其の二十九 最後の手段

超サイヤ人4に変身した悟空は、かめはめ波を撃つ構えを取った。そして、瞬間移動でジフーミの背後に回りこむと、かめはめ波を至近距離から浴びせた。しかし、ジフーミの全身を消滅させるどころか、肉体の一部を消失させる事すら出来なかった。

「再生能力があるくせに、かなり頑丈だな」

悟空は今のかめはめ波でジフーミを倒せるとは思っていなかった。ジフーミの肉体の秘密を解き明かせなかったとはいえ、ベジータが勝てなかった相手である。そう容易く終わるはずがない事は、経験上分かっていた。それでもかめはめ波を放った目的は、ジフーミの肉体の強度を確かめるためだった。

これまで闘ってきたセルや魔人ブウといった再生能力を持つ敵は、総じて肉体の耐久力が低かった。割と簡単に手足や首などを吹き飛ばせた。ところが、このジフーミは防御力が高く、肉体の一部でも簡単に消せないと思い知らされた。かめはめ波で駄目な以上、悟空はそれ以上の威力を持つ技で勝負するしかない。そうなると悟空の選択肢は自ずと絞られた。

次に出す技を決めた悟空はジフーミに突進し、彼の腹部に向けて必殺の龍拳を放った。悟空の右腕から放たれた龍は、ジフーミの腹部を貫通し、全身に巻きついた。そして、光り輝く龍と共にジフーミの姿が消えていった。

ジフーミの姿が完全に見えなくなり、悟空が勝利したと観戦者や控え室のメンバーの目には映った。しかし、悟空は危機感を抱いていた。悟空の動物的直感が、「気を抜くな」と危険信号を送っていた。

龍拳によって四方に吹き飛んだジフーミの肉片の一つ一つが即座に再生し、それぞれが完全な姿のジフーミになった。そして、悟空は三十人余りのジフーミに取り囲まれてしまい、一瞬にして大ピンチに陥った。

魔人ブウの場合も、バラバラに吹き飛んだ肉片の一つ一つが、それぞれ小型の魔人ブウとして再生した事はあった。ところが、ジフーミの場合は、肉片の一つ一つが元の等身大の大きさとなって復活した。つまり、ジフーミは魔人ブウの様にバラバラになった肉片が組み重なって再生するのではなく、肉片の一つ一つが元の姿で復活する事が出来る超再生能力の持ち主だった。

更に悟空は忘れていた事だが、かつて一神龍と闘った際、悟空は龍拳を放った事があった。この時も一神龍がバラバラとなったが、後に元の状態に戻った。つまり再生能力を持つ敵に龍拳は不向きであり、悟空は技の選択を誤った。

多人数のジフーミに囲まれ、絶体絶命のピンチに陥った悟空。このまま攻撃されれば、悟空は為す術なく殺されていたであろう。ところが、ジフーミの軍団は悟空に対して何もせず、一人のジフーミが右手を上げると、残りのジフーミが手を上げているジフーミに次々と飛び込み、吸収されていった。そして、元の一人のジフーミに戻った。

「どうして俺に攻撃しないで元の一人に戻った?大勢で寄って集って攻撃すれば、俺を簡単に倒せたはずだ」
「ふっ、お前を殺せばドラゴンボールの探し方が聞けなくなるからな。それに、そんな勝ち方をしてもつまらんしな」

悟空の問いに余裕綽々で答えたジフーミ。そして、ジフーミの悟空を軽視した返事で、自分は舐められている事を知り、悟空は無性に腹が立った。是が非でもジフーミを倒し、あの世で先程攻撃しなかった事を後悔させてやると心に決めた。

「だったら、こいつはどうだ。喰らえ!十倍かめはめ波」

悟空は突然十倍かめはめ波を放った。余りに急な事で、ジフーミは何の対処も出来ず、まともに浴びてしまい、全身のおよそ九十パーセント余りを消失した。今回は細胞すら残さず消滅させたので、吹き飛んだ肉片が復活する事はなかった。しかし、残った首から上の部位から、すぐに元の五体満足な状態に再生した。

「あ、危なかった・・・。な、なんだ、今の技は?」
「かー、惜しい。もう少しで全て消せたのによ」

さすがのジフーミも、あと少しで完全に消されてしまうところだったので、余裕でいられなくなった。悟空は続けて十倍かめはめ波を放とうと構えると、ジフーミは堪らず上空に逃げ出した。逃げるジフーミに向けて、悟空は再び十倍かめはめ波を放ったが、
ジフーミの肉体を不完全に消し去ったので、残った肉体から消失した部位が再生した。この後も何度か十倍かめはめ波を試みたが、結局ジフーミを倒すには至らなかった。

