共に元の体の状態に戻ったレードと魔神龍は、双方同時に身構えた。ピッコロ達は、二人の戦いに巻き込まれないために後方に退いた。ピッコロ達が退いた後、魔神龍はレードに正面から飛び掛かり、浴びせ蹴りを喰らわせた。蹴られたレードは、すぐに態勢を立て直して反撃を試みたが、既に魔神龍はレードの背後に回り込んでいた。ならばとレードは尻尾を振り回し、背後の魔神龍を薙ぎ倒した。
レードは振り返り、仰向けに倒れている魔神龍の胸を踏みつけた。しかし、魔神龍に足首を掴まれて引っ張られたので、レードも倒されてしまった。魔神龍はレードの足首を掴んだまま立ち上がり、その場で高速回転してレードを振り回し、近くの岩山に投げつけた。レードは受身も取れずに岩山に叩きつけられ、岩山は崩壊した。レードは崩れ落ちた岩山の下敷きになったが、すぐに岩を吹き飛ばして立ち上がると、指先に気を溜めて腕を振って衝撃波を放ったが、魔神龍に避けられてしまった。
魔神龍は衝撃波を避けた後、レードの元まで歩み寄った。レードは無言で正面に立つ魔神龍を殴ったが、すぐに殴り返された。次にレードは魔神龍を蹴ると、同じく蹴り返された。その後しばらく魔神龍はレードの攻撃を故意に受け、すぐに同じ攻撃で反撃するという展開が続いた。ところが、魔神龍の勢いは一向に衰えないのに、レードの勢いだけが衰えてきた。
「さ、さっきまでは殴り合いだと、俺が勝っていたはず。ま、まさかお前、神龍の力を・・・」
「今頃になって気付いたか。俺は元の体に戻った時、ついでに防御力と体力を上昇させていた。相手の全能力を見抜くレードアイを使っていれば、気付いたはずだがな」
先程、魔神龍は危うく殺されかけたにも拘わらず、全く苛立つ様子がなかった。その理由をレードは分からず、内心かなり動揺していた。魔神龍が苛立たないという事は、危機感を抱いていないからである。そして、危機感を抱いていないという事は、魔神龍は実は危なくなかった。つまり、もしレードが魔神龍を殺していても、その後に魔神龍が神魔界で悟空達に消滅される事は絶対に起こり得なかったという事が、レードの頭の中で次々と連想された。
それでもレードは次の作戦を必死に考えていたが、魔神龍の不気味さが気になって良策が思い浮かばなかった。結局、レードは何の考えも思いつかず、不安を感じながら戦っていた。そんな心理状態で戦っても良い結果を生むはずがなく、レードは徐々に魔神龍に押されてきた。レードは魔神龍のスピードを駆使した戦法に翻弄され、ダメージを蓄積させていった。レードの劣勢は誰の目にも明らかとなり、アイスはレードに加勢したかったが、魔神龍が凄過ぎて全く手が出せなかった。
そして、レードの劣勢の様子は、神魔界に居る悟空達の元にも伝わっていた。悟空達三人はピッコロの力で既に生き返っており、現在は空に映し出された映像で、レードと魔神龍の戦いを観戦していた。
「ピッコロが一緒だし、何より若い奴等に頑張って欲しかったから、あいつ等だけで戦わせたんだけど、レードが加わっても苦戦してるんじゃ、オラ達も戦わないと本気でやばそうだ」
「魔神龍が更に強くなったら、俺達でも倒せなくなるかもしれない。ここは俺達が行かなければ」
「でも、俺達が三人とも行って、ここを空にすると、仮に魔神龍を倒せても、すぐに魔神龍は生き返ってしまいます。誰かは残らないと・・・」
悟空と悟飯はジャンケンで誰が行き、誰が残るか決めようとしたが、ジャンケンで連敗中のベジータが機先を制した。
「残るべき人間は、既に決まっている。カカロット。お前だ」
「オラ一人で魔神龍を消滅させろってか!?流石に無理だ」
「何が無理だ!お前には元気玉があるだろう。俺と悟飯が戦っている間、お前は元気玉を作ればいい。今だったら誰にも邪魔されずに、元気玉を作れるだろう」
「元気玉か・・・。あれはちょっと・・・」
「元気玉」という言葉を聞いて、悟空の顔の表情は途端に暗くなった。ベジータは、その理由が瞬時に分かった。
「カカロット。以前ジフーミに元気玉を破られてから、元気玉に対する自信を失っているな?しっかりしろ!元気玉は最強の技だ!あの時に破られたのは、元気が充分に集まっていなかったからだ!もっと時間を掛けて元気を集めていたら、元気玉が破られる事はなかったはずだ!もっと自信を持て!」
