早くも気を最大限に高めた悟飯とベジータは、二人揃って魔神龍に飛び掛かった。しかし、悟飯達の同時攻撃は、魔神龍に惜しくも避けられてしまった。初回の攻撃は避けられたが、二人は攻撃を続けた。もし彼等の攻撃が一回でも命中すれば、魔神龍といえども大ダメージは避けられないため、魔神龍は必死になって避け続けていたが、何故か顔は笑っていた。
悟飯達が戦っている間に、アイスはレードの元まで来ていた。現在レードは悟飯達が戦っている場所から少し離れた所で、休息を取りながら戦いを観戦していた。そんなレードを、普段は辛口のアイスが珍しく優しい言葉を掛けた。
「さっきは惜しかったわね、パパ。もう少しで魔神龍を倒せたのに」
「俺の出番は、まだ終わっていない。今は休みを取りながら、魔神龍の倒し方を探っている所だ」
「でも、あの二人が魔神龍を倒してしまうと、今パパがやっている事は無駄になってしまうわ」
「それはない。あの二人は魔神龍に神龍の力を使わせないために間断なく攻撃を続けているが、その程度の戦術で勝てる相手とは到底思えない」
レードの読み通り、悟飯達は神龍の力を非常に警戒し、魔神龍に力を使う暇を与えさせないように攻撃を続けていた。その結果、魔神龍は攻撃を避けるのが精一杯で、神龍の力を使う余裕などなかった。現時点までは、彼等の作戦通りに事が進んでいた。
ところが、慣れない超サイヤ人5に変身したせいで、ベジータには早くも疲れが出てきた。ベジータの動きは徐々に鈍り、遂には動きが止まり、変身が解けてしまった。それを見て驚いた悟飯も動きが止まってしまった。
「ハアハア・・・。くそったれ!もうスタミナ切れか。やはり超サイヤ人5は無理があったか・・・」
「ベジータよ。俺の目は誤魔化せない。こんな短い期間で超サイヤ人5になれたのは、お前だけの力ではない。ある人物が、お前の体に取り付いて力を貸していた。この俺が、その程度の事を見抜けんとでも思ったか?ベジータに取り付いて力を貸している奴、姿を見せろ!」
魔神龍の目が赤く光ると、ベジータの体から老人が飛び出した。その老人はサングラスを掛け、長い顎鬚を生やしており、老人のものとは思えないほど大きな気を有していた。そして、老人が飛び出された後、ベジータの気が先程よりも小さくなった。ベジータは老人に対して怒鳴りつけた。
「貴様を俺の体に取り込んだら、俺は超サイヤ人5になれると聞いたからこそ渋々承知したのに、こんなに早く変身が解けてしまうのでは、実戦で使えんではないか!この役立たずめ!」
「だって仕方ないじゃないか!あんなに体力を消耗する変身とは思わんかったわい!こんな年寄りの体力を付け加えたぐらいでは、長時間戦えんわい!」
ベジータと謎の老人は、言い争いを始めた。それを唖然と見ている悟飯にも魔神龍の手が及んだ。
「孫悟飯。お前の体にも取り付いてる奴がいる。そいつにも、お出まし願おうか」
魔神龍の目が再び赤く光ると、今度は悟飯の体から何者かが飛び出した。それは神魔界に居た魔界王だった。そして、魔界王が悟飯の体から飛び出した後、悟飯の気も先程より小さくなった。
「こ、これは、どうなってるんだ?父さんと悟飯さんの体から飛び出た二人は、何者なんだ?父さん達の突然のパワーアップに関係しているようだけど・・・。ピッコロさんは誰だか分かりますか?」
謎の二人の登場にトランクス達は驚いたが、ピッコロだけは全く驚いていなかった。そんなピッコロを見て、トランクスはピッコロが二人の正体を知っていると察し、尋ねた。
「あの方達は魔界の神だ。悟飯の体から出て来たのが魔界王様で、ベジータの体から出て来たのが、その上の大魔界王様だ。そして、神達は魔神技『憑依』を使っていた。憑依と聞くと、神達が悟飯達の体を意のままに操っていたと思われがちだが、実際に体を動かしていたのは悟飯達の方だ。神達が体を操る事も出来るそうだが、それをベジータが許すはずがない。憑依を使う事で、憑依した側とされた側の力が合算され、両者の技を使う事も出来るそうだ」
魔神龍との決戦の前、神龍の力を得たピッコロは新魔界に赴いた。そして、悟空達を生き返らせた後、魔界王や大魔界王に会い、憑依について詳しい説明を受けていた。
「二人の力と技を一人の体に合わせ、その体を二人が共有する技と言った所ですね。超サイヤ人5に変身するコツは、悟空さんとの合体時に分かっているはずだから、父さんが単体で超サイヤ人5に変身するのに足りなかったのは力だけです。今回、父さんが超サイヤ人5に変身出来たのは、大魔界王様を取り込んで力を増したからだったんですね」
当初は魔界王だけが悟空達の内の誰かに憑依を使って協力する予定だったが、後に大魔界王も協力する事になった。魔界王達を取り込んだ事で、悟飯達は彼等の瞬間移動まで使えるようになっていた。ところが、魔神龍に魔神技を使っている事を早くも見抜かれ、強制的に技を解除されてしまった。また、超サイヤ人5の状態を長く維持出来なかったので、ベジータは魔神技を酷評した。
「魔神技とやらに多少は期待していたが、実際は余り役に立たんな」
「確かに憑依では充分に超サイヤ人5を使いこなせなかったが、魔神技は一つだけではない。魔神技『吸収』を使えば、超サイヤ人5の力を自在に使いこなす事が出来るじゃろう。吸収は他人からエネルギーを貰う技じゃ。しかも相手の体に手を触れずとも、その者に向けて手を翳すだけで、その者からエネルギーを貰って自分のものに出来る技じゃ」
吸収についての説明を聞いて、ベジータは人造人間十九号や二十号を思い出した。人造人間達は対象者に触れてエネルギーを奪っていたが、魔神技の吸収は触れなくてもエネルギーを奪える。使い勝手は人造人間達より良さそうだが、より危険な技に思えた。
「全てのエネルギーを吸収すれば、取られた相手は死ぬ。死なせたくなければ、ある程度のエネルギーを残すように加減せねばならぬ。扱いが難しい技じゃ。なので、お前はエネルギーを貰う相手を選べ。吸収を使う時だけ一時的に体を操る。相手を殺さないためじゃから、それ位は勘弁せえ」
「ちっ、仕方ないな」
再び大魔界王に憑依されたベジータは、トランクスの目の前に移動した。
「トランクス。俺を信用出来るか?信用出来るなら、俺に身を預けろ」
「どうしたんですか、父さん?そんな事を言い出すなんて・・・」
「お前からエネルギーを吸収する。俺が更にパワーアップするためにだ。嫌なら構わん。他の奴に頼むから」
エネルギーを吸収すると言われ、戸惑うトランクスだが、父親の頼みを断れるはずがなかった。
「父さん。俺のエネルギーで良ければ、どうぞ使って下さい」
「よくぞ言った!その言葉が聞きたかった!大魔界王の話では、ある程度のエネルギーを残して死なないようにするから、そんなに心配するな。それでは吸収を始めるぞ」
「分かりました」
ベジータはトランクスに向けて手を翳した。するとトランクスの体から見えないエネルギーが放出され、それが目の前に立つベジータの体の中に取り込まれた。大量のエネルギーを失ったトランクスは、その場に座り込んだ。トランクスの気が大幅に下がった分、ベジータの気が上昇した。
「これが吸収か・・・。体の中から力が溢れてくるみたいだ。これだったら超サイヤ人5の状態を長く維持出来そうだ」
一方、ベジータがトランクスからエネルギーを吸収する様を見ていた悟飯は、魔界王に相談した。
「魔界王様。俺も誰かからエネルギーを吸収して良いですか?」
「良かろう。やり方はベジータを見て分かるじゃろう。まずは、わしがお前の体の中に入るぞい」
悟飯は魔界王に憑依された後、悟天の前に移動した。
「悟天。お前の力を借りるぞ」
「うん。俺のエネルギーを吸収するんだね?遠慮なくやっちゃってよ」
悟飯は悟天からエネルギーを吸収し、それによって急激にパワーアップした。そして、悟飯は超サイヤ人5に変身したベジータと共に魔神龍を睨んだ。
「二人とも素晴らしい力だ。これだけ強いと、幾ら俺でも危ういかもしれんな。ふふふ・・・」
魔神龍は二人が吸収している間、腕を組んで大人しく眺めていた。そして、更に力を増した二人に睨まれても、一向に動じなかった。それどころか、笑みすら浮かべていた。その魔神龍の不敵さが、レードの目には不気味に映った。
「何故、魔神龍は落ち着いていられるんだ?あの二人なら魔神龍を殺せそうなのに・・・。やはり魔神龍は殺されるのを恐れていない。例え殺されても、絶対に消滅されない自信が奴にはあるんだ。一体それは何だ?・・・そうか!分かったぞ!何でこんな単純な事に今まで気付かなかったんだ!?」
急にレードが独り言を始めたので、隣に居たアイスは怪訝な表情を浮かべた。
「どうしたの、パパ?いきなり叫んだりして」
「アイス。断言しても良い。今のままでは絶対に魔神龍を完全消滅させる事が出来ない。だから奴は落ち着いてるんだ」
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