「お前達にジュオウ親衛隊の事を説明するためには、父ダーブラが失踪した時点から話さねばなるまい」
セモークの三兄弟の長男のシーガは、二十年ほど前の出来事から話し始めた。
「失踪当時、大勢の者が方々を探したが、結局見つからなかった。そのため魔界の長老と呼ばれる一族は、新たな魔王を選出すると決めた。お前達には変に思えるかもしれないが、魔王は世襲によって決まるのではなく、魔界で一番強い者が、その位に就く。それが魔界の伝統だ。長老達も伝統に従い、希望者を募って武道大会を開き、優勝者に魔王の座を与えると約束した」
魔界で一番偉くなりたければ、誰よりも強ければ良い。そこには血筋も人格も関係ない。一番の強者の性格が最悪なら、恐怖政治になる。地球人の感覚なら理解し難いが、強者が無条件で崇拝される魔界ならばこそ、長年続いてきた伝統だった。
「その武道大会で優勝し、晴れて魔王となったのが、ルーエという名前の若い魔族の戦士だ。ルーエ様は魔王となってからも、暇さえあれば自らにトレーニングを課し、己の戦闘力の向上に努めた。そして、遂には先代の魔王ダーブラを遥かに越える実力を身に付けた。また、ルーエ様は魔族にしては珍しく人柄も良かった。有能なルーエ様の支配下の元、魔界は恒久の平和になったと誰もが思った・・・」
シーガは話を止めて弟達の方を見、「続きを頼む」と目で訴えた。ここから先は話すのが辛過ぎる内容なので、シーガは出来れば語りたくなかった。兄の意を理解した次男のライタが話を続けた。
「だが、その平和が今から約一年前に突然破られた。ルーエ様に仕える宮廷魔術師のジュオウという者が七人の戦士を生み出し、その七人をルーエ様に嗾けて反旗を翻した。ルーエ様は大軍で迎え撃ち、大戦争となった。ところが、その七人は余りにも強く、ルーエ様を始めとして大勢の者が討たれた。一方、その七人は一人も欠けなかった」
人望があったルーエは、多くの魔族に慕われていた。しかし、ジュオウの様な例外もいた。ジュオウはルーエに仕えていたが心からの忠誠を誓っていたわけではなく、ルーエに代わって魔界の支配者となる事を目論んでいた。魔界にとって不幸だったのは、ルーエを敬愛して仕えていた魔族が多数いたために、戦争で膨大な数の犠牲者が出ていた。
「ひょっとして、その七人がジュオウ親衛隊?」
皆と同じく話を聞いていた悟天は、ふと気になった事を質問した。ライタから返ってきた答えは、正に案の定だった。
「そうだ。戦争当時はジュオウ親衛隊という名前など無かったが、その七人は戦争が終わった後もジュオウの近くに控え、ジュオウを守護していた。そうした理由から、ジュオウ親衛隊という名前が自ずと付いた」
ジュオウの身辺警護をする七人の戦士。その七人がいる限り、誰もジュオウに手を出せない。そんな七人が親衛隊と呼ばれるようになったのは、自然な流れだった。
「七人という事は、ジフーミとヒサッツ以外にも、あんな凄い奴等が他に五人もいるのか・・・」
ライタの話を聞き、悟飯は目の前が真っ暗になった。ジフーミとヒサッツの相手をするだけでも大変なのに、その他に彼等と同等の力を持つ五人と合わせて計七人が一斉に攻めてきたら、果たして自分達は勝てるのだろうかと不安に思った。
「ルーエ様が魔王だった当時、俺達兄弟はルーエ様に仕える将軍で、戦争の時は一軍を率いて闘ったが、たった一人によって軍は壊滅させられた。三人とも命からがら戦場から逃げ延びるのが精一杯だった。その後、住む場所を追われた俺達は、この世界に逃げ、レード様と知り合って仕えた。レード様なら、もしかしたらジュオウ親衛隊を倒せるかもしれないと思ったのでな」
ライタはここで話を止めた。話している内に昔を思い出し、話すのが辛くなってしまったからである。
「そうか。そんな事があったのか。ジュオウ親衛隊が魔王ルーエを倒し、ジュオウが新しい魔王となったのか?」
トランクスは更なる情報を引き出すために質問した。しかし、末弟のアストレーが即座に否定した。
「違う!確かにジュオウは魔王を名乗っているが、正式なものではない。魔王はシーガ兄貴が話した通り、魔界で一番強い者がなる。魔王になりたい者が正規な方法で魔王となるためには、魔王に試合を申し込み、長老達の見ている前で一対一で戦って勝つしかない。もしジュオウがルーエ様と一対一で戦って勝っていれば、奴は正式に魔王となれたし、誰も何も文句を言わない」
