試合開始以降、攻撃も回避もしなかったジフーミが、ようやく動き始めた。まずは頭から突っ込み、トランクスの額と激突した。正面からの頭突きを、まともに喰らってしまったトランクスだが、決して油断していた訳ではなかった。巨躯な図体の割には、ジフーミのスピードが余りにも速過ぎたので、トランクスは回避も防御も出来なかった。
次にジフーミは、トランクスが痛みの余りに額を押さえ、うずくまっている所を、右足で上空に蹴り上げた。更にジフーミは、トランクスよりも高く飛び、両手を握り締めてトランクスを殴った。殴られたトランクスは、受身すら取れずに床に叩きつけられた。一連の攻撃で大ダメージを負ってしまったトランクスだが、闘志は一切衰えていなかった。トランクスは立ち上がり、ジフーミを睨み付けた。
「くっ、超サイヤ人2では歯が立たない。ならば、これでどうだ!」
トランクスは気を高め、超サイヤ人3へと変身した。トランクスもまた、厳しい修行の末に、超サイヤ人3に変身出来るようになっていた。エネルギーの消耗が激しい超サイヤ人3で勝利するためには、短期決戦しかない。変身を完了したトランクスは、すぐに勝負を決すべく、地上に降りたばかりのジフーミ目掛けて突進した。ジフーミは迎え撃ち、両者の間で激しい攻防戦が繰り広げられた。
トランクスによる攻撃の一つ一つは、確実に人体の急所を捉えていた。それなのに、ジフーミはダメージを全く受けなかった。逆に、ジフーミからの攻撃が当たる度に、トランクスの体にダメージが蓄積され、トランクスは段々と追い詰められていった。トランクスは最後の望みを掛け、気を最大限に高めてエネルギー波を放ち、ジフーミにそれが直撃した。しかし、それでもジフーミにダメージは無かった。
控え室では、ブルマとブラは、もはや見るに耐えず、顔を両手で覆っていた。悟天は試合の途中で起き、初めの内は親友に声援を送っていたが、トランクスが苦境に立たされると、黙り込んでしまった。そして、べジータは拳を握り締め、憤怒の表情を浮かべていたが、それでもモニターから目をそらさず、じっと画面を注視していた。
エネルギーが尽きたトランクスは、変身が解け、仰向けに倒れてしまった。そのままの状態なら、トランクスの戦闘不能と判定され、ジフーミの勝利が宣告されて試合が終わるはずだった。しかし、ここからがトランクスにとって本当の地獄だった。ジフーミは、倒れているトランクスの腹に馬乗りになり、トランクスの首を握り締めた。
「さあ、ドラゴンボールの集め方を言え。それとも、このまま死にたいか?」
ジフーミはトランクスの首を握り締める力を、徐々に強くしていった。しかし、トランクスは苦しみながらも、答えようとは決してしなかった。
「しつこい野郎め!これでもか!」
ジフーミはトランクスの首を握り締めていた手を解き、今度は両拳でトランクスの顔を殴り始めた。トランクスにはもはや、ガードする力も残っておらず、ひたすら耐える他なかった。観客席からは悲鳴が聞こえたが、ジフーミは意に介さず、笑いながら殴り続けた。
「あの野郎!許さん!」
べジータの堪忍袋の緒が切れた。ベジータは控え室から飛び出し、闘技場に向かった。そして、闘技場に姿を見せると、大声で叫んだ。
「いつまで耐え続けるつもりだ!?さっさと降参しろ!」
べジータの声にジフーミが手を止め、声がした方向を振り向いた隙に、トランクスは床を数回叩いた。ようやくジフーミの勝利がアナウンスで流れ、この惨い試合が終わった。試合が終わるや否や、べジータはジフーミを蹴飛ばしてトランクスからどかし、トランクスを抱き上げた。べジータに救出されたトランクスは、全身、特に顔に大怪我を負っていた。そして、ベジータの顔を見て安堵したトランクスは、気を失った。
