其の七十一 子供になったベジータ?

孫親子に後を託されたベジータと、後が無くなったボレィが対峙した。ボレィは持っていた水晶玉と、ドラゴンレーダーを床に置いた。

「この封印の塔は、ナツメグ人の祖先が一個のドラゴンボールを封印するために築いた建物で、元々は階毎に行く手を阻む障壁があった。僕は魔術で障壁を一つずつ破り、後一つの障壁を破ればドラゴンボールが手に入る段階になった時に、お前達が現れた。ここまで辿り着くのに僕は、かなり苦労した。一方、お前達は僕を倒し、唯一残った障壁を突破して、悠々とドラゴンボールを手に入れる気か?鳶に油揚げを攫われるとは、正にこの事だ」

ボレィは憎々しげに言い放った。

「ふん、笑わせやがる。俺達だって貴様が呼び寄せたゴースト戦士達を倒してきたんだ。決して楽な道程ではなかった。それに、貴様等ジュオウ親衛隊は、前魔王ルーエが築いた魔界の平和を一瞬で破壊したではないか!偉そうな事を言う前に、自分達の行いを反省しやがれ!」

対するベジータは、怒気を込めて反論した。以前のベジータなら、他人の悪事など意に介さなかった。しかし、改心した今のベジータは、ジュオウ達の悪行に憤りを感じていた。

「新時代の創設のためには、常に犠牲が付き物だ。ルーエは、ジュオウ様が治める新たな王朝の礎となって死んだのだ。それが分からないなら、お前達は今ここで死ぬべきだ。パラレルワールドの創造と、カイの召喚に魔力を使い過ぎてしまった僕は、もう強力なゴースト戦士を召喚する魔力は残っていない。しかし、お前一人を倒すぐらいなら残りの魔力でも充分だ。僕の魔術で死ね」

魔術を扱う者同士のためか、ボレィのジュオウに対する忠誠心は、他の親衛隊より高かった。

「ジュオウが創る新時代とやらも、結局は奴の私利私欲の世に過ぎん。そんな独裁者が治める世が来たとしても、決して長続きせず、必ず誰かの手によって滅ぼされる。もっとも俺達がいる限り、ジュオウが支配する時代など永久に来ないがな。さあ!そろそろ死ぬ覚悟は出来たか?」

言い争いに飽きたベジータは、ボレィを倒すべく飛び掛ろうとした。ところが、いきなり炎が出現し、ベジータの周りを取り囲んだ。炎は更に勢いを増し、ベジータの着ている服に燃え移った。

「ひっひっひ・・・。このまま焼け死ね」
「これが貴様の自慢する魔術か?くだらん」

ベジータは失望の溜息を吐いてから気を開放した。すると、ベジータの体を中心に突風が吹いて炎を一瞬で吹き飛ばし、ボレィは後ろの壁に叩きつけられた。

「貴様の魔術とは、この程度か?やはり貴様は、他人に頼る以外に勝つ術を持たないようだな」
「一々癇に触る事を言いやがって・・・。そこまで言うのなら見せてやる!僕の超魔術をな!」

ボレィの言が終わるや否や、ベジータは別の場所に移された。ところが、その場所は、ベジータにとって馴染みのある所だった。

「こ、ここは俺が子供の時に暮らしていた城。ま、まさか、ここは惑星ベジータか!?」

ベジータが立っている場所は、遥か昔に滅ぼされた惑星ベジータにある自分が住んでいた城の中だった。ボレィの怪しげな術のせいで、こんな幻を見ているのだとベジータは考え、この世界から抜け出す方法を探るために周囲を走り回った。しかし、走り回っている最中に、ふと目にした鏡に映った自分の姿を見て、ベジータは驚愕した。何とベジータは、子供に戻っていた。

「ボ、ボレィの奴、一体どんな術を使いやがったんだ?」

子供に戻された自分の姿を見て、ベジータは激しく動揺した。その時、ベジータは後ろから声を掛けられた。てっきり悟空だと思って後ろを振り向くと、そこにはベジータの父ベジータ王が立っていた。予期せぬ出来事が次々と起き、ベジータは茫然自失してしまった。ベジータ王は、そんなベジータの心理状態を意に介さず、淡々と話し始めた。

「こんな所にいたのか、ベジータ。捜したぞ。お前に会うため、フリーザ様がお越し下さった。くれぐれも粗相のないようにな」
「フ、フリーザだと!?フリーザまでいるのか!?」
「こら!フリーザ様と言え!さあ、フリーザ様がお待ちだ。俺に付いて来い」

ベジータは父に言われるがまま、彼の後を付いて行った。そして、ベジータは父と共に玉座の間に入った。そこにはザーボンとドドリアを両脇に控えさせ、空飛ぶ玉座とも呼ぶべき乗り物に乗った、あのフリーザが居た。

「あなたがベジータさんですか・・・。中々良い面構えをしていますね。これからは私のために、しっかり働くのですよ。それが延いては、サイヤ人のためになるのです」

放心状態から抜け出せないベジータは返事をせず、ただ呆然とフリーザの顔を見ていた。そのベジータの態度を不敬と判断したドドリアは、苛立って声を荒げた。

「フリーザ様に対して無礼だぞ!早く『かしこまりました』と言え!」

今のベジータには、フリーザの声もドドリアの声も、ほとんど届いていなかった。全く反応を示さないベジータに、フリーザは提案した。

「どうやら、あなたには躾が必要のようですね。今日は特別に、この私が教えてあげましょう。私に付いてらっしゃい、ベジータさん」

フリーザは乗り物から降りて歩き出し、ベジータはフリーザに続いて部屋を出た。ザーボン達取り巻きやベジータ王も、彼等の後を付いて行った。段々と状況が飲み込めてきたベジータは、小声で呟いた。

「どうやら俺は、ボレィの術で過去に戻されたようだ。しかし、ボレィの奴、何が目的で俺を過去の世界に飛ばしたんだ?」

ベジータが考え込んでいる間に、一同はトレーニングルームの中に入った。そして、ベジータはフリーザと向き合って部屋の中央に立ち、残りの三人は部屋の隅に移動した。この時ベジータは、これから自分がフリーザと戦う事に気付いた。フリーザはベジータが身構える前に攻撃してきた。

フリーザは情け容赦なく、子供のベジータを攻めた。それは躾というには余りにも過酷で、フリーザに全く太刀打ち出来ずに攻撃を受け続けるベジータは、幾度となく死を覚悟した。

「い、今の俺ならともかく、昔の俺がフリーザに敵うはずがない。しかも、フリーザの奴、明らかに殺意を持って俺を攻撃している。何故だ!?何故、俺を殺そうとする?実際にフリーザが惑星ベジータを滅ぼした時だって、俺に利用価値があるからと、わざわざ俺がいない時に攻撃したのに・・・。そんなフリーザが、俺が返事しなかっただけで、俺を殺そうとするか?それに、どうして王は俺を助けようとしないんだ?やはり、どこか変だ。もしやここは・・・」

ベジータは色々と思案し、一つの答えを導き出した。今まで防戦一方だったベジータは、その答えが正しいかどうか確かめるため、ようやく攻めに転じた。しかし、呆気なくフリーザに弾き飛ばされた。

「駄目だ!まだ心の何処かで信じている。雑念を捨てろ!本物の目ではなく、心の目で見るんだ!」

ベジータは目を閉じた。そして、大きく息を吐き、正面にいる敵の気を探った。子供の時は気を探れなかったはずのベジータだが、ここでは明確に敵の気を感知した。そして、真正面にいる敵の気が、フリーザの気ではなく、別の人間の気である事に気付いた。

「ようやく分かったぜ!術の正体が」

ベジータは目を閉じたまま突撃した。そして、ベジータの右の拳が正面の敵の腹部を貫いた。ベジータが目を開けて自分の腕が貫いている相手を見ると、それはフリーザではなくボレィだった。またベジータの姿は元の大人に戻っており、周りの景色も封印の塔の中だった。

「貴様は俺を過去の世界に飛ばしたのではなく、催眠術か何かで、そう思い込ませたんだ。貴様の目的は俺を倒す事。貴様の実力では今の俺は倒せないが、子供の時の俺なら倒せる。だから、俺を子供に戻ったと勘違いさせるために俺の過去の記憶を読み、当時の様子を再現して、俺に子供の時の力しか出させないようにしたんだ。そして、貴様は当時の俺では絶対に勝てなかったフリーザに成り済まし、俺と戦うように仕向けた。上手い作戦だったが、最後まで俺を騙せなくて残念だったな」

猜疑心の強いベジータに、ボレィの術が何時までも通じるはずがなかった。ベジータに己の術を見抜かれたボレィは、無念そうな表情を浮かべたまま息絶えた。そして、その肉体は静かに消えていった。ベジータはボレィの死を確認した後、その場に孫親子を残したまま階段を上った。

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