其の十九 前哨戦

べジータとジフーミは、闘技場で向き合った。両者一言も発さず、これから戦う相手を見定めていた。

「戦う前に聞いておくか。試合後では、話したくても話せないだろうからな」

口火を切ったのはジフーミだった。ジフーミはべジータが只者ではないと思いながらも、それでも自分の勝利を信じて疑わなかった。

「ドラゴンボールの探し方を言え。知ってんだろ?」
「以前に俺が集めた方法で良ければ教えてやってもいいが、それで良いか?」
「話が早くて助かるぜ」

ジフーミは意外と思いながらも素直に喜んだ。息子同様、父親も口が堅いと思っていただけに、あっさり話してくれると言うので喜びを禁じえなかった。しかし、べジータがまともに答えてくれるはずがなかった。

「盗んだんだよ。集めている奴からな」

得意気に話したべジータ。トランクス同様、べジータも一切嘘を言っていなかった。かつてベジータは、フリーザが集めていたドラゴンボールを自分の物にすべく、隙を見て盗んだ事があった。しかし、その回答は当然ジフーミが求めている情報ではなかった。期待外れの回答にジフーミは苛立ち、語気を強めて再度質問した。

「だったら、その盗まれた奴は、どうやってドラゴンボールを集めたんだ!?」
「殺して奪い取ったのさ。元々の持ち主からな」
「なら、殺された元の持ち主は、どうしてドラゴンボールを持っていたんだ!」
「さあな。偶然拾ったんじゃないか?」

べジータはジフーミの質問に真面目に答えず、からかっていた。そして、からかわれている事に気付かないジフーミが、べジータには可笑しかった。ジフーミはべジータの態度に腹が立っていた。これ以上尋ねても、欲しい情報を聞けないと判断したジフーミは、質問を打ち切った。

「ちっ、役に立たない情報、どうもありがとうよ!お前に聞いた俺が馬鹿だったぜ!」

質問を終えたジフーミは、べジータと戦うべく身構えた。二人の会話中に、試合は既に開始されていた。しかし、べジータは今にも飛び掛ろうとするジフーミを制止し、お返しとばかりにジフーミに質問した。

「今度は俺が尋ねる番だ。こっちにも聞きたい事があるんでな。まず、貴様は一体何者だ?ドラゴンボールを使って何を企んでいるんだ?」

トランクスとの試合以降、「ジフーミは一体何者なのか?」という事は、べジータのみならず悟空達全員の関心事だった。この試合におけるべジータの最大の目的は、当然ジフーミを倒す事だが、正体を暴くのも目的の一つだった。

「ふん。俺が話すと思っているのか?」
「そうか、ならば別の質問をしてやろう。トランクスからドラゴンボールは既に存在しないと聞いておきながら、何故その探し方に興味を持つ?」

控え室にあるモニターでは、戦っている選手の会話を聞き取る事が出来ない。しかし、悟空達は情報共有のために、試合を終えた者は、試合中の会話を話す事にしていた。この取り決めに則り、ジフーミがドラゴンボールの捜索方法を探っている事は、トランクスからべジータを含めた悟空達全員に伝えられていた。

ジフーミは武道会が始まる前に、ヒサッツから「目的を達成するまで無闇に正体を明かすな」と念を押されていたが、この程度なら話してもいいか、と特に警戒もせずに話し始めてしまった。

「例え、この世界にドラゴンボールは無くても、俺達の世界に行けばある・・・しまった!」

調子に乗って、うっかり余計な事まで話してしまったジフーミは、慌てて手で口を塞いだ。もしヒサッツがこの会話を聞いていれば、またうるさい小言を言ってくるだろう。ジフーミは、せめてべジータが今の会話を聞き逃してくれれば、と密かに願ったが、そんなはずがなかった。話を聞いたべジータは鼻で笑い、憶測を述べた。

「なるほどな。今までの話を総合すると、貴様ともう一人のヒサッツとかいう奴は、この世界とは別の世界に属する者達だな。そして、貴様等の世界にもドラゴンボールがあり、集め方が分からないから、それを知るために、この世界に来たという事か。この星に来たのは、宇宙中から色んな奴等が来ているから、その中にドラゴンボールの事を知っている者がいるかもしれないと思ったからだろう」

べジータの言葉に、ジフーミは反論する事が出来ず、悔しそうにべジータの話を聞いていた。その態度で、べジータの推理が概ね間違っていない事を示していた。こうも分かり易い性格のジフーミに、べジータは呆れていた。

「力は強いようだが、頭は弱いな。貴様の仲間も、さぞかし苦労しているだろう。この星に来る事を言い出したのは、貴様ではなく、ヒサッツとかいう奴に違いあるまい。貴様の頭で思いつくはずがないからな」

人は本当の事を言われると、無性に腹が立つ時がある。今のジフーミが正にそれだった。コンプレックスに感じていた事を、ずけずけと指摘したべジータに、ジフーミは拳を握り締め、烈火の如く怒った。

「き、貴様、ぶっ殺してやる!」
「それは俺の台詞だ」

前哨戦とも言える探り合いは、べジータの圧勝で幕を閉じた。老練なべジータに、頭の鈍いジフーミが、頭脳戦で勝てるはずがなかった。結局、ここでもジフーミはドラゴンボールの探し方を知る事が出来ず、しかも素性が少しばれる結果になってしまった。探り合いが終わると、二人共に構え、遂に戦闘が始まった。

まずジフーミが猛然と攻めかかったが、べジータはそれを避け、ジフーミの腹部を蹴った。そして、間髪入れずにジフーミの顔を肘打ちした。勢い付いたべジータは、次々と攻撃を浴びせた。猛攻を受けて倒れたジフーミに、べジータは飛び上がって連続エネルギー波を放った。大爆発による轟音が闘技場中に鳴り響き、後に発生した煙で二人の姿は完全に見えなくなった。

煙が晴れた後に現れた光景は、倒れているジフーミと、その傍で立っているべジータの姿だった。ようやく攻撃を止めたべジータは、倒れているジフーミに話し掛けた。

「さっさと立て。トランクスの猛攻を喰らって無傷だった貴様が、今の攻撃で死ぬはずがあるまい」

べジータが話し終えると、ジフーミは悠然と立ち上がった。その表情は笑っており、無傷である事を示していた。

「ふっふっふっ、よく見抜いたな。分かっているとは思うが、貴様の攻撃は俺に全く通じていない。残念だったな」
「それは良かった。あの程度の攻撃でダメージを受けるような奴と戦っても、つまらんからな」

ジフーミ同様、べジータも余裕だった。今の攻撃はジフーミを倒すためではなく、体の丈夫さを確かめるための様子見であった。本格的な戦闘はこれからである。

「ダメージを受けない体が自慢らしいが、いつまでノーダメージでいられるかな?」

べジータは更に攻撃力を高めるべく、気を溜めて一気に超サイヤ人2にまで変身した。気が飛躍的に上がったが、ジフーミは平然としていた。

「そんな変身をしても無駄だ。お前でも俺を倒す事は出来ない。先程コケにされた恨みを晴らしてやる」

ジフーミも気を溜め、気が急上昇した。それはトランクスと戦った時よりも遥かに大きく、控え室で試合を観戦していたトランクスは、ジフーミが自分との戦いで手を抜いていた事を知った。父の身が心配になったトランクスは、モニターに映ったべジータに向けて思わず呟いた。

「父さん、気をつけて下さい。そいつの実力は、まだまだ測り知れない」

息子の心配を知ってか知らずか、べジータは一層気を引き締めた。

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