其の百四 魔神龍の誘い

レードは魔神龍に側面から接近し、脇腹に飛び蹴りを見舞ったが、魔神龍に既の所で避けられた。レードは上空に逃れた魔神龍を追いかけ、懲りずに何度も攻撃を試みたが、魔神龍には全て回避された。レードは見切りを付けて攻撃を止め、両者は上空で向かい合った。

「リマから攻撃を喰らった分のダメージが残っていると予想したんだけど、ピンピンしてるじゃないか。当てが外れたな」
「お前の方こそ横から不意打ちを仕掛けてくるとは、抜け目ない奴だ。才能はあるが、お頭が弱い何処かの新人魔王とは一味も二味も違うな」

レードと魔神龍は、二人揃って地上に下りると、今度は壮絶な殴り合いを始めた。まず魔神龍がレードを殴り、その後すぐにレードが殴り返すという展開が、しばらく続いた。ところが、殴られた回数は同じ位なのに、何故か魔神龍の勢いだけが徐々に衰えてきた。

レードと魔神龍による殴り合いの最中に、トランクスは傷つき倒れたリマを危険な戦闘地帯から、少し離れたピッコロ達のいる場所まで移動させていた。そして、トランクスは仲間達と共に戦いを観戦したが、魔神龍の勢いの低下に首を傾げた。

「魔神龍の奴、一体どうしたんだ?形勢は互角だったのに、何で魔神龍だけ弱ってきたんだ?リマから受けた攻撃が効いていたのか?」
「確かにそれもあるだろうが、一番の要因は魔神龍の防御力だろう。奴は神龍の力を使い、スピードとパワーを上げたが、防御力は上げていない。戦闘力が同じでも、受けるダメージが違えば差が出るのは当然だ」

トランクスの疑問に、ピッコロが即座に応えた。すると、今度はパンがピッコロに質問した。

「でも、魔神龍の方がスピードあるのに、どうしてレードの攻撃を喰らってしまうの?」
「それもレードの戦術だ。レードの方が先に攻撃していれば、魔神龍に避けられていただろう。だが、攻撃した直後というのは隙だらけになる時だ。それをレードは見越し、ダメージを覚悟の上で敢えて魔神龍に先に攻撃させ、自分は即座に反撃するという作戦を立てたのだろう。正に肉を切らせて骨を断つ戦法だ」

レードは対決の前、相手の能力を見抜くレードアイで魔神龍の全能力を読み取っていた。そして、他の能力に比べると、防御力が低い事に気付いた。それからスピード差を埋めて自分の攻撃が魔神龍に当たるための戦法を考え、それを対決時に実践していた。

ところが、魔神龍が何時までも劣勢でいるはずがなかった。魔神龍はレードから距離を置き、一瞬で完全回復すると、レード目掛けて猛烈なスピードで飛行して来た。レードは避けきれずに魔神龍と衝突して吹っ飛ばされた。魔神龍は引き返し、再びレード目掛けて飛び込んで来た。レードは今度も対応出来ず、再度吹っ飛ばされた。レードが自分の防御力の優位性を活かした攻め方をすると、魔神龍は自分のスピードの優位性を活かした攻め方で返してきた。

しかし、このまま終るレードでもなかった。右手を上に高く掲げ、手の上の空間に中央に穴が空いた気円斬を作った。そして、そのドーナツ状の気円斬は、レードの腰の辺りまで降下した。すると魔神龍は突撃を途中で諦め、慌てて急停止した。

「その技は、上下に移動出来るようだな。しかも、お前は体が小さいから、技を避けて突撃するのは危険だ。下手に飛び込めば、こちらの体が真っ二つになる。考えたな」
「感心するのは、まだ早いぞ。この技は防御だけでなく、攻撃にも使える攻防一体の技だ」

レードは腰の付近に気円斬を回転させたまま、魔神龍目掛けて走り出した。魔神龍は飛び上がり、気弾をレードの頭部に向けて放った。しかし、レードは右手で気弾を払い除けた。

「この程度の攻撃で、この技を破れるとでも思ったのか?舐められたものだ」

レードは上空に逃れた魔神龍の後を追い掛けた。魔神龍は飛び回りながら、時々後ろを振り返って何度も気弾を放ったが、全ての気弾はレードに弾き飛ばされた。このままでは埒が明かないと判断した魔神龍は地上に降り、レードも後に続いた。

「例の神龍の力とやらを使えば、こんな技を消すぐらい雑作もないはずだ。何故それをしない?もしくは、現在使えないのか?」
「俺は戦いを楽しみたいんだ。雑魚相手ならともかく、お前相手に、そんな味気無い真似はしたくない。しかし、神龍の力を使うというのは面白い。これから起こる危機に、どう対処するのか見物だ」

