其の百二 超三つ目人

魔神龍は自身の背後に立った人物と向き合うため、後ろを振り向いた。そこには、新しく魔王になったリマが立っていた。

「新魔王様が何の用ですかな?」
「魔神龍。お前を殺しに来た」
「ふっふっふっ・・・。大きく出たな。そんなに腕に自信があるのなら、早速見せてもらおうか」

魔神龍は臨戦態勢になったが、リマは猛る魔神龍を制止した。

「ちょっと待て。お前の足元に倒れている五人を、ここからどかすのが先だ」
「好きにしろ。最早そいつ等には用が無いからな」

リマは意識を失っているトランクス達を、ピッコロの元まで抱えて行った。そして、彼等をピッコロの目の前で降ろした。

「お前は、この者達の仲間だろ?後は任せたぞ」
「待て!貴様は一体何者だ?魔神龍から新魔王と呼ばれていたようだが・・・」
「俺は兄ルーエの遺志を継いで魔王となったリマ。魔神龍を倒しに来た」
「お前がリマか。悟空達から話は聞いている。俺達の手助けに来てくれたのか?」

ピッコロの何気ない質問を聞いたリマの顔色が、みるみる変わった。

「お前達の助けに来たのかだと!?何で俺が、お前達を助けないといけないんだ!俺は魔王として、いつか魔界を滅ぼすかもしれない魔神龍を倒しに来ただけだ!お前達がどうなろうと、俺の知った事ではない!この者達を運んだのは、あの場で倒れたままだと戦いの邪魔になるからだ!お前達がジュオウ親衛隊を倒したせいで、俺は兄の敵を討つ機会を永久に失ったんだ!この恨み、まだ忘れたわけではないぞ!」

リマは自分が来た理由を述べた後、振り返って魔神龍の所まで歩き出した。ピッコロは少し呆れながら、遠ざかっていくリマの背中を見ていた。

「僻みっぽい奴だ。あんなのが魔王で良いのか?まあ、あいつが魔神龍を倒してくれれば、それで良しとするか。余り期待は出来んがな」

リマは魔神龍の眼前まで移動すると、身構えて少し笑みを浮かべた。

「何がおかしい?気でも触れたか?」
「嬉しいんだ。ようやく修行の成果を発揮出来るからな。お前は俺達四人が倒す!」

リマは両腕を顔の前で交差させ、腕をゆっくり開くと同時に二人に分離した。二人に分かれたリマも同様の事を行ない、リマは最終的に四人になった。

「完璧な四身の拳だ。四人に分かれても、力が少しも落ちていない。その若さで大したものだ」
「こんなのは、まだ序の口だ。ここからが本番だ!」

四人のリマは、両腕を大きく横に広げた。そして、リマ達が力を込めると、彼等の背中から四本の腕が生えてきた。元々あった二本の腕を加えると、各リマの腕の数は六本になった。

「これぞ四妖拳を上回る六妖拳。ここまでは兄も出来なかった」
「六妖拳か・・・。その技が出来る三つ目人は、数百年に一人いる程度。見事だ」
「行くぞ魔神龍!二十四本の腕の動き、見切れるものなら見切ってみろ!」

四人のリマは、一斉に魔神龍に飛び掛かった。ところが、魔神龍はリマ達に背を向けて逃げに転じた。リマ達は必死で追いかけたが、魔神龍が速過ぎて双方の距離は開いていった。

「卑怯者め!逃げる気か!?」
「逃げるだと?馬鹿め。これは戦術だ。二十四本もある腕の動きを、いちいち見切っていられるか」

魔神龍は後ろを振り返り、リマ達が前方しか見ていない事を確認すると、更に速いスピードで引き返してリマ達の背後に回り込み、リマ達一人一人の背中を殴った。無防備だった背中を殴られたリマ達は、痛みの余り倒れた。

「二十四本の腕があろうと、それを動かす頭は四つ。しかも元は一人の人間だから、四人とも同じ考えだ。だから一人の考えを見抜けば、お前達全員の裏をかく事は容易い」

魔神龍が解説している間に、リマ達は痛みを堪えて立ち上がった。

「さ、流石に手強いな。しかし、俺達には、まだ奥の手がある」

リマ達は手の平を合わせて念じた。すると彼等四人の体が、黄金色に光り始めた。

「これぞ三つ目族最大奥義の変色拳。そして、この黄金色は、体に大きな負担を掛けずに全能力を飛躍的に高める最高の色だ。兄を含めた多くの三つ目人が、この色になろうと努力したが、叶わなかった。しかし、俺は長く苦しい修行の末に会得した」

