其の十三 謎の戦士ジフーミ

対戦相手のべジータに情けを掛けられ、殺されずに済んだアストレーは、兄のシーガに支えられてレードの前に跪いた。

「も、申し訳ありません。ま、負けてしまいまして・・・」

アストレーは恐怖で震えていた。声もそのせいで上擦っていた。シーガ、ライタ、アストレーの三人から構成されるセモークの三兄弟の位置付けは、フリーザ軍で言えばギニュー特選隊、もしくはザーボンやドドリアに当たる。言うなれば、軍の重鎮である。その重鎮が無様に負ける事は、全軍の士気にも大きく関わるので、責任を取って処刑されても仕方なかった。しかし、この時のレードの対応は、意外なものであった。

「何を言っているのですか。あなたがべジータに勝てないのは、戦う前から分かっていましたよ。さあ、疲れたでしょう。メディカルマシーンで傷を治してきなさい」
「あ、ありがとうございます」

アストレーは死を覚悟していただけに、レードの寛大な態度に感激し、礼を述べてからシーガと共に治療室へ向かった。

「レード様、私からも礼を申し上げます。レード様の寛容さに、私は感動しました」

レードの脇に控えていたライタも、礼を述べた。しかし、レードは決して優しい男ではなかった。

「ふっふっふ。アストレーとべジータの実力差は、余りにも開き過ぎていましたから、許してあげただけですよ。あなたと孫悟飯、シーガとピッコロの最大戦闘力は、私が見た所、ほとんど差がありません。なので、当然あなた方二人には、勝って頂かねば困りますよ」

レードの言は、アストレーはベジータに遠く及ばないからこそ負けても許すが、対戦相手と実力が拮抗しているシーガとライタが無様に負ければ、命は無いという事を物語っていた。やはりレードは、そんなに甘くないとライタは思った。

「そんな事より、次の試合をご覧なさい。面白いものが観られますよ」

ライタがモニターに目を向けると、ちょうど試合のためにトランクスと、その対戦相手であるジフーミが、闘技場に登場した所だった。しかし、トランクスはこの時、自分の試合よりも、父の事で頭が一杯だった。

「父さん、一体どうしたんだろう?」

試合を終え、控え室に戻ってきたべジータは、終始無言であった。試合に勝ったというのに、厳しい表情のべジータは、まるで負けたかの様な雰囲気だった。実はべジータは、アストレーとの会話の内容を、仲間達に伝えるべきかどうか悩んでいた。

控室のモニターには、衛星カメラから転送された映像が映し出される。その衛星カメラは、宇宙から撮影しているため、流石に音声までは収録されない。つまり、ベジータとアストレーとの会話を、悟空達は聞いていなかった。

レードは変身前の対象者を見て、変身後の最大戦闘力を見抜けるという。にわかには信じられない話だが、この話を悟空達に教えると、少なからず動揺されるだろう。真偽の程が定かでないのに、余計な事を言って皆を不安にさせるより、このまま黙っている方が得策と考えたベジータは、結局、何も話さなかった。しかし、悟空達には、べジータの只ならぬ態度に、別の意味で不安にさせた事を、当の本人は気付いていなかった。

「いかんいかん。目の前の試合に集中しないと」

トランクスは気持ちを切り替え、目の前のジフーミを見据えた。ジフーミは本選出場選手の中では最も巨漢で、トランクスと並んで立つと、見ている人には、まるで大人と子供が並んでいると見間違える程であった。

このジフーミは、何がおかしいのか知らないが、常時にやけていた。トランクスは一目見た瞬間から気に入らなかった。しかし、幾ら嫌いな相手とはいえ、殺すわけにはいかない。試合が始まったら速攻でジフーミを気絶させ、すぐに終わらせようとトランクスは画策した。

