魔王ルーエを抹殺した後、ジュオウは魔界の長老達へ会いに行き、自分を次期魔王として認めるよう強要した。しかし、長老達は断固として拒否した。正式な手順を踏まず、前魔王を卑劣な手段で殺した事も、長老達が認めなかった理由の一つだが、何よりナツメグ人であるジュオウが魔王になる事が、そもそも許されざる行為だった。魔界の良心とも言われるナツメグ人達は、代々長老役を務める代わりに、魔王となる権利を放棄したからである。
しかし、野心の強いジュオウが、そう簡単に引き下がるはずがなかった。魔王となれば、魔界に住む全ての魔族達に命令を下す事が出来、魔族達は魔王の命令を拒む事を基本的には許されない。魔界はおろか、宇宙を含めた全世界の支配を企むジュオウにとって、大勢の魔族達を統率出来る魔王の座は、必要不可欠だった。
魔王となる夢を捨てきれないジュオウは、自分に従う七人の戦士達を使って、何度も長老達を脅した。しかし、長老達はジュオウ達の脅しに屈服しなかった。業を煮やしたジュオウは、勝手に魔王を名乗り、魔界の各地に戦士達を派遣して、ジュオウに臣従を誓うよう圧迫した。戦士達の力を恐れた一部の魔族達は応じたが、その他大勢の魔族達はジュオウを嫌って服従を断り、殺されたり逃亡したりした。
こうしてジュオウは正式な魔王にこそなれなかったが、少しずつ味方の数を増やしていった。しかし、それ以上に敵の数を増やした。ジュオウの横暴に激怒した魔族達は、戦士達がジュオウの傍らに居ない時を見計らい、ジュオウに襲い掛かった。ところが、その度にジュオウの危機を察知した戦士達が、即座にジュオウの元に駆け付けてジュオウを守ったので、魔族達の襲撃は全て水泡に帰した。ジュオウの暗殺に失敗した魔族達は、その場で戦士達に殺された。
ジュオウを守るため、サキョーは魔法で堅牢な城を造った。ジュオウは城に移り住み、問題は解決したかに見えた。しかし、魔族達は城の中に忍び込んでまでジュオウの命を狙ってきた。そこで戦士達は、一人ずつ交代でジュオウに付き添い、彼を護衛する事にした。常に戦士の一人がジュオウの側に控え、護衛役を担っていない非番の戦士達も城の中に居るので、誰もジュオウに手出し出来なくなった。いつしかジュオウを守る七人の戦士達は、ジュオウ親衛隊と呼ばれるようになった。
ところが、ここで別の問題が発生した。親衛隊同士の仲が日増しに悪くなり、度々衝突するようになった。その発端は、カイブとジフーミの喧嘩だった。戦争の時、どちらがより多くの魔族達を殺したかで議論し、折り合いがつかずに互いに罵り合い、遂には殴り合いにまで発展した。この時は、他の親衛隊が両者の間に割って入って喧嘩は食い止められたが、この頃から親衛隊同士が不仲になった。特にカイブとジフーミは、目が合えば殴り合うほど仲が険悪となった。
親衛隊同士の反目は、ジュオウにとって頭痛の種だった。ジュオウは何とか彼等の仲を取り持とうとしたが、上手くいかなかった。思い悩んだジュオウは、最も信頼するサキョーに相談した。
「サキョーよ。近頃、お前達の不和は目に余る。何とかならないか?」
「不和の原因は、非番の時も城の中に閉じこもっているから、ストレスが溜まっているのでしょう。非番の時は外に出れば、開放的になって気持ちに余裕が出来、喧嘩する事もないでしょう」
城内での親衛隊は、ジュオウの警護の他に仕事は無く、息抜きのための娯楽施設も無い。ずっと城の中に閉じこもっていれば、誰だってストレスが溜まる。サキョーの言は、的を得ているとジュオウは思った。
「・・・なるほどな。ところで、もし外出の許可を出せば、お前は何をするつもりだ?」
「魔界中に太陽を造ろうと思っています。そうすれば、魔界はジュオウ様が治めるに相応しい、素晴らしい世界になるでしょう」
ジュオウはサキョーの提案を聞き入れ、互いに干渉しない事を条件に、非番の親衛隊が自由に外出する事を許可した。カイブ・テキーム・ボレィ・ヘシンは、非番の時は外で好き勝手に行動していた。
一方、ヒサッツが非番の時は、ジフーミを伴って修行していた。何故ヒサッツが特訓の相手にジフーミを選んだのかというと、他の者には修行の相手を断られたからである。ジフーミも最初は面倒臭がって断ったが、ヒサッツが代わりに世の中の様々な知識を教えてやるというので、渋々ながらも引き受けた。ヒサッツは城の中に閉じこもっている間、ジュオウが所持していた多くの書物を読んでいたので博識だった。そんな物知りなヒサッツが、ジフーミは羨ましかった。
他方、サキョーは太陽を造るという名目で各地を飛び回り、そこでジュオウの呪いを解く方法を調べていた。サキョーは弱いくせに尊大なジュオウを嫌い、亡き者にしたいとさえ思っていた。しかし、ジュオウが死ねば、呪いにより自分自身も死ぬので、これまでジュオウに手が出せなかった。そのため、呪いを解く方法を調べたかったが、勝手に外出すれば、ジュオウに怪しまれる恐れがあった。そこで親衛隊同士の不和を利用して、外出許可が得られるようジュオウに進言した。
