其の百十 怒りの魔神龍

魔神龍は神龍の力を使えなかった事に激しく動揺した。レードは魔神龍が狼狽する様子を観て笑みを浮かべながら、力を使えなかった理由を説明した。

「ここに来る前、お前は神龍の力を思っただけで使えると聞いていた。しかし、実際には聞いていた話と違う事に気付いた。お前は交戦中には決して力を使わず、使う時は対戦相手に邪魔されないよう距離を置いていた。つまり力を発動させるためには、思っただけではなく精神を集中させて念じなければならない。そして、精神を集中させて念じるためには、何より平常心が必要となる。だから怒りで心が乱れている時は精神を集中出来ず、結果として力を使えない」

もし思っただけで神龍の力が発動するなら、使う本人にとってマイナスとなる事象も、うっかり思っただけで実現してしまう。魔神龍もピッコロも、いざ力を使う時は慎重に事を進めていた。傍から力を使う様子を観ていたレードは、そのメカニズムに気付いていた。

「それでは、お前が余計な事を喋って俺を怒らせた真の理由は、俺の心を乱して神龍の力を使わせないためだったのか!?お、おのれ・・・」

魔神龍は策略に嵌められた事を知り、更に怒りが募った。

「そうだ。お前の力を使えないようにするためには、お前を怒らせれば良い。お前を怒らせる方法は幾つかあるが、お前の秘密を暴露して恥を掻かせるのがベストだと判断した。本来なら、こういう役は俺より口が達者なアイスの方が適任だが、ここは敢えて俺が行う事にした」

レードの話を聞いていた悟飯達は、レードの手際に思わず感心した。一方、目的を達成したレードは、側にいた悟飯とベジータに声を掛けた。

「俺の出番は、ここまでだ。後は任せた。時間が経てば、魔神龍の怒りは自然と冷める。そうすると、また神龍の力を使われてしまうから、そうなる前に速攻で奴を倒せ」
「お前のやり方は正直気に入らないが、今が魔神龍を倒す唯一の機会である事だけは確かだ」
「恐ろしく頭の切れる奴だ。いずれ敵になると思うと、今から寒気がする」

レードは魔神龍に襲われる前に、この場から離れた。そして、戦意を取り戻した悟飯とベジータは、二人同時に気を高め、ベジータは超サイヤ人5に変身した。ところが、魔神龍は悟飯達を見ようともせず、遠ざかるレードを追いかけようとしたが、ベジータに回り込まれた。

「何処に行くつもりだ?貴様の相手は、この俺だ」
「俺の邪魔をするなー!」

怒りに燃える魔神龍は、ベジータに殴り掛かってきた。これまでと違い、魔神龍は闘志剥き出しで攻撃してきた。魔神龍の攻撃は怒りのせいで大振りだったが、かなりのスピードだったために避け難かった。ベジータは魔神龍の初撃は避けたが、続いて繰り出された怒涛の攻撃を避け続ける事は出来なかった。ベジータも反撃したが、魔神龍は怯む事なく攻撃を繰り出していた。その結果、両者の間で壮絶な殴り合いが繰り広げられた。

悟飯も戦いに加わり、ベジータと連携して前と後ろから魔神龍を攻めたが、それでも戦況は一向に好転しなかった。魔神龍は攻撃性が前面に出、生まれて初めて本気になって戦っていた。

レードはアイスの居る場所まで移動してから観戦していたが、魔神龍の奮闘に危機感を抱いていた。神龍の力を封じるために魔神龍を怒らせる作戦は成功した。しかし、作戦が効き過ぎたせいで、魔神龍の怒りは相当なものだった。そして、その怒りは自分に向けられているので、もし悟飯達が敗れれば、次は自分の身が危うかったからである。

同じく戦いを観戦しているピッコロも、レード同様に不安を感じていた。以前の魔神龍が相手だったら、勝てはしなくても見逃してもらえれば、全滅する危険性が無かった。しかし、今の魔神龍は全く容赦が無いので、全員皆殺しにされる可能性が出てきたからである。

悟飯はピンチを切り抜けるために、魔神龍への説得を試みた。

「魔神龍!これ以上、戦うのを止めろ!友達が欲しければ、俺がなって・・・」
「黙れ!この俺が、そんな者を欲しがっていると本気で思っているのか!?お前の魂胆は分かっているぞ!友達面して俺の力を利用するのが目的だろう?俺に頼めば、どんな願いでも叶うからな!そんな手に乗るか!」

