其の三十四 界王神命令

「界王神様、一体どういう事だ?『ジュオウ親衛隊と闘うな』って。あいつ等は悪者なんだろ?何で戦っちゃいけねえんだ!?」

悟空を始め、その場にいる者全員がキビト界王神を不信な目で見つめた。今この場に立っているキビト界王神が、実は偽者じゃないかと疑う者さえいた。しかし、疑惑の目で見られている事を知っていながら、キビト界王神は毅然とした態度を崩さなかった。

「答えは簡単です。ジュオウ親衛隊と闘っても勝てないからです。闘えば間違いなく殺されます」

魔人ブウの時と同様、敵を必要以上に恐れるキビト界王神ならではの弱腰な発言は全く変わっていなかった。ところが、あの時とは状況が異なっていた。

「勝てないとはどういう意味だ?確かに奴等が強いのは認めるが、フュージョンを使えば勝てない相手ではない。俺達の強さを見くびるなよ」

キビト界王神に真っ先に噛み付いたのは、当然の事ながらベジータだった。「勝てない」と言われて大人しく引き下がるベジータではなかった。一方、この時のキビト界王神は、ベジータに責められても己の姿勢を保ち続けていた。

「あなた方はジュオウ親衛隊の恐ろしさを全く分かっていないのです。だから、そんな勝手な事が言えるのです。私は界王神界で、あなた方のこれまでの闘いをずっと見ていました。現在のあなた方の実力を充分に理解しているつもりです。それを踏まえて言っているのです。『勝てない』と」

魔人ブウが復活する前後、魔人ブウには勝てない勝てないと散々言ってきた界王神だったが、あの時の彼は悟空達の真の実力を知らなかった。しかし、現在は何度も悟空達の闘いを見ているので、彼の言葉は以前よりも遥かに信憑性があった。

「いいですか、ジュオウ親衛隊は今まであなた方が戦ってきた相手とは次元そのものが違うのです。ベジータさんがおっしゃった様に、フュージョンを使えばジフーミやヒサッツ程度なら勝てるかもしれません。ですが、ジュオウ親衛隊の中には、あなた方がフュージョンを使っても絶対に勝てない恐ろしい奴も残念ながらいるのです」

この時のキビト界王神は悟空達全員を黙らせるのに充分過ぎるほどの迫力があった。彼はフュージョンを使って生み出される圧倒的な力を知っている。その力をもってしても、ジュオウ親衛隊には勝てないと断言する彼に反論を唱えるのは、さすがのベジータも出来なかった。

「じ、じゃあ界王神様。これから一体どうすればいいんですか?奴等がこの宇宙を支配するのを、黙って見ていろと言うんですか!?」

珍しく弱気な発言をした悟飯を、キビト界王神は怒りと悲しみが入り混じった目で見つめ、そして話を続けた。

「私だって出来る事ならジュオウ親衛隊を何とかしたい。ですが、あいつ等は余りにも凄過ぎるのです。現在、ご先祖様と話し合って、どうすればジュオウ親衛隊を倒せるのか検討中です。その答えが出れば、その時はあなた方にも協力して頂きます。ですから、その時まではじっと我慢して下さい。いいですか、くれぐれも短気はいけませんよ。これは私達界王神からの命令と思って下さい」

全宇宙の頂点に立つ界王神が命令を出すのは珍しい事ではない。しかし、あの温和な神であるキビト界王神が、命令という強い言葉を使ってまで悟空達の行動を抑えようとするのは前代未聞だった。

すっかり意気消沈する悟空達に対し、キビト界王神は更に話を続けた。

「ですが、あなた方が魔界に行く事まで反対するつもりはありません。あなた方には魔界に行ってジュオウ親衛隊と闘う代わりに、やってきてもらいたい事があるのです。それは魔界にあるドラゴンボールの破壊です。ジュオウ親衛隊がドラゴンボールを全て集め終える前に、一個で良いので破壊してもらいたいのです。そうすれば、ジュオウ親衛隊がドラゴンボールを使って願いを叶えるのを阻止する事が出来ます」

