ナメック星に向かう悟飯達一同。しかし、その心中は誰一人として穏やかではなかった。ほぼ勝ち目の無い戦いに向かう事に気が滅入っているのも原因の一つだが、それ以上に悟空の身の上が心配で仕方なかった。
地球を出発してから五日目。とうとう目指す目的地であるナメック星に到着した。大地は荒れ、感じられるナメック星人の気も、以前の半分以下に減っていた。ここで激戦が繰り広げられていた事を、彼等は容易に悟った。しかし、肝心の孫悟空の気も邪悪龍の気も感じられなかった。
悟飯達はナメック星人の集団の気が感じられる場所に飛んでいった。どうやら生き残ったナメック星人が一箇所に集まっているようで、その場所の他には人々の気が一切感じられなかった。
「皆さん、お揃いでようこそ」
最長老を初めとしたナメック星人達は、悟飯達が来る事を事前に知っていたかのように、突然の訪問に少しも驚きもせず、笑顔で出迎えた。
「最長老様。一体、ここで何があったのですか?」
悟飯は最長老に質問を投げかけた。最長老は口惜しそうに話し始めた。
「ドラゴンボールから突然、何人もの邪悪龍が現われ、我々の仲間を殺し始めたのです。しかし、神龍に乗った悟空さんが現れ、奴等に戦いを挑みました」
「やっぱりそうか・・・」
べジータの予感は的中していた。ただ、悟空と邪悪龍達の戦いは、彼等が到着する前に終結し、ナメック星人が全滅していない事から、悟空が勝利、あるいは相打ちしたと彼等は思った。しかし、続けて語られる話は、彼等の想像と大きく異なる内容だった。
「邪悪龍達はとても強く、悟空さん一人の力では、到底太刀打ち出来るものではありませんでした。そこで悟空さんは、もう一人の戦士と力を合わせて戦ったのです」
「もう一人の戦士ですって?」
「ピッコロさんです。神龍が悟空さんの助けになるように彼を甦らせ、そして悟空さんと共に戦ったのです」
ポルンガと違って神龍は、一度ドラゴンボールの力で生き返った人間が再度死んでも、再び甦らせる事が出来なかった。しかし、地球の邪悪龍を倒した後は、同じ人間を何度でも甦らせる事が可能になったようで、事実、ドラゴンボールの力で生き返った過去があり、邪悪龍との戦いの前に殺されたクリリンが、神龍の力で生き返っていた。そのため、ピッコロが神龍の力で生き返っても、何ら不思議はなかった。
「しかし、ピッコロ程度の力では、カカロットの役には立つまい。むしろ邪魔になるだけだ」
一緒に話を聞いていたべジータは、ピッコロの実力を過小評価し、思わずつぶやいた。しかし、最長老はその言葉を聞き逃さなかった。そして、すぐに反論した。
「確かに我々ナメック星人は、あなた方サイヤ人のように、超サイヤ人に変身して、戦闘力を高める事は出来ません。しかし、ナメック星人にはナメック星人特有の方法で、戦闘力を高める方法があるのです。現にピッコロさんも、そのやり方で戦闘力を高めました」
べジータは、最長老の言う「ナメック星人特有の方法」が何か思い浮かばなかった。しかし、悟飯はすぐに思い付いた。
「もしかして、ピッコロさんは融合したんですか?」
「そうです。『邪悪龍を倒すためならば、この身がどうなろうと構わない』と言って、何人もの若い戦士型タイプのナメック星人が、ピッコロさんに自分の肉体を提供しようとしました。初めはピッコロさんも渋っていたのですが、『ナメックの平和を守るため』と割り切り、泣く泣く彼等と融合したのです。その結果、ピッコロさんの力は増し、悟空さんと協力して見事に邪悪龍達を全滅させたのです」
ナメック星人達の悲壮な覚悟に胸を打たれ、べジータは何も言い返せなかった。
「じゃあ、お爺ちゃん達は勝ったんだね。それで、お爺ちゃん達は今どこにいるの?」
今度はパンが、待ちかねたように最長老に質問した。彼女の関心事は、邪悪龍との戦いよりも悟空であった。
「悟空さんは戦いの後、ピッコロさんと共に神龍に乗り、再び何処かに飛んで行かれました。その際、『やる事がある』と言ってました」
「やる事?」
パン達が悟空の謎めいた言葉に首を傾げている間に、最長老は人を使ってある袋を持ってこさせ、それをパンに手渡した。パンがその袋の中身を確認すると、そこには球形の石が七個あった。
「これって、もしかして地球のドラゴンボール?」
パンの質問に最長老は大きくうなずいた。
「あなた方が来たら、これを渡してくれと悟空さんに頼まれました。おそらく悟空さんは、あなた方がいずれここに来る事が分かっていたのでしょうな」
「お爺ちゃん・・・」
パンは、光を発しないドラゴンボールを寂しそうな表情で見つめた。そんなパンの肩を、彼女の後ろにいたトランクスが優しく叩いた。
「大丈夫だよ、パンちゃん。悟空さんは必ずパンちゃんの元に帰ってくる。このドラゴンボールが再び輝きを取り戻す時にね」
「・・・うん」
トランクスに励まされ、パンは幾分元気を取り戻した。
その後、ナメック星人達に別れを告げた戦士達は、石のままのドラゴンボールを持って地球への帰途に着いた。来る時は暗い表情で、ほとんど会話も交わさなかった彼等だが、それとは打って変わり、帰る時は和気あいあいとしたものだった。結局、今回は誰一人、悟空の役に立つ事は出来なかった。しかし、悟空に何時かまた会えるという希望が、彼等の表情を明るくしていた。
しかし、地球に着く頃には、船内は再び重い雰囲気に包まれていた。先のベビーや17号、地球の邪悪龍との戦いでは、自分達の力は通用せず、悟空に任せきりであった事を深く恥じ入っていた。今後もし地球に危機が迫った時、悟空抜きで地球を外敵から守れるのか、誰もが不安を感じていた。
地球に帰還後、各人は胸に秘めていた計画を、実行に移した。
まず悟飯は、子供の頃からの夢であった学者を突然辞めた。辞める直前、家族にその旨を話した時、当然チチが猛反対し、珍しく親子喧嘩になった。しかし、「自分の代わりの学者は他にいくらでもいるが、悪と戦う戦士に代わりはいない」という悟飯の言葉に、チチは遂に観念した。一方、ビーデルは一切反論せず、黙って夫の意思を尊重した。こうして無職になった悟飯は、毎日修行に励む事となった。
同じくトランクスもカプセルコーポレーションの社長を辞した。ブルマは息子がそういう行動を起こす事を予感していたらしく、敢えて反対はしなかった。そして、ブルマが再び社長の座に就いた。社長を辞した後、トランクスも日々の修行に没頭した。
悟天は彼女のパレスと別れた。一時は結婚も考えたほどの相手だったが、彼女はチチやビーデルと違い、自分一人では何一つ出来ない世間知らずのお嬢様で、夫を陰で支える事が出来そうもなかったからである。所詮、超戦士の妻は、強靭な女性でなければ務まらない。それ以降、悟天は女性に目もくれず、悟飯と共に修行に精を出す日々を過ごすようになった。
べジータやウーブも、より一層厳しい修行に汗を流すようになった。パンはまだ子供という事と、ビーデルの意向もあり、学校には引き続き通うが、学校以外の時間は全て、悟飯や悟天との修行に費やした。
こうして各自、己の身を平和を守るための戦いに捧げる悲壮な覚悟で、日夜鍛錬に精を出した。
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