悟空達を見送ったピッコロ達は天界に移動し、悟空達の姿が映し出されている老界王神の水晶玉を食い入るように見つめていた。しかし、大人数で見るには水晶球が余りにも小さ過ぎた。チチは見難さを嫌がり、老界王神に不満を漏らした。
「界王神様。これ何とかならねえのか?これじゃあ小さすぎて、よく見えねえだよ」
「そうか・・・。それでは、もう少し大きくしてやろう」
老界王神は水晶玉に両手を翳し、何やら呪文を唱えた。すると水晶球が大きくなり、直径二メートル程の大きさになった。
「どうじゃ!これなら、よく見えるであろう」
老界王神の言う通り、水晶球には悟空達三名の姿が、顔の表情に至るまで明瞭に映し出された。そして、水晶玉の中の悟空達は、暗い道を歩いていた。惑星パーシタから魔界へ通じる道は細長い洞窟だったが、地球から魔界へと通じる道は、何処かの宮殿の中だった。
「今の所、特に大きな動きは無いようですね。父さん達がジュオウ親衛隊と戦う時になったら教えて下さい。それまで俺は修行してきます。行くぞ、悟天」
「あ!ちょっと待ってよ」
トランクスと悟天は、天界の隅で組み手を開始した。ピッコロも宙に浮きながら座禅を組み、彼独自の修行に着手した。ウーブも少し離れた所で腕立て伏せを始めた。今回は留守番となった彼等だが、何時出番が巡って来るか分からない。そう考えた彼等は、有事に備えて修練を自らに課した。
一方、悟空達は謎の建物の中を歩いていた。ところが、悟空だけは歩きながら、何故か懐かしい印象を覚えた。初めて通るはずなのに、悟空は以前ここを通った事がある様な気がしていた。
歩みを続ける悟空達の前に、一人の人物が立ち塞がった。
「何者だ?ここを通り抜けようとするのは」
悟空達の前に現れたのは、赤くて長い髪の魔族の女性だった。お互い目の前の相手の正体を探るため凝視していたが、いきなり魔族の女性が驚きの声を上げた。
「こいつは驚いた!悟空じゃないか!随分久しぶりだね!」
「へ!?お前、何でオラの事を知ってるんだ?」
「私を忘れたのかい?まあ無理もないね。あれから四十年ぐらい経っているから。私の名前はメラ。ここの門番をしている者だ。何で私があんたを知っているのかと言えば、あんたは昔ここに来て、私に会った事があるのさ。思い出したかい?」
悟空達にとっては寝耳に水だが、このメラという女性が嘘をついている様にも見えなかった。悟空は腕を組んで昔の事を思い出そうとした。
「そういえば昔、天下一武道会に備えて修行に励んでいた頃、何とかって姫が攫われて、その姫を助けに行った事があるような気がするな。そして、誰かと戦ったような・・・」
「それだけ思い出せれば上出来だよ。ついでに教えてやると、攫われた姫はミーサという名で、あんたが戦ったのは武術の達人シュラ様だ。あんたが来た時の事を、私は今でも鮮明に覚えている」
悟空は小さい頃から戦いの日々を過ごしてきた。そのため、遥か昔に戦った相手を、ほとんど忘れていた。しかし、ここまで言われては、さすがの悟空も思い出そうと必死だった。
「思い出したぞ!ずっと昔、お前に会った!でも、何でお前、あの時と全然変わってねえんだ?」
「魔族は人間よりも寿命が長いんだ。四十年程度では、それほど体に変化はない」
かつて悟空は、シュラに攫われたミーサ姫を救うために魔界の門を通り、単身で魔界に乗り込んだ。そこには門番を務めるメラと、魔界一の怪力の持ち主といわれたゴラがいて、悟空の行く手を阻もうとした。しかし、悟空の強さを知ると彼等は一転し、悟空をシュラの所まで案内した。実はメラは、魔界の秩序を乱すシュラを快く思っていなかった。
その後、悟空はミーサを花嫁に迎えようとしたシュラと戦った。苦戦する悟空だったが、メラの助けもあり、何とかシュラに勝利した。そして、悟空がミーサを連れて元の世界に戻る際、メラは悟空に「また会えるさ」と言って別れた。あの時の言葉が、四十年の時を経て真実となった。