「何だ、お前は?何故、俺の邪魔をする?」
蹴飛ばされたジフーミは起き上がり、べジータを睨み付けた。その顔に、もはや笑みはなかった。ジフーミは蹴飛ばされた事よりも、ドラゴンボールの集め方を聞くのを邪魔された事に腹を立てていた。対するべジータも、負けずに睨み返していた。
「貴様が今まで散々痛めつけた男の父親だ。よくも、ここまで酷くやってくれたな」
怒りの度合いで言えば、べジータのは、ジフーミのを遥かに凌駕していた。大事な我が子が、目の前で暴行を受けたからである。べジータは、すぐにでもジフーミと一戦交えたかった。しかし、感情の赴くままに行動すれば、自分が武道会を失格になるかもしれないからこそ、ベジータは我慢した。
「覚悟しておけ!次の試合、貴様は半殺しでは済まさんぞ」
「ふん。そういえば、お前とは次に戦う予定だったな。良いだろう。息子から聞けなかった事を、父親のお前から、試合の時に聞き出すとするか」
ジフーミはべジータの脇を通り、自分の控え室へ引き上げていった。すれ違う際、お互い睨みつけながら。
「大丈夫か?トランクス」
ジフーミが去った後、べジータは先程までとは打って変わった穏やかな表情で、トランクスに声を掛けた。トランクスは目を覚まし、か細い声で喋った。
「と、父さん。お、俺・・・」
「無事なら良い。何も喋るな」
この三年間、トランクスは厳しい修行をしてきた。それなのに、試合では全く良い所が無く敗れてしまった。そのトランクスの悔しさを、父親のべジータは痛感していた。
仲間達が待つ控え室に戻ったべジータは、すぐにトランクスに仙豆を食べさせた。トランクスの外傷は癒えたが、内面に受けた傷は治らなかった。
一方、ジフーミが自分の控え室の中に入ると、そこには気難しい顔でジフーミを見つめている人物がいた。その人物は、全身が銀色で、細身の長身、細く鋭い目をした戦士だった。その戦士とは、ジフーミと同じく武道会に出場しているヒサッツであった。
「試合中は随分楽しそうに話してたな。何か情報でも得たのか?」
「ああ、喜べ。ドラゴンボールの事を知ってる奴に会えたぞ。この武道会には宇宙中から大勢の人間が集まるから、ドラゴンボールを知っている人間も来る、というお前の考えは正しかった。やはり、この世界にもドラゴンボールがあったぞ」
得意気に話すジフーミ。しかし、ヒサッツは表情を変えず、更に話を続けた。
「『あった』という事は、今はもう無いのか?」
「どうも、そのようだ。でも、あのトランクスとかいう奴、以前にドラゴンボールを集めた事があるらしい。その集め方を聞き出そうとしたんだが、途中で邪魔が入り、結局聞けなかった」
「聞けなかっただと!?不手際だな」
ジフーミに詰め寄るヒサッツ。一方のジフーミは、面倒臭そうにヒサッツから目を背けた。
「肝心の目的を忘れるな!邪魔が入ったからといって、大人しく引き下がるとは、何たる体たらくだ!恥を知れ!」
「次の試合で集め方を聞くから、それで良いだろ!一々うるせえ野郎だな!」
二人は激しく睨み合い、控え室内の空気は険悪になった。これ以上、ジフーミと口論しても、埒が明かないと思ったヒサッツは、部屋から出て自分の控え室に引き上げた。
勝利の余韻も、ヒサッツとの口論で、すっかり冷めてしまったジフーミ。気晴らしにモニターに目を向けると、悟飯とライタが闘技場に現れた所だった。
もし負ければ命は無い。ライタは決死の覚悟で試合に臨んでいた。その只ならぬ雰囲気は、悟飯ばかりでなく、試合を観戦してる人達全員が感じられた。
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