其の三十二 奪われたドラゴンレーダー

闘技場に現れた孫悟飯は、颯爽と中央まで足を運んだ。一方、前の試合で重傷を負ったヒサッツは、途中で一回転んだが、悟飯と対面する場所まで、どうにか辿り着いた。

「そんな体でも逃げずに、よく出てきたな。それだけは褒めてやる。だが、試合では一切容赦しないから、そのつもりでいろ」

目の焦点が虚ろなヒサッツに対し、悟飯は唐突に話しかけた。その口調には、ヒサッツに対する同情など微塵もなかった。これから倒そうとする相手を気遣うようでは本気になって闘う事など到底出来ないし、そもそも悟飯には悪人に対する哀れみの心など少しも持ち合わせていなかった。

対するヒサッツも、そんな哀れみなど期待してはいなかった。何重にも見える悟飯の一人に向けて言葉を返した。

「生憎だが俺には使命がある。怪我してるからといって逃げるわけにはいかん。さあ、ドラゴンボールの探し方を言え」
「俺がそんな事、お前に話すと思っているのか?」
「どうして隠そうとする?お前が話しても、その後に俺を倒せば、お前の話した内容は他に漏れない。お前には今の俺を倒す自信すらないのか?そんなに弱いのか?」

ヒサッツは悟飯を挑発した。そんな安っぽい挑発に乗る悟飯ではないが、この時の悟飯は自分の勝利を確信しており、慎重さに欠けていた。

「そんなに聞きたければ教えてやる。俺達はドラゴンレーダーを使ってドラゴンボールを探せる。だが、お前がそのレーダーを手にする事はない。お前は間も無く、この場で俺に殺されるのだからな」
「ドラゴンレーダーだと?なるほど。そんな物があったのか・・・」

話し終えた悟飯は、容赦なくヒサッツに攻め掛かった。悟飯はヒサッツを倒すべく、最初から全力で攻撃を仕掛けた。試合開始を告げるアナウンスは、二人が話している最中に既に流れていた。

悟飯の攻撃は、ヒサッツに全て命中した。ヒサッツの動きは精細さを欠いており、とても戦える状態ではなかった。一方的な展開ではあったが、悟飯は一切気を緩めずに攻撃を続けた。何を仕出かすか分からないヒサッツが相手なので、悟飯は反撃の機会を与えず、一気に勝負を決するつもりでいた。

悟飯に叩きのめされたヒサッツは、血を吐いて倒れた。悟飯はヒサッツの止めを刺すべく拳を振り上げたが、その拳が振り下ろされる事はなかった。悟飯の背後に突然ジフーミが現れ、ジフーミの右の拳が悟飯の背中から腹部までを貫いたからである。

「お、遅いぞジフーミ。もっと早く来い」
「ふっふっふっ、ヒーローは遅れて現れるのさ。それより、ドラゴンボールの探し方は聞き出せたのか?」
「ああ。こいつ等はドラゴンレーダーとやらを使い、ドラゴンボールを集めていたそうだ。それを手に入れるんだ」

ヒサッツはジフーミの腕の中で、既に意識の無い悟飯を見つめながら答えた。その後すぐ、悟飯を救出するために悟空達が闘技場に駆けつけてきた。

「ジフーミ!おめえ何て事を・・・。今すぐ悟飯を放せ!」

悟空達は怒りに打ち震えていた。そんな悟空達に対し、ジフーミは笑いながら交換条件を出してきた。

「こいつを助けたければ、ドラゴンレーダーを渡せ。さもなくば、こいつを殺す」

悟飯は白目を向いていて危険な状態であり、早く仙豆を食べさせなければ、今のままでも悟飯の命が危なかった。最早これまでと判断した悟空は、背後にいたトランクスに目で訴えた。悟空の意図を汲み取ったトランクスは、急いで控え室に戻ってブルマに事情を話し、ドラゴンレーダーを貰い受けた。そして、すぐに闘技場に引き返し、ジフーミにドラゴンレーダーを投げ渡した。ジフーミは空いている左手でそれを受け取った。

「こいつがドラゴンレーダーか。間違いないだろうな?」
「そうだ。早く悟飯さんを放せ!」
「いいだろう。もうこいつに用はない」

ジフーミは悟飯の体を貫いていた右手を引き抜いた。悟飯が力なく倒れると、すぐに彼の元にパンが駆けつけた。

「パパ!大丈夫?死なないで」
「パン!まだ悟飯は生きている。早く控え室に連れて行って仙豆を食べさせるんだ!」
「う、うん。分かった」

パンはピッコロの言葉に従い、悟飯を抱えて控え室に向かった。その様子を悟空達は心配そうに、ジフーミは笑いながら眺めていた。

「さてと、目的も果たしたし、もうここに用は無い。帰るぞ」

傷だらけのヒサッツを抱え、ジフーミは飛び立とうとした。しかし、悟空がジフーミを呼び止めた。

「待て!おめえ達は一体何者なんだ?どっから来たんだ?」
「ふん。お前が俺に勝てば話す約束じゃなかったか?まあいい。いい物をもらったし、少しだけ教えてやろう。俺達はジュオウ親衛隊だ。ドラゴンボールを集め終わり次第、他の親衛隊のメンバーと共に再びこの世界に来てやる。今度はこの世界を支配しにな。その時まで、せいぜい腕を磨いておくんだな。じゃあな。なかなか楽しかったぜ」

聞いた事がない名前に戸惑う悟空達を気にも留めず、ジフーミは飛び立とうとした。しかし、今度はヒサッツがジフーミを呼び止めた。

「待て、ジフーミ。こいつ等を殺せ。今の内に仕留めておかねば、後々の災いとなる」
「こいつ等が災いとなるだと?お前が冗談を言うとは知らなかったぜ」
「ふざけるな!俺は真面目に言ってるんだ!早く殺せ!」
「うるせえな。そんなに殺したければ、お前が殺せ。その体じゃ無理だろうがな」

悟空達の実力を侮り難しと見たヒサッツは、ジフーミに悟空達を殺すよう指示した。悟空の仲間達は、先の悟空とジフーミの戦いの際、悟空の元気玉作りに協力するため、かなりの元気を分け与えていた。そのために体力を大幅に消耗しており、まだ回復していなかった。現在、まともに戦えるのは悟空だけなので、ジフーミ一人で悟空達全員を倒せるとヒサッツは見ていた。

ところが、悟空達のしぶとさを知るジフーミは、面倒臭がって拒否した。結局、二人とも不機嫌なまま惑星レードを離れ、何処かに消えていった。

ジフーミ達が去った後に悟飯とパン、続いて控え室にいたブルマ達全員が闘技場に駆けつけた。悟飯は仙豆を食べて既に傷は癒えていた。

「父さん、あの二人は?」
「もう行っちまったよ。ドラゴンレーダーを持ってな」

ジフーミにリベンジマッチをするどころか、大切なドラゴンレーダーまで奪われてしまった悟空達。後に残ったのは疑問と悔しさだけだった。

「あいつ等が何者なのか分かりましたか?」
「いいや、分からねえ。ただ、ジュオウ親衛隊とか名乗ってたが・・・」

当然ではあるが、悟飯もジュオウ親衛隊については何も知らなかった。しかし、頭を傾げる悟空達の側で、その名前に敏感に反応する者達がいた。

「奴等の正体が、まさかジュオウ親衛隊だったとは・・・」
「どうりで強いわけだ」
「ジュオウ親衛隊の魔の手が、ここまで及んできたか。これで宇宙も終わりか・・・」

悟空達が声をした方向を一斉に振り向くと、そこには何時の間にかセモークの三兄弟が立っていた。

「おめえ等、ジュオウ親衛隊を知っているのか?」
「あの二人がメンバーである事は知らなかったが、ジュオウ親衛隊は知っている」
「だったら話してくれるな?奴等の事を」
「いいだろう。レード様以外には誰にも話していなかったが、お前達にも話そう。魔界の秩序を乱したジュオウと、その親衛隊の事をな」

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