其の十五 好敵手

試合開始のアナウンスが流れると、悟飯とライタは同時に飛び掛かり、初っ端から激しい攻防戦を繰り広げた。ライタの気迫に触発され、また久しぶりの試合という事もあり、悟飯も気合を入れて戦っていた。お互い手加減抜きの真剣勝負で、観ている者達を大いに沸かせた。

しかし、悟飯は試合中に奇妙な印象を覚えた。このライタとは初めて戦うはずなのに、何故か過去に一度、この人物と戦った事があると感じたのである。以前に何処かで遭遇して拳を交えたのか、あるいは、似ている別の人物だったのかを思い出そうとし、つい気が緩んだ隙に、ライタの右拳を左頬に喰らってしまった。

ライタは好機とばかりに、更に攻撃を畳み掛けようとした。しかし、態勢を立て直した悟飯から、お返しとばかりに右のアッパーを腹部に喰らった。攻撃を受けたライタは、少し悟飯から離れ、一息入れた。

「やるな。さすが孫悟空の息子だ」
「お前もな。レードの部下が、ここまで強いとは思わなかった」

悟飯はライタを、魔人ブウ以上の実力の持ち主と評価した。魔人ブウ戦の後、悟飯は勉学に没頭し、ほとんど修行をしなかった。悟天の様に遊び呆けている訳ではないので、悟空は修行をしない事に苦言を呈さなかった。その結果、悟飯は子供の頃からの夢だった学者になれたが、その代わり、老界王神から授けられた力を失っていた。

その後、悟飯は学者を辞めて修行を再開した時、まずは力を取り戻す事から始めた。十数年も修行を怠ったせいで、それは決して生半可ではなかった。しかし、生来、頑張り屋の悟飯は、寝る間を惜しんで修行し、わずか一年足らずで全盛期の力を取り戻した。その後も悟飯は修行を続け、惑星レードに出発する前の地球では、べジータ以外は誰も敵わない位まで強くなっていた。

そんな悟飯と互角に戦えるライタは、間違いなく魔人ブウ以上であると言えた。悟飯は知るはずもないが、レードが造らせた宇宙で最新鋭のトレーニングマシーンを使い、ライタは熱心に修行していた。実はこの二人、似た者同士だった。

「そろそろ再開しようか?」
「ああ」

小休憩の後、両者は再び激突した。戦いを通じ、何時しか二人の間には、友情のようなものが芽生えていた。出来ればずっと、このまま戦っていたいと悟飯は思ったが、ライタの思いは違った。負ければ死が待っているので、是が非でも勝たなければならないとライタは一層強く思った。

このまま肉弾戦を続ければ、双方共倒れになると考えたライタは、悟飯と距離を置き、彼に右手を翳した。そして、その右手から、ライタは気功弾を放った。ただの気功弾ではない。気功弾の周囲を炎が包んだ、気炎弾という技であった。

悟飯が気炎弾をかわすと、次にライタは、複数の気炎弾を放った。炎を纏った攻撃だけに、当たればダメージと火傷の二重の被害を被る。悟飯は気炎弾に触れるのを避けるために打ち返せず、ひたすら避け続けた。

右手だけでは足りないと判断したライタは、左手からも気炎弾を放った。打ち寄せる気炎弾の数が倍になったので、悟飯は更にスピードを上げ、気炎弾をかわし続けた。しかし、遂に右足の脛に気炎弾が当たってしまった。

悟飯がバランスを崩すと、ライタは息を大きく吸い込み、口から炎の玉を吐き出した。炎の玉は悟飯の腹部に炸裂し、悟飯は後方に吹き飛ばされてしまった。悟飯は何とか立ち上がったものの、服が破れて腹があらわになり、その腹は火傷を負っていた。

一気に勝負を決めようと、ライタは再び両手から夥しい数の気炎弾を放った。気炎弾の雨を避けるため、悟飯は上空に飛び上がった。ところが、ライタは上空の悟飯に向けて、更に無数の気炎弾を放った。空中の悟飯は回避出来ず、顔だけは当たらないように防御するのが精一杯だった。

床に降りた悟飯だが、体の複数の箇所に火傷を負っていた。対するライタは、気炎弾の撃ち過ぎで疲労困憊だったが、勝利を確信してか、笑顔になっていた。

「俺の勝ちのようだな、孫悟飯。さあ、死にたくなければ降参しろ」

もしレードが、今のライタの発言を聞いていれば、ライタは試合後に殺されるかもしれない。悟空の子供に降参を勧め、命を助けようとしたからである。しかし、当のライタは、自分の勝利を確信し、これで殺される心配はない、と安心し切っていた。

