其の百十一 史上最強の善と悪の戦士の誕生

「よくも俺の首を締めてくれたな。もう少しで死ぬ所だったぞ。良い気味だ。もっともっと苦しめ」

悶え苦しんでいる魔神龍を観てレードは大喜びし、倒れている魔神龍を笑いながら何度も足蹴りした。そして、その光景を悟飯達は遠巻きに傍観していた。しかし、どう考えても魔神龍の苦しみ方が尋常ではなかったので、その原因を探るために魔界王が自身の特技である千里眼を使い、魔神龍の体内を覗き込んだ。

「これは、どういう事じゃ?先程ぶつけたマイナスエネルギーより多くのエネルギーが、魔神龍の体内に充満しておる。もしや元々魔神龍の体内にあったエネルギーも含まれているのか?多少のエネルギーなら体内に残したままでも害は無かっただろうし、普段の魔神龍なら何時でもエネルギーを消せただろう。なので、魔神龍は神龍の力を使う度に発生するエネルギーを逐一消すのが面倒で、まとめて後で消そうと体内に残したままだったのかもしれん」

マイナスエネルギーは、神龍にとって害である。それは魔神龍にとっても例外ではない。ただし、魔神龍はエネルギーを消せると豪語していたから、魔神龍の体内にはエネルギーが無いと魔界王は思い込んでいた。

魔神龍の体が変化し始めた。体が一旦膨張した後で徐々に縮みだし、最終的に以前より一回り小さなサイズとなった時点で縮小が止まった。また、額に生えている二本の龍の様な角が、黒光りする尖った角に変化した。変わったのは魔神龍の外見だけではなかった。魔神龍の気が更に大きくなり、邪悪さを増していた。そして、魔神龍が急に苦しまなくなった。魔神龍以外の変化を挙げると、空を覆っていた闇が消え、ドラゴンボールの輝きが失われていた。

魔神龍は先程までの苦しみが嘘であるかの如く立ち上がった。そして、魔神龍は立ち上がり早々、目の前のレードを無言で殴り飛ばした。本気とは程遠い軽い挨拶程度の一撃だったが、それでも殴り飛ばされたレードは大ダメージを受け、すぐに立ち上がる事が出来なかった。悟飯達は魔神龍の変貌に驚きと戦慄を覚え、ベジータは状況を確認するために魔神龍に近づいて尋ねた。

「魔神龍。その変化は何だ?もしや神龍の力を使ったのか?」
「違う。それに俺は魔神龍ではない。俺はマイナスエネルギーによって生み出された邪悪龍だ。まあ邪悪龍が名前ではないから、どう呼ぼうと構わん。元の体に残っていたエネルギーに、お前達に投与されたエネルギーが加わった結果、許容量を越える大量のエネルギーが全身を支配して俺が生まれた」

ベジータの脳裏に、邪悪龍の一神龍が思い出された。一神龍は余りにも強く、苦戦を余儀なくされた。邪悪龍の恐ろしさを知るだけに、それが再び生み出される原因となった魔界王の迂闊な行動に、ベジータは憤りを覚えた。

「貴様が急に変わったのは、そういう訳だったのか・・・。魔界王の間抜けめ!もう少し考えてから行動しやがれ!」

体は前より小さくなっていたが、ベジータには今の魔神龍が以前の倍以上に大きく見えた。それだけ魔神龍の威圧感は、ベジータを圧倒していた。流石のベジータも、この途方もない化物に正面から戦いを挑もうとはしなかった。戦っても勝ち目が無い事を瞬時に見抜いていたからである。それは悟飯も同じだった。再び魔神技を使っても、今の魔神龍を超える力を得られない事が分かっていた。ひとまずベジータは対話を続けて、この魔神龍の事を更に知ろうとした。

「もしや貴様も神龍の力を使えるのか?」
「ふん。あんな力など俺には必要ない。存分に破壊を楽しむためには、神龍の力は邪魔だ」
「そうすると、貴様は全世界を滅ぼそうと企んでいるのか?」
「当然だ。この力を破壊に使わず何に使う?思う存分、破壊行為を楽しんでくれるわ」
「破壊を楽しむか・・・。厄介な化物が出て来たものだ。どうにかせねば」

邪悪龍と化した魔神龍と戦っても、ベジータや悟飯に勝ち目があるとは思えないが、このまま魔神龍を放っておくわけにもいかなかった。ベジータは気力を振り絞って戦う姿勢を示したが、それを観た魔神龍は余裕の笑みを浮かべた。

「まさか俺と戦うつもりか?戦っても勝ち目が無い事ぐらい、既に分かっていると思うが・・・」
「まともに戦っても勝ち目が無いのは分かっている。しかし、貴様は最も厄介な神龍の力を使えない。ならば貴様を殺せば、二度と復活しないはず。それだったら、今が貴様を倒す絶好のチャンスだ」

ベジータの話を聞くなり、魔神龍は鼻で笑った。

「その考えは少し違うな。俺はマイナスエネルギーの集合体。この肉体が滅びれば俺自身は消滅するが、魔神龍は元に戻る。つまり神龍の力が使える元の魔神龍が復活する事になる」
「な、何だと!?」
「第一お前達の力では、どう足搔いても俺を殺せない。俺を殺すなど所詮は夢物語に過ぎん」