変色拳には様々な色があり、各色には独自の特性がある。赤が攻撃力アップで、青は防御力アップで、黄色がスピードアップで、白が治癒能力を得る。それぞれの色を会得するためには、色に応じた専用の修行を積む必要がある。その中でも黄金色は最も会得が難しく、大抵の三つ目人は会得する前に寿命を迎えるか、途中で諦める。ところが、リマは神魔界で魔界王の元で修業していた期間中に、この黄金色を会得した。

「超サイヤ人ならぬ超三つ目人と言った所か。黄金色まで極められた三つ目人は、千年に一人しか居ない。しかも、お前は三つの技を同時に使っている。正にお前は三つ目族の歴史上、最高の逸材と言えるだろう。少しは楽しめそうだ」

リマ達は先程の反省点を踏まえ、魔神龍を四方から取り囲み、それから一斉に攻撃を仕掛けた。黄金色になったリマのスピードは、技を使う前とは段違いで、しかも腕が多過ぎるから、さすがの魔神龍も避け切れずに攻撃を喰らう羽目になった。魔神龍は四方を囲まれているため逃げられず、リマ達は好機とばかりに攻撃を続けた。

その頃、ピッコロはトランクス達のダメージを既に回復させており、目が覚めた彼等と共に戦いを観戦していた。

「あの魔神龍が押されている。打倒親衛隊を目指して修行してきただけの事はあるようだ。あれだけの実力があれば、実体のないテキームと、サキョー以外だったら倒せるかもしれない」
「このままいけば、魔神龍を倒せるかもしれない。一時はどうなるかと思ったけど、これで無事に地球に帰れそうだ」
「あのリマって人、確かに強いけど、光る蛸みたい。見ていて気持ち悪くなる」

パンの発言を聞いて、ピッコロ達は思わず失笑した。つい笑みがこぼれるほど、リマの優勢が彼等に安心感を与えていた。

「でも、遠い所から、わざわざ戦いに来たのに、こうして観ているだけなんて、何だか辛い」
「まあまあ。あの魔神龍と戦って無事に済むんだから、それだけでも良しとしな・・・」

悟天はアイスを宥めながら彼女の肩に手を置いたが、ある”もの”を見て慌てて手を離し、体が硬直してしまった。悟天の様子が変なので、ピッコロ達は悟天が見ている方角を見ると、彼等も悟天と似た様な反応をした。

「レード!」

ピッコロ達の視線の先には、到着したばかりのレードが小高い丘の上に立っていた。先の武道会でレードに酷い目に遭わされたウーブは、その恨みを魔人となった今でも忘れておらず、憎しみを込めてレードに飛び掛かったが、レードに届く前に、レードの金縛りによって動きを封じられた。

「しばらく見ない間に随分強くなったね。見違えたよ。でも、僕に戦いを挑むのは無謀だったね。お仕置きをしないといけない」

ウーブの体が少しずつ膨らみ始めた。

「待てレード!まさかウーブを殺すつもりか!?」
「先に仕掛けてきたのは、ウーブの方だ。降りかかる火の粉を払い落として何が悪い」
「止めて、パパ!今は皆と協力する時じゃないの!?」
「困った娘だ。戦場を見つけたら、こちらに知らせろと言っておいたのに。こいつを殺されたくなければ、しっかり見張っていろ」

アイスの口添えで命を救われたウーブは、技を解かれた後もレードを睨んでいた。しかし、レードと戦っても勝てない事が分かったので、悔しさに打ち震えながら耐えていた。

「パパ、来るのが遅かったわね。あの金色に光っているリマって人が、もうじき魔神龍を倒しそうよ。もう少し早く来ていれば、パパがヒーローになれたのに」

戦いは、依然としてリマが有利に進めていた。しかし、それを観たレードは、鼻で笑った。

「あの戦いは、魔神龍が勝つ。間も無く僕の出番が回ってくるだろう」

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