サキョーがルーエの元を訪れてから一週間が過ぎた。今日は、そのサキョーを含め、ジュオウに仕える戦士七人がルーエの命を奪いに来ると宣言した日で、ルーエが居住する王宮にはルーエを警護し、ジュオウの戦士達を倒すために魔族達が魔界中から集結していた。元々の兵士の他に、新たに参加した志願兵が加わり、その数は総勢二千万人を超え、王宮に入りきらない魔族達が、外に溢れていた。
一方、ジュオウと七人の戦士達は、王宮から離れた小高い丘の上で、この光景を一望していた。戦士達は二千万を越える相手と一戦交えようというのに、誰一人として脅えた様子を微塵も見せなかった。むしろ早く戦いたくて気持ちが昂っていた。
「そろそろ良かろう。では、お前達。存分に暴れて奴等を皆殺しにしてこい。行け!」
ジュオウの掛け声に従い、ボレィを除く六人の戦士達が正面から魔族達に突っ込んで行った。ボレィは他の戦士達に比べて戦闘力が低く、実戦向きではなかった。しかし、並みの魔族よりは強いため、魔族達がジュオウの居場所に気付いて襲撃してくる事に備え、ジュオウの警護を担当する事になっていた。
一方、ボレィを除く六人の戦士達の目的は、自らの手でルーエを仕留める事だった。そのため、カイブ・ジフーミ・ヒサッツ・ヘシン・サキョーは、目の前に立つ魔族達を次々と倒し、一直線にルーエの居る王宮を目指した。
他方、テキームは実体が無いので、魔族達の体を擦り抜けて先に進み、王宮に一番乗りで潜入した。王宮内にはルーエに仕える兵士達の中でも、特に強い者達が至る所に配置されていたが、テキームは彼等の体も擦り抜け、ルーエの居る部屋まで着いた。部屋の中にはルーエの他に、二十人程度の護衛兵が居たが、テキームの超能力で護衛兵は全員動きを封じられた。
「もう来たか!だが、この命、むざむざ奪われはせん!」
ルーエは勇猛果敢にテキームに飛び掛かったが、ルーエの攻撃は全て空を切った。
「な、何だ、こいつは!?こいつの体は一体どうなってるんだ?」
驚愕するルーエに対し、テキームはテレパシーでルーエの心の中に話し掛けてきた。
『フッフッフッ・・・。俺の体に驚いてるようだな。俺には実体が無い。そのため如何なる者も俺に触れる事は出来ない。しかし、こんな体でも、俺は攻撃する事が出来る。このようにな』
テキームは必殺技である邪気玉を作り、それをルーエに向けて放ったが、ルーエは危なげなく邪気玉を回避した。回避された邪気玉は部屋の壁に当たって大爆発を起こし、王宮の一部を吹き飛ばした。
「ち、小さい玉のくせに、何て凄い破壊力だ。まともに喰らっていたら、只では済まなかった・・・」
テキームは再び邪気玉を作り、それをルーエに向けて放った。ルーエは今度も避けたが、避けられた邪気玉はルーエの後方に居た護衛兵に激突して大爆発し、護衛兵は全滅した。
「俺が避ければ、他の者が死ぬ。くっ。最早どうする事も出来ない」
進退窮まったルーエは、邪気玉から逃げるのを止め、身を固めて少しでも長く邪気玉から耐える事にした。テキームは容赦なく邪気玉を投げつけてきた。幾ら防御に専念しても、並々ならぬ攻撃力を持つ邪気玉に長い時間耐えられるはずもなく、ルーエは大ダメージを受けて倒れた。テキームは瀕死の重傷を負ったルーエに、止めの邪気玉を放った。こうしてルーエは、無残にも邪気玉によって骨も残さず消し飛んだ。
『ルーエを倒した。この事をジュオウ様にお伝えせねば』
ルーエを自らの手で葬って上機嫌のテキームは、来た道を引き返してジュオウの元に向かった。
ルーエの死を知った一部の兵士達は戦意を喪失したが、その他大勢の、まだルーエの死を知らない兵士達は、ルーエの死後も必死に戦っていた。しかし、ジュオウの戦士達との力の差は歴然だった。
カイブは自らの髪の毛を引きちぎって白龍に変化させ、白龍達が口から炎を吐いて兵士達を焼き払い、ジフーミは攻撃重視の防御無視で兵士達を撲殺し、ヒサッツは様々な技を駆使して兵士達を仕留め、へシンは己の両腕を鎌に変化させて兵士達を首を切り落としていた。