魔神龍の目が赤く光ると、レードの足元に十数匹の大小様々な蛇が出現した。レードの顔の表情は、即効で凍りついた。

「お前は以前、ヒサッツの尻尾の蛇に噛まれて生死の境を彷徨った。それ以来、蛇はトラウマになっているはずだ。蛇だったら、お前の技に触れる事無く、お前の足首を噛む事が出来るぞ」

蛇達は一斉にレードの足を噛み付こうと襲い掛かったが、レードの尻尾の一振りで一蹴された。

「ヒサッツの尻尾の蛇ならともかく、それ以外の蛇を僕が恐れるか。まあ一瞬ヒヤッとしたがな」
「・・・そうか。ヒサッツの尻尾の蛇なら恐れるか。だったら、それをくれてやろう」

再び魔神龍の目が赤く光ると、レードの体の周りを回っていた気円斬が、銀色の蛇に変化した。オリジナルとは体の大きさが違うが、それ以外はヒサッツの尻尾の蛇と瓜二つだった。しかも、蛇はレードの体に巻き突いたので、レードは震えだし、恐怖で顔が引きつった。

「くっくっくっ・・・。明らかに恐怖しているな。お前ともあろう者が、だらしないぞ」

銀色の蛇は、大口開けてレードに襲い掛かった。レードは体が硬直して身動き出来なかったが、噛まれる直前にピッコロの力で蛇が消失した。蛇が消えたので、レードの体の震えが収まった。

「まさかあいつに助けられるとはな。礼は言わんぞ」

レードは気を取り直して魔神龍と向き合った。

「よくも恥を掻かせてくれたな。お返ししてやるぞ」

レードは力を溜め始めた。するとレードの体が膨張し、筋肉質の体になった。見た目だけでなく、気も大幅に上昇した。そして、レードが右の人差し指を魔神龍に向けると、指先から複数の光線を放った。魔神龍は自分に向かってくる全ての光線を回避したが、光線は魔神龍を通り過ぎた後、途中で引き返してきた。魔神龍は背中に光線を浴び、怯んだ所をレードが猛然と攻めた。魔神龍はレードの攻撃を何発も喰らったが、レードが放った巨大なエネルギー球は、上空高く飛び上がって回避した。

「ちっ、避けられたか。まあいい。この先チャンスは幾らでもある」
「まさかあんな攻撃をしてくるとはな。流石はレードだ。俺が見込んだだけの事はある」

魔神龍は危うく難を逃れたにも拘わらず、何故か顔が綻んでいた。

「・・・笑ってやがる。余裕の表れか?それとも、俺を嘲笑っているのか?ふざけやがって!」

不機嫌になったレードは、両腕を大きく開いて、左右合わせて十本の指から次々と光線を放った。光線は弧を描いて左右から魔神龍に迫った。対する魔神龍は、光線一つ一つの軌道を読み、高速スピードで一つずつ避けていった。その様子に、レードは違和感を覚えた。

「神龍の力を使えば楽に戦えるのに、何故それをしない?先程、蛇を出したから、力を使えない事はないが、俺の前で力を使ったのは、その時だけだ。ピッコロのせいで力を使い難いのか?それとも、フェアな戦いを望んでいるのか?純粋に戦いを楽しむのは良いが、力を使わなかったら殺されるかもしれないと考えないのか?死後の世界で孫悟空達が待ち構えている事を、知らないはずがあるまい。力を使わなくても絶対に殺されないという確たる自信があるのか?あるいは、何か他に理由が?」

光線は魔神龍に避けられた後も何度も引き返し、繰り返して魔神龍に迫ったが、相変わらず魔神龍は神龍の力を使わずに光線を避け続けていた。段々と目が慣れてきた魔神龍は、光線を上手く誘導し、一対ずつ相殺させて数を減らしていった。そして、全ての光線を消した魔神龍は、レードの目の前に降りた。二人は無言のまま睨み合っていたが、やがて魔神龍が口を開いた。

「ここまで出来る奴だとは思わなかった。ますます気に入ったぞ。今からでも遅くはないから、俺に味方しろ。そうすれば、お前が望む不老不死を授けてやろう。それだけでなく、全世界をお前にくれてやっても良い。お前は全世界の王として永遠に君臨出来るんだ。どうだ?悪くない話だろう?」
「何!?本当か?」

魔神龍の勧誘に、レードの心は激しく揺らいだ。

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