其の五 レード登場

宇宙一武道会が開催される日の朝。悟空達を含めた出場選手達は、指定された場所に集まった。そこは町から遠く離れた広大な平原だった。平原の一角に何も映っていない巨大なモニターが設置されており、その周りに武道会のスタッフと思われる五人が、モニターを守るように取り囲んで立っていた。悟空達が広場に到着した時、すでにそこは大勢の人にあふれかえっていた。

「かー、こいつ等みんな出場選手なのか?随分いっぺいいるな」
「十万、いや百万はいるな」
「ふん。どいつもこいつも雑魚ばかりだ。」

べジータに言われるまでもなく、悟空達には彼等が自分達を脅かすほどの強敵には思えなかった。悟空達から見れば小さな気ばかりで、目立って大きな気が感じられなかったからである。しかし、これだけの人数である。どこかに未知なる強敵が潜んでいるかもしれない。そう考えると、決して侮る事は出来なかった。

「ところで、これから何が始まるんだっけ?」
「お父さん、ここに来る途中のリシパの話をちゃんと聞いてましたか?今日は予選を行い、本選に進出する人を決定するんですよ」
「ふーん、そうだったっけ。でも、この人数を一体どうやって絞り込むんだろうな?」

悟空達が到着した後も、続々と人が集まってきた。そして正午過ぎ、突然中央のモニターに映像が映し出された。モニターには、武道会の責任者らしき白いひげを蓄えた人物が映っていた。すると、ざわついていた選手達は一斉に静まり返り、モニターに注目した。

「えー皆さん、ただ今より宇宙一武道会の予選を行います。まずは予選の方法から説明させて頂きます。予選はバトルロイヤル形式で行い、最後まで残った十二人が決勝に進む事が出来ます。そして、反則行為は武器さえ使わなければ特にありません。ただし、このモニターを壊した選手は即座に失格としますので注意してください。それでは、心置きなく戦ってください」

説明が済むと、モニターの映像が途切れた。そして、今始めて自分達が危険な状況に置かれていることを知った選手達からは悲鳴にも似た声が上がった。

「武器さえ使わなければ何でもありだって?って事は、例え殺しちまっても反則にはならねえのか・・・」
「悟空さん、これだけの人数が一斉に戦えば、絶対に大勢の犠牲者が出ますよ」
「ウーブの言う通りだ。みんな、こうなったら出来るだけ死人が出ねえ様に気い付けて戦ってくれ」

そして、予選開始を告げる合図のブザーが鳴ると、各地で一斉に死闘が始まった。悟空達はバラバラに別れ、周りにいる選手達を当て身を使って次々と気絶させていった。彼等からすれば、この程度は朝飯前である。しかし、当て身は一人一人に対して行うため、死者の数を増やさない点に関して言えば、決して効果的ではなかった。何故なら、強い選手が放つ巨大な気功波などで、十人、百人と一気に殺してしまうからである。

予選開始から十分後、悟空達の努力もむなしく、死者の山があちこちで築かれた。もはや武道会ではなく、戦争であった。

予選開始から三時間後、立っている選手が十二人だけになって終了のブザーが鳴った。悟空達が周囲を見回してみると、それは見るも無残な光景だった。横たえている生存者は千人に満たず、ほとんどが死んでいた。悟空達が気絶させた後で、殺された者も大勢いた。しかし、悟空の仲間達は全員勝ち残った。

「みんな無事か?」

悟空の周りに仲間達が集まった。パンが多少傷を負っている程度で、他に傷を負っている者はいなかったが、 彼等の心は晴れなかった。何故なら、予選を通過出来た喜びよりも、自分達が助けようとした選手達がほとんど助からなかった事に対する無念さの方が、遥かに重く彼等の心にのしかかっていたからである。

悟空達八人の他に勝ち残っている選手を見てみると、一人目は髪が異様に長くて顔がはっきりとは見えないが、姿や形から判断して、おそらく女性の選手。二人目は巨体で、にやけた表情を浮かべた選手。三人目は血で全身が真っ赤に染まった、細身で長身の選手。そして、四人目は悟空が見知った人物、レジックだった。

