レードは作成した気円斬をヒサッツに向けて放たず、飛び上がって気円斬の上に乗った。そして、気円斬はレードを乗せたまま猛スピードでヒサッツに迫った。ヒサッツは慌てて床に伏せ、気円斬はヒサッツの真上を通過した。しかし、レードは気円斬を方向転換させ、気円斬はヒサッツに向けて引き返してきた。
気円斬は床すれすれの高度に下げて迫ったので、ヒサッツは飛び上がって避けようとした。ところが、ヒサッツが飛び上がった時に伸ばした右の足首を、真下を通過したレードの両手で握り締められた。気円斬は二人を乗せたまま上昇し、レードは足元の気円斬に向けてヒサッツを振り下ろした。ヒサッツは逆さまになった状態で気円斬の刃に叩き付けられて腰の辺りを切断され、上半身と下半身に切り裂かれた。
上半身だけになったヒサッツは、頭から床に激突した。傷つき倒れているが死んでいないヒサッツの傍に、気円斬から降りたレードが持っていたヒサッツの下半身を投げつけた。ヒサッツは下半身の所まで這って行き、下半身の切断された箇所を上半身の切断された箇所に重ね合わせた。すると、上半身と下半身が元通りに接合した。
「ほう、これは驚いた。切断された肉体を、元通りに繋げるとはね。でも、ダメージは残るようだ。気が大分落ちてるよ」
大ダメージを負ったヒサッツは、力を振り絞って立ち上がろうとしたが、バランスを崩して倒れた。そして、その後しばらくは体を動かす事も出来なかった。
レードの余りの凄さに、観戦していた悟空達は肝を潰していた。その中でも特に驚いていたのがクリリンだった。言わずと知れた気円斬の使い手だが、気円斬の上に乗るという発想は無かった。気円斬の上に乗っていれば自分自身を切り裂く心配は無く、対戦相手を捕まえて気円斬に無理やり当てさせる事も可能である。対戦相手は気円斬とレードの両方に気を配らねばならない恐ろしい戦法だった。
ただし、気円斬の上に乗る事は、簡単に見えて難しい。何故なら気円斬は回転しながら移動するので、その上に乗っていれば、上に乗っている人も一緒に回転する。練習もせずに上に乗れば、すぐに目が回って気円斬の上から落下する。しかし、何度も練習を重ねたレードは、長時間乗っていても平気だった。その練習の厳しさを知っているからこそ、この技が簡単に真似できない事をレードは知っていた。
悟空はレードの試合を観て、一つの対策を考えた。それは準決勝第一試合でジフーミを撃破した後、続く準決勝第二試合で悟飯の代わりに自分がレードと戦う事だった。悟空一人でレードを倒すのは難しいが、ベジータとフュージョンして戦えばいい。全員が無事に地球に帰るには、それしか方法が無いと悟空は思った。
ヒサッツに戦う力は残されていないと判断したレードは、ヒサッツに止めを刺すべく右手の人差し指の先端をヒサッツに向け、その指先に気を集め始めた。しかし、それを見たヒサッツは、「待ってくれ」とレードに頼んだ。
「何だ?まさか君ともあろう者が見苦しい命乞いか?僕をこれ以上ガッカリさせないでよ。最期は華々しく散ってくれ」
「違う。どうせ殺されるのなら、気で殺すのではなく拳で殺してくれ」
「・・・いいだろう。僕の拳を味わうといい」
妙な申し出だったが、レードは疑いを抱かずに応じ、倒れているヒサッツの傍まで歩み寄った。そして、拳を振り上げてヒサッツを仕留めようとした瞬間、右足に鈍い痛みを感じた。足元を見ると、ヒサッツの蛇の姿をした尻尾がレードの足首を噛み付いていた。すぐにレードは蛇の首を切り落とした。
「味な真似を。最後の悪あがきか」
気を取り直して再度拳を振り上げたレードだったが、突然体がだるくなり、目眩を覚え、片膝をついた。レードは急速に力が抜けていき、姿勢を保てなくなって倒れた。一方、ヒサッツはレードの倒れる様を尻目に、ゆっくりと起き上がった。
「き、貴様、お、俺の体に何をした?どうして体が思い通りに動かせんのだ?先ほどの蛇は一体何なんだ?」
