、ここから一歩も出さねえ気か?ふざけた真似しやがって!でも、こんな壁、すぐに破ってやる!」
悟空は、ドクター・スカルの思惑通りに動かず、壁を破壊するという掟破りをしようとした。そんな事はさせじと、ドクター・スカルは、すぐに次の手を打ってきた。悟空が壁を殴ろうとした直前に、小さな爆発音が聞こえた。悟空が爆発音がした方角を見ると、何とラディッツが血を吐いて倒れていた。悟空がラディッツの元に駆け寄り、ラディッツの体を見ると、胴体の真ん中に大きな穴が開いていた。
「おい!大丈夫か!?一体、何があったんだ!?」
「ドクター・スカルの奴、俺に闘う意思が無いと見て、体内の爆弾を爆発させたようだ。もう俺は助からない。どうせ死ぬなら、お前の手で殺してくれ。それが、せめてもの罪滅ぼしだ」
「ば、馬鹿を言うな!そんな事、出来るはずねえだろ!待ってろ!今すぐ壁を破って外に出て、兄貴を助けてくれる場所まで連れて行ってやる!」
悟空は、ラディッツの体を抱えようとしたが、ラディッツが拒んだ。
「む、無駄だ。もう間に合わん。死ぬ前に一つだけ言い残しておく。母親は罪を犯さなかった故に、天国行きとなった。おそらく既に別の存在として生まれ変わったはずだ。しかし、父親は地獄行きとなり、今回、俺と同じように生き返った。だ、だが、カカロット。父親と会ったら、すぐに逃げろ。良いな?絶対に逃げるんだぞ」
「あ、兄貴!しっかりしろ!兄貴!」
話し終えたラディッツは、静かに息を引き取った。そして、ラディッツが死んだ途端、部屋の奥の扉が開かれた。
「兄貴とは、もっと色んな事を話したかったのに・・・。もっと分かり合えたはずなのに・・・。許さんぞ!ジニア人め!」
悟空の怒りの形相とは対照的に、ラディッツの死に顔は、実に穏やかだった。勝手に生き返らせて改造までされ、使えないと判断されると処分までされた恨みよりも、ようやく弟と和解し、心を開いて話が出来た事が何より嬉しかった。その為にラディッツは、満足して旅立った。
悟空は、ラディッツの亡骸をその場に残し、ジニア人への怒りを再燃させて、開かれた扉を潜り抜けた。通路を走る悟空の脳裏に浮かんだのは、ラディッツの最後の言葉だった。父親が生き返った。しかし、父親を見たら、どうして逃げねばならないのか。悟空は、期待と不安を胸に抱えつつ、中心部を目指して疾走した。
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