「いやー、本当に久しぶりだなー。ところで、シュラは元気か?」
悟空は久しぶりの再会に愛好を崩し、何気ない質問をした。ところが、メラは顔を曇らせ何も答えようとしなかった。メラの豹変に悟空は訝しんだ。
「おい。どうしたんだ?」
「・・・シュラ様は死んだよ。半年前にルーエ様に殺されたのさ」
メラの辛い告白。しかし、それを聞いたベジータが口を開いた。
「半年前にルーエに殺されただと!?馬鹿を言え!ルーエは一年前にジュオウ親衛隊に殺されたはずだ!一年も前に死んだ人間が、その半年後に人を殺せるはずがない。他人の空似だ」
「空似なんかじゃない!あれは確かに魔王ルーエ様だった!ルーエ様はシュラ様を殺す前に言った。『ジュオウ様に仕えろ』って。シュラ様が拒んだら、ルーエ様は襲い掛かってきた。シュラ様は応戦したけど、相手が悪過ぎた。シュラ様もゴラも、その他大勢の魔人達も殺され、私だけ生き残った」
ルーエがシュラ達を殺したというメラの話を聞き、悟空とベジータは驚きの余り訳が分からなくなった。しかし、悟飯だけは違っていた。冷静にメラの話を聞き、それから己の所見を述べた。
「おそらくジュオウ親衛隊の仕業ですよ。俺はパワーアップの最中に、界王神様から残りの三人について話を聞きました。三人の内の一人、ボレィとかいう奴は死んだ人の魂を呼び寄せて、仮初の命と肉体を与え、自分の意のままに操る事が出来ると言ってました。ルーエはボレィに操られ、ジュオウのために働かされたに違いありません」
悟飯の説明に、悟空とベジータは再度驚いた。死者を操る敵なんて今まで出会った事がなかったからである。しかし、当然の事ながら、彼等に脅えは無かった。
「悟飯の言った事が全て真実だとしたら、ルーエも可哀想な奴だな。ジュオウ親衛隊に殺され、死んだ後はジュオウ親衛隊に利用されるんだからな。早くボレィを倒して、ルーエを開放してやらねえとな」
「死人を操るか・・・。だとしたら、俺達がボレィと戦う時、奴が呼び寄せる死人とも戦う事になるだろう。しかし、どんな死人が出ようとも俺は負けん」
悟空とベジータは、まだ見ぬ敵ボレィとの戦いに思いをはせていた。しかし、話を聞いていたメラは、驚いた顔で悟空達に問い詰めた。
「あんた達。まさかジュオウ親衛隊と戦うつもりじゃないだろうね?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「馬鹿を言ってんじゃないよ!ジュオウ親衛隊は、とてつもなく強いんだ。絶対に勝てない!」
「ふっ、オラ達は七人の親衛隊の内、既に四人も倒した。ボレィも他の二人も、オラ達が倒してやる」
「何だって!?それが本当なら、凄い事だね。応援してるよ。頑張りな」
その後、メラと別れた悟空達は、ドラゴンボール探しを再開する事にし、ボールの位置を把握するためにレーダーを見た。すると、残り五つの内の二つが同じ場所に反応していた。それは、悟空達とは違う別の誰かが、ドラゴンボールを集めている事を如実に示していた。
悟空達の他にドラゴンボールを集めている者といえば、ジュオウを置いて他にいない。この二つの反応がある場所に、ジュオウがいるに違いないと悟空達は思った。しかし、下手にジュオウに手を出そうとすれば、三人の親衛隊がジュオウを守るために駆けつけてくるかもしれない。ジュオウ親衛隊と名乗っているぐらいだから、その可能性は充分にあった。そして、得体の知れない親衛隊を倒すためには、三人まとめて相手にするよりも、一人ずつ倒していった方が得策という結論に達した。
一先ずジュオウを後回しにし、親衛隊を一人ずつ倒す事に決めた悟空達は、レーダーを見て一番近くにあるドラゴンボールの場所を確認し、ボールとそれを狙う親衛隊を目指して飛び立った。
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