宇宙一武道会は準決勝を迎え、勝ち残った選手は孫悟空、孫悟飯、ジフーミ、ヒサッツの四人に絞られた。これまで行われた試合の中にも様々な事件があったが、その中で最も衝撃的だったのは、レードの敗退だった。武道会の主催者にして優勝候補筆頭でもあったレードの脱落は、大勢の観戦者達を驚かせた。前の試合から既に四十分も経過していたが、観客席のざわめきは一向に収まりそうもなかった。
そんな中、悟空とジフーミは、ほぼ同時に闘技場に姿を現した。闘技場の中央で睨み合い、お互い試合開始の合図を待つ二人。勝ち残った出場選手の中で唯一真の力を見せていない悟空と、これまで圧倒的な力と異常なタフさで勝ち上がってきたジフーミ。この試合も混戦になると観戦者の多くが感じていた。
それは控え室にいる悟飯達も同じ思いだった。これから自分達が戦うわけでもないのに、自分達の試合の時よりも緊張していた。これまで数々の強敵達と戦い、勝利してきた悟空。悟飯達は今回も悟空の勝利を信じたかったが、期待よりも不安の方が大きかった。まだジフーミの身体の秘密が解けていなかったからである。この謎を悟空が試合中に解けなければ、悟空まで敗れてしまうかもしれないと不安を抱いていた。
ところが、控え室の悟飯達とは対照的に、悟空は全く緊張していなかった。どんな大舞台でも怖気づいた事がない悟空に、緊張しろという方が無理な話だった。それどころか、悟空は試合を心待ちにしていた。これまでの対戦相手は息子や孫といった身内だったので、本気で戦えない事に、口には出さないが不満を抱いていた。ようやく本気で、しかもベジータに勝つような強敵と戦える事に興奮していた。
緊張していないという点では、ジフーミも同じだった。ただし、ジフーミの場合は、自分の実力と身体の能力に絶対の自信を持っているからこそ緊張していなかった。そんな緊張感のない二人が試合開始までの待ち時間中に、言葉を交わすのは至極当然で、口火を切ったのはジフーミからだった。
「これまでの試合を観て、俺の強さが十分に分かっただろう。いい加減、ドラゴンボールの探し方を話したらどうだ?どうあがいても、お前に勝ち目はない」
誰もドラゴンボールの捜索方法を話してくれないので、さすがにジフーミも焦れていた。これまでの様な笑顔は一切なく、ジフーミは早口で捲し立てた。
「そうだな。おめえが勝ったら、話してやっても良いかな。その代わり、オラが勝ったら、おめえ達の正体を話してもらうぞ」
ジフーミとは対照的に、悟空には落ち着きがあった。悟空の言葉を聞き、ジフーミの表情に笑顔が戻った。
「いいだろう。俺が負けるはずがない。ようやくドラゴンボールの探し方を聞く事が出来そうだ」
余裕の笑みで応諾したジフーミは、自信に満ち溢れていた。この時、ちょうど試合開始を告げるアナウンスが流れ、ジフーミはアナウンス終了と同時に悟空に襲い掛かった。悟空は無理に前に出ようとせず、ジフーミの攻撃を適当に受け流した。
最初の攻撃を受け流されたジフーミは、スピードを上げて再度襲い掛かった。これも悟空に受け流されると、ジフーミは更にスピードを上げて何度も悟空に殴り掛かった。ジフーミは攻撃の手を一切緩めず、徐々に速度を上げてくるので、悟空は次第に防戦一方となった。
悟空も隙を見て反撃するが、例の如く、全く効果が無かった。やはり身体の秘密を解かない限り、幾ら攻撃しても無駄だと悟空は判断し、結局、防御に専念する事にした。しかし、ジフーミの攻撃は激しさを増していき、その結果、悟空は何度も攻撃を受けた。
ジフーミの執拗な攻撃を嫌がった悟空は、苦し紛れに右肘を出し、それが偶然にもジフーミの右目に当たった。この時、悟空は異様な光景を目にした。右目を潰されたジフーミは思わずのけぞったが、その際、右目が目にも止まらぬ速さで再生した。そして、ジフーミは何事もなかったかのように笑った。
「無駄だ無駄。お前の攻撃なんぞ俺には通用・・・って、おい!どうした?」
悟空はジフーミの話す言葉に耳を傾けず、ジフーミの再生した右目をじっと見つめていた。右目を潰した感触はあったし、実際に潰れた所も目撃した。しかし、すぐに右目は自然と元通りに治った。一連の動作を何度も頭に描く内、悟空は遂にジフーミの身体に隠された謎を解明した。
