悟空と悟天は、揃って闘技場に姿を現した。その様子は、悟飯達ばかりでなく、別の一室でモニターで観戦しているレード達も注視していた。
「いよいよ孫悟空の出番です。果して奴は、どれほど強いのか。我ら兄弟にとっても非常に楽しみな一戦です」
レードと共に観戦しているシーガは、そう言ってレードに話し掛けた。
「ふっ、孫悟空が息子相手に本気で戦うわけがないでしょう。初戦と準々決勝は、あの男にとっては遊びのようなもの。参考にはなりませんよ」
そう言いつつもレードは、孫悟空から目を離さなかった。
一方、闘技場では悟空と悟天が向き合い、試合開始の合図を今か今かと待っていた。天下一武道会の時よりも遥かに大人数の観客から見られていても、いつも通りリラックスしている悟空と違い、悟天は極度に緊張していた。
「そんなに硬くなるな、悟天。別に取って食うわけじゃねえんだしよ」
今の悟天には、悟空の言葉に返事をする余裕は無かった。しかし、悟天の緊張の原因が、大勢の人間に見られているからだけではなく、先ほど兄と二人で立てた計画が上手くいくか懸念しているせいでもあるという事を、この時の悟空は知らなかった。
試合開始を告げるアナウンスが流れた。それと同時に、悟天の目の色が変わった。
悟天は開始早々、超サイヤ人2に変身し、悟空に向かって行った。いきなり悟天が超サイヤ人2に変身した事に、悟空は多少驚いたものの、悟天から繰り出される攻撃の一つ一つを難なく防いでいった。
直接攻撃が通用しないと見るや、悟天は少し距離を置き、今度は連続して気功弾を放った。しかし、悟空には全ての気功弾を弾かれた。悟天は悟空を倒す所か、ダメージすら与えられなかった。
「くっ、さすがに強い。父さんは全然本気じゃないのに、こっちの攻撃が当たらない」
想像以上に大き過ぎる二人の実力差が、悟天を焦燥に駆らせた。そんな悟天を、悟空は嬉しそうに見つめていた。修行を怠け、女の子に夢中になっていた軟弱な息子が、修行に専念してきた事を今の戦いで悟り、つい口元がにやけてしまった。
ところが、この悟空の笑みを、悟天は自分を見下した表情と受け取ってしまった。悟天にも格闘家としてのプライドがある。幾ら対戦相手が父親とはいえ、試合中になめられて平気なはずがない。この時の悟天は、耐え難い屈辱と感じていた。覚悟を決めた悟天は、再度気を練り始めた。気は更に高まり、悟天の髪の毛が伸びていった。
「ま、まさか!?」
さすがの悟空も表情が変わった。悟天は何と超サイヤ人3に変身したのである。その姿は、かって悟空が魔人ブウとの戦いの時に見せた超サイヤ人3の姿に瓜二つだった。
超サイヤ人3へと変身を遂げた悟天は、即座に悟空に飛び掛かり、連続攻撃を仕掛けた。対する悟空は、悟天の情け容赦ない攻撃を慌てて捌くものの、次々と繰り出される攻撃が凄まじく、遂に右の頬に左のストレートを喰らってしまった。
「い、痛えー」
遂に悟天の攻撃が当たり、悟空にダメージを与えたが、悟天の攻撃は止まらなかった。悟天は千載一遇の好機と見て、更に悟空に攻撃を浴びせた。悟空は殴られた箇所を撫でる時間すら無かった。
「ちょ、ちょっとタンマ」
悟空はタイムを欲求するが、そんな事を今の悟天が聞き入れるはずもなかった。勢い付いた悟天の攻撃を、悟空は身を固めてガードするしかなかった。悟空は超サイヤ人に変身する事は疎か、反撃する事も出来ず、今や完全に立場が逆転していた。
予想外の悟天の優勢に、控え室の誰もが驚きを禁じえなかった。一緒に作戦を立てた悟飯ですら、ここまで上手くいくとは思っていなかった。
「な、何やってるんだ、あの野郎。このままでは負けるぞ」
悟空との戦いを心待ちにしていたべジータは、試合を観て苛立ちを禁じ得なかった。
悟天の攻撃は尚も続き、悟空は敗色濃厚となった。しかし、このまま悟空が負けるはずはなく、彼は悟天の攻撃を必死に耐えながら、ある事をひたすら待っていた。
やがて悟天の攻撃するスピードが、段々と鈍くなっていった。悟天は全身が汗びっしょりになり、苦しそうな表情になった。そして、遂に悟天の攻撃が止まった。悟天は超サイヤ人3から元の姿に戻り、片ひざをつき、肩で息をするようになっていた。
「ふー、やっとエネルギーが尽きたか。思ったより長かったな」
悟空は悟天の元に歩み寄り、疲労困憊の息子を見下ろした。超サイヤ人3はエネルギーの消費が激しく、長時間の戦いには向かない。その事を熟知している悟空は、悟天の攻撃に耐えながら、彼のエネルギー切れをずっと待っていた。
「凄く強くなったな、悟天。オラ、びっくりしたぞ。まさかおめえが超サイヤ人3に変身するなんてな。精神と時の部屋を使ったのか?」
「うん。トランクスと二人で制限時間ぎりぎりまでね」
悟空は嬉しそうに微笑んだ。悟天もまた微笑んだ。いつも修行不足に苦言を呈してきた父親が、初めて褒めてくれた事に、悟天は喜びを感じていた。
「やっぱり父さんは強いや。超サイヤ人に変身しないで、超サイヤ人3の俺の攻撃に耐え切るんだから」
「おめえだって強かったぞ。もし次に戦う事があれば、今度はおめえが勝つかもな」
二人は闘技場の真ん中で、大声で笑った。先程まで激しく戦っていた者同士とは思えないほど、仲のよい二人だと見ている者の目には映った。
「どうする、まだやるか?オラは構わねえぞ」
「ははは、これ以上は無理だよ」
悟天は床を数回叩き、降参を表明した。エネルギーが尽きた今の悟天に、挽回のチャンスなどあろうはずもなかった。それに、敵わないまでも自分の力を全て出し切って敗れたのである。悟天は充分に満足していた。
悟空勝利のアナウンスが流れ、戦いは終わった。悟空は悟天の体力回復を待って、二人揃って控え室に引き上げた。控え室に戻った悟天は、仲間達からの健闘を称える声に適当に返事し、備え付けてあるベッドに横になって眠りについた。
悟天が高いびきで眠っている頃、べジータが悟空に詰め寄った。
「貴様ともあろう者が、随分と無様な試合運びだったな。途中で悟天のエネルギーが尽きたからこそ、貴様は勝ちを拾う事が出来たが、下手をすれば負けていたぞ」
「そうかもな。でもよ、べジータ。悟天の奴、相当強くなっていたぞ。おめえだってトランクスと戦う時は、甘く見ねえ方が良いぞ」
「ふん。確かに以前より強くなった事は認めるが、俺に言わせれば、まだまだ未熟だ」
二人が話している時、べジータとアストレーの登場を促す館内放送が流れた。
「いよいよ俺の出番か。レードの子分が相手なら、肩慣らし程度にはなるだろう」
べジータは控え室から出て、闘技場に向かった。いよいよ悟空達とレード一味との直接対決が、始まろうとしていた。
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