其の十七 ウーブの弱点

レードに続き、ウーブも闘技場に登場した。そして、試合開始を告げるアナウンスが流れると、ウーブは気を高め、レードに果敢に攻めていった。レードも負けじと応戦し、序盤から激しい攻防戦が繰り広げられた。

双方とも手数は多いが、お互い一回も攻撃を受けなかった。しばらく戦闘を続けた後、ウーブがレードから離れ、一呼吸置いた。ここまで互いに一歩も譲らぬ展開で、素人目には、この両者が互角に見えたが、実情は大きく異なっていた。

ウーブは試合前の悟空の言いつけを守り、既に本気で戦っていた。しかし、一方のレードは、全力からは程遠いものだった。交戦中に薄ら笑いを浮かべる余裕ぶりで、その事がウーブの感情を逆なでしていた。

「おい、レード。悟空さんを含めた俺達全員を、10秒で倒せるなんて言っておきながら、実際は俺一人を相手に、既に3分は経っているぞ。その程度の実力で、よくも大ぼらを吹けたものだ」

ウーブは余裕の表情を浮かべたままのレードに、精一杯の嫌味を言ってみた。対するレードは高笑いし、表情を変えずに反論した。

「言ったはずですよ。『本気になれば』とね。私ともあろう者が、あなた如きを相手に本気になるわけがないでしょう」
「だったら、本気になる前に倒してやる」

ウーブは話し終えると間髪を入れず、お菓子光線を放った。お菓子にしてしまえば、幾ら実力が上でも、一溜りもないと考えたからである。しかし、レードは鼻で笑った後、お菓子光線を余裕で避けた。

「今の光線は、浴びた人間を何か別の物質に変化させるものですね。このレードアイの前には、その程度お見通しですよ」

レードは自らの目を指差し、自慢げに語った。

「なるほど。そのご自慢のレードアイとやらで、相手の真の戦闘力を一瞬で見抜くというのか?」

レードアイの件は、前の試合でアストレーがべジータに話した。べジータは控室に戻った後、それを仲間達に伝えるのを躊躇していたが、この試合が始まる前に話した。その際、「これは不確かな情報ではあるが」という言葉を付け足してはいるが。そして、ウーブは事の真偽を確かめるべく、本人に直接尋ねた。

「何故その事を・・・。そうか!セモークの三兄弟の誰かが話したのですね。あの兄弟ときたら、何の役にも立たない上に、余計な事まで話してしまうとは・・・。とことん使えない連中ですね」

レードは呆れ顔で、自分の部下を侮蔑した。それから再び笑みを浮かべ、話を続けた。

「レードアイは相手の最大戦闘力を見抜けます。変身前であろうとね。ただし、戦闘力だけではありませんよ。見抜けるのは、相手の全能力です。あなたの場合、戦闘力は今の私の形態の三分の一。スピードは今の私と互角。ここまでは良いでしょう。それに引き換え、防御力と体力は、かなり見劣りしますね。おそらくそれは、あなたが地球人だからでしょう」

レードの話を聞き終えたウーブは、それに反論する言葉が出なかった。戦闘力とスピードに関しては、既に拳を交えたので、今更そんな事を言われても、別段驚かなかった。しかし、まだ一度も攻撃を受けておらず、息も乱れていないのに、防御力と体力が劣っていると指摘された時、動揺を押さえられなかった。

事実、ウーブの防御力と体力は、戦闘力やスピードに比べて、かなり劣っていた。それは彼の生い立ちが原因であった。魔人ブウの生まれ変わりであるウーブは、前世の能力を受け継ぎ、子供の時点で並外れた戦闘力を持ち、将来は悟空を越える優秀な戦士になると誰もが思っていた。しかし、現実は甘く無かった。

もしウーブがサイヤ人の子として生まれていたら、今頃は悟空を越える戦士になっていたかもしれない。ところが、地球人として生まれたので、肉体の強靭さがサイヤ人に比べて劣っていた。もちろん一般の地球人に比べれば、ウーブの防御力や体力は格段に優れていた。しかし、サイヤ人に比べれば、ウーブの体は虚弱過ぎた。この三年間、合同で修行する時もあったが、未熟なパンを除けば、ウーブが大抵、真っ先に音を上げた。

悟空の指導のお陰で、スピードだけは超一流になっていたが、それに見合う防御力と体力の向上に関しては、悟空にも打つ手が無かった。悟空との修業の後や、この三年間、その弱点を克服するのに重点を置いた修行を続けたが、それでも弱点克服には至らなかった。そして、その弱点を一瞬で見抜いたレードに、ウーブは激しく動揺した。お菓子光線まで見抜かれたウーブに、もはや勝ち目は無かった。

