これから行われる自身と魔神龍との戦いが、これまで以上の凄まじいものになると予想したゴジータは、その戦いに仲間達が巻き込まれる事を危惧した。そこでゴジータは、魔神龍を誘って少し離れた場所に移動した。そこは無数の岩山が聳り立ち、生物の気配が一切感じられない場所であった。ゴジータと魔神龍は、共に岩山の上に降り立ち、向かい合った。
「時間が無いんだ。早速、始めさせてもらおうか」
「良かろう。お前を使って俺の力を試してやる」
ゴジータと魔神龍は同時に身構え、ゴジータの方から飛び掛かった。序盤は両者の間で激しい攻防戦が繰り広げられたが、途中からゴジータの攻撃が魔神龍に次々と命中し、完全にゴジータが優勢で戦いは進行していった。しかし、劣勢であるはずの魔神龍は何故か少しも慌てず、笑みを浮かべていた。
その頃、ピッコロは神龍の力で悟飯を回復させ、完治した悟飯は元気よく立ち上がった。悟飯は手も足も出ずに魔神龍に敗れた事を悔しがったが、すぐに気持ちを切り換えてゴジータ達が戦っている戦場の方角に目を向けた。そして、悟飯は戦力にはならなくても、ゴジータの何らかの助けになればと思って戦場まで飛んで行こうとしたが、飛び立つ前にピッコロに呼び止められた。
「悟飯。レードをどうすべきだと思う?今回は味方でも、いずれ恐るべき敵となるだろう。現在、奴は魔神龍にやられて倒れている。今の内に始末すべきではないか?」
「気持ちは分かりますが、殺す事には反対です。レードは魔神龍と関係がなく、しかも俺達と敵対しているにも拘わらず、助っ人に来てくれました。そのレードを殺したら、俺達の信義に悖ります。父さんだって反対するでしょう。今は魔神龍を倒す事に全力を注ぎましょう」
悟飯の説得により、ピッコロはレードを殺すのを思い止まった。ピッコロは止む無くレード親子を神龍の力で回復させた。復活したレード達は悟飯達と共に、ゴジータ達が戦っている戦場から遠くない場所まで移動し、そこで戦いを観戦した。
戦いは依然としてゴジータが優勢だったが、次第に魔神龍が勢いを盛り返してきた。そして、戦いが均衡してきた所でゴジータは戦闘を中断し、魔神龍に話し掛けた。
「急に強くなり過ぎたばかりで、初めの内は上手く自分の力をコントロール出来なかった。しかし、戦ってる内に、この力にも慣れてきた。貴様だって同じだろう。そろそろウォーミングアップは終わりにして、本気で戦うとするか」
「望む所だ。お前との戦いを存分に楽しませてもらおう」
ゴジータは一気に気を高めた。この時に生じた衝撃波で、観戦していた悟飯達は遠くに吹き飛ばされそうになり、現在彼等がいる星は疎か、近隣の星も大きく揺れ動いた。
「これがゴジータのフルパワーか・・・。まるで魔界全体が揺れてるような物凄い気だ」
「ほ、本当に凄い。俺なんて足元にも及ばない。これなら魔神龍にだって勝てるだろう」
ゴジータの気の大きさに驚く悟飯達とは対照的に、魔神龍は少しも動じず、平然と腕を組んでいた。そして、ゴジータの気の上昇が止まると、今度は魔神龍が気を高めた。魔神龍が気を高めている間、ゴジータの時と同じ現象が起きた。そして、魔神龍は最終的にゴジータに匹敵する所まで気を高めた。
「あ、あいつ、こんなに強かったのか。魔神龍の奴、俺との戦いでは完全に手を抜いてたのか・・・」
「こ、これでは、どちらが勝つのか分からん。レードはどう見る?」
「ここまでのレベルになると、もう俺の力でも測定不能だ。どちらが勝っても不思議ではない」
動揺する悟飯達とは違い、ゴジータは落ち着き払っていた。しかし、その表情には一片の笑みも無かった。
「・・・こいつは時間内に倒すのが難しそうだな」
「さあ。死ぬ覚悟は出来たか?ゴジータよ」
お互い気を高め終った所で、戦闘は再開された。そして、今度は魔神龍の方から攻めて来た。ゴジータは油断していた訳ではなかったが、魔神龍の最初の一撃を喰らってしまった。すぐにゴジータも応戦し、両者の間で激しい攻防戦が繰り広げられた。双方一歩も譲らず、実力は全くの互角だった。
「このまま戦い続けていれば、いずれ合体は解け、俺の勝利は確実となる。しかし、そんな勝利は望んでいない。お前の合体が解ける前に蹴りを付けてやる」
魔神龍は戦闘スタイルを変えてきた。ゴジータの方が多く攻撃し、魔神龍は時折攻撃するが、ほとんど防御に撤している状況になった。そのため観戦している悟飯達は、ゴジータが一方的に押していると思えた。
しかし、現実は異なっていた。魔神龍は無駄に攻撃しないで様子を伺い、いざ攻撃する時は素早い動きで体の一箇所に狙いを定めて連打を浴びせていた。そのためゴジータが受けたダメージは、決して小さくなかった。むしろ同じ箇所を何度も攻撃されている分、ゴジータの方が傷は深かった。魔神龍が攻撃していたのは、ゴジータの胸だった。ゴジータの胸は既に血だらけだったが、それでも魔神龍は胸を狙って執拗に攻撃してくるので、ゴジータは魔神龍を突き飛ばした。
