其の百三 レードの駄目出し

劣勢である魔神龍の勝利を断言するレードの発言に、ピッコロ達は一同に首を傾げた。

「どうして魔神龍が勝つって言い切れるの?一方的にやられているじゃない」

アイスは間髪入れず、レードに質問した。

「一見すると魔神龍は負けている様に見えるが、実際はそうじゃない。魔神龍は相手の動きを見て、ほとんどの攻撃を避けている。一方、リマは無駄な動きが多く、しかも複数の技を同時に使っているため、体力の消耗が激しい。あのリマとかいう男、技は素晴らしいが、その使い方は実に下手だ。僕だったら、勝利を確信するまでは様子見を兼ねて技を小出しに使う。間も無く魔神龍が逆転するだろうと踏んだからこそ、魔神龍の勝ちを予想した」

レードの解説を聞いたピッコロ達は、思わず唸った。一瞬でそこまで見抜いたレードの洞察力に、肝を潰したからである。

「そ、そこまで見抜いてるんだったら、助けに行った方が良いんじゃないの?」

パンが恐る恐るレードに提案したが、レードは一笑に付した。

「何で僕がリマを救出しなければならない?あの男を助ける義理は無い。それよりも、今の内に訊いておきたい事がある。魔神龍の思った事は、全て実現するそうだが、これまで奴は、どんな事をしてきた?そして、その魔神龍を倒すために君達が取った戦法は?何故この場に孫悟空が居ない?」

ピッコロは回答に一瞬躊躇したが、これから共に戦ってくれるかもしれないレードに隠し事は禁物と思い、魔神龍が出現してから現在までの経緯を説明した。その間、レードは口を挟まず、静かに耳を傾けていた。そして、ピッコロが話し終えると、レードは再度質問した。

「魔神龍については大体分かった。しかし、まだ分からない事がある。孫悟空達が魔神龍に敗れた後、何故すぐに再戦した?」
「それは・・・またジュオウの様な邪な奴が現れるかもしれないからだ。ドラゴンボールが悪人の手に渡って悪用されたら危険だから、早急に魔神龍を倒す必要があると判断した」
「だから魔神龍を急いで呼び出した訳か・・・。何という軽率さだ!」

レードが声を荒げたので、ピッコロ達は思わず後退った。

「そもそも魔界でドラゴンボールを知っている者は、ごく少数のはずだ。すぐに悪人がボールを悪用する可能性は、極めて低いと見て良い。不安なら、お前達がボールを一個でも発見し、それを厳重に管理していれば、他人が容易く全て集める事は出来まい。 それに、ピッコロが神龍の力を得て魔神龍の力の大半を封じ込めたとしても、能力値の上昇を食い止められないなら、対策としては不十分だ。お前達は、魔神龍を確実に倒せる必勝策を編み出してから魔神龍を呼び出すべきだった」

ピッコロは一切の反論が出来なかった。レードの言っている事は、的を得ていると思ったからである。しかし、レードの厳しい指摘は、まだ終わりではなかった。

「君達の不手際さは、これだけではない。孫悟空を筆頭とした主力メンバー抜きで、魔神龍を一度でも殺せると本気で思っていたのか!?もし僕やリマが来なかったら、どうするつもりだったんだ!?」
「そ、その時は、悟空達三人の内の誰かを、ここに連れて来て戦ってもらう・・・」

ピッコロのしどろもどろの回答に、レードは更に語気を強めて非難した。

「お前は馬鹿か!?以前に魔神龍を殺した時は、孫悟空とベジータが合体したベジットとやらが苦労して倒したんだろ!?そのベジットは、お前達の中では最強の戦士なんだろ!?だったら、ベジットでないと魔神龍を倒せないはずだ!何故この場にベジットが居ないんだ!?ベジットが居れば、魔神龍を呼び出した時点で殺せたはずだ!」

ピッコロがレードから集中砲火を浴びせられているので、トランクスが横から助け舟を出した。

「魔神龍は、ボールの中からでも外の様子が分かるんだ。だから、ベジットがボールの側で魔神龍が出て来るのを待ち構えていたら、奴は警戒してボールから出て来ない。もしくは、出て来る前にベジットを分離させるかもしれない。魔神龍は凄いだけでなく、頭も良いんだ」

トランクスは短期間とはいえ、カプセルコーポレーションの社長を務めていた。その時の経験から得た調整力を活かし、この場を収めようとした。しかし、激高しているレードには通じなかった。

「頭が良いと分かっているなら、尚更慎重に作戦を練るべきだ!何故お前達は中途半端な作戦で、ここまで来たんだ!魔神龍に殺されるためか!?お前達の様な馬鹿に付き合って共倒れなんて御免だ!帰るぞ!アイス!」

レードはアイスの右手首を握り締め、この場を飛び去ろうとした。アイスは振り解こうとしたが、レードの力が強過ぎて無理だった。しかし、レードが飛び立つ直前に、いきなりウーブがレードの後頭部を蹴飛ばした。蹴飛ばされたレードは、アイスから手を放し、先程自分が立っていた丘に激突した。丘が崩れ、その破片の中からレードが怒りの形相で立ち上がった。

「やってくれたな。放っておいても、どうせ魔神龍に殺されるだろうが、お前だけは僕が直々に殺してやる」

レードは殺意を込め、ウーブに右の人差し指を向けた。しかし、ウーブの前にアイスが立ちはだかり、レードの攻撃を直前で止めさせた。

「どけアイス!こんな馬鹿を庇っても、何の得にもならないぞ!」
「ウーブを馬鹿と言うんだったら、パパは何なのよ?魔神龍を恐れる臆病者じゃない!ウーブはパパより弱いかもしれないけど、魔神龍に勇敢に立ち向かっていったわ。パパより勇気があると思わない?」
「・・・今の言葉、娘とはいえ許さん!」

レードは激怒し、訓練以外で初めてアイスを殴ろうと詰め寄った。しかし、ここで悟天が両者の間に割って入った。

「まあまあ二人とも落ち着いて。親子で争っても、しょうがないでしょ?今は、どうやって魔神龍を倒すか考えないと」
「それもそうね。パパ。帰りたければ一人で帰れば?私はここに残るわ。パパの指図なんて受けない」

悟天に説得されて、アイスは即座に引き下がった。レードは、悟天とアイスが親しげに接しているのを見て、怒りを忘れて不安に駆られた。このまま立ち去れば、アイスはレードの承諾なしに悟天と付き合うかもしれない。それを心配したレードは、あっさり考えを改めた。

「おい、ピッコロ。この僕に魔神龍と戦って欲しいか?」
「そ、それは戦ってくれる方が有り難いが・・・」
「ならば、二つの条件がある。その条件を二つとも飲んでくれたら、魔神龍と戦ってやろう」
「な、何だ?その条件は?」

ピッコロは非情に嫌な予感がした。しかし、現状を考えれば、レードの協力は喉から手が出るほど欲しかった。ピッコロは不安を感じつつも、レードの次の言葉を待った。

「まず一つ目は、もし魔神龍と戦って僕が命を落としたら、すぐに生き返らせろ」
「分かった。約束しよう。それで二つ目は?」
「二つ目は、もし僕が魔神龍に勝ったら、僕を不老不死にしろ」

ピッコロの嫌な予感は的中してしまった。いずれ敵になる可能性が高いレードを不老不死にすれば、将来に禍根を残す事になる。後にレードの不老不死を解除したくても、レードの力が強過ぎるので、ドラゴンボールを使っても無理な事は明白だった。基本的に神龍は、自分より強い者の体に対しては介入出来ない。不老不死にする事は、レードが望んでいるから関係ないが、それを解除する事は、レードが望んでいないから拒否される。拒否されたら神龍には手出し出来ない。

ピッコロは絶句した。しかし、レードも後には引けなかった。

「お前達にとって、この僕と魔神龍、どちらがより危険な存在だ?それが分かっていれば、どうすべきか自ずと分かるはずだ」

ピッコロは散々悩んだが、遂に決断を下した。

「お前が不老不死となり将来敵になったとしても、現在の敵である魔神龍に比べれば、遥かにましのはずだ。・・・分かった。お前が魔神龍を倒せたなら、不本意ではあるが、お前を不老不死にする」
「商談成立だな。これで心置きなく戦える。言っておくけど、もしこの約束を違えたら、君達全員殺すからね」

ようやく戦う気になったレードは、リマと魔神龍の戦いを見据えた。レードの読み通り、リマは四人ともエネルギーを枯渇させており、形勢は完全に逆転していた。皮膚の色は元の肌色になり、腕の数も二本になっていたが、それでもリマは懸命に戦っていた。しかし、魔神龍の攻撃を喰らったリマは、次々と地面に叩き伏せられて折り重なって倒れ、元の一人に戻った。リマは気を失っていた。頃合と見たレードは出撃態勢になったが、飛び出す前に悟天の方を振り向いた。

「孫悟天。僕が戦っている最中にアイスの体に指一本でも触れたら、すぐに殺してやる」

レードは悟天を脅した後、魔神龍目掛けて猛スピードで飛び出した。一方、脅された悟天は、恐る恐るアイスに尋ねた。

「ね、ねえ、今のって冗談だよね?」
「そうかしら?パパって冗談言うタイプじゃないし。多分本気よ」

悟天は慌ててアイスから距離を置いた。

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