其の百十五 また会う日まで

死闘の末、遂に魔神龍を完全消滅させた悟空は、ベジータと共に神魔界から悟飯達が居る場所まで瞬間移動し、悟飯達に勝利の報告をした。報告を聞いて悟飯達が喜んでいる間に、魔界王と大魔界王が憑依を解いて悟空達の体から出て来た。また、悟空達は見向きもしなかったが、ドラゴンボールは主を失ったせいで輝きを失い、ただの丸い石になっていた。そして、魔界王は皆の興奮が冷めてから、やんわりと話し始めた。

「お前達、本当に頑張ってくれた。魔界を代表して礼を言わせてくれ。有難う。魔神龍の存在は以前から知っていたが、どうする事も出来なかった。しかし、お前達は魔界の住人ですらないにも拘らず、見事に倒してくれた。これで魔界最大の不安材料が払拭された。ジュオウも滅んだし、これでしばらくは魔界の平和が保たれるであろう。わしも枕を高くして眠れる」

魔神龍が生み出された当時の魔界の神々は、カイに対しても、魔神龍に対しても、手の打ちようが無かった。魔神龍がドラゴンボールの中に封印された後、神でありながら魔界滅亡の危機に何も出来なかった自分達の非力さを痛感し、今後の魔界の脅威に対抗すべく編み出されたのが、魔神技であった。

「魔界王様。こう言っちゃ何だが、魔神龍は悪い奴じゃなかった。あいつは破壊も支配も望んでいなかった。ただ誰かに自分を止めて欲しかっただけなんだ。まあジュオウは、どうしようもない奴だったけどな」

悟空は魔神龍を悪とは思っていなかった。それでも倒さざるを得なかったのは、それが魔神龍の望みだからであった。

「魔神龍は悪でなくとも、全世界を滅ぼしかねない危険な存在であった。もし誰もドラゴンボールを集めず、あのまま放っておけば、いつか自分で勝手にボールから飛び出し、自暴自棄になって暴れていたかもしれんからな。どんな願いでも叶えられるのは素晴らしい能力じゃ。しかし、本来の願いの叶え方は、努力の積み重ねじゃ。容易く願いが叶えられると、魔神龍の様に必ず代償を払わされる事になる。これからは安易にドラゴンボールを使わない事じゃ」

ここで魔界王の隣で黙って話を聞いていた大魔界王が、代わって話を続けた。

「魔界王の言う通りじゃ。無闇にドラゴンボールを使うな。特にピッコロ。お前、魔神龍を倒すためだったとはいえ、随分と神龍の力を乱用したな。もし戦闘中、お前が邪悪龍になっていたら、魔神龍を倒す所ではなくなっていたぞ」

魔神龍との戦闘中、ピッコロは事ある毎に神龍の力を使っていた。一度は魔神技の吸収を用いてピッコロからマイナスエネルギーを取り除いたが、その後もピッコロは力を用いたので、ピッコロの体内にはマイナスエネルギーが溜まっていた。

「あなた方にまで心配を掛けた事は謝ります。しかし、もし俺が邪悪龍になりそうだったら、その前に自分の体をマイナスエネルギーが充満している悪の体と分離するつもりでした。かつて先代の地球の神が、悪であるピッコロ大魔王と分離したように。そして、分離した後は、悪の方を魔封波で封印する準備もしていました」

ピッコロは右手に持っていた「大魔王封じ」という文字が書かれた小ビンを大魔界王に見せた。ピッコロはナメック星人特有の力で密かに小ビンを作り、もしもの時に備えていた。

「なるほど。いざという時に皆に迷惑が掛からないよう準備はしていたという事か。これは厳しい事を言って悪かった。お詫びの意味も込めて、お前が抱えている負担を無くしてやろう」

大魔界王はピッコロに右手の平を向け、吸収を使った。するとピッコロの体内にあったマイナスエネルギーが体外に放出され、それがそのまま大魔界王の体内に吸収された。

「な!?大魔界王様!一体何をなさるのですか!?この程度のマイナスエネルギーだったら充分耐えられたのに・・・」
「マイナスエネルギーは一度発生すると、完全に消えるまで百年も掛かると聞くぞ。お前は百年も耐えるつもりだったのか?お前にとって百年は決して短い時間ではあるまい。しかし、わしにとっての百年は、一生の内の僅かな期間じゃ。魔界の者でないのに、これ以上の負担は掛けられぬ」

ピッコロの体内に蓄積されていたマイナスエネルギーの量は、ピッコロを直ちに邪悪龍に変えてしまう程ではなかったが、それでも邪悪なエネルギーである事に変わりないので、体内に留めておく事はピッコロに色々と不都合があった。それは大魔界王にとっても同じであったが、魔界を治める神として、その不都合に百年間耐える覚悟だった。

「では、そろそろお別れじゃ。わし等は神魔界に帰らせてもらう。もう会う事はないと思うが、もし今後わし等の力を借りたい時は、何時でも遠慮なく神魔界に訪ねてくると良い」
「ああ、分かった。色々と有難う」