試合開始のアナウンスが流れると、トランクスは身構えたが、ジフーミは腕を下にたらしたまま、相変わらず笑っていた。トランクスは構わず飛び掛かり、ジフーミの左頬への右ストレートをきっかけに、次々と攻撃を繰り出した。最後は顎への飛び膝蹴りで、ジフーミをダウンさせた。

「ふう。呆気なかったな」

トランクスは軽い吐息を漏らし、これで試合が終わったと思った。しかし、ジフーミはすぐに立ち上がり、相変わらず笑っていた。トランクスの攻撃は、ジフーミには効いていなかった。

「あの予選を勝ち抜いてきただけあって、少しは出来るようだな」

トランクスに焦りはなかった。相手を殺さないよう手加減して攻撃していたので、まだ余裕があった。

「じゃあ、次はもう少し強く攻撃してやる。頼むから死なないでくれよ」

トランクスは再度身構えた。しかし、ジフーミが大声で笑い出した。

「無駄だ。どんな攻撃をしようと、俺には通用しない。相手が悪かったな」
「何だと?俺に勝ち目がないとでも言うつもりか?」
「当たり前だ。お前の様な雑魚に、俺が負けるか。さっさと本気になれ。お前の攻撃は、ぬる過ぎて眠くなる」

ジフーミは、いきなり口を開いたかと思えば、トランクスを雑魚呼ばわりして馬鹿にしてきた。トランクスは苛立った。

相手の言われるがまま本気になるのは癪に障るが、このジフーミという相手は只者ではないらしい。少々の攻撃では倒せないとトランクスは判断し、超サイヤ人2に変身した。

「もし殺してしまっても、俺を恨むなよ」

トランクスは再び攻撃を仕掛けた。対するジフーミは、その攻撃を避けようともしなかった。トランクスの攻撃は全て当たったが、どんなに攻撃されても、ジフーミは笑みを絶やさなかった。

「ば、馬鹿な!?」

トランクスの顔色が変わった。今度は超サイヤ人2で思いっきり攻撃したのに、ジフーミに通用しない事に、驚きを隠せなかった。

「これで分かっただろ?お前の攻撃は俺に通用しないと。それよりも、お前に質問がある」
「質問だと?何だ、何を聞きたいんだ?」

トランクスは変身を解き、一呼吸を置いて相手の出方をうかがう事にした。

「お前は、ドラゴンボールというのを聞いた事があるか?」
「な、何、ドラゴンボールだと!?何故お前がそれを・・・」

突然ドラゴンボールの事を尋ねられ、つい戸惑ってしまったトランクス。一方のジフーミは、トランクスの反応に満面の笑みを浮かべた。

「お前、知っているな、ドラゴンボールを。では、集めた事があるか?」

ジフーミが何故ドラゴンボールに興味を抱いているのかを、この時のトランクスに分かるはずがなかった。しかし、このジフーミに正直にドラゴンボールの事を話すのは、大変危険だとトランクスは直感した。

「集めた事はある。しかし、そのドラゴンボールは、もうこの世に存在しない。残念だったな」

トランクスは嘘をついていなかった。彼が以前、悟空やパンと共に集めたドラゴンボールは、悟空達の手によって破壊され、もはや存在しない。地球やナメック星のドラゴンボールは、言わなければ済む話である。しかし、ジフーミは落胆するどころか、更に予想外の質問をトランクスに投げかけた。

「そうか、この世界のドラゴンボールはもう存在しないのか。それを手に入れられれば、手っ取り早く用が済んで良かったんだが、まあいい。なら、教えてもらおうか。お前は以前、ドラゴンボールをどうやって集めた?」

ドラゴンボールその物よりも、その集め方に興味を示したジフーミ。しかし、その質問にトランクスが答えられるはずがなかった。ドラゴンレーダーの事を話せば、それを発明した母に害が及ぶかもしれない。トランクスは質問に答えず、再び超サイヤ人2に変身した。

「答える気はないか。じゃあ、力ずくで聞き出すとするか」

ジフーミは、この試合で初めて構えた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました