吸収によって更に力を増した悟飯とベジータは、魔神龍と対峙した。ところが、気の大きさは悟飯達の方が圧倒的に上だが、真剣な眼差しの二人に対して、魔神龍は何故か笑みを浮かべていた。それどころか、魔神龍は悟飯達を挑発した。
「さあ、来い!この俺を殺せるものなら殺してみろ!」
「・・・妙な奴だ。まるで殺されるのを期待しているみたいだ。そんなに殺されたいのなら、望み通りにしてやるか」
悟飯は違和感を覚えながらも行動を開始した。まず悟飯は一瞬で魔神龍の背後に回り込み、魔神龍の背中を蹴飛ばした。魔神龍が蹴飛ばされた先にはベジータが待ち構えており、ベジータは狙い澄まして魔神龍の腹部を蹴飛ばした。魔神龍が蹴飛ばされた先には悟飯がいて、悟飯はベジータに向けて再び魔神龍を蹴った。しばらくの間、悟飯とベジータが交互に魔神龍を蹴飛ばし続けていた。
悟飯とベジータは、スピードに関しても大幅に上昇していたせいで、さしもの魔神龍も全く対応出来ず、されるがままになっていた。それでも魔神龍は不死身なので、どんなに攻撃されても肉体が少しでも残っている限り再生・回復を繰り返すが、悟飯達は回復が追いつかない程の速いスピードで攻撃していたので、魔神龍の体は傷だらけの状態になっていた。しかし、観戦しているピッコロは、悟飯達の戦い方に不満を抱いていた。
「何故、悟飯もベジータも、すぐに魔神龍に止めを刺さないんだ?あんな攻撃を幾ら続けても、魔神龍を殺せない事を、あの二人なら当に知っているはずだが・・・」
しかし、悟飯達は無意味な攻撃を続けているわけではなかった。実は、悟空が元気玉を作るまでの時間稼ぎをしていた。本音は二人とも即座に魔神龍に止めを刺したかったが、悟空が魔神龍を消滅させる程の強力な元気玉が完成するまで、止めの一撃を放つのを我慢していた。
「悟飯。そろそろ元気玉が完成した頃だろう。魔神龍を殺すぞ」
「分かりました。では、いきますよ」
頃合と見た悟飯とベジータは、二人同時に巨大なエネルギー波を放ち、攻撃を受け過ぎてボロ雑巾の様になった魔神龍を肉片一つ残さず完全に消し飛ばした。ようやく魔神龍に止めを刺したので、ピッコロ達は安堵した。
「あれだけ俺達を苦しめた魔神龍だが、最期は呆気なかったな。まあ、俺達が強過ぎたから仕方ないか」
「今頃は父さんが元気玉で魔神龍を消滅させているでしょう。これで長かった戦いが終りました」
悟飯もベジータも一安心し、ベジータは超サイヤ人5の変身を解いた。この時、レードが大声で叫んだ。
「二人とも油断するな!すぐに魔神龍が舞い戻ってくるぞ!」
悟飯とベジータは、「そんな馬鹿な!?」とでも言いたそうな表情で見合わせたが、この時、彼等の近くに本当に魔神龍が現れた。レードの言は的中し、悟飯達は大きなショックを受けた。
「な、何故、貴様が生きてるんだ?カカロットは、貴様を消すのに失敗したのか?」
「平たく言えば、その通りだが、結局、誰であろうと俺を完全に消滅させる事は出来ない。お前達は大きな点を見落としている。レードだけは、それに気付いたようだがな」
「な、何だと!?」
悟飯もベジータもピッコロも、自分達の見落とした事が何か分からなかった。魔神龍は「やれやれ」といった表情で語り始めた。
「お前達は俺を二回続けて殺せば、俺を完全に消滅出来ると信じている。その考え自体は間違っていない。しかし、そのためには俺が死んだ後、俺が自分自身を甦らせる前に再度殺す必要がある。ところが、俺は一秒もあれば神龍の力を発動出来る。つまり、お前達が俺を完全消滅させるためには、死んでいる状態の俺を一秒以内に消さなければならない。格下相手でも一秒で殺すのは、かなり難しい。ましてや相手が俺となると、どんな奴でも実質不可能と言える」
これまで魔神龍は、神龍の力を一瞬で使っていた。それでも悟飯達は、魔神龍に神龍の力を使わせないよう妨害してきたが、それは対戦中で、すぐ側に居たからである。 幾ら悟空が神魔界で魔神龍の到来を待ち構えていたとはいえ、目の前に現れる訳ではない魔神龍を一秒以内に攻撃出来るかといえば、流石に無理があった。
「しかも俺の魂が何時、神魔界の何処に出現するのか、お前達は正確には分かっていない。案の定、孫悟空が俺の存在を確認した時には、既に俺は生き返っていた」