魔界王と大魔界王は、二人揃って瞬間移動を使い、神魔界へと帰っていった。

「魔神龍が滅んだ今、もうここに用は無い。アイス、帰るぞ」

魔界王達に引き続いてレード親子も帰路に就こうとしたが、そのレードに視線を向ける者がいた。それは魔人となったウーブだった。魔神龍との戦闘では中盤から大人しく観戦していたウーブだったが、事が済んだ今となって再びレードへの怒りが再燃し、鋭い眼光でレードを睨み付けていた。

「何だ、お前?まさか俺に文句でもあるのか?もしそうなら遠慮なく掛かって来い。殺してやる」

ウーブの視線に気付いたレードは、勝気な態度でウーブを挑発した。ウーブは挑発に乗ってレードに飛び掛ろうとしたが、悟空が両者の間に割って入って衝突を食い止めた。場の空気は一気に険悪になったが、それに構わず悟空はウーブを諭し始めた。

「ウーブ。体は魔人になっても、心まで完全に魔人にはなっていないはずだ。お前は簡単に魔人に支配されてしまうような弱い奴じゃねえ!自分を取り戻せ!」

悟空の言葉を聞いたウーブは、レードを睨むのを止め、頭を抱えて苦しみだした。やがてウーブの全身から湯気が吹き出て、ウーブの体が徐々に魔人から元の人間に変化した。その場に居た悟空以外の全員が、ウーブの変化に驚いた。

「き、奇跡だ。人間に戻れるなんて・・・」
「奇跡じゃねえ。ウーブの心が、魔人の力に打ち勝っただけだ。これからは人間と魔人の両方の体を必要に応じて使い分けられるだろう。ウーブが強い意志を持っていたからこそ出来た事だ」
「とんでもありません。悟空さんの力強い言葉がなければ、再び人間には戻れませんでした。どうも有難う御座いました」

ウーブが人間に戻れたので、冷め切った場の空気は一変して和んだ。笑顔を交す悟空達とは対照的に、場の空気に馴染めないレードは、足早に立ち去ろうとした。しかし、悟空がレードを呼び止めた。

「レード。オラと戦いたかったら、余計な策は用いず、正面から堂々と挑んで来い。オラは何時でも受けて立つ」
「ふっ。次に会う時は、また手を組むのか、それとも対立するのか分からないが、敵として戦う事になったら必ず倒してやる。例え相手がゴジータでもな」

レードは捨て台詞を吐いて飛び去った。その後をアイスは追おうとしたが、その前に後ろを振り向いて別れの言葉を述べた。

「じゃあね、悟天。また会いましょう」

アイスは悟天に笑顔で手を振ってから飛び去った。そして、先に行くレードに追いつき、隣に並んだ。

「パパにしては随分大人しく引き下がったわね。孫悟空と一戦交えるのかと思ってたけど・・・」
「孫悟空は容易く倒せる相手ではないし、例え戦っても、必ず誰かが邪魔に入る。それに口惜しいが、今は奴等全員を一度に敵に回して戦っても、俺に勝ち目は無い。だから大人しく引き下がった。だが、いつか必ず勝てるようになってやる。今回は奴等の底力を知る事が出来た実り多い戦いだった」

レード親子が去った後、悟空達の話題は悟天とアイスの関係に移っていた。

「なあ、悟天。あのアイスって娘と、これからどうするんだ?結婚すんのか?」
「結婚!?まだ俺達は知り合ったばかりだよ!いきなり結婚なんてしないよ!」

トランクスが茶化し、悟天が慌てて否定した。一方、悟飯は心配事を吐露した。

「相手はレードの娘で、フリーザの孫ですよ。あの一族と血縁関係を結ぶのは、幾ら何でもまずくないですか?」
「そうか?あの娘は全然悪そうに見えなかったし、悟天の年齢を考えると、そろそろ結婚しねえとな」

悟空達がどうでもいい話で盛り上がっていると、苛立ったベジータが怒りの声を上げた。

「貴様等!何時まで下らない話を続けてやがるんだ!そんな会話は地球に帰ってからでも出来るだろ!俺は早く地球に帰りたいんだ!さっさと俺達を瞬間移動で地球まで連れて行きやがれ!」
「わ、分かったよ。そんなに怒るなって」

悟空は慌てて皆を連れて瞬間移動した。そして、悟空達が去った後、少し離れた所でリマが立ち上がった。

「あ、あいつ等、俺の事を完全に忘れてやがる。やっぱり、あいつ等嫌いだ。だが、今に見てろよ。何時か大魔王になって、あいつ等を見返してやる」

現時点では才能があっても、経験や思慮の乏しいリマだったが、後に大魔王となり、より強くなって悟空達の前に現れる事となる。また、今後もレードとは度々関わっていく事になるが、それ等の話は、また後日。

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