其の一 孫悟空の行方

孫悟空とその仲間達は、苦労の末に邪悪龍を倒した。その後、孫悟空は突如として現れた神龍の背に乗り、何処かに消えてしまった。ようやく地球に平和が訪れたが、残された仲間達の心は晴れなかった。悟空には二度と会えないのではないか、という不安に駆られていたからである。

孫悟空がいなくなってから三日後、耐え切れなくなったパンは、ブルマの家を訪れた。ブルマの家に住むべジータなら、もしかすると悟空が自分達の前から姿を消した理由を知っているのではないか、という微かな期待が、パンにここまで足を運ばせていた。

「あれ?パンどうしたの?」
「実はべジータさんに会いに来たの。べジータさんに聞きたい事があって・・・」
「パパは今トレーニング中だけど、すぐに来るよう伝えておくわ。さあ上がって」

玄関口にブラが現れ、パンを客室に通した。そこでべジータが現れるまで、パンはブラとおしゃべりしながら待つ事にした。この二人は年が近いせいもあり、仲のよい親友同士であった。ブラと話をする事によって、沈んでいたパンの心は幾分か晴れていった。十分後、遂にべジータが客室に姿を見せた。

「何の用だ?」

べジータは上半身裸で、全身汗だく姿であった。早く用件を済ませて修行を再開したいためか、べジータの表情には不快感がにじみ出ていた。

「あの、べジータさん。お爺ちゃんが何処に行ったか心当たりありませんか?べジータさんなら何か知っているかもしれないと思って、ここに来たんですけど・・・。それとも、お爺ちゃん死んじゃったんじゃ・・・」

パンはべジータの横柄な態度を気にせず、この三日間、思い悩んでいた事を打ち明けた。そして、黙って話を聞いていたべジータは目をつぶり、しばし考え込んだ後、「ふん」と鼻で笑った。

「やはり考えている事は貴様等みんな一緒だな」
「え?それってどういう意味ですか?」

べジータはパンの質問には答えず、重力室まで共に来るよう促した。パンは戸惑いつつも、べジータの後に続いた。重力室の入り口まで来たパンは、出入り口の扉の窓から中を覗いた。そこでパンが目にしたものは、悟飯・悟天・トランクス・ウーブが修行に励む姿だった。

普段のパンなら気を察知して、悟飯達がこの場所にいる事ぐらい、すぐに分かっただろう。しかし、悟空の事で頭が一杯だった今のパンでは、それすら気付かなかった。べジータは彼等を見つめるパンに目をむけ、先刻の質問に答えた。

「俺とて確信がある訳ではないが、おおよその見当はついている。カカロットは死んだのではなく、死にに行ったのだ。ナメック星にな」
「な・・・何でナメック星に?」

べジータの意外な言葉に戸惑うパン。しかし、すぐにある事を思いついた。

「もしかして邪悪龍がナメック星にも出現したんじゃ・・・」
「ほう。よく分かったな」

ナメック星のドラゴンボールは、地球のドラゴンボール同様、頻繁に使用されてきた。マイナスエネルギーが溜まり、邪悪龍が出現しても不思議は無かった。そして、その事を知った神龍が、ナメック星の危機を救うために悟空を連れて行った。邪悪龍に対抗出来るのは、悟空を置いて他にいない。

ベジータのお陰で、パンの疑問が解消された。しかし、別の疑問が生じた。

「じゃあ、何でお爺ちゃんは、私達に何も言わなかったの?言ってくれれば一緒に行って戦うことだってできたのに」

パンの問いに対し、べジータは舌打ちをしてから答えた。

「足手まといだからだろう。俺も含めてな。おそらくナメック星の邪悪龍は、地球の邪悪龍以上の力の持ち主。カカロットの野郎は俺達がいたんじゃ気になって思う存分戦う事が出来ない、と考えたのだろう。全くむかつく奴だ。」

苦々しく答えるべジータ。しかし、彼の怒りの矛先は悟空に対してではなく、悟空に頼りにされていない自分の実力の無さにであった。

「そこまで分かっていながら、べジータさんは何の行動も起こさないの?」
「そんな訳あるか!」

パンの質問に対し、ベジータは怒鳴った。思わずパンは後ずさった。

「カカロットの足手まといにならないためにも、決戦の時まで腕を磨いているのに気付かんのか!トランクス達だって同じだ。こいつ等は、先程お前がしたのと全く同じ質問を俺にし、少しでもカカロットの役に立とうと、今こうして特訓しているんだ!」

べジータの話は更に続いた。

「努力しているのは、こいつ等だけではない。ブルマはカプセルコーポレーションの技師を総動員し、宇宙船の整備と超ブルーツ波発生装置を数台造っている。それが出来次第、俺達はナメック星に出発する」

べジータの言葉を聞き、パンはうつむいた。この三日間、これだけ大勢の人が考え、行動していたのに対し、自分は思い悩むだけで、何もしてなかった事に恥じていた。

「もう用は済んだだろう。じゃあな」

話し終えるとべジータは、修行を再開するために重力室の扉に手をかけようとした。しかし、その背に向けてパンが叫んだ。

「待って!あたしも修行する!そして、皆と一緒にナメック星に行く!」

べジータは振り向き、再度怒鳴った。

「ふざけるな!超サイヤ人にもなれん貴様が何の役に立つというんだ!はっきり言って足手まといだ!地球で大人しく待っていろ!」
「いやよ!私も行く!」

パンにしてみれば、自分だけ仲間外れにされる事が不満であり、自分でも何かしら悟空の助けになるという自負もあった。しかし、パンの実力を全く評価していないべジータにしてみれば、彼女の存在は邪魔以外の何者でもなかった。

二人の間にみるみる緊張が走った。しかし、二人のやり取りを重力室の中から見ていた悟飯達が、外に飛び出し、彼等の間に割って入った。

「父さんもパンちゃんも落ち着いて下さい。一体二人とも何に興奮しているんですか?」

息子のトランクスになだめられたべジータは、興奮の余りパンを殴ろうと振りかざした拳を下ろし、騒動のいきさつを話した。話を聞いていたトランクス達は、べジータの気分を害さないよう気を使いながら、べジータを説得した。

「父さんの言い分もわかりますが、ナメック星にはパンちゃんよりも力のないナメック星人が大勢いるんですよ」
「彼等を安全な場所に避難させてやるのも、立派な仕事だと思います」
「それにパン一人だけ地球に置いてけぼりは、幾ら何でも可哀想過ぎませんか?」
「いざとなったらパンちゃんからエネルギーを分けてもらう事だってできるしね」

トランクス、ウーブ、悟飯、悟天の代わる代わるの説得により、パンがナメック星に行く事を、べジータは不承不承了解した。それ以降、決戦の日に備え、パンも含めた彼等六人は、連日重力室で修行に精を出した。

そして、悟空がいなくなってから十七日後、ナメック星に向かう宇宙船のテスト飛行まで終了し、彼等六人とブルマ、そして壊された時の備えとして、何台も製造した超ブルーツ波発生装置を乗せた宇宙船は、ナメック星に向けて出発した。

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