「どうしました?もう終わりですか?もしそうなら、さっさと片付けさせて頂きますが、それで宜しいですか?」

弱気になっているウーブを見て、レードは既に勝利を確信していた。しかし、ウーブにも意地がある。このまま何も出来ずに終わるのは、彼のプライドが許さなかった。せめて一矢報いようと遮二無二飛び掛かったが、レードの両目から放たれた破壊光線が、彼の両太腿を貫いた。ウーブは倒れ、悶絶した。

「そんな我武者羅に攻撃しても、私を倒せるわけないでしょう。さて、そろそろ終わりにしましょう。あなたには大して恨みもないので、当初の予定では、一瞬で消すつもりでした。しかし、残念ながら今の私は気が立ってるので、惨たらしく殺しますよ」

レードは倒れているウーブに向けて両手を翳した。

「さあ、喰らいなさい。そして、死になさい。デスマジック」

レードの言が終わると同時に、ウーブは体の自由を奪われた。まず、ウーブは自身の意思とは無関係に立ち上がり、両拳が交互に自分の顔を殴り始めた。ウーブが自分自身への攻撃を止めようとしても、止められなかった。殴られ続け、ウーブの顔が腫れてきたところで、攻撃が止まった。

「次に生まれ変わる時は、もう少し強い種族だと良いですね。ですが、サイヤ人は無理ですよ。この武道会の終了後に、私が絶滅させますから。さあ、フィニッシュです」

レードは両方の手の平を、ゆっくりと上方に向けた。レードの手の動きに合わせ、ウーブの体も浮上した。床から十メートル位の高さで浮上が止まり、続いてウーブの体が膨らみ始めた。そして、ウーブの体が破裂する直前、瞬間移動で闘技場に現れた悟空が、レードを殴り飛ばした。

レードが殴られた事により、ウーブに掛けられた技が消え、ウーブは床へと落下した。しかし、ウーブが床に激突する前に、悟空がウーブを受け止めた。ウーブは膨らんだ体から、元の引き締まった体に戻っていたが、鼻や口から出血しており、意識はなく危険な状態であった。悟空はウーブを駆けつけてきた悟飯に託し、悟飯はウーブを抱えて控え室に引き返した。そして、闘技場には悟空とレードだけが残った。

「孫悟空!今は俺とウーブの試合中だ!何故、貴様がここにいるんだ!?」

立ち上がったレードは、試合を妨害された事に激怒していた。目は血走り、歯を食いしばり、言葉遣いも乱暴になっていた。

「オラはウーブの命を救っただけだ。あのまま黙って観ていたら、ウーブは間違いなく殺されていたからな。それより、これからどうする気だ。オラとウーブを失格にするのか?オラは別に構わねえぞ」

悟空も負けじとレードを睨んだ。正に一触即発の状況であったが、この場はレードが折れた。

「冗談ではない。貴様は俺の大事な引き立て役だ。失格はウーブ一人だけだ。この殴られた痛み、決して忘れんぞ」

もしここで悟空と戦えば、おそらく彼の仲間達が救援に駆けつけ、乱闘騒ぎへと発展しただろう。そうなると、これから先の武道会の進行も危ぶまれた。主催者であるレードが、自らの手で武道会を潰すわけにはいかなかった。ここは怒りをこらえ、自分の部屋へと引き返していった。それを見て、悟空も自分の控え室へと戻っていった。

控室に戻り、仙豆を食したウーブは、たちまち全快した。そして、悟空の姿を確認するや否や、助けてもらった礼を述べた。内心は傷ついていたが、悟空の身を挺した救助が、ウーブには何より嬉しかった。

一方のレードは、憮然とした表情で部屋に戻り、脇目も振らず、モニターの画面に注視した。腹の虫が治まらないレードだが、次に自分が戦う相手、すなわち次の試合の勝者が気になって仕方なかった。レジックとヒサッツのどちらが勝つのかは、既にレードには分かっていた。レードの関心は、その勝者となる人物が、如何にして勝利を収めるかだった。

やがて、レジックとヒサッツが闘技場に姿を現した。悟空達も別室でモニターに注目していた。これから行われる試合での悟空達の関心事は、レジックが以前に比べて、どれ位強くなっているかだった。しかし、この試合が大波乱の幕開けになろうとは、この時点では誰一人として知らなかった。

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