悟空達には魔界に行ってもジュオウ親衛隊と接触せず、七個のドラゴンボールの内の一個を破壊してもらいたい。それを伝えるのが、今回キビト界王神が来た理由であった。

「という事は、やはり魔界にドラゴンボールがあるのですね?何故、魔界にドラゴンボールがあるのですか?」

ナメック星人であるピッコロは、魔界にドラゴンボールがある事を疑問視していた。

「魔界にドラゴンボールがあるのは間違いありませんが、詳しい事は分かっていません。現在それについても調べています。とにかく今は一刻も早くドラゴンボールを破壊して下さい」
「分かった。魔界に行ってドラゴンボールを破壊すれば良いんだな?」

意外にもベジータは、キビト界王神の言う事を素直に聞く姿勢を見せた。もっとも心の奥底では、「魔界に行けば、後はこっちのもの」と密かに悪知恵を働かせていた。

キビト界王神はその後、瞬間移動で界王神界に戻った。建前上は彼の指示通りにドラゴンボールを破壊するために魔界に行く悟空達は、その準備に取り掛かろうとした時、今まで沈黙を守ってきた女帝が突然口を開いた。

「ちょっと待つだ!おめえ等、大事な事を一つ忘れてねえか?」
「へ?大事な事?まだ何かあったっけ?」
「とぼけんじゃねえだ!ええだか、準決勝第二試合の時、悟飯とあの変な二人組の合計三人が勝ち残ってただ。そんで、あの二人がどっかに行っちまっただ。つー事は、一人残った悟飯が自動的に優勝だべ」

悟空達はすっかり忘れていたが、確かにルール上はチチの言う通り、悟飯が宇宙一武道会の優勝者である。

「そういやそうだったな。確かに悟飯が優勝だな」
「ようやく理解出来たみてえだな。そんなら早く優勝賞品をよこすだ!宇宙一金が採れるという星を!」

チチはシーガ達セモークの三兄弟に詰め寄った。悟空は大勢の人が見ている前で怒鳴り散らす妻を赤面しながら宥めた。

「チチ、な、何もこんな大変な時に言う事じゃねえだろ。早く魔界に行かねえと大変な事になっちまうんだぞ」
「悟空さ!こんな時じゃなくて、いつ言うだ!?悟空さは知らねえだろうが、悟飯が学者を辞めて以来、家の家計は大変なんだぞ!これも元はと言えば悟空さが働かねえからいけねえんだ!悟空さが働かねえから子供達も真似しちまっただぞ!」

チチが怒り狂うと、もはや誰の手にも負えなくなる。セモークの三兄弟は訳の分からないおばさんに戸惑いながらも、申し訳なさそうに話した。

「じ、実は優勝者に与えられるという星は、金どころか何も採れないクズ星なのだ」
「な、何ー!じゃ、じゃあ宇宙一金が採れるという話は嘘だったんだべか!?」

チチは目の前が真っ暗になった。悟飯の優勝が決まり、これで孫家の家計も一生安泰だと信じていただけに、そのショックは余りにも大きかった。チチはその場で卒倒した。

「え?それじゃあレードの奴、皆をだましてたのか」

チチほどではないにしろ、悟天もいささかショックを受けた。チチが悟飯の優勝を指摘した時、「これでトランクスより金持ちになれる」と内心ほくそ笑んだが、何も得る物が無い事にがっかりした。

「レード様は元々自分が優勝するつもりでいたから、始めから賞品を出すつもりはなかった。賞品が凄ければ大勢の出場者が集まると企んだに過ぎない。大体そんな凄い星をレード様が本当に所有していたら、それを他人に譲ると思っていたのか?」
「な、何てセコイ奴だ」

悟空達は別に賞品目当てに闘ったわけではなかったが、それでも賞品が何も無いと知らされると、流石にレードに文句を言いたくなってきた。

こうして数々の波乱を生んだ第一回宇宙一武道会は、不本意な形ではあるが、最終的に悟飯が優勝という結果で幕を閉じた。しかし、この武道会は更なる波乱への序章でしかなかった。悟空達は間も無く、より厳しい戦いへと身を投じる事になる。

ひとまず気絶しているチチをビーデルに任せた悟空達は、戦いの疲れを癒すために一泊し、武道会でボロボロになった服を新調し、装い新たに魔界へと旅立つ事にした。

悟空達八人とドラゴンレーダー代わりのギル、そしてセモークの三兄弟は、レードの宇宙船に乗り、この世界と魔界の往来が出来る魔界の門があるという星へと向かった。一方、ブルマ達は悟空達と別れ、自分達の宇宙船で地球への帰途に就いた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました