宇宙一武道会への出場申し込みの最終日となったが、未だに悟空とピッコロは姿を見せなかった。さすがに不安になった悟飯達は、全員で彼等二人の到来を申し込み会場で、やきもきしながら待った。このまま二人が現われなければ、即座に地球に帰る事も検討したが、特別待遇を受けているのに武道会に出場しないで帰るわけにもいかなかった。
最終日にもかかわらず、武道会出場を希望する大勢の異星人達は登録のために長蛇の列を作っていたが、相変わらず悟空やピッコロの気は感じられなかった。
「何で来ないんだよ、悟空!このままだと申し込みが締め切られてしまうぞ!まさか悟空は武道会に出場しないつもりじゃないのか!?」
「クリリンさん。きっとお父さん達には何か事情があって、それで今まで来られないんじゃないんですか?」
一刻も早く悟空に会いたいクリリンは、なかなか姿を見せない悟空に苛立ち、つい怒鳴ってしまった。すかさず悟飯はクリリンをなだめた。
「もしかして悟空の奴、この場所を知らないんじゃないだろうな?あいつ、昔からそそっかしい所があるからな」
「ピッコロさんもいるし、幾ら何でもそんな事は・・・」
悟飯も徐々に不安になってきた。悟空とピッコロが現われぬまま時間だけが過ぎ、諦めムードが漂っていた次の瞬間、遂に待ちわびた瞬間が訪れた。
「よっ、みんな久しぶりだな。元気だったか」
瞬間移動で悟空とピッコロが突然皆の前に現われた。それも、別れる前の子供の姿ではなく、大人の姿の悟空である。一同は一瞬あっけに取られたが、すぐに正気に戻り、パンを先頭に皆が二人の周りを取り囲んだ。
「お爺ちゃん!なんでもっと早く来なかったの?心配したじゃない」
「わりぃわりぃ。ギリギリまで修行したかったからな」
「どうして何年も地球に帰って来なかったの。私・・・」
パンは感極まって声が詰まった。そして悟空に抱きつき、声を上げて泣いた。
「心配掛けて悪かったな。パン」
「悟空、話は後だ。それよりも早く出場を申し込まないと締め切られてしまうぞ」
ピッコロに促され、泣きじゃくるパンを引き離した悟空は、ピッコロと共に列の最後尾に並ぼうとしたが、傍に控えていたリシパに案内されて、特別ブースで素早く登録を済ませた。
その後、ホテルのレストランで悟空を囲んだ晩餐会が行われた。その席上には、サイヤ人ですら食べきれないほどの大量で豪華な料理が用意されていた。
「へー、これ全部ただで食っていいのか。思ったより、いい奴なんだなレードって」
悟空が自分達のために用意してくれた料理に舌づつみを打っていたが、べジータがこの言葉を聞き逃さなかった。
「カカロット、貴様もしかしてレードを知っているのか?」
「ああ。直接会った事はねえけど、噂だけな」
「噂だと?どんな噂だ」
「かなり強いって噂だけだ」
「本当にそれだけか?」
ベジータは矢継ぎ早に質問したが、悟空は気圧されずにマイペースで答え続けた。
「この大会の主催者がオラ達の知っているレードなのか、それとも同じ名前の別の人物なのか分からねえからな。もしオラの知っているレードだったら、奴自身も武道会に出場すると思う。そしたら奴の事を話すよ」
悟空は話しながら、目が一瞬鋭くなったのをべジータは見逃さなかった。おそらくレードについて何か秘密を握っているのだろう。しかし、楽しい食事の席で、水を差すような会話は不適切と考え、それ以上の追求は避ける事にした。
「それより悟空さんとピッコロさんは、この三年間、何をしていたんですか?」
今度はトランクスが悟空に質問した。そしてそれは、トランクスに限らずピッコロ以外の全員が気にしている事であった。
「それを答える前に確認してえ。皆はどの辺まで知っているんだ?」