魔神龍の解説を聞いた悟飯達は、ショックの余り目の前が真っ暗になった。神魔界で死んだ者の魂が集まる場所は、大勢の魂が集まるだけに決して狭い空間ではないが、それでも魔神龍クラスの魂が来れば、悟空なら気を察知して場所を特定出来る。しかし、悟空が気を察知して瞬間移動を使っても、その間に魔神龍に神龍の力を使われてしまうのが目に見えていた。
レードは魔神龍が常に一瞬で神龍の力を使っていた事から、二回続けて魔神龍を殺すのが実質不可能である事を見抜いていた。しかし、気付かなかった悟飯達は、絶望に打ちひしがれていた。魔神龍は悟飯達に対し、更なる追い討ちをかけた。
「俺は一秒で自分を生き返らせたが、もう一秒使って自分自身をパワーアップさせた。今回のパワーアップは、これまでのような個別の能力ではなく、全能力を上昇させた。お前達二人を同時に相手にしても、充分対抗出来るようにな」
魔神龍に言われるまでもなく、悟飯達は魔神龍の気が現在の自分達のよりも大きくなっている事を認識していた。魔神龍を倒すために立てた作戦が暗礁に乗り上げた上に、魔神龍が自分達より強くなってしまったので、悟飯達は最早どうすれば良いのか分からなくなり、意気消沈してしまった。
「そろそろ会話を終わりにして、戦闘を再開するか。借りは返さんとな」
魔神龍は悟飯達に襲い掛かった。対する悟飯達は一応の抵抗を試みたが、戦意を喪失しているせいで勝負にならなかった。魔神龍は悟飯達を攻撃し続けた。そして、悟飯達の劣勢の様子を、ピッコロ達は無論、レードやアイスも不安そうに見つめていた。
「パパの言った通りになったわ。このままでは私達も殺されてしまう」
「だろうな。今更、魔神龍側に寝返るなど出来るはずがないしな。どうしたものか・・・」
「でも、変ね。魔神龍の奴、勝ってるくせに全然嬉しそうな顔してない。むしろ悲しんでるみたい」
「何!?・・・なるほど。言われてみれば、そう見えなくもないな」
魔神龍は一方的に戦いを有利に進めていたが、何処か物憂げな表情だった。
「魔神龍は今の状況を喜んでいないのか?思い返してみれば、奴がピンチに陥った時は実に嬉しそうな顔をしていた。劣勢の時は上機嫌で、優勢の時は不機嫌になるという事か。奴は一体何を考えているんだ?」
レードは頭に手を当てて考えた。そして、ある事を思いついた。
「俄かには信じられないが、もし俺の推理が正しければ、これまで度々見られた魔神龍の不可解な行動にも合点が行く。ふふふ・・・。魔神龍攻略の青写真が、徐々に見えてきたぞ」
レードは興奮しながら腕を組み、更に考えた。レードが考えに耽っている間、アイスは父親の邪魔をしないように静かにしていた。しばらく考えた後、レードは両方の拳を強く握り締めて叫んだ。
「分かったぞ!魔神龍の秘密が!そして、神龍の力の封じ方もな!これで魔神龍を倒せる!」
「神龍の力を封じる!?そんな凄い方法があるの?」
「大した方法ではない。お前にだってやろうと思えば出来る非常に簡単な方法だ。今からそれを実践するから、まあ見ていろ」
レードは興奮冷めやらぬ表情で、魔神龍の元まで歩き出した。
その頃、魔神龍は一方的な展開に嫌気が差し、悟飯達への攻撃を止めていた。しかし、魔神龍からの攻撃が止まっても、悟飯達は傷ついた体を鞭打って反撃に転じようとはしなかった。
「当然こういう結果になったか。しかし、よく頑張った。その努力に免じ、今回は見逃してやる」
「俺達を殺さないつもりか!?俺達は貴様を消滅させようと何度でも挑み続けるぞ」
「望む所だ。どうせ俺に敵いはしない。だが、お前達は退屈凌ぎになる。更に腕を磨き、知恵を絞って出直して来い」
「俺達を玩具か何かだと思っているのか?舐めやがって!」
ベジータは魔神龍の態度に腹を立てた。その時、レードが彼等の近くまで来た。
「レードか。お前も頑張った。今回は特別に見逃してやるから、娘を連れて立ち去れ」
「この俺を見逃すつもりか?冗談じゃない!これからお前を倒そうというのに、何故この場を離れないといけないんだ?」
レードの予想外の言に、この場に居た全員が啞然とした。
「俺の聞き違いか?今、俺を倒すと言ったのか?馬鹿め。今の俺の力が分からぬはずがあるまい。最早お前の力では、どうにもならないレベルにまで強くなったんだぞ」
「残念ながら俺ではお前を倒せない。しかし、お前を倒すためのお膳立ては出来る。今から俺が、お前の化けの皮を剥いでやろう」
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