ベジータは大きなショックを受けた。魔神龍が死んでも復活しないなら、悟空が神魔界で作っている元気玉を持ってきてもらい、それを魔神龍を倒すために使おうと画策していたからである。しかし、今の魔神龍が死んでも元の魔神龍に戻るならば、これまで通り二回続けて殺さないと意味が無い。そうなると、魔神龍を二回目に殺すために作っていた元気玉を使うわけにはいかなかった。そして、元気玉が使えない以上、ベジータ達に残された道は、自分達の力で魔神龍を倒す事のみであった。

悟飯は魔神龍との実力差を少しでも埋めるために再び魔神技を使おうとしたが、この時、悟飯の傍に悟空が瞬間移動を使って現れた。悟空が来る事は事前の打ち合わせに無かったため、悟飯達が驚いたのは言うまでもなかった。

「と、父さん!?どうして来たんですか?」
「魔神龍を倒すためだ。居ても立ってもいられなくなって、つい来ちまった」
「すいません。俺が不甲斐無いばっかりに・・・。ところで、元気玉はどうしたんですか?もう完成させたんですか?」
「ああ。今の魔神龍でも倒せるぐらいの凄い元気玉が出来たぞ。神魔界に置いてきたけどな」

悟空の登場以来、彼の事はベジータや魔神龍も注目していた。そして、自分を倒すという悟空の強気な発言に、魔神龍が馬鹿にした態度で質問した。

「どうやって俺を倒すつもりだ?ベジータと合体したって無駄だ。俺の現在の戦闘力は、あの時のベジットより上だからな」
「確かに普通に合体したんじゃ、お前を超えられねえだろう。でも、オラの体に魔界王様が乗り移ってもらってから吸収を使ってパワーアップし、その上でベジータと合体したらどうかな?」
「なるほどな。しかし、そんな合体をさせると思っているのか?速攻で消してやる」

魔神龍は悟空達の合体の妨害をするべく飛び掛かろうとした。しかし、その前に悟飯が魔神龍の前に立ち塞がった。

「父さん達の邪魔はさせない。父さん達の合体が完成するまで俺が貴様の相手をしてやる」
「魔神技を使わない状態で俺と戦うつもりか?この俺も舐められたものだ」

魔神龍は猛烈な勢いで悟飯に襲い掛かった。邪悪龍となって格段に強くなった魔神龍が相手では、さしもの悟飯も勝負にならず、数発の攻撃を喰らっただけで地面に叩き伏せられてしまった。悟飯の受けたダメージは甚大で、悟飯は完全に意識を失っていた。

悟飯を退けた魔神龍が悟空を見据えると、悟空はピッコロに回復してもらった悟天からエネルギーを吸収する所までは終っていたが、まだフュージョンまでには至っていなかった。魔神龍は悟空に向かっていったが、その途中で地面から強い力で引っ張られ、一歩も動けずに立ち往生してしまった。魔神龍は首だけを動かし、ピッコロを睨み付けた。

「ピッコロ!貴様の仕業だな?」

魔神龍の動きを封じたのは、ピッコロだった。体内のマイナスエネルギーがゼロになったピッコロは、再び自由に神龍の力を使えるようになっていた。そこでピッコロは、悟空達の合体が完了するまで魔神龍の足止めをするべく、神龍の力を使って魔神龍の居る箇所だけ重力を増加していた。

「この俺の力では、お前自身をどうする事も出来ない。しかし、お前の周りの環境を変える事は出来る。今、お前が立っている場所だけ重力を五千倍にした。流石に身動き出来まい」
「お、おのれ!小癪な真似を!」

魔神龍は立っていられずに地面に這いつくばったが、何といきなり自爆した。しかし、砕け散った魔神龍の小さな肉片が、重力が変わっていない場所で一箇所に集まり、魔神龍となって復活した。

「クックックッ・・・。どんなに重力が強くても、小さな肉片に分解すれば自在に動ける。俺は肉片となっても力が変わらず、一つ一つの肉片が意思を持っている。つまり重力攻撃では俺を倒す事は出来ない」

得意顔で話す魔神龍だが、この時、魔神龍の背後から声が聞こえてきた。

「それは良かった。そんなので貴様に勝っても嬉しくないからな」

魔神龍が後ろを振り向くと、そこにはゴジータが立っていた。悟空とベジータは魔神龍が重力攻撃に手間取っている間にフュージョンで合体を完了していた。ゴジータは早速超サイヤ人5に変身したが、その気の大きさは、以前魔神龍と戦った時のベジットを大きく上回っていた。

「合体してしまったか・・・。まあ良い。例え合体しても俺に勝つ事は出来ない」
「大した自信だな。そういう自信に満ち溢れた奴は嫌いじゃないぞ。どうやら楽しい戦いになりそうだな」

ゴジータと魔神龍による全世界の運命を賭けた決戦が、開始されようとしていた。

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