サキョーは魔界の各地で呪術等が記された古文書を集めては、それを読み耽った。そして、どんな願いでも叶えられるドラゴンボールの事が記述された古文書を発見した。サキョーは狂喜し、ジュオウには内緒でドラゴンボールを集めようとした。しかし、ボールが何処にあるか皆目見当がつかなかった。魔界は魔法が主流のため、サキョーを含めて魔界に住む者は科学の知識に疎かった。そのため、レーダーを作るという発想がサキョーには無かった。
それ以降、何の進展もないまま、サキョーがジュオウの警護役をする番になった。サキョーがジュオウの前に現れると、ジュオウの手には、中に三つの赤い星が入った黒い球があった。古文書に書いてあったドラゴンボールであり、サキョーはボールを見て驚愕したが、決して面に出さず、何食わぬ顔でジュオウに質問した。
「ジュオウ様。その球は一体どうしたのですか?」
「これか?先日、外出した際、偶然見つけた。非常に珍しい球なので、持ち帰った。重いのが難点だがな」
ジュオウが偶然とはいえドラゴンボールを一個持っているため、サキョーがボールを全部集めるためには、ジュオウからボールを奪わねばならなくなった。ジュオウに隠れてボールを集めようと計画していたサキョーの目論見は、もろくも崩れた。しかし、サキョーは発想の転換をした。ジュオウに隠れて全てのボールを集める事が出来なくなったなら、いっその事、ジュオウにボール集めをさせる事にした。
それから時が経ち、再びジュオウを護衛する番になったサキョーは、苦労して探し出した風を装って、ジュオウにドラゴンボールの事が書かれた古文書を見せた。ジュオウは古文書を読み、そこに書かれてあった内容に、年甲斐もなく狂喜乱舞した。
「こ、この球に、そんな秘密が隠されていたとは!どんな願いでも叶うならば、わしを正式な魔王にする事だって出来るはずだ!でかしたぞ!サキョー」
「ジュオウ様。この球は七個全部集めないと効力を発揮しませんが、残る六個が何処にあるか分かっておりません。この古文書にも、そこまでは記されていません」
「むう。何処にあるか分からんのでは、探しようがない。さて、どうしたものか・・・」
ジュオウは少し考えた後、ある事を閃いた。
「そうだ!向こうの世界に行けば、何か分かるのではないか?あの世界は魔界より遥かに広いし、人も多い。ドラゴンボールの探し方を知っている者が居るかもしれない」
「それは良い案ですね。私が非番の時に向こうの世界に行き、探ってみましょう」
「いや。向こうの世界に行けば、しばらく帰ってこれないだろう。お前が魔界に居ないと、いざという時、馳せ参じる事が出来ない。向こうの世界へは、別の者に行かせよう」
ジュオウは最も強く、最も頼りにしているサキョーが遠出するのを良しとしなかった。そのためジュオウは、サキョーを除く六人を頭の中で比較し、誰が適任者かを考えた。
「ヒサッツじゃ。奴は非番の時は鍛錬に励み、今やジフーミやヘシンとも肩を並べるほど強くなった。それに頭も良いし、冷静沈着だ。ヒサッツに行かせよう」
「向こうの世界は、我等にとって未知の世界。いかなる困難が待ち構えているか分かりません。ヒサッツ一人では危険でしょう。もう一人、別の者を行かせる事を勧めます」
「最もヒサッツと協力出来そうなのは・・・ジフーミか。少々不安だが、止むを得まい」
ジュオウは、ジフーミの事を信頼していなかった。親衛隊の中では、カイブと一・二位を争うほど頭が悪く、しかも面倒な事は嫌いな怠け者だからである。しかし、他にヒサッツと協力出来そうな者が居ないので、ジフーミも向こうの世界へ行かせる事にした。そして、ジュオウはヒサッツとジフーミを呼び出し、ドラゴンボールの事を二人に説明した。
「ドラゴンボールについての説明は、ここまでじゃ。お前達二人は、これから向こうの世界に行き、もし向こうの世界にドラゴンボールがあれば、それを持ち帰って来い。例え無くても、探し方が分かれば、それで良しとする」
「かしこまりました。直ちに行って参ります」
「向こうの世界に行くなんて、面倒臭いすよー。ヒサッツ一人で行けば良いじゃないですか」
ジュオウは無言でジフーミを睨み付けた。その鋭い眼光に、ジフーミは観念した。
「へいへい。分かりましたよ。行けば良いんでしょ。行けば」
「無駄口叩いてないで、さっさと行け!」
こうしてヒサッツとジフーミは、向こうの世界へと旅立った。ところが、彼等がジュオウ達の運命を大きく変える、とんでもない戦士達を引き寄せる事になるとは、この時点では誰も気付いていなかった。
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