其の三十 神話崩壊

悟空は伝家の宝刀である元気玉を使わねばならない状況に追い込まれた。しかし、元気玉はジフーミを倒せるかもしれないが、ジフーミの真正面で作らねばならなかった。

控え室で試合を観戦していた仲間達は、悟空が手を上げると瞬時にして元気玉だと悟り、元気を分けるために同じく手を上げた。悟飯も皆と同様に手を上げたが、ピッコロが「次の試合に響くから」と言って止めさせた。悟飯はそれでも手を上げようとしたが、仙豆の数が残り少ない事を知らされ、仕方なく手を下ろした。悟飯は自分一人だけ手助け出来ない事に歯痒さを覚えたが、時が時だけに止むを得なかった。

悟飯以外の仲間達は、限界近くまで元気を悟空に分け与えた。その結果、元気を与え終えると疲れ果て、その場に座り込んでしまった。

悟空に積極的に協力しているのは、控え室の仲間達ばかりではなかった。界王とサタンの協力によって地球やナメック星、あの世からも多くの元気が集められた。また、積極的に協力していなくても、惑星レードには現在、宇宙中から大勢の人間が来ており、彼等から少しずつ元気を分けてもらうだけでも元気玉作成に大きく貢献していた。

だが、何にも増して悟空の助けとなったのは、実はシーガ達であった。悟空の試合直前に控え室を訪れていた彼等は、退室後にベジータに呼び止められ、元気玉の話を聞かされた。するとシーガ達は、「主の敵討ちのためならば」と協力を快諾していた。そして今、レードの部下達に手を上げるよう指示を出していた。

レード不在の今、セモークの三兄弟がレード軍全体を指揮する立場にいた。大勢の鍛えられたレードの兵士達からの協力は、元気玉作成の大いなる助けとなった。武道会が開催される前は考えもしなかった彼等の協力により、悟空は史上最強の元気玉を完成させつつあった。

しかし、悟空は元気玉を作っている最中、ずっと違和感を覚えていた。ジフーミを倒すために、ジフーミの目の前で元気玉を作っているのに、当のジフーミは腕を組み、大人しく元気玉が完成されるのを待っていたからである。気を探る事が出来るジフーミは、頭上にある元気玉の存在に既に気付いていたが、何故か悟空の邪魔をしなかった。

「おめえ、何で黙ってオラが元気玉を作るのを待ってるんだ?頭の上の元気玉には既に気付いてるんだろ?こいつを喰らっても死なねえ自信があるのか?」

ジフーミの謎の沈黙を不思議に思った悟空は、ジフーミに質問した。ジフーミは笑顔を浮かべたまま答えた。

「そうか、あれは元気玉というのか。なかなかの技だ。お前の最大の技か?」
「そうだ。こいつでおめえを倒す」
「なるほどな。まだ完成していないようだが、あれを喰らえば、さすがの俺も消滅を免れないだろうな」

ジフーミは淡々と答え、悟空は益々わけが分からなくなった。十倍かめはめ波に怯えていたジフーミが、それ以上の破壊力を持つ元気玉を前に平然としているからである。試合前、「ジフーミは馬鹿だ」とベジータから聞いていたが、悟空はこの時、ベジータの言う通りだと思った。

「だったら何故、黙って待ってるんだ?まさか死にてえのか?」
「そんなわけないだろう!俺だって命は惜しい。俺にはな、あの元気玉を打ち破る自信があるのさ。充分な時間さえあれば、ヒサッツだって真似出来ない最強の技を見せてやろう。お前の最大の技と俺の最強の技、どっちが強いか勝負だ」

ジフーミの話を聞いて、ようやく合点が行った悟空。しかし、元気玉に全幅の信頼を寄せている悟空は気後れしなかった。どんな技を出すのか知らないが、元気玉に勝る技など存在しないと信じきっていた。ジフーミに動揺される事なく、悟空は落ち着いて元気玉作りに集中した。