「どうした?まさかとは思うが、まだ戦うつもりか?」

ライタは、降参しようとしない悟飯に少し苛立ってきた。もう勝ち目がない事は、悟飯自身が一番良く分かっているはずだとライタは思い込んでいた。そんなライタに対し、悟飯は身構え、更に戦いを続ける姿勢を見せた。

「馬鹿な奴だ。自ら死を選ぶとはな。もはや俺に出来る事は、お前に誇り高い死を与えてやる事だけだ」

ライタもまた、止めを刺すつもりで身構えた。そして、不用意に攻撃を仕掛けてしまった。ライタの一撃をかわした悟飯は、顎への右アッパーを皮切りに、次々と攻撃を当てていった。

実は悟飯の体は、火傷をしているが、大ダメージを負ってはいなかった。そのため、火傷の痛みさえ我慢すれば、攻撃出来た。火傷のせいで、見た目以上にダメージを負っていると見えただけだった。それでも、ライタが気炎弾を放ち続けている間、悟飯が一切反撃しなかったのは、ライタのエネルギー切れを待っていたからであった。悟飯は経験則から、ライタが途中で疲れると予測していた。

それに引き換え、ライタはダメージが余り無かったが、気炎弾の撃ち過ぎで、エネルギーをかなり消耗していた。気炎弾を放出すると、炎の分だけ普通の気功弾よりも余分にエネルギーを消耗する。また、ほとんどの気炎弾は、悟飯に命中していなかった。下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、とばかりに無駄に気炎弾を撃ち続けた事が、ライタにとって災いした。勝負を焦り、己の技を過信し過ぎたライタの自滅であった。

悟飯は今が勝負の分かれ目と確信し、強気で攻撃を加えた。ライタが反撃出来ない様に、一撃一撃に渾身の力を込めて攻撃するよりも、とにかく速攻を心がけた。その結果、ライタは防御が出来ずに攻撃を喰らい続け、右の回し蹴りを決められると、遂に倒れた。

実力が互角でも、頭の中身と経験の差が勝負の明暗を分けた。試合中も冷静に戦局を分析していた悟飯に、ひたすら攻撃する事しか頭に無かったライタが、勝てるはずなかった。

ライタは口から血を吐いて倒れた。悟飯や観客は、これで試合が終わったと思った。悟飯は、ライタは死んでないが、もはや戦う力は残ってないので、後は試合終了のアナウンスを待てばいい、と判断してしまった。今度は悟飯が油断した。

悟飯の隙を突いて、ライタは突然起き上がり、悟飯に抱きついた。そして、ライタは気を限界以上に高め、自爆しようと試みた。このまま敗れれば、今は命が助かっても、後にレードに殺される。それならば、自爆して意地を通そうと考えたのである。

悟飯はライタを振り解こうとしたが、両腕を押さえられているせいで、それが叶わなかった。そして、ライタが正に自爆しようとした直前、悟飯は目の前のライタの頭に思いっきり頭突きした。これによってライタは気を失い、悟飯から放れ、床に倒れた。こうして、ライタの自爆は未然に防がれた。しばらくして、悟飯の勝利を告げるアナウンスが流れた。

「恐ろしい奴だった」

悟飯は勝利はしたものの、散々苦戦したあげく、危うく命を落としそうになったので、試合内容に到底満足しなかった。まだまだ修行が足りないと実感し、額をさすりながら思わず呟く悟飯であった。

悟飯の心情とは裏腹に、彼の戦い方は実に見事であった。その証拠に、控え室に戻った悟飯を、仲間達は熱烈な賞賛で迎え入れた。しかし、傷を癒すために仙豆を口に含んだ悟飯は、早くも次の試合に気持ちが向いていた。次の試合では、尊敬するピッコロと戦うのか、それとも、シーガとかいうライタの兄と戦うのか、今の悟飯の頭には、その事しか無かった。

この時、そのシーガは、レードから恐ろしい宣告を受けていた。もしシーガまで一回戦で姿を消したら、兄弟全員に責任を取ってもらうと言われた。この場合の責任を取るとは、当然死刑である。自分ばかりか、弟達の命まで懸かった事で、境地に立たされたシーガは、どんな手段を使ってでも勝つ覚悟で闘技場まで歩を進めた。

レードは、ライタが負けた事に大変立腹していた。もしシーガまで負けてしまえば、レードの怒りは如何程か。シーガは、恐怖と不安を胸に抱えつつ、闘技場に姿を現した。少し遅れて、ピッコロも登場した。両者は闘技場の中央で向き合い、試合開始のアナウンスを今か今かと待った。

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