其の六十二 因縁の対決

バトルフィールド内の一室で、悟空とセルは、お互いフルパワーとなって戦っていた。いつもなら好敵手との戦闘を楽しむ悟空だが、今回は別の場所で戦っている仲間達の事が気掛かりな為、楽しむ所ではなかった。そんな悟空の心情を察したセルは、戦いを少しでも有利に進める為、戦闘を一時中断してから衝撃の事実を告白した。

「孫悟空。このバトルフィールドに、お前達が個別で攻めたのは失敗だったな。お前の仲間の何人かは、途中で力尽き、中心部で監禁されている。つまり人質だ」
「何!?それじゃあ、仮に俺達の誰かが中心部まで到着しても、ドクター・スカルに下手に手出し出来ないのか!?」
「そういう事だ。仲間を見殺しに出来まい」

バトルフィールドへの突撃前、迅速に中心部に乗り込むには、個別に攻めるのが最善の策だと判断して実施した悟空達だが、そのせいで仲間の何人かが人質にされるなど考えもしなかった。惑星ジニアの場所を知るドクター・スカルを生け捕りにし、遠い星で囚われの身となっている悟飯を助け出す事も重要だが、その為に仲間の誰かが犠牲になる訳にもいかない。悟空は、難しい局面に立たされた。

一方、悟空とは別の部屋に居るトランクスと悟天は、圧倒的な力を持つフリーザの前に絶体絶命の危機を迎えていた。既に三人も人質が居るため、これ以上の人質は必要無いとフリーザは考え、二人を殺そうとしていた。

「まずは孫悟空の息子から殺す。その後にトランクスを、じわじわと嬲り殺してやる」
「ちっ。殺す前に名前位覚えろ。俺の名前は、孫悟天だ」
「ふっ。僕に名前を覚えられたいなら、もっと印象に残るような活躍を見せるべきだったね。今からだと、もう無理だけどね」
「無理なものか!俺は、そう簡単にやられはしないぞ!」

悟天は、大人しく殺されるつもりはなく、無駄な足搔きと知りつつも、フリーザに最後の抵抗を試みようとした。トランクスも残った力を全て使い、フリーザに挑もうとしていた。しかし、次の瞬間、ベジータが部屋の中に足を踏み入れた。

「フリーザ!貴様にトランクスを殺させはしない!今度は俺が相手だ!」
「ベジータ。お前が他人の命を守ろうとするなんて、昔を知る僕としては驚きでしかないが、生意気な所は相変わらずのようだね。そんなに死にたいなら、また殺してやるよ。親を目の前で殺されれば、トランクスが受けるショックも大きいだろうしね」
「ほざけ!今度こそ貴様を殺し、貴様への恨みを晴らしてやる!」

ベジータは、すぐに超サイヤ人5に変身した。待ちに待ったフリーザとの決戦なので、持てる力を全て出して戦うつもりだった。トランクスと悟天は、ベジータの邪魔にならないよう部屋の隅に移動した。

「やれやれ。お前との腐れ縁には、いい加減うんざりしてきたよ。今度こそ完膚なきまでに叩き潰してあげるよ。二度と僕に歯向かう気が起きないようにね」

気を最大限まで高めたベジータは、即座にフリーザに向かって飛び掛かった。そして、両者の間で激しい攻防戦が繰り広げられた。先程までのトランクスや悟天との戦いでは、余裕の表情を見せていたフリーザだったが、今のベジータとの戦いでは、真剣な表情で戦っていた。

戦闘の最中、ベジータは、フリーザから受けた数々の仕打ちを思い出していた。サイヤ人の王子として生を受け、子供の頃から優れた力を持っていたが、それをフリーザに利用されて、彼の意のままに働かされていた。数々の屈辱も受けていた。人一倍プライドの高いベジータが、それ等の仕打ちに耐えられたのは、力を蓄えて、いつかフリーザを倒すという秘めた目標を抱いていたからだった。

ところが、ナメック星でのフリーザとの戦いでは全く歯が立たず、命まで奪われる憂き目に遭っていた。結局、悟空がフリーザを負かしたが、それ以降、ベジータが悟空に対して異様なライバル心を抱くようになったのは、長年の標的を失い、やり場のない怒りを悟空にぶつけていただけだった。下級戦士が超エリートを超えたとか、命を助けられたとか、色々と悟空をライバル視する理由を述べたが、全て建前で、心の奥底には自分の手でフリーザを倒せなかった歯痒さがあった。

その後、フリーザが幾度となく復活した。その時にベジータが一回でもフリーザを倒していれば、フリーザに対する憎しみの呪縛から解放され、悟空へのわだかまりも解けていただろうが、結局そうはならなかった。フリーザが自分ではない者に倒される度に、ベジータの心の奥底に暗い影を落としていた。