「そろそろ始めるかな」

悟空の元気玉が完成する直前、ジフーミは腕組みを解いて右の人差し指で元気玉を指差し、その指に体内の気を集めた。ジフーミは体中の全ての気を指先に集め、悟空が思わずたじろぐ程の凄まじい気が感じられた。ジフーミは見る見る痩せ細り、腹と背がくっつきそうな体になった。

ジフーミが気を集中させている間に、とうとう元気玉が完成した。ジフーミの行動が気になる悟空だったが、雑念を断ち切り、飛び上がって元気玉を地上のジフーミに向けて放った。ジフーミも指先に集めた己の気を、元気玉に向けて発射した。

「喰らえ!元気玉!」
「貫け!最終砲!」

ジフーミの指先から放たれた最終砲という名の細長い光線が、不気味な音をたてながら真っ直ぐ元気玉に向けて突き進んだ。そして、元気玉と最終砲が空中で激突した。

驚くべき事に、直径一メートル程の小さな最終砲が、直径百メートル以上の巨大な元気玉の進行を押し止めた。最終砲が元気玉と互角に渡り合っていたのである。

「ば、馬鹿な!?」

悟空は戸惑いながらも全力で元気玉を押し込めようとするが、最終砲の抵抗が強過ぎて微動だにしなかった。悟空はそれでも諦めずに続けた。ところが、次の瞬間、信じられない事が起こった。

何と最終砲が元気玉の中心を貫いたのである。元気玉が初めて破られた瞬間だった。元気玉を突き破った最終砲は、元気玉の後ろにいた悟空の側を通過し、そのまま遥か彼方へと消えていった。

一方、中心に穴が空いて制御出来なくなった元気玉は、そのまま大爆発を起こした。そして、元気玉の後方にいた悟空は、その爆発に巻き込まれた。惑星レード全体を揺り動かすほどの大爆発で、その後に発生した煙が闘技場はおろか、その周辺に至るまで完全に覆い尽くした。

悟空は元気玉が破られたショックで、一時的に放心状態になってしまった。そのため、爆発から逃れるのが遅れてしまい、巻き込まれてしまった。例え逃れる事が出来たとしても、悟空の勝機は完全に絶たれていた。

煙が完全に晴れた時、闘技場には立っているジフーミと、大怪我を負って倒れている悟空がいた。元気玉の爆発に巻き添えを喰らっても、驚異的な生命力で生き延びた悟空だったが、肉体的にも精神的にも大ダメージを受けた悟空に、もはや立ち上がる力は残されていなかった。

最終砲を撃って全てのエネルギーを使い果たし、痩せ細ったジフーミだったが、再生能力で外見も体力も元に戻っていた。そして、倒れている悟空に徐に近付いた。

「どうだ!最終砲の威力は!恐れ入ったか?そろそろドラゴンボールの探し方を・・・っておい!」

勝ち誇ったジフーミが悟空に話し掛けたが、悟空からは何の反応も無かった。悟空は完全に意識を失っていた。そのまま悟空は再び立ち上がる事なく、ジフーミの勝利を告げるアナウンスが流れた。

余りの光景に、控え室の仲間達は全員その場で呆然としてしまった。悟空が敗れた事も驚きだが、何より元気玉が破られた事に大きなショックを受けた。どんな強敵が現れても、元気玉を使えば必ず勝てた。元気玉を使えば負けるはずがなかった。その元気玉不敗神話が遂に幕を閉じた。

その後、一人元気な悟飯が悟空を迎えに来た。悟空を抱きかかえた後、ジフーミを一瞬睨み、すぐに悟空を連れて控え室に戻った。

「くそー、俺が勝てばドラゴンボールの探し方を話してくれる約束だったのに・・・」

トランクス・ベジータ・悟空といった実力者を次々に破ったジフーミだったが、ここでもドラゴンボールの探索方法を知る事は出来なかった。勝利の余韻に浸りながらも、憮然とした面持ちで自分の控え室に引き返した。

頼みの綱の悟空まで敗れてしまうという稀に見ぬ非常事態。まだ悟飯が残っているが、彼一人に全てを託すのは、余りにも荷が重過ぎた。

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