其の二十六 レードの最終形態

ヒサッツの猛攻を受けたレードは、重傷を負っていた。レードは何とか立ち上がったものの、これ以上の戦闘は出来そうもない、とヒサッツは見て思った。

「この姿になれば勝てると思っていましたが、どうやら考えが甘かったようですね」

レードは不利な状況に置かれながらも全く危機感はなく、何故か笑顔だった。ヒサッツにはその理由が分からず、あれこれ考えを巡らせた。死ぬのが怖くないのか、又は恐怖の余り気が狂ったのか。いずれにしてもレードの死は免れず、自分の勝利は確定だ、とヒサッツは結論付けた。

「まさか決勝戦を待たずに、あれをする事になるとは思っていませんでした。あなた程の実力の持ち主が、この武道会に出場するとは思っていなかったのでね。でも、私があれをする以上、あなたの快進撃もここまでです」
「あれだと?何を言っているんだ?今のお前に何が出来ると言うんだ!?」

ヒサッツに言い知れぬ不安がよぎった。

「私がやる事と言ったら、変身に決まっているじゃありませんか」
「ま、まさか・・・。貴様の変身は、もう終ったはず」
「そんな事は言ってませんよ。あなたが勝手に思い込んだだけです。私の変身出来る回数は、二回ではなく三回です。さあ、いよいよ最後の変身ですよ」

ヒサッツは天国から地獄に叩き落された気分になった。レードが後一回変身すれば、今より更に強くなり、しかも体力は完全回復する。既に体力の半分以上を消耗しているヒサッツが、変身したレードに勝ち目がない事は、変身する前から容易に想像出来た。

ヒサッツが戸惑っている間に、レードは気を溜め、変身を開始した。ヒサッツは急いでレードに攻撃を加え、彼の変身を止めようとした。しかし、レードの周囲を気のバリアが覆い、ヒサッツの必死の抵抗を遮断した。もはやヒサッツには、体を休めてレードの変身が完了するのを大人しく待つ他に術が無かった。

突然、レードの周囲に爆発が起こり、その時に発生した煙がレードの姿を完全に覆い隠した。そして、煙が晴れた時、変身が完了したレードが現れた。体のサイズは変身前の大きさに縮み、角が消え、頭の形状は丸型になった。全身の八十パーセントが灰色になり、肌の色は親であるフリーザとは違っていた。

変わったのは見た目だけではない。変身したレードの気は格段に膨れ上がっていた。その余りの凄さに、相対しているヒサッツだけではなく、観戦している悟空達やジフーミ、セモークの三兄弟を筆頭としたレードの部下、観客の中で気を感知出来る者まで一斉に震え出した。

レードと向き合っているヒサッツは、中々体の震えを押さえる事が出来なかった。拳を強く握り締め、歯を食いしばって自分を落ち着かせようとした。

「じゃあ、こちらからいくよ。一応、手加減してあげるから、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

ヒサッツの震えが止まらないうちに、レードが攻撃を開始した。一瞬でヒサッツの背後に回りこんだレードは、その背に向けて右の手刀を繰り出し、親指を除く四本の指が背中に突き刺さった。指を引き抜いたレードは、今度は左の手刀で背中を突き刺し、すぐに引き抜いた。自分の手刀の威力に満足したレードは、右と左の手刀を交互に繰り返し出し、その度にヒサッツの背中の筋肉がえぐられた。

レードが攻撃している間、ヒサッツは無抵抗だった。正確に言えば、余りに速過ぎて抵抗出来なかった。手刀に飽きたレードは、次の攻撃に移ろうとヒサッツから一旦離れた。その途端、ヒサッツは背中の痛みに耐え切れず、その場に座り込んでしまった。

「困るなあ。ちゃんと反撃してくれないと、攻撃の張り合いがないよ。一方的な展開は、退屈で面白くないんだ。次は反撃してね」

ヒサッツは恐怖や苦痛を押し殺し、立ち上がってレードを睨んだ。だが実力差は歴然だった。レードはヒサッツの目の前に高速移動し、目の前のヒサッツの腹部を殴り始めた。ヒサッツは避ける事も出来ずに攻撃を喰らい続け、この試合で始めて倒れた。すぐに立とうとすが、体が思い通りに動かず、なかなか立ち上がれなかった。その間、レードは腕を組み、ヒサッツが立ち上がるのを黙って待っていた。