レジックとは以前、惑星イメッガで悟空と好勝負を繰り広げた戦士である。彼は悟空達の存在に気付くと、おもむろに近づいてきた。当初は四年で子供から大人に成長した悟空の外見に驚いたものの、悟空が経緯を説明したので、事の詳細を理解した。

「ねえ、惑星イメッガは今、どうなってるの?」
「心配はいらない。今やイメッガは指導者が変わり、町も見違えるほどに発展した。これも元はといえば、お前達のお陰だ」
「そうか、それはよかった」

惑星イメッガに訪れた経験があるパンやトランクスは、そこでの悲惨な過去を知っている。それだけに、現在すっかり平和になった事に、ほっと胸をなでおろした。

「ところで話は変わるが、こちらは随分と酷い有様だ。レードとかいう奴は、こうなる事を予想しなかったのか」
「いや、予想はしていたと思う。むしろ、こうなる事を期待していたんじゃないか?」
「期待だと?それはどういう意味だ?」
「それは・・・」

悟空が答えようとした時、再びモニターに映像が映り、先ほどの責任者らしき老人が映し出された。

「予選を勝ち残った選手の皆さん、おめでとうございます。それではこれより、皆さんの健闘を称えまして、武道会の主催者より一言頂きたいと思います。それではレード様、どうぞ」

そう言って老人は画面から消え、彼と入れ替わりに別の人物がモニターに映し出された。そして、映し出された人物の顔を見た途端、悟飯とベジータは「あっ」と驚きの声を上げた。何故なら、その人物の顔は、二人がよく知っている顔だったからである。

「フ・・・フリーザ!?」
「馬鹿な!?奴はずっと前に死んだはずだ!」

一方、同じくフリーザの顔を知っているはずの悟空とピッコロは、その事をあらかじめ知っていたかの様に別段驚きもせず、その顔をじっと睨み付けていた。やがて、レードと呼ばれた人物は、フリーザ同様に丁寧な口調で話し始めた。

「予選通過おめでとうございます。あなた方は、めでたく本選に進む事が出来ます。本選は本日より三日後、特設会場で執り行ないます。本選はあなた方十二名に、私と他三名を加えた計十六名によるトーナメント形式で行ないます。それまでの間、体を休めて鋭気を養って下さい。それでは本選でお会いしましょう」

レードのスピーチが終わると、モニターの映像が途切れた。しかし、悟飯とべジータの動揺は収まらなかった。

「フリーザの奴、何時の間に生き返ったんだ?」
「しかも、レードなどと名前を偽って・・・俺達が気付かんとでも思ったか!?」

レードとフリーザを同一人物と信じて疑わない二人。しかし、悟空とピッコロは、それを否定した。

「二人とも落ち着け。あいつはフリーザじゃねえ。似ているけどな」
「孫の言う通り、奴はフリーザではない。フリーザの子供だ。よく思い出してみろ。フリーザとは皮膚の色が多少違っていた」

フリーザと違い、レードの皮膚の色は灰色だった。

「子供だって?ピッコロさん。フリーザには子供がいたんですか?」
「ああ、それも奴一人じゃない。フリーザには大勢の子供がいたんだ」
「馬鹿な!?奴に子供がいるなんて話、かつてフリーザに仕えていた俺ですら聞いた事がないぞ!」

悟空とピッコロの衝撃の告白に、更に動揺する悟飯とべジータ。また、フリーザとは面識がないものの、悟空達とフリーザとの戦いの話を昔話として聞かされたトランクス達、更にはレジックまでもが同様に驚いていた。

「カカロット、貴様がこの三年間で何かを知り、それを俺達に隠している事は既に分かっている。さあ!知っている事を全て包み隠さず話せ」
「そうか・・・既に見抜かれていたか。なら、もうこれ以上黙っているわけにはいかねえな。分かった。話そう」

悟空が自ら話そうとするまで黙っていようと心に決めたべジータだったが、もはや事ここに至っては、そこまで悠長に待つ訳にはいかなかった。一方、悟空も皆を余計に不安にさせたくないため、ピッコロと事前に打ち合わせ、敢えて黙っていたが、遂に重い口を開いて話し始めた。

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