其の二十一 ベジータの執念

べジータは防御に専念していたが、疲労のせいで動きが徐々に鈍り、ジフーミからの攻撃を受ける頻度が次第に多くなっていった。しかし、肝心の目的であるジフーミの身体の秘密究明は、その手掛かりすら掴めなかった。そして、ジフーミの右のアッパーが顎に炸裂した時、ベジータは遂に倒れた。べジータは気力を振り絞って立ち上がり、尚も戦う姿勢を見せた。

「思ったよりタフな奴だ。だが、まだ分からないのか?お前が何をしようと、俺に勝つ事など出来やしねえ」

べジータはジフーミの言葉に耳を貸さず、ただジフーミをじっと見つめていた。

「おい、聞いてるのか?無駄なんだよ、無駄。お前では俺を倒す事は出来ん。いい加減にくたばっちまえ」
「ごちゃごちゃうるさい野郎だ。確かに今の段階では、貴様に勝つ事は不可能だろう。だが、貴様の身体の秘密を解けば、勝機は出来る」

べジータはゆっくりした口調で反論した。本当は疲労とダメージで話すのも億劫だったが、会話中はジフーミが襲ってこないので、已む無く会話をしていた。

「俺の身体の秘密だと?何、馬鹿な事をほざいてやがる」
「果たしてそうかな?貴様は俺のファイナルビッグバンを喰らった後に、こう言った。『少しだけやばかった』とな。つまり、ファイナルビッグバンは全く通用しなかった訳ではない。貴様の身体に宿る何らかの力が働いて回避したか、傷も残さず完全に防いだか。何れにしても、貴様の身体に何か秘密がある事だけは確かだ」

べジータの言葉に、ジフーミは絶句した。自分の注意不足というせいもあるが、会話中のやり取りから、次々と自分が秘密にしていた事を暴くべジータに、ジフーミは驚きを禁じ得なかった。べジータがジフーミの身体に脅威を抱くように、ジフーミはべジータの頭の切れに脅威を抱いた。このまま戦いを続ければ、自分の身体の秘密が明るみにされ、敗れるような気がした。

「大した奴だ、お前は。さっさと片付けねば、流石にやばそうだな」

べジータを侮り難しと見たジフーミは、気を一気に高め、遂に本気になった。それはべジータが超サイヤ人4に変身した直後の気よりも大幅に上回っていた。そして、本気モードになったジフーミは、容赦なくべジータに襲い掛かった。

本気になったジフーミの攻撃を避ける力は、もはやべジータに残っていなかった。満身創痍のベジータは、ジフーミの情け容赦ない攻撃を立て続けに喰らった。仕上げとばかりにジフーミは、両方の手の平を合わせて握り締めた渾身の一撃を頭部にお見舞いし、べジータは硬い闘技場の床に叩きつけられた。

「やっとくたばったか。かなりしぶとかったな」

ジフーミはその場を立ち去ろうと、出入り口の方に振り向き、歩き出した。しかし、べジータは尚も立ち上がり、戦う姿勢を見せた。

「お前、まだ生きてるのか!?」

自分の本気の攻撃を喰らって立ち上がったべジータに、ジフーミは再び脅威を抱いた。べジータの体力は、とっくに限界を超えており、もはや勝ち目がない事も薄々分かっていたが、それでも勝負を諦める訳には行かなかった。

「お、俺は試合前にトランクスと約束した。必ず貴様を倒すと。それに、この試合に勝てば、俺はカカロットと戦える。俺はカカロットと戦える日を、ずっと待っていたんだ。貴様なんかに、貴様なんかに邪魔されてたまるか!」
「そんなに勝ちたければ、ドラゴンボールの探し方を言え。わざと負けてやるからよ」
「こ、この俺を舐めるなー!」

べジータは傷だらけの体に鞭打ち、再び気を高めた。それは弱々しいどころか、フルパワーに近い大きな気だった。何故これ程まで力を出せるのかは、べジータ本人も分からなかった。唯一言える事は、息子の敵討ちもライバルとの再戦も果たせぬまま、おめおめと負けて生き延びるつもりは、ベジータには毛頭なかった。勝利か死か、今のべジータの頭には、それしか無かった。

