其の百一 箱入り娘の初陣

魔神龍と対峙したアイスは、背中に背負っていた長さ一メートル程の棒を手に取った。まずは慣れた手つきで棒を片手で振り回し、それから棒を両手で握って身構えた。そして、アイスは魔神龍に飛び掛かり、何度も棒で突いたが、魔神龍には容易く避けられてしまった。アイスは突きだけでなく、振り下ろしや薙ぎ払い等も試みたが、全て空を切った。

この戦いを観戦していたトランクスと悟天は、一人で魔神龍に立ち向かうアイスの勇敢さに驚嘆するものの、彼女に危うさを感じていた。

「かなりの棒捌きだが、あの程度のスピードでは魔神龍に当たらないだろう。このまま戦い続けたら、あの子は遠からず魔神龍に殺される。でも、見殺しには出来ないよな?悟天」
「他人事だと思って嬉しそうに・・・。何にせよ、女の子が戦っているのに、男の俺達が戦わないわけにはいかない」

トランクスと悟天は、まだウーブを取り押さえていたが、その手を放してアイスの加勢に向かおうとした。ところが、油断していた魔神龍の腹部に、遂にアイスの棒が突かれた。それでも魔神龍は平然としていたが、アイスは棒を魔神龍の体に押し当てたまま「槍!」と叫んだ。すると魔神龍の体に触れている側の棒の先端が刃物に変わって槍となり、槍の刃先が魔神龍の体に突き刺さった。

「これは只の武器じゃない。私の声に反応して形状を変える私専用の武器よ。お次はドリル!」

槍はアイスの声に反応し、魔神龍の体内にある箇所を含めた部分がドリルに変わった。そして、ドリルが回転を始め、体の内部を抉られた魔神龍は、苦悶の表情を浮かべた。

「うわー、残酷・・・」

トランクス達は、魔神龍の体が抉られている光景を観て顔面蒼白になった。対照的にアイスは、実に楽しそうだった。しかし、アイスの快進撃は、ここまでだった。

「調子に乗るな!」

魔神龍は、アイスの頭を掴んで体ごと投げ飛ばした。次に自分の体に刺さっていたドリルを力任せに抜き取り、神龍の力で消失させ、ついでに腹部の傷を回復させた。

「雑魚のくせに、いい気になりやがって!すぐに黙らせてやる!」

不覚を取った魔神龍は激怒し、アイスに猛スピードで迫り、彼女の腹部を殴り飛ばした。アイスは吹っ飛ばされ、地面に強く叩き付けられたが、すぐに腹部を手で押さえながら立ち上がった。

「あ、危なかった。パパから貰った特別製の戦闘服が無かったら、今の一撃で死んでいた」
「ふん。レードというのは、かなりの子煩悩らしいな。娘の身を案じて、強力な武器や防具を与えるとはな。しかし、それもここまでだ。次の攻撃で確実に息の根を止めてやる」

再び魔神龍がアイスに迫った。一方のアイスは、戦闘服に守られて攻撃の威力が軽減されたとはいえ、それでも受けたダメージが大き過ぎて、頭が朦朧としていた。しかし、アイスの危機を見るに見かねた悟天が思わず飛び出し、魔神龍よりも先にアイスの所まで行って彼女を抱き抱え、その場から離れた。そして、トランクスの側まで移動し、アイスを地面に降ろした。

「あの魔神龍を相手に一人で戦おうとするなんて無茶だ!もう少しで殺される所だったぞ!」
「大丈夫よ。少し相手を甘く見過ぎていただけ。次は本気で行くから」

アイスは立ち上がり、気を高め始めた。すると体が若干大きくなり、髪の色が黒から金色に変わり、肌が色白になった。変貌を遂げたアイスは、気が大幅に上昇し、ダメージも無くなっていた。

「どう悟天?これが私の変身よ。今度こそ魔神龍を倒してやるわ」
「ま、待つんだ!アイス!」

悟天の制止を振り切ったアイスは、魔神龍に正面から戦いを挑んだ。まずアイスは、パンチやキックを繰り出したが、魔神龍に余裕で避けられた。続けてアイスは、右の人差し指を魔神龍に向け、至近距離から気弾を何発も放ったが、魔神龍に全て弾かれてしまった。更にアイスは、飛び上がってエネルギー球を作り、それを魔神龍に向けて投げつけたが、魔神龍は片手で受け止めて投げ返した。しかし、悟天が脇から気光波を放ち、気光波が当たったエネルギー球は反れて何処かに飛んでいった。