悟空の十倍かめはめ波は、確実にジフーミを消し去る威力はあった。しかし、それでもジフーミを倒せないのには理由があった。巨体を誇るジフーミを全身隙間無く消すように攻撃するのが難しいからだった。その上、この時のジフーミは自身の消滅を恐れ、逃げ回っていた。しかも、ジフーミのスピードは相当速い。これでは悟空と言えども、上手く当てられるはずがなかった。

「はあはあ・・・。畜生!あちこち飛び回りやがって」

さすがの悟空も、十倍かめはめ波の撃ち過ぎで体力を消耗していた。十倍かめはめ波は威力だけでなく、消費エネルギーも普通のかめはめ波とは比較にならない。幾ら体力に自信のある悟空でも、連発はさすがにきつかった。もはや十倍かめはめ波ではジフーミを倒せないと悟った悟空は、これ以上撃つのを諦めた。

悟空が攻撃してこないので、ジフーミは逃げ回るのを止め、悟空の前に立った。悟空と違い、ジフーミは少しも体力を消耗していなかった。ダメージも体力も一瞬で回復するジフーミの前に、悟空の一連の攻撃は功を奏さなかった。

「どうやらこれ以上、あの十倍何たらとかいうとんでもない技は出せないようだな。驚かせやがって」

一安心したジフーミの表情に、元の憎らしい笑顔に戻った。悟空はまだ十倍かめはめ波を撃つだけの体力は残っていたが、例え撃ったとしても、ジフーミを仕留めるのは無理だろうと判断した。

悟空がジフーミを倒せる可能性があったのは、一番最初に十倍かめはめ波を撃った時だけだった。その時に完全に消せなかったので、十倍かめはめ波で勝てる望みは完全に絶たれてしまった。

龍拳でも十倍かめはめ波でもジフーミを倒せかった事に、悟空は苛立ちを募らせていた。どちらも自慢の必殺技だけに、それで勝てなかった事に腹を立てていた。同時に悟空は、やり難さを感じていた。一回の攻撃で跡形も無く消滅させない限り、何度でも即座に復活する不死身の化け物を相手に、既に体力を大幅に消耗させてしまった悟空が、どうすれば勝てるのか分からなくなってきた。悟空にしては珍しく気弱にもなった。

苛立ちを募らせていたのは、悟空だけではなかった。控え室で試合を観ていたベジータも、額に血管を浮き上がらせて苛立っていた。試合を観戦している間に、ベジータ達もジフーミの身体の秘密に気付いていたが、それを知りつつも、どうすればジフーミに勝てるのか分からなかった。

「ピッコロ!カカロットの奴は超サイヤ人5に変身出来るのか!?」

ベジータは傍で同じく試合を観戦していたピッコロに対し、怒鳴るように質問した。ここ数年、悟空と行動を共にしていたピッコロなら、彼が変身出来るかどうか知っているはずである。そのためにベジータは、一縷の望みをかけてピッコロに質問した。

「い、いや、まだそこまでは出来ん。超サイヤ人に5番目の形態があるのかどうか知らんが、例えあるとしても、そんなに容易く変身出来るようになるわけなかろう」

ある程度答えを予想していたとはいえ、ピッコロの回答にベジータはますます不機嫌になった。自分が目標にしているライバルが、目の前で負けるところなど見たくはない。悟空は自分が戦って勝つまでは、ナンバーワンでいてもらいたい。しかし、残念ながら戦況は厳しかった。

「このままでは負けるぞ。カカロットは」

大ピンチの悟空だが、勝機が完全に無いわけではなかった。悟空には最後の大技が残されていた。ただし、それを成功させる自信が悟空には無かった。先の二つの技と違い、この技は準備に時間が掛かる。そのため、この技が完成する前にジフーミに妨害される恐れがあった。しかし、他に手段が無い以上、もはやこれに頼る他、ジフーミに勝つのは不可能だった。覚悟を決めた悟空は超サイヤ人の変身を解き、両腕を高く上げた。

「みんな、オラに元気を分けてくれ」

悟空は奥の手である元気玉を作り始めた。出来ればジフーミが気付く前に元気玉を完成させ、それを使ってジフーミを倒す。そんなに上手くいくとは思っていないが、止むを得なかった。

元気玉に全てを託した悟空。この戦いの行方は元気玉に左右される事となった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました