其の百 狙われた悟天

逃げ回る魔神龍を、ウーブは執念深く追い続けた。魔神龍とウーブの間には、歴然たるスピード差があったが、それでも魔神龍はウーブに追いつかれて首を絞められた。実は、ピッコロが神龍の力で魔神龍の進行方向に見えない壁を作り、それに気付かなかった魔神龍は壁に激突して動きが止まった時に、ウーブに呆気なく捕まった。

「お前、逃げるばっかりで弱い。このまま殺してやる」
「そ、それは悪かったな。しかし、この手を放してくれたら、お前を満足させるだけの力を身に付けてみせる。俺に時間をくれないか?ほんの一秒でいい」
「一秒だと?たったの一秒で何が出来る?」
「見ていれば分かる」

ウーブは魔人化した時点で、魔神龍に関する全ての知識を忘れていた。ウーブには魔神龍の考えが読めなかったが、言われた通り手を放そうとした。しかし、ピッコロが大声で叫んだ。

「待て、ウーブ!その手を放すんじゃない!今すぐ魔神龍を殺すんだ!さもないと、後で取り返しのつかない事になるぞ!」

ピッコロはウーブの説得を試みたが、ウーブは聞き入れるどころか、命令されたと思って激怒し、ピッコロに対して気光弾を放った。ピッコロは慌てて気光弾を避けた。ピッコロのせいで気分を害したウーブは、魔神龍の首を掴んでいる手を放してしまった。解放された魔神龍は、すぐに神龍の力を使い、戦闘力を大幅に高めた。魔神龍から感じられる気が急激に高まったので、ようやくウーブは、事の深刻さに気付いた。

「さあ、ウーブ君。第二ラウンドを始めようか」

己の戦闘力を上昇させた魔神龍は、正面からウーブに襲い掛かった。魔神龍の繰り出した右のパンチは、ウーブの顔面を捉えた。ウーブは痛みに堪えて反撃を試みたが、魔神龍に簡単に避けられてしまった。調子を取り戻した魔神龍は、高速パンチを何度も繰り出し、ウーブはパンチを喰らい過ぎて倒れてしまった。

「どうやら戦闘力を上げ過ぎたようだな。こんなに実力差が開いてしまっては、面白くも何ともない」

ウーブは立ち上がって魔神龍に勝負を挑んだが、もはや結果は見えていた。魔神龍に散々打ち据えられたウーブは、再度ダウンした。

「くそっ!ウーブの傷を回復してやっても、状況は改善しまい。魔神龍にやられるのが遅くなるだけだ。最早これまでか・・・」

ピッコロが勝負を諦めかけた時、一つの気が接近してくるのに、この場に居た全員が気付いた。ピッコロ達は気が感じられる方角を見ると、見知らぬ女性が飛んで来るのが見えた。その謎の女性は、ピッコロ達の側に降り立った。その女性の顔立ちは余りにも美しく、トランクスや悟天は、天女が舞い降りたのかと錯覚したほどだった。悟天は現在の状況を忘れ、昔の悪い病気が出た。

「やあ、君。何処から来たの?可愛いね。俺は・・・」
「言わなくても知ってるわ。孫悟天でしょ?この前、惑星レードで開催された武道会を観ていたから知ってるわ」
「え!?ひょっとして俺って有名人!?いやー、てれるなー」

悟天は右手を後頭部に回して照れ笑いした。ところが、初対面の女性に対して良く言えば友好的な悟天の態度とは対照的に、女性を憎し気に睨んでいる者がいた。ウーブである。ウーブは女性に近付いて殴りかかったが、ダメージのせいでスピードが半減していたせいもあり、女性に避けられた。しかし、避けたとはいえ攻撃された事に、女性は怒りを露にした。

「ちょっと!危ないじゃない!何するのよ!」
「お前、嫌いだ。あいつと、確かレードとかいう奴と同じ匂いがする」
「そんなに匂う?そう言えば、あなたは以前パパに酷い目に遭わされたわね。でも、だからって私を憎むのは、お門違いじゃない?それに今、戦うべき相手は私じゃなくて、魔神龍でしょ?」
「うるさい!お前、殺す!」

魔人となって人間だった頃の記憶を失ったウーブだが、レードから受けた屈辱だけは覚えていた。それだけウーブには、レードに対する恨みが強かった。ウーブは女性の言葉に耳を傾けず、尚も女性に向かっていこうとした。しかし、トランクスと悟天が二人がかりでウーブを押さえつけた。弱っていたウーブは身動き出来ず、「放せ!お前達も殺すぞ!」と喚き散らした。その様子を傍観する女性に、今度はパンが質問した。

「あなた、さっきレードをパパって呼んでたみたいだけど、もしかしてレードの娘なの?」
「ええ。周りからは全然似ていないって、よく言われるけどね。私の名前はアイス。パパと共に、あなた達の加勢に来たのよ」
「えー!?レ、レードの娘ー!?」

ピッコロ達の驚きは只事ではなかった。アイスとレードが親子関係である事にも驚きだが、そのレードが助けに来たと知って、驚きは更に募った。しばらく呆然とした後、ピッコロがアイスに尋ねた。

「お前がレードの娘だと聞かされても俄かに信じられんが、どうしてレードは俺達を助ける気になったんだ?奴は今、何処に居るんだ?何故お前と一緒じゃないんだ?」

アイスは迷惑そうな顔をして、語気を強めて応えた。

「答えるのが大変だから、一度に色々と訊かないでよ!パパが界王って人から、あなた達が魔神龍と戦うと聞き、私達親子は共に魔神龍と戦うために魔界に来たんだけど、あなた達が魔界の何処で戦うのか知らなかった。魔界って凄く広いのよ。宇宙ほどではないにしてもね。仕方がないから、私達は手分けして探す事にしたの。私の方が先に来たという事は、まだパパは、この場所を発見出来ないで、何処か別の場所を飛び回っていると思うわ」

ピッコロは少し失望した。レードが一時的とはいえ味方になってくれるのは大変ありがたいが、実際に来たのが、その娘のみだったからである。レードを瞬間移動で連れて来ようとも考えたが、そうするとウーブと衝突するのが目に見えていた。それに、このアイスはともかく、レードだったら状況次第で敵に回るかもしれない危険性があった。

「そちらの質問は以上かしら?今度は、こちらの質問に応えてもらうわ。 孫悟天。あなたには奥さん、もしくは彼女がいるの? 」

アイスは悟天の側に歩み寄り、悟天に尋ねた。

「へ?まだ俺は結婚してないし、今は誰とも付き合っていないけど。それが何か?」
「だったら、私が貰っても問題ないわけだ。まあ、誰かいたとしても、力ずくで奪うけどね」
「貰う?奪う?そ、それって、どういう意味?」
「あーら、女性からの愛の告白に気付かないなんて、鈍感な男ね」
「告白!?あれが!?」

これまで数々の女性と付き合い、女性には詳しいと自負していた悟天だったが、このアイスの様なタイプの女性には、流石に出会った事がなかった。最初はアイスの外見に惹かれていた悟天も、中身を知った今では引いてしまっていた。

「い、一体、俺の何処が気に入ったの?武道会の時には大した活躍はしなかったけど・・・」
「そうかしら?あの孫悟空と戦い、追い詰めたじゃない。子供が親を追い詰めるなんて、観ていてスカッとしたわ。あなたは父親相手にも臆せず戦った。残念ながら私の出場機会は無かったけど、今回こそ私も、あなたの様に勇敢に戦うつもりよ。宇宙最強の女性の実力を見せてあげるわ」

話し終えたアイスは、魔神龍の側に歩み寄ろうとした。しかし、パンがアイスの前に立ち塞がった。

「私に無断で宇宙最強の女性なんて名乗らないで欲しいわ。そう名乗りたかったら、今ここで私と勝負しなさいよ!」
「ふふっ。悪いけど、あなたはお呼びじゃないわ。私の目標は孫悟空よ。いつか孫悟空を倒し、その息子を頂くわ」
「な、何なの?この人・・・」

アイスは唖然とするパンの前を素通りして魔神龍の正面まで移動し、魔神龍と向き合った。魔神龍は、アイスがピッコロ達と会話している間、腕を組んで大人しく待っていた。

「下らん会話は済んだか?死ぬ前に想いを伝えられて、もう思い残す事は無いだろう」
「ハッキリ言って、あなたは私のタイプじゃないわ。私を女だと思って甘く見てたら、火傷するわよ」

魔神龍に一人で対峙したアイスの度胸に、ピッコロ達は驚きを隠せなかったが、悟天は只一人だけ不安を感じていた。

「・・・色んな意味で凄い子だ。もし魔神龍との戦いに勝ったら、その後、俺はどうなっちゃうんだ?」

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