「そうか!やっと分かったぞ!おめえが何でダメージを受けないのかをな。おめえはダメージを受けないんじゃなく、肉体がすぐに再生しちまうんだ。オラ、おめえみてえな奴とは何人も戦ってきたから、よーく分かるぞ。ただ、今までの奴等とおめえとの違う点は、おめえの再生するスピードが異常に速ええんだ。だから、傍目にはダメージを受けてねえように見えたんだ」
悟空はかつて、セルや魔人ブウ、一神龍といった肉体が欠損しても再生する敵と何度も死闘を演じてきた。そんな悟空だからこそ、彼等と同じ能力をジフーミにも具わっている事に気付いた。
一方、悟空の説明を黙って聞いていたジフーミは、悟空が話し終えると大声で笑い、憎らしい笑顔で話し始めた。
「よく見抜いたな。お前の言う通りだ。お前は只者ではなさそうだ。俺の身体に具わっている、この素早く再生する能力は『高速完全再生能力』といい、体の一部が破損しても、瞬時に再生する事が出来る素晴らしいものだ。言っておくがな、再生するのは体だけではなく、ダメージや体力も一瞬で回復する。つまり俺は疲れる事なく、永遠に戦い続ける事が出来るのだ」
得意げに自分の能力を話すジフーミ。悟空に見破られた以上、もはや隠している必要はないと思い、詳しく解説をしてしまった。ジフーミの悪い癖が、また出てしまった。
「いいのか?敵であるオラに、自分の秘密をベラベラ喋っちまって。後でヒサッツとかいう奴に怒られちまうんじゃねえのか?」
悟空のツッコミにも動じず、ジフーミは話を続けた。
「だから何だ?俺の身体の秘密を知ったからといって、お前が俺を倒せるとは思えん。倒し方すら分かるまい」
「果たしてそうかな?確かに厄介な能力だけど、倒し方が無いわけじゃねえ。おめえを倒すには、肉片を一つ残らず消滅させれば良いんだ。そうしたら再生出来ねえはずだ」
悟空の言葉に、ジフーミは思わず唸った。自分の能力を自慢げに語る余り、知らず知らずの内に、自分の唯一の倒し方を悟空に悟らせてしまったからである。
「そうか・・・。確かお前、以前にも俺と似たような能力を持つ敵と戦った事があると言ってたな。確かに肉片一つ残らず消滅させられれば、幾ら俺でも復活出来ん。だが、レードとかいう奴ならともかく、お前にそれが可能か?準々決勝で俺が戦ったベジータとかいう奴の大技でさえ、俺を完全に消し去る事は出来なかったんだぞ」
準々決勝の試合でベジータがファイナルビッグバンを放った時、もしまともに喰らっていたら、ジフーミは消滅を免れなかっただろう。しかし、喰らう直前に体をずらしたので、ジフーミは体の半分を消滅する程度で済んだ。その後に発生した煙に覆い隠されている間にジフーミの体は完全に再生され、煙が晴れた時は何事も無かったかのように姿を現していた。そうした経緯があるだけに、ジフーミは強気の姿勢を崩さなかった。
「出来るさ。オラを見くびるなよ」
悟空は一気に気を高め、超サイヤ人4に変身した。ジフーミの身体の秘密が分かった以上、もはや様子見は無用。大技で一気に倒す決意を固めた。ジフーミの身体がすぐに再生してしまう以上、彼に勝つには細胞一つ残さず消し去るしかない。それも一瞬で消さねば、残った肉体ですぐに再生してしまう。以上の事を踏まえて、悟空はジフーミ打倒に専念する事にした。
超サイヤ人4になった悟空を目の前にして、ジフーミは自分の間抜けさを呪っていた。ベジータに負けず劣らず大きな気を持つ悟空にあれこれ教えてしまった事で、前の試合以上に苦しい戦いになる事を本能的に感じ取った。しかし、この時点では、まだ自分が負けるかもしれないとは少しも思っていなかった。
「少しは出来るようだが、この俺をあんな貧弱なヒサッツと同じと思うなよ。絶対にドラゴンボールの探し方を聞き出してやる」
「お前から見れば、どいつも貧弱に見えるだろう。でも、お前ほどじゃないが、俺も自分の身体には多少自信があってな。久しぶりに面白い戦いが出来そうだ」
実力は共に超一流だが、どちらも何処か子供じみている二人の本当の戦いは、これから始まるのであった。
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