こうした怒りも悔しさも、この戦いに勝てば、全て払拭される。ベジータは、人生の集大成のつもりで戦っていた。それだけの覚悟で戦っていたからこそ、多少の攻撃を受けても一向に怯まず、フリーザを度々慌てさせた。そして、ベジータの渾身のパンチがフリーザの左頬に命中した。フリーザの口元から血が滲み出たが、何故かフリーザは笑っていた。

「ふっふっふっ・・・。お前の強さは、存分に見せてもらった。確かに以前に比べて遥かに強くなっているけど、今の僕には敵わない。次は、僕の方から行かせてもらうよ」

フリーザの余裕の表情は、まだ余力を残している事を物語っていた。そして、それを知ったベジータは、愕然となった。フリーザと違い、全身全霊で戦っていたからである。

フリーザは、ベジータに急接近した。そして、ベジータの腹部にパンチを見舞った。それを皮切りに攻撃を畳み掛けた。ベジータは、抵抗すら出来ず、大ダメージを負って床に倒れ伏した。

「サイヤ人は、若いままでいられる期間が他星人に比べて長いが、それでも何れは老いが来る。そして、いざ老いが始まれば、これまでの様に急激には強くなれなくなる。年は取りたくないものだね。しかし、お前は、老いてもなお日々強くなってるんだろ?だったら、これ以上強くならない内に死んでもらわないと安心出来ないね」
「ふ、ふざけるな!俺は、貴様を倒すまで絶対に死なん!」

ベジータは、傷だらけになって倒れても、決して戦いを諦めていなかった。倒れた状態のままフリーザを睨み付けた。ところが、それを見たフリーザは、蔑んだ笑みを浮かべた。

「くっくっくっ・・・。どうした?僕の事を殺したいんだろ?睨んでるだけでは死なないよ」

ベジータの劣勢を見るに見兼ねたトランクスは、傷付いた体に鞭打って、フリーザに向けて飛び掛かろうとした。しかし、それに事前に気付いたフリーザが、トランクスに向かって話し掛けた。

「手を出したかったら何時でもどうぞ。しかし・・・うっ!?」

フリーザがベジータから目を離した瞬間、ベジータは、立ち上がってフリーザを羽交い絞めにした。

「ベジータ!何のつもりだ!?まさか僕を道連れに自爆するつもりか!?」
「そのまさかだ!貴様だけは俺が倒すと言っただろう!この命を犠牲にしてでもな!」

フリーザとの実力差を痛感したベジータは、最後の手段として、フリーザを道連れに自爆しようとした。ベジータの思い切った行動に仰天し、狼狽するトランクスと悟天に対し、ベジータが叫んだ。

「トランクス!悟天!お前達は巻き添えを喰わないように、ここから急いで離れろ!」

ベジータは、トランクス達に避難を促した。爆発の規模がどれ程になるかは分からないが、幸いにもバトルフィールドの壁は丈夫に造られている。部屋の外にさえ出れば、トランクス達まで巻き添えで死ぬ事はないだろうとベジータは考えた。しかし、危機に瀕しているはずのフリーザは、焦る所か笑っていた。

「何がおかしい!?気でも触れたか?」
「ふっ。この距離で自爆されたら、流石の僕でも助からないかもしれない。しかし、僕とセルだけは、もしもの事があっても、リバイバルマシーンですぐにまた生き返れる手筈となっている。僕達は、ドクター・スカルから多大な信頼を寄せられてるからね。だから、お前が僕を道連れに自爆したとしても、結局は犬死に過ぎなくなる。それでも良いなら、さっさとすれば?」

フリーザとセルは、新技法で改造されただけあって、これまで使い捨てとなった多くのスカルボーグ達とは待遇が全然違っていた。ドクター・スカルの考えでは、フリーザとセルさえ居れば戦力的には充分であり、その他大勢のスカルボーグ達は、フリーザ達が少しでも有利に戦える為の捨て駒に過ぎなかった。だから万が一この二人が殺された時だけは、すぐに生き返れる手筈となっていた。

衝撃の事実を知ったベジータは、全身の力が抜けた。その隙にフリーザが力尽くで羽交い絞めを振り解き、ベジータの腹部に肘鉄を喰らわせた。ベジータは、吹っ飛ばされ、ついでに変身も解けてしまった。最後の手段も絶たれ、立ち上がる気力すら無かった。

「このバトルフィールドに入った瞬間から、お前達の敗北は決まっていたんだ。ベジータ。息子に看取られながら死ね。すぐに息子も後を追わせてやる」

フリーザは、ベジータに止めを刺す為、右の人差し指をベジータに向けた。その時、レードが部屋の中に足を踏み入れた。レードは、フリーザの顔を軽蔑の眼差しで見つめていた。フリーザとレードの間には、親子の情愛が微塵も無かった。

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