「そうですよ父さん。これまで元気玉で何度も強敵達を倒してきたじゃありませんか。一回ぐらい失敗したからといって、気を落とす必要はありませんよ」
ベジータと悟飯に励まされた悟空だったが、元気玉を使う事に彼は尚も渋った。
「しかし、ここでは大した元気玉が作れないぞ。魔界から元気を集めようにも、魔界に住む魔族は基本的に邪悪だし・・・」
「魔界にはサキョーが造った太陽が幾つもあるだろう。太陽には善も悪もない。それに元気を集めるのは、ここや魔界だけではない。俺達の住む世界、あの世、更には界王神界からも集めるんだ。そうしたら、全世界から元気を集めた史上最強の元気玉が出来上がるだろう」
ベジータの立てた壮大な計画に、悟空も悟飯も思わず感心してしまった。
「・・・なるほど。それだったら、オラ一人で魔神龍を消滅させる事が出来るかもしれねえな。しかし、そんな元気玉を完成させるには、かなり時間が掛かるぞ」
「心配しなくても、すぐに魔神龍を殺して、ここに送り届けない。元気玉を作るための時間を稼げるよう、時間を掛けて倒してやる」
「へっ。任せたぞ」
話し合いが済むと、悟飯とベジータは神魔界を後にし、悟空は一人残って元気玉作りを始めた。
「全世界の皆。オラに元気を分けてくれ」
その頃、レードと魔神龍の戦いは中断していた。レードが防御に撤し、その間に打開策を考えていたため、魔神龍は気を利かせてレードへの攻撃を止めていた。その事にレードは屈辱感を覚えたが、我慢して何か手がないか模索していた。
この時、二つの大きな気が彼等の近くに出現した。気の正体は、言うまでもなく悟飯とベジータだった。ピッコロ達は頼もしい援軍の到着に歓喜した。魔神龍もまた、彼等のいる方角に振り向いた。
「ベジータか。この俺の恐ろしさを身を持って体験しておきながら、また俺に戦いを挑む気か?とんだ大馬鹿者だな」
「かもな。しかし、貴様の影に脅えて暮らすのは俺の流儀ではないんでな。あの時の借りは返させてもらう」
ベジータは早くも臨戦態勢になった。一方、悟飯はピッコロ達の側まで移動していた。
「悟飯。よく来てくれた。お前達が魔神龍と戦ったら、例え奴を殺しても、その後に悟空一人では奴を消滅させる事は出来まい。しかし、お前達を即座に新魔界に送り届けてやるから心配するな」
「ピッコロさん。そんな事をしなくても、父さん一人で大丈夫です。それよりピッコロさんは、さっきから神龍の力を多用していますが、体の方は大丈夫なんですか?」
「う・・・も、勿論、大丈夫だ。」
ピッコロは平気を装ったが、悟飯は首を横に振った。
「ピッコロさん。そんな嘘をついて皆を安心させようとしても、俺は騙せません。ピッコロさんの事は何でも分かりますから。かなり無理してる事だって、ちゃんと分かってます」
「お前の目は誤魔化せんな。俺の体内は神龍の力の使い過ぎで、マイナスエネルギーが充満している」
ピッコロはトランクス達に悟られないよう、苦しみを表に出さずに我慢していたが、体内には相当な量のマイナスエネルギーが溜まっていた。しかし、悟飯だけはピッコロの微妙な変化に気付いていた。
「これ以上、無理をしないで下さい。ピッコロさんの力を借りなくても、俺とベジータさんの力で魔神龍を倒して見せますから」
「・・・すまん。悟飯」
悟飯とベジータは、二人並んで魔神龍と向かい合った。そして、二人同時に気を高めたが、ベジータの体に今まで見た事がない変化が見られた。ベジータは激しい炎の様相をした黄金色のオーラに全身を包まれ、胸毛が胸を完全に覆い、上半身の毛の色が全て赤から茶色に染まり、瞳の色が赤になった。
「あ、あれはまさか超サイヤ人5!?父さん何時の間に・・・」
「ベジータさんだけじゃない。パパも以前より気が随分大きくなってる。二人に何が起きたの!?」
驚いてるのは、トランクス達ばかりではなかった。休んでいたレードも同様に驚いていた。
「二人とも武道会の時より数段パワーアップしている。特に悟飯の強さは異常だ!ベジータも俺の力を完全に超えている!それでもスピードは魔神龍の方が上だが、それ以外の能力値は二人とも魔神龍を完全に上回っている!」
気を最大限に高めた悟飯とベジータは、二人同時に魔神龍に飛び掛かった。
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