サキョーは得意の魔法を使って兵士達を倒していた。そんなサキョーを背後から狙う者が居た。ルーエの弟のリマである。リマはフードを被り、敵からも味方からも自分の正体に気付かれないようにしていた。そして、リマはサキョーに背後から飛び掛かった。しかし、何者かが近づいてくる気配を察知したサキョーは裏拳を出し、リマは裏拳を顔面に喰らって一撃で倒された。サキョーの攻撃が浅く入ったので、リマは死なずに済んだが、そのまま気を失ってしまった。
その頃、テキームからの報告を受けたジュオウは、小躍りして喜んでいた。
「ルーエが死んだか・・・。ようやく僕の出番が巡ってきたようだね」
ジュオウの隣にいたボレィは、両手を突き出して念じ始めた。するとボレィの前方に煙が発生し、その煙が晴れると、そこには死んだはずのルーエが立っていた。ルーエはボレィのゴースト戦士として現世に召喚されたのである。
「さあ、行けルーエよ。お前を慕う魔族達を殺して来い」
ルーエはボレィの命令に従い、自らの兵を虐殺し始めた。この時点ではルーエが死んだ事を知っている者は少数のため、何も知らない大勢の兵士達は、ルーエが乱心したと思い、完全に混乱してしまった。テキームも戦いに加わり、戦いは完全にジュオウ側が優勢となり、魔族達は先を争って逃げ出した。しかし、ジュオウの戦士達は逃げる魔族達を見逃さず、先回りして、もしくは後方から攻撃し、魔族達の死体の山を築いていった。
戦いは始まってから、およそ一時間で片が付いた。ルーエに味方した魔族達の大半は死んだが、数が多過ぎて、逃げ延びた者も決して少なくなかった。しかし、ジュオウは一人も自分の戦士を失わなかった大勝利に、満面の笑みを浮かべていた。ジュオウは戦いが終わり、自分の元に集まってきた戦士達に労いの言葉を掛けた。
「皆の者。よく頑張ってくれた。予想通りといえば予想通りだが、この上ない完璧な勝利に大変満足している」
ジュオウの台詞を聞き、ヘシンが笑い出した。
「ジュオウ様。この戦い、確かに俺達の勝ちですが、完璧な勝利ではありません。ヒサッツの体を見て下さい。他の者は全くの無傷だってのに、ヒサッツだけは怪我をしています」
一同がヒサッツを見ると、ヒサッツの体は所々に擦り傷程度ではあるが、確かに怪我をしていた。
「折角の勝利に泥を塗りやがって。多くの技を持っているといっても、肝心の戦闘力が低ければ意味が無い。何故ジュオウ様は、こんな未熟者を造ったのか、さっぱり分からねえ」
「ヘシン・・・。言わせておけば・・・。」
「やるか?面白い。敵が居なくなって退屈していたんだ。お前なんぞ一分で片付けてやる」
ヘシンとヒサッツは激しく睨み合い、一触即発の状態になったが、ジュオウが一喝した。
「二人とも止めんか!わしは今日の勝利に充分満足しておる。勝利の余韻に水を差すな」
ジュオウに叱責され、双方とも矛を収めた。しかし、場の空気が険悪のままだったので、サキョーが一計を思いついた。
「ジュオウ様。景気付けに、ある物を献上します」
サキョーは上空高く飛び上がると、両腕を高く掲げた。するとサキョーの頭上に炎の玉が出現し、それが急速に大きくなっていった。そして、その炎の玉が太陽となった後、サキョーは地上に居るジュオウの元に舞い戻った。
「ジュオウ様は革命を起こし、魔界の新しい導き手となりました。正に太陽のような存在です。これからは太陽のように我々を導いて下さい」
サキョーの計らいにジュオウは大喜びし、他の戦士達はサキョーの凄さに圧倒された。その後、ボレィを除く六人の戦士達は残党狩りで逃げた魔族達を殺し続けたが、リマは彼等の追っ手から逃れ、復讐を誓って神魔界へと旅立った。
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