「何度言ったら分かるんだ!魔神龍相手に一人で戦うのは無謀だ!死にたいのか!?」

悟天はアイスを救出した後、怒った表情でアイスに近付いた。そして、温厚な悟天にしては珍しく、アイスに対して声を荒げて怒鳴った。アイスは悟天の顔を見れずに俯き、相手との実力差に肩を震わせて悔しがった。アイスが反省しているようなので、悟天は声のボリュームを下げてアイスを宥めた。

「君は強いし、一人で戦いたい気持ちだって分からなくもないが、相手が余りにも悪過ぎる。次からは俺も戦うから、一人で戦うのはよせ」

アイスを諭す悟天の周りに、何時の間にかトランクスとパンが立っていた。

「悟天。俺の事も忘れるなよ。お前ばっかり良い格好させられるか」
「私だって戦うわ。二人だけじゃ心配だから」

かくしてトランクスと悟天は超サイヤ人3に、パンは超サイヤ人に変身し、アイスと共に魔神龍に立ち向かっていった。一方、先程までトランクス達に押さえ付けられていたウーブは、途中で暴れるのを止めて大人しくなり、解放後は静かに観戦していた。ところが、トランクス達が魔神龍に向かって行くのを観て、自分も参戦しようと考えた。ウーブは、傷付いた体を引き摺って歩き始めたが、ピッコロに呼び止められた。

「ウーブ。アイスを敵視せず、あいつ等と協力して魔神龍と戦うなら、お前のダメージを回復してやろう。どうだ?約束するか?」
「う・・・分かった。約束する」

ピッコロはウーブを信じ、回復させた。すっかり元気になったウーブは、魔神龍の所まで飛んで行った。そして、ウーブを加えた五人の戦士は、力を合わせて魔神龍に戦いを挑んだ。五人で戦っても戦況は好転しなかったが、ピッコロは悲観していなかった。

「トランクスも悟天も、戦闘開始直後の時より動きが良くなっている。ウーブは人間の心を取り戻しつつある。アイスの出現で、あいつ等一人一人の意識が変わったようだ。アイスは確かに強いし変身もするが、本当にフリーザの孫娘なのか?フリーザやレードにあった捻くれた所が微塵も無い。よくあんな父親の元で、あの様な純真な娘が育ったものだ」

アイスがレードから受け継いだのは、戦闘の才能と変身能力のみであった。レードはアイスを愛で、彼女を幼少の頃より血生臭い環境から避け、緑豊かな星で何不自由なく育てた。ただ格闘技の特訓だけは課した。アイス自身も戦いを好み、日々鍛錬に精を出していた。

一方、レードはアイスを自分の後継者にするつもりはなく、別の子供に継がせようと考えていた。レードにはアイスの他にも子供が何人もいて、彼等も小さい時から鍛えさせていたが、誰もがアイスより弱かった。また、アイスはレードの部下達からの評判も良かった。そのため、部下達はアイスがレードの後継者になる事を期待した。

その期待が大きい事を知ったレードは、アイスに帝王学を教えて自分の後継者にするために、彼女を惑星レードに呼び寄せた。ところが、我儘に育ったアイスは、帝王学の勉強を拒んだ。アイスは戦いに興味があっても、人を殺めたり支配する事が好きではなかった。そもそもアイスには、レードの後を継いで宇宙の帝王になる野心が無かった。結局、レードの後継者の件は白紙のままだが、アイスは気にも止めず、修行の日々を送っていた。

修行に熱心なアイスは、戦闘力の上昇が著しかったが、実戦経験が無かった。そのため、この戦いがアイスにとって初めての実戦だった。父親が来る前に魔神龍を倒し、彼の鼻を明かすがアイスの狙いだったが、現実は彼女の思い通りにはならなかった。

魔神龍の圧倒的な力とスピードの前に、トランクス達は徐々に劣勢になった。彼等の中では一番戦闘力が高いウーブが攻撃の要となり、残る四人が動き回って魔神龍を搔き乱す戦法を取ったが、その戦法は攻を奏さず、一人また一人と魔神龍の攻撃を受けて倒れていった。

最後に残ったウーブも満身創痍の体だったが、最後の力を振り絞って魔神龍に立ち向かっていった。しかし、魔神龍の右拳から繰り出された一撃を受けて倒れた。魔神龍は足元に倒れている五人を見ながら、興醒めした様子で呟いた。

「五人掛かりで戦って、この様か・・・。こいつ等に、これ以上の期待をするのは無駄のようだ。止めを刺すか。しかし、普通に殺しても、ピッコロが復活させるだろう。何度も殺すのは面倒だ。他に何か手は無いものか・・・」

魔神龍が五人の処分方法について考えていると、何者かが魔神龍の背後に降り立った。

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