その質問には悟飯が答えた。ナメック星で邪悪龍達が出現し、悟空がピッコロと共にそれ等を倒した後、「する事がある」と言い残して、ナメック星を去った事を話した。
「そこまで知っているなら話が早い。オラとピッコロは、ドラゴンボールを探していたんだ。前の神様が悪の心と分離する前に作ったドラゴンボールな。ピッコロが死を選んだ理由は、そのドラゴンボールがあるせいだ。でもピッコロが死ななくても済む方法がある。それはドラゴンボールを破壊する事だ。ドラゴンボールを破壊してしまえば、ピッコロが生きてようが二度とそれを使えねえからな」
先代の神が悪の心と分離する前に作ったドラゴンボールは、使った星が一年後に爆発するという恐ろしい特性があった。ピッコロはそれを危惧し、再びドラゴンボールが使われる事がないよう、自らの命を犠牲にしてドラゴンボールを使用不能にした。しかし、ピッコロが生き返ったので、ドラゴンボールも同時に復活してしまった。
「ふん。俺とした事が、とんだ間抜けだった。それに早く気付いていれば、あの時わざわざ死ぬ必要もなかった。悟空にそれを諭された時は、己の馬鹿さに呆れたぜ」
「そんで、そのドラゴンボールを破壊する前にオラの体を元に戻そうと思って、一旦全部集め、誰も住んでいない星でオラの体を元に戻してもらい、再び飛び散ったドラゴンボールを集め、今度は願いを叶えずに破壊したんだ。それに三年も掛かっちまった」
悟空とピッコロの説明により、悟飯達の心を支配していた疑問が解消され、一同は安堵のため息をついた。しかし、パンはその答えが腑に落ちなかった。そして、今度はパンが悟空に質問をぶつけた。
「でも二回ドラゴンボールを集めるだけで三年も掛かるものなの?以前あたし達が全部集めた時は一年も掛からなかったじゃない」
「まあ、オラ達は宇宙船じゃなく神龍に乗って移動したわけだから、その分時間が掛かったのかもな」
再び悟空の目が一瞬鋭くなった事を、べジータは見逃さなかった。どうやら悟空には今この場で言えない秘密があり、おそらくそれはレードにも関係する事だろう。いずれ解明されるだろうが、今は聞かないでおこうとベジータは考え、悟空の様子に気付かない振りをした。
話も一通り済み、ようやく一同は食べ始めた。
「そういえば孫君。ドラゴンボールを集める時、レーダーは使ったの?」
「いや、それも神龍が一つ一つの場所を教えてくれたんだ。そんで、ドラゴンボールを全部集め終わる前に、リシパとかいう奴がオラ達の前に現われ、武道会の事を教えてくれたんだ。オラは武道会に出場したかったから、ドラゴンボールを集め終えた後、神龍だけが地球に戻っていったんだ」
ドラゴンボール集めが終われば、悟空とピッコロは神龍に乗って地球に帰るつもりだった。しかし、宇宙一武道会の事を知って予定を変更し、地球に帰らず惑星レードの近くの星で修行する事にした。
「話は分かったけどさ、父さん。何で地球に一旦戻ろうとは思わなかったの?俺達に早く会いたいとは思わなかったの?」
「皆も必ずここに来ると思っていたからな。それなら武道会で会えばいいやと思ったんだ。それに優勝を目指すには、皆みたいにちゃんと修業しておかねえとな」
そう言いつつ悟空は、武道会に出場する仲間の顔を一人一人見渡した。
「みんな随分腕を上げたな。分かるぞ。試合が楽しみだ」
「貴様もなカカロット。いいか、覚悟しておけ。俺は今度こそ貴様に勝つ」
そう答えるべジータは自信に満ち溢れていた。悟空もまた、よりいっそう手強くなったライバルとの対戦が楽しみだった。
その後レストランを出た一同は、ホテルでの各々の部屋に戻った。リシパは悟空とピッコロにも豪華な部屋を手配した。そして次の日、宇宙一武道会開催日の朝を迎えた。
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