魔神龍は悟飯の説得も聞き入れず、すぐに攻撃を再開した。魔神龍の勢いは更に激しさを増し、悟飯達は魔神龍の勢いに押されて徐々に抗しきれなくなってきた。魔神龍は悟飯達の力が弱まったと判断すると、彼等を無視してレードの目の前まで移動した。レードの側に居たアイスが魔神龍に飛び掛かったが、気合砲で吹き飛ばされた。

「もう逃がさんぞ!今度こそ八つ裂きにしてくれる!」
「ここまで怒りを露にする所を見ると、これまで神龍の力に随分苦しんできたようだな」
「お前に何が分かる?お前に俺の苦しみが分かってたまるかー!」

レードは魔神龍が動くより先に、指先から光線を放った。光線は魔神龍の額に命中したが、魔神龍は平然としていた。レードは続けて魔神龍の顔面を殴ろうとしたが、その前に魔神龍の右手がレードの首を掴んだ。

「クックックッ・・・。このまま首を捥いでやろうか?」

魔神龍は右手に少し力を入れると、レードは苦しそうな呻き声を上げた。レードは魔神龍から逃れようと必死になって藻掻いたが、魔神龍の力が強過ぎて無理だった。

「まずい!魔神龍の怒りは、全てレードに向けられている。そのレードが殺されてしまったら、魔神龍の怒りは冷め、また神龍の力を使えるようになってしまう!奴を止めなければ!」

悟飯はレードを救うために急いで魔神龍の元に向かったが、魔神龍の空いている左手で逆に殴られてしまった。悟飯は即座に態勢を立て直したが、怒っていても隙の無い魔神龍を攻めあぐねた。そんな時、悟飯の体の中から声が聞こえてきた。悟飯の体に憑依している魔界王の声だった。

「おい。わしに考えがある。吸収を使うぞ」

魔界王は悟飯の背中から抜け出てきた。

「吸収を使って魔神龍のエネルギーを奪い、奴を弱らせるつもりですね?」

悟飯が吸収を使って悟天からエネルギーを貰い、強化したのとは逆で、魔神龍からエネルギーを奪って弱体化させるつもりだと悟飯は思った。ところが、魔界王は首を横に振った。

「そうではない。逆に奴にエネルギーをくれてやるつもりじゃ。奴の嫌いなマイナスエネルギーをな。まずピッコロの体内から、マイナスエネルギーだけを取り出す。すると取り出されたエネルギーは、わしに真っ直ぐ向かってくるが、お前はわしの前に立ってエネルギーを受け止め、そのエネルギーを魔神龍にぶつけるんじゃ。神龍にとってマイナスエネルギーは天敵らしいから、普通に攻撃するよりも魔神龍には応えるはずじゃ」

得意気に語る魔界王だが、悟飯は難色を示した。

「ピッコロさんが抑えているマイナスエネルギーを魔神龍が取り込んでしまったら、魔神龍が邪悪龍になりませんか?ピッコロさんの負担を取り除けるのは嬉しいですが・・・」
「ピッコロでさえ抑えられるマイナスエネルギーを、魔神龍が抑えられんはずがない。しかし、神龍の力を使えない今の魔神龍ならエネルギーを消せず、抑えなければならなくなるから、戦いに集中出来んようになるはずじゃ。後は再び魔神技を使い、奴を倒せば良い」

得意気に語る魔界王だが、悟飯は同調しなかった。

「そんなに上手くいくでしょうか?しかし、他に打つ手が無いので、取りあえずやってみましょう」

悟飯は一抹の不安を感じつつも、魔界王の作戦に乗る事にした。

魔界王は右手をピッコロの方に翳し、狙いを絞って吸収を使い、ピッコロの体内からマイナスエネルギーだけを取り出した。外に飛び出したマイナスエネルギーは、球状を保ったまま魔界王に向かって真っ直ぐ飛んできたが、悟飯が魔界王の前に立ってエネルギー球を受け止め、魔神龍を目掛けて投げた。

魔神龍は自分に向かってくるエネルギー球に気付き、それを左手一本で受け止めようとした。しかし、脇からベジータが小型の気光弾を放ち、気光弾が当たって不意を突かれた魔神龍が一瞬目を離した隙に、エネルギー球が魔神龍に命中した。

マイナスエネルギーが魔神龍の体内に入った途端、魔神龍はレードを掴んでいた右手を離し、のた打ち回って苦しみだした。それを観ていた悟飯達は、攻撃するのも忘れて一同に唖然とした。魔神龍の苦しみ方が、尋常ではなかったからである。

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