試合とは言っても、天下一武道会のように厳格なルールがあるわけではない。相手を殺しても反則にはならない。長老達の前で闘わなければならないのは、王に相応しい堂々とした戦い方をしているかチェックするためであった。
「それじゃあ、今の魔界は正確に言えば魔王不在なのか?」
続いてウーブが質問した。
「そうだ。最近魔界からこの世界に逃げて来た者の話によれば、ジュオウは長老達に自分を正式な魔王として認めるよう脅しをかけているが、長老達は頑として拒否しているそうだ。長老達に認められなければ、ジュオウが声高に『自分が魔王だ』と宣言しても、誰も奴を魔王として敬わず、従おうともしない。せいぜいジュオウ親衛隊の強さを恐れた一部の魔族ぐらいしか奴に仕えないだろう」
アストレーが話を止めたところで、再びシーガが話し始めた。
「魔族は概して強者を尊敬するが、弱者を軽蔑する。幾らジュオウ親衛隊が強いといっても、ジュオウ自身は虚弱な魔術師。しかも名君と謳われたルーエ様を倒したとあっては、魔界中から恨まれ、命を狙われて当然だろう。それは自業自得であり、気に掛ける事ではない。だが魔界の有史以来、魔王が存在しない期間が一年も続いた事はない。この異常事態を何とか打破しなければ、魔界の未来はない」
彼等兄弟の話を聞いて、悟空達は魔界の現状が徐々に分かってきた。卑怯な手段で魔界の実力者を倒したものの、魔界を支配するどころか、周囲から命を狙われる羽目に陥ったジュオウ。そのジュオウがドラゴンボールを集めるために、そのやり方をジフーミとヒサッツに探るよう命じたのであれば、彼が叶えようとする願いも自ずと見えてきた。
「お爺ちゃん。ジュオウがドラゴンボールを集めようとする目的は、正式に魔王となるためじゃない?力尽くで魔界の支配者になれないから、ドラゴンボールを使って支配者になろうと企んでいるに違いないわ」
「かもな。でも、ジュオウは何処のドラゴンボールを探す気だ?地球やナメック星のドラゴンボールじゃなさそうだ。まさか魔界にドラゴンボールがあるのか?」
ジフーミ達に地球やナメック星にドラゴンボールがあるという情報は伝えていない。それどころか、この宇宙にドラゴンボールが現存している事すらジフーミ達は知らない。それなのにドラゴンボールの探し方を知ろうとしたのは、悟空達が知らないドラゴンボールが存在する以外に考えられなかった。
「カカロット、ジフーミの話によると、ジフーミの世界にドラゴンボールがあるらしい。何故あるのかまでは知らんがな。だが、そんな事はどうでもいい。肝心なのは復讐だ。あのまま奴等に舐められたままでは、俺の気が治まらん。今度はこちらから魔界に乗り込み、奴等を皆殺しにしてやる。幾ら強いといっても、フュージョンを使えば勝てない相手ではない。俺達を生かしておいた事を奴等に後悔させてやる」
ベジータの頭にあるのは、ジフーミへのリベンジマッチしかなかった。それは悟空も同様だった。失った自信を取り戻すためには、ジフーミ達ジュオウ親衛隊を倒すしか他に手段がなかった。
「ああ、そうだな。ジフーミの奴、『この世界を支配する』なんて言ってたし、このまま見過ごすわけにはいかねえな。奴等がこの宇宙に攻めてくる前に、オラ達が魔界に乗り込んで奴等を倒さないとな」
他の仲間達も、次々と二人に賛同した。そして、体力が回復次第、悟空達は魔界に行く事で意見が一致した。ジュオウとその親衛隊を倒して宇宙の危機を取り除き、魔界の秩序を取り戻す事に異論を挟む者はなかった。
「おい、シーガ。魔界への行き方、案内してくれるな?」
「無論だ。ルーエ様とレード様の敵であるジュオウ親衛隊を倒すためならば、道案内だけでなく共に戦おう」
「サンキュー」
こうして悟空達八人はセモークの三兄弟と手を組んで、ジュオウ親衛隊を倒す決意を固めた。そして、場所を変えて魔界に行く準備をしようとした丁度その時、背後から懐かしい声が聞こえた。
「お待ちなさい」
悟空達が一斉に振り向くと、そこには瞬間移動で現れたキビト界王神が立っていた。いつも微笑を浮かべている彼にしては珍しく、この時は厳しい表情であった。
「よー、久しぶりだな界王神様。元気だったか?」
久しぶりの再会に相好を崩す悟空だが、キビト界王神は厳しい表情のまま、悟空達には思いもよらない事を口にした。
「悟空さん。ジュオウ親衛隊と闘ってはいけません」
いきなり悟空達の出鼻を挫くキビト界王神の発言。この時の悟空達は、まだ彼の意図が理解出来なかった。
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