「くそっ。胸を集中して攻撃してくるのが分かっていても、動きが速過ぎて完全には避けられない」
「ふっ。さぞかし胸が痛かろう。俺の連撃を何度も喰らったからな。連撃は一回の攻撃に見えて、内実は連続攻撃を浴びせる打撃技。使えば使うほど効果は大きくなる」
「ちっ。接近戦では、こちらの分が悪そうだ」
魔神龍の戦法を嫌がったゴジータは、戦い方を修正した。まず魔神龍と距離を置いてから、全速力で突進した。そして、魔神龍を蹴飛ばしたが、そのままゴジータは突き進み、途中で急ブレーキして引き返し、再び魔神龍に突進して今度は殴り飛ばした。こうしたヒットアンドアウェイ戦法をゴジータは駆使し、狙いを定められない魔神龍は連撃を封じられた。
ところが、魔神龍も戦法を即座に軌道修正した。魔神龍が右手の指の爪に力を送ると、爪が十メートル以上に伸びた。そして、ゴジータの動きを見定め、その長い爪でゴジータの背中を引っかいた。ゴジータの背中には細長い四本の傷が付き、ゴジータは痛みの余り動きを止めてしまった。
「痛えー!何て鋭い爪だ!危うく切り裂かれる所だった」
「このドラゴンクロウは、どんな物質でも切り裂けると自負している。次こそ切り刻んでやる」
魔神龍は右腕を高く掲げ、ゴジータ目掛けて右腕を振り下ろした。ゴジータは爪が届かない所まで後退して難を逃れたが、魔神龍は爪でゴジータを切り裂こうと追い掛けてきた。魔神龍は再び右腕を振り下ろしたが、ゴジータは魔神龍の動きを見て爪の間を搔い潜り、魔神龍に飛び掛かって右手を蹴り、爪を根元から圧し折った。
「俺のドラゴンクロウを折るとは・・・。流石に一筋縄じゃいかないか」
「強い。ただ戦闘力が高いだけじゃない。戦い方が多彩だ。これほどの使い手に巡りあえるとはな。やばい状況なのに、つい喜びが込み上げてくる」
「お褒めに預かり光栄だな。しかし、次の技を見ても、そんな悠長な事を言ってられるかな?」
魔神龍は両腕を前面に伸ばし、そこに全身の気を集め始めた。ゴジータは危険を察知し、上空高く飛び上がった。しかし、魔神龍は上空のゴジータに照準を合わせて技を放った。
「龍の雄叫びを聞け!龍砲!」
魔神龍の両手の平から発射された巨大な気光波は、轟音を立てながらゴジータに真っ直ぐ向かっていった。ゴジータは空中で素早く体勢を入れ替え、間一髪で避けた。その後も上昇を続けた気候波は、魔空間を突き抜けて太陽に直撃し、太陽は大爆発を起こして消失した。太陽は戦場から遠く離れていたため、ゴジータ達の居る星が爆発に巻き添えを食って消失する事はなかった。また、周囲には他にも太陽があったため、辺りが急に真っ暗になる事もなかった。
「何て破壊力だ。まともに喰らっていたら、間違いなく死んでいた。とんでもなく強い奴だ。地球やナメック星に出現した邪悪龍とは、次元が違う」
ゴジータは先程まで太陽があった上空を見上げ、龍砲の威力に肝を潰していた。その隙に魔神龍は飛び上がり、ゴジータに猛打を浴びせ、最後は拳を握ってゴジータを真下にある岩山に向けて殴った。ゴジータは岩山を突き崩して地上に叩きつけられた。ゴジータが叩きつけられた地上では、底が見えない大きな穴が開き、ゴジータは穴の中に埋もれた。ところが、ゴジータは大きなダメージも無く、すぐに穴の中から飛び出して近くの岩山の上に立ち、上空の魔神龍を睨んだ。
「あの龍砲って技といい、強さや戦い方といい、とんでもねえ化物だ」
「ふっ。この程度で驚いては困る。まだ俺は、とっておきの技を披露していないからな。これから見せる技は、防ぐ事も逃げ切る事も、技を喰らって生き延びる事すら不可能という究極の技。その名もアルテマアタック。ゴジータよ。お前がアルテマアタックの最初の犠牲者となるのだ」
コメント
『其の百十二 頂上対決』の感想です。
『龍砲』は何故か『龍券』のように龍の姿をした気光波を想像させます。
そして『ドラゴンクロウ』(ドラクエシリーズの漫画で同じ技を見たような…)
私の記憶では『龍砲』は前からあったかどうか微妙ですが『ドラゴンクロウ』は無く、今回の掲載時に追加されたものです。
合ってますでしょうか?
ドラゴンクロウは前からありました。名称は単純なので、他の作品にも同名の技があるかもしれません。
ちなみに龍砲も前からありました。
どちらも前からあったのですね。教えてくれてありがとうございます。
ドラゴンクロウは『ダイの大冒険』でみた『闘魔傀儡掌』と同じ技だと言いたかったのです。