レードは自分の体に突然襲い掛かった不調の原因が、ヒサッツの尻尾に噛まれたせいだと判断した。
「ポイズンテイル。俺のとっておきの毒蛇だ。お前は間も無く死ぬ」
「馬鹿な!?たかが毒如きで、このレード様が死ぬものか」
「確かにお前の強靭な体に大抵の毒は効かないだろう。しかし、この毒は並みの毒ではない。使い方によっては星をも死滅させる猛毒だ。即死しないだけでも大したものだが時間の問題だ」
毒が全身に回ったレードの顔は徐々に青ざめ、意識も薄れてきた。勝利を確信し、不用意にヒサッツに近付いた事を今更ながらに後悔した。しかし、幾ら悔やんでも、もはや後の祭りだった。
「う、宇宙の帝王となるべき俺が、こ、こうもあっさり死ぬとは・・・」
「違うな。この世界の帝王となるべき人物は、お前ではない。ジュオウ様だ」
「ジュオウだと!?や、やはり貴様はジュオウ・・・しん・・・」
レードは何かを言いかけた途中で事切れた。圧倒的な力を誇っていたレードの呆気ない最期だった。思いもよらぬ結末に、場内は静まり返っていた。
レードは勝利を目前にして敗れた。その表情は口惜しさに満ち溢れていた。実力は完全にレードが勝っていたが、一瞬の油断が全てを台無しにした。
思えばレードは父親のフリーザと同じ様な敗北を喫した。両者とも自分の実力に驕って相手を侮り、下手に時間を掛け過ぎた結果、相手からの思いもよらぬ反撃を受けて敗れた。フリーザが悟空と戦った時も、フリーザが悟空を見くびらずに最初から全力で戦っていれば、違う結果になっていただろう。レードは父親の悪い癖まで受け継いでいた。それが今回の敗因に繋がった。
レードの元にセモークの三兄弟の他、大勢の兵士が駆けつけた。シーガ達はレードに何度も呼び掛けたが、レードからの返事は無かった。彼等は直ちに物言わぬレードを治療室へと担いでいった。
「無駄だ。絶対に助からん」
急いで引き上げるシーガ達の背に向けて、ヒサッツは呟いた。一人闘技場に残ったヒサッツは、自分も引き上げようとしたが、少し歩くと体勢を崩し、その場に倒れ伏した。大ダメージを受けたヒサッツには、もはや自分の控え室まで戻る力すら残っていなかった。しかし、控え室で試合を観戦していたジフーミが急遽駆けつけ、ヒサッツを控え室まで運んで行った。
宇宙一武道会の主催者であるレードの不在は、武道会の運営にも支障を来していた。本来なら十分もすれば次の試合で戦う選手の登場を促す館内放送が流れるが、十分どころか三十分経っても放送は流れなかった。
その間に、セモークの三兄弟が悲痛な面持ちで悟空達の控え室に飛び込んで来た。突然の訪問に戸惑いつつも、悟空は彼等にレードの容態を尋ねた。
「レードの様子はどうなんだ?回復したのか?」
「現在、医療チームが懸命になって治療しているが、医者の見立てではレード様の蘇生は絶望的だ。こんな事を言うのは筋違いだが、我等の力ではどうにもならん。頼む。ヒサッツを倒してくれ。レード様の敵を討ってくれ」
敵である悟空達に主の敵討ちを依頼しなければならない惨めさ。悟空はそんなセモークの三兄弟の気持ちを汲み、無言で頷いた。悟空の反応に満足したセモークの三兄弟は、一礼してから退室した。
そして、前の試合が終わってから四十分後、ようやく悟空とジフーミの出番を告げる放送が流れた。気合を入れて控え室を出ようとする悟空を、ベジータが呼び止めた。
「カカロット、絶対に負けるなよ。俺以外の相手にはな」
ベジータは先程の衝撃的なシーンを観て、完全に吹っ切れた。レードですら負けたのだから、自分が負けても悔やむ必要はないと開き直っていた。
「ああ。おめえとは、あの二人を片付けた後で決着をつけてやる」
悟空は闘志を滾らせ闘技場へと向かった。
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