其の三十九 親衛隊の特性

巨大なケーキの上で睨み合った悟空達とカイブ。そんな中、ベジータが口火を切った。

「ここに来たジュオウ親衛隊は貴様一人か?他の奴等はどうした?」
「ドラゴンボールを手っ取り早く集めるために、ジュオウ様が親衛隊一人一人に担当場所を割り当て、各親衛隊はそれぞれ現地に向かった。だから他のメンバーは、今頃は魔界の別の場所でドラゴンボールを探しているはずだ。全員こいつを持ってな」

カイブは懐に入れてあったドラゴンレーダーを悟空達に見せびらかした。

「それはドラゴンレーダー!それを全員が持っているだと!?貴様等が持っているドラゴンレーダーは一個だけのはずだ!」
「親衛隊の中に魔法が得意な奴がいて、そいつが魔法を使ってレーダーを複製した。それにしても、こいつを一目見てレーダーと見抜くとは・・・。そうか!ジフ-ミ達が向こうの世界でレーダーを奪った相手というのは、お前達だな?」

向こうの世界という聞き慣れない言葉を使ったカイブ。思わず首を傾げたベジータだが、シーガが「お前達の住む世界の事だ。魔界の住人は、お前達の世界をそう呼んでいる」と耳打ちした。

「そうだ。貴様の話によると、親衛隊は各々レーダーの反応がある場所に向かったらしいな。という事は、ドラゴンボールの反応場所に行けば、それぞれの場所に親衛隊がいて、個別に倒せるわけか。それなら全員倒すのも可能だろう」

ベジータは安堵した。もしジュオウ親衛隊全員を同時に相手にしたら、さすがに勝ち目が無いだろう。しかし、今は各自バラバラに行動しているので、個別撃破出来る絶好の機会だと思った。

ところが、ベジータの話を聞いていたカイブが突然笑い出した。

「俺達全員を倒すだと?ふはははは!ジフ-ミやヒサッツすら倒せなかったくせに、何馬鹿な事をほざいてやがる。言っておくがな、あの二人は親衛隊の中では全然大した事ないんだぞ」

カイブは悟空達はおろか、自分の仲間であるジフ-ミとヒサッツまでも見下した。しかし、ここはベジータに代わり、悟空が反論した。

「悔しいけど確かにオラ達はジフ-ミを倒せなかった。でもな、あの時の戦いは一対一だったんだ。オラ達が力を合わせれば、どんな奴が相手でも負けねえ」
「何を言うかと思えば、とんだ世迷い事を。俺達ジュオウ親衛隊に勝てる奴なんているものか。お前達に教えてやろう。ジュオウ親衛隊の本当の恐ろしさをな」

ここで悟空がケーキの上では戦い難いという理由で、場所の移動を皆に促した。カイブもそれに同意し、悟空は落としたボールを拾ってから飛び立った。他の者達が後に続き、平原の上で降り立った。そこで悟空達とカイブが対峙した。

「戦う前に、一つ教えてやろう。俺達ジュオウ親衛隊の事だ。俺達七人は、特技系と特異系のグループに分かれている。特技系とは特技を豊富に使える者であり、特異系とは体に特異体質がある者だ。数多くの必殺技を持つヒサッツは特技系で、高速完全再生能力を持つジフ-ミは特異系だ」

自分達の秘密をベラベラと得意気に話すカイブを見て、ベジータはカイブがジフ-ミと同じタイプだと推測した。

「なるほどな。で、お前はどっちなんだ?特技系か?特異系か?」
「俺は特異系さ。早速見せてやる。俺の特異体質をな」

カイブは話し終えると意識を集中させた。すると、カイブの髪の毛の一本一本が、まるで生き物の様に動き出した。そして、動き出した髪の毛が十一本の束になって纏まると、それぞれが悟空達一人一人に襲い掛かり、彼等の首に巻きつき締め上げた。

悟空達は藻掻きつつも、各々の首に巻きついている髪の束を掴んで解こうとしたが、髪の束の力が強く、その戒めを解けなかった。しかし、アストレーが剣を精製して皆の首に巻きついていた髪の束を次々に切断した。切断された髪の束は力を失い、バラバラになって地面に落ちた。