べジータは勇猛果敢に飛び掛かった。先程よりも速いスピード、強い戦闘力で立ち向かったが、本気になったジフーミには通じなかった。数発殴られ、またもやダウンを喫した。しかし、べジータは不屈の闘志で再度立ち上がった。

「俺は負けん。絶対に負けん」

べジータはまたもやジフーミに向かっていったが、もはやジフーミとの力の差は歴然だった。結局、攻撃を受けて倒れるが、すぐに立ち上がって再び攻撃を仕掛けた。もはや戦術などはない。べジータは本能のみで戦っていた。倒されても倒されても、べジータはその度に立ち上がり、決して勝負を諦めようとはしなかった。そのべジータの気迫に、ジフーミは圧倒的優位に立ちながらも、戸惑いを覚えた。

パンチやキックといった肉弾攻撃だけでは埒が明かないと判断したジフーミは、右手に気を集中させた。気功波で一気にべジータを消すつもりだった。そして気を溜め終えると、べジータに向けて気功波を放ったが、命中する直前にべジータが崩れ落ちた。そして、再び立ち上がる事はなかった。

ジフーミの勝利が宣告され、試合は終わった。ジフーミは出入り口に向かって歩を進めたが、そこからトランクスが飛び出してきた。トランクスはジフーミには目もくれず、べジータの元に駆け寄った。

「大丈夫ですか?父さん」

トランクスは傷つき倒れているべジータを抱きかかえた。そのトランクスの声に反応するように、べジータは口を動かして何か言おうとしたが、声が小さすぎて何を言っているのか分からなかった。しかし、べジータはまだ生きている事だけは分かった。

べジータが生きている事にトランクスは安堵し、ジフーミは驚いた。あれだけ攻撃を受けて、まだ生きているべジータに、ジフーミは恐怖にも似た驚きを覚えた。しかし、もう止めを刺す気はなかった。あとどれだけ攻撃すれば死ぬのか分からないし、試合も終わったし、何より、これ以上べジータと関わり合いたくなかった。

トランクスはべジータを控え室に連れて行き、仙豆を食べさせた。べジータは一命を取り留めたが、気分は晴れなかった。トランクスの無念を晴らすことも、悟空との再戦も出来なくなった今、べジータの心は口惜しさで一杯だった。そんな彼をブルマが気遣い、声を掛けた。

「残念な結果だったけど、あんた以前に比べて、かなり強くなったじゃない。孫君も試合中、随分驚いてたわよ」

ブルマはべジータの気持ちを少しでも安らげようと、言葉を選んで慰めたつもりだったが、今のべジータにその心情を酌む余裕はなかった。無性に腹が立ち、つい声を荒げてしまった。

「余計な慰めなど無用だ!どんなに強くなろうと、勝てなければ意味がない!結果を伴わない努力など、俺は努力とすら思わん!」

叫び終えたべジータは居た堪れなくなり、部屋から出ていこうとした。しかし、ある事を思い出し、歩みを止めて悟空の方に振り向いた。

「カカロット、ジフーミが無傷でいられたのには、奴の身体に何か秘密があるからだ。その秘密を解かん限り、例え貴様でも奴に勝つ事は出来ん」
「分かった。おめえが命懸けで掴んだ情報、決して無駄にはしねえ」

悟空の言葉を聞いたべジータは一瞬だけ力なく笑い、それから部屋を出て行った。その後は誰も追わなかった。

プライドの高いベジータは、どんなに辛くても、決して他人に弱みを見せない。この事は昔から変わっていない。ブルマは自分にだけは何でも打ち明けて欲しいと思っているが、べジータがそんな事をするはずがないと分かっていた。今は負けた悔しさを克服して戻ってくる時を待つ他ない。

しばらくして悟飯とピッコロの登場を促す館内放送が流れた。二人とも無言で、共に必勝を胸に秘め、厳しい表情で部屋を出て行った。

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