試合を観戦していた悟空達は、レードの圧倒的な力に驚嘆していた。本選開始前にレードと会った際、彼は本気になれば悟空達全員を十秒で倒せると豪語していた。あの時の悟空達は、それがハッタリか挑発だと思っていたが、実はそうではなかったと今では認めざるを得なかった。

レードの力を見せ付けられた悟空達が、真っ先に心配すべき事は準決勝の試合だった。レードは間違いなく勝ち進むだろう。そうなると、次にレードと戦わねばならない悟飯の身の上が案じられた。悟飯には棄権するよう勧めたかったが、大会主催者でもあるレードが悟飯の棄権を許可するとは考え難い。何とか悟飯が助かるための対策を考えようと、誰も口には出さないが色々試行錯誤していた。

不安を抱きながら試合を観戦していたのは、悟空達だけではなく、ジフーミも同様だった。仮にヒサッツが死んでも、「うるさい奴が死んで清々した」と普段なら思っていただろう。しかし、使命を帯びている今は、ヒサッツに死なれるわけにはいかなかった。認めたくはないが、ヒサッツは自分より何倍も頭が良い。ヒサッツ抜きでは、目的を達成する自信がないジフーミは、ヒサッツに死なれるわけにはいかなかった。

ジフーミはヒサッツの助けに行く事も考えたが、レードの実力はジフーミを遥かに凌駕していた。例え助けに行ってレードと対峙しても、自分の身体に具わっている能力があるから殺される可能性は低い。しかし、ヒサッツと二人掛かりでも、レードに勝てる自信がなかった。結局ヒサッツは殺され、自分も能力を見抜かれ、ヒサッツ同様に殺されるような気がした。

観戦者達が各々不安を抱く中、闘技場ではようやくヒサッツが立ち上がった。試合開始から戦い続けているヒサッツは、体力を大分消耗していた。ダメージも大きく、本気になった時の半分近くにまで気が減少していた。

「技はどうしたのかな?さっき自分の技を散々自慢していたじゃないか。たくさん技があるそうだから、どれか一つぐらいは僕に通じるのがあるかもしれないよ」

レードに指摘されるまで、ヒサッツは自分の技の事をすっかり忘れていた。まともに思考回路が働かないほど今のヒサッツは追い詰められ、混乱していた。レードに言われた通りに行動するのは癪だが、生き延びるためには我儘を言ってられない。ヒサッツは両手を重ねて上空にかざした。続けてヒサッツは両手に気を集め、その気がヒサッツの真上で球状となって形成された。

「くたばれ!レード!」

ヒサッツは両手に集めた球状のエネルギー波を、レードに向けて放った。しかし、レードは迫ってきたエネルギー波を自分の頭上に蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたエネルギー波は上空で大爆発した。

「くだらん。もしかして、これが君の最大の技かな?」

体力を消耗しているヒサッツは、思い通りの攻撃が出来なかった。本来の力でやれば、今のレードを倒す事は無理でも、ある程度のダメージは与えられる自信があった。しかし、全く通じなかったので、ヒサッツは意気消沈してしまった。この他にも技は幾つかあるが、どの技も威力は通常の半分までしか出せず、レードには通じそうになかった。まともに技を出せないほど、今のヒサッツは体力を消耗していた。

「君の事を少し買い被り過ぎていたようだね。ガッカリだよ。それとも僕が凄過ぎるのかな?だとしたら謝るよ。ごめんね、強過ぎて」

ヒサッツの耳には、もはやレードの声は届いていなかった。例え聞こえたとしても、言い返す気力は、とても今のヒサッツには残されていなかった。

「もはやここまでだな。そろそろ死にたいだろ?この試合、僕は結構楽しめたよ。そのお礼に、君には何かプレゼントをあげよう。そうだね、君は僕に色々な技を見せてくれたから、今度は僕が君に技を見せる事にしたよ。幾ら君でも、そう簡単には真似出来ない技だと思うけど、もし出来るのなら死んだ後に地獄で使ってみてくれ」

レードは右手を上空高く掲げた。そして、その手の平の少し上の空間に、気円斬が出現した。父であるフリーザのとっておきの技で、クリリンですら出来る技なのだが、何故かレードには真似されない自信があった。

レードが「事実上の決勝戦」と評した試合も、まもなくクライマックスの時を迎えようとしていた。

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