「まさか貴様に助けられるとは思わなかった」
「ふっ、武道会で殺さないで正解だったな」

安心したのも束の間で、今度は切断された髪の毛の一本一本が形を変え、何と白龍の姿になった。それは大きさは違えど、先程ウーブがお菓子にした白龍と全く同じ種類だった。そして、何千頭もの白龍が悟空達に襲い掛かった。

さすがに今度は数が多いので、ウーブ一人ではなく悟空達全員で白龍退治を行った。白龍の力は悟空達に遠く及ばないが、数が余りにも多いので倒すのに時間が掛かったが、無難に全滅させた。

「まさか一番最初に倒した白龍が、元は奴の髪の毛だったとは・・・。何て恐ろしい髪の毛だ。これでは迂闊に切れないぞ」

白龍退治に時間と労力を費やされた悟空達に比べ、カイブは全くエネルギーを消費していなかった。彼が行った行動は、手足の様に自在に動かせる髪の毛を束にして悟空達の首に巻きつけて締め上げただけだった。髪の毛がカイブの本体から離れれば、それが自動的に白龍へと姿を変え、後はその白龍が勝手に悟空達と戦ってくれたので、カイブ自身は高みの見物が出来た。

「参考までに教えてやろう。切断された時の髪の毛が長ければ長いほど、より大きく強い龍が生まれる。また、俺は髪の毛を自由に伸ばせる。ここに来る時に乗っていた巨大な龍は、元はかなり長く伸ばした一本の髪の毛だった」

流石の悟空も焦った。カイブの髪は襲ってくる上に、切断すると白龍に化ける。一先ず髪を置いといてカイブの体に直接攻撃を仕掛けたくても、やはり髪が気になって思いっきり闘えない。かと言って髪を先に攻略したくても、何十万本もある髪の毛を、どうやって攻略すれば良いのか見当が付かなかった。

しかし、カイブの髪の攻略は、意外にも簡単に済んだ。得意気に話すカイブは油断していて、背後に気配を消しているライタの存在に全く気付いていなかった。そして、カイブが油断している隙に、ライタはカイブの髪に向けて炎をまとった気功弾である気炎弾を放った。瞬く間にカイブの髪は炎に包まれた。

「うぎゃ-!あちー!」

カイブは方々動き回って慌てて炎を消そうとしたが、ライタは立て続けに気炎弾を放ったので、炎は消えるどころかカイブの全身を覆い尽くした。数分後にカイブは何とか炎を消したが、髪は一本残らず全て灰となった。

「な、何なんだ、こいつは・・・」

厄介だと思われた髪の攻略が呆気なく終わったので、悟空は拍子抜けしてしまった。

「まさかジフ-ミより馬鹿がいたとはな。ジュオウ親衛隊とは馬鹿の集まりか?」

ベジータはカイブの間抜けぶりに唖然としていた。そして、打倒ジュオウ親衛隊に燃えていた自分が急に恥ずかしくなった。

「お、俺達は一年前に、こんな奴に敗れたのか・・・。く、屈辱だ」

飽きれていたのは悟空やベジータだけではなかった。シーガは一年前を思い出し、あの時の敗戦を生涯最大の汚点だと嘆いた。そして、どうせ敗れるなら、せめて他の親衛隊なら良かったのにと己の不幸を呪っていた。

「お、お前等、よくも俺の大事な髪を・・・。絶対に許さん!」

大事な髪を全て燃やされたカイブは、目にうっすらと涙を浮かべて激怒した。それでも悟空やベジータは呆然としていたが、一方で悟飯やピッコロは冷静にカイブの体に着目していた。

「全身を炎に包まれたにも拘らず、ほとんど火傷の跡が見られない。やっぱり只者じゃないですよ、あいつ」
「それに気が全然減っていない。とてつもなく頑丈で、タフな奴だ」

大騒ぎしていた割には、カイブは余りダメージを受けていなかった。呆気に取られていた悟空やベジータも、慌てて気を引き締めた。

厄介だったカイブの髪を燃やしたので、ようやくカイブ本体との直接対決の時を迎えた悟空達。カイブとの本当の戦いは、これから始まる。

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