其の三十五 いざ魔界へ

レードの宇宙船に乗って惑星レードを出発した悟空達は、一時間も経たずに別の星に到着した。そこはセモークの三兄弟がレードと初めて出会った星であり、リシパの母星でもある惑星パーシタであった。出発から一時間以内に到着したので、惑星レードと惑星パーシタの間の距離が大して離れていないように思われるが、実際はそうではなかった。レードの宇宙船の移動速度が驚異的に速かったのである。

レードは南銀河中から大勢の優秀な科学者を招集し、日夜様々な機械の開発や改良を命じていた。宇宙船もその中の一つで、性能面はブルマ達が開発した宇宙船より遥かに上だった。仮にブルマの宇宙船で惑星レードから惑星パーシタに向かった場合、一日以上掛かる計算だった。

惑星パーシタは惑星レードと違い、先進的な星ではなくて後進的な星ではあったが、そこに住む人々の表情は活き活きとしていた。セモークの三兄弟がいるため口にこそ出さなかったが、彼等は先程行われた宇宙一武道会でレードがいなくなった事を知っており、レードの支配から解放された事を密かに喜んでいた。実はリシパも内心喜んでいたが、表面上は悲しんで見せていた。

そのリシパだが、実は悟空達と共に惑星パーシタに来ており、久方ぶりに故郷に帰った事もあって浮かれていた。魔界の門へと向かう道すがら、周辺の建物や山などを指差し、悟空達に歴史や産出物等を説明した。早く魔界に行きたい悟空達は、うんざりしながらも一応聞いてあげていた。

歩いて約十分、悟空達は魔界の門の前に立った。魔界の門は高さ五メートルはあろうかという巨大な金属製の門で、扉は大きく開かれていた。この門を潜れば、いよいよ魔界である。門の前で奮い立つ悟飯は、同伴のライタに尋ねた。

「これが魔界の門か・・・。随分でかいな。何でこんなに大きいんだ?」
「魔族の中には巨大な者もいるからだ。その者からすれば、これでも小さいぐらいだ」

続けてアストレーが話し始めた。

「ジュオウ親衛隊との戦いに敗れて深手を負い、この世界まで逃げてきた俺達三人は、この門の前で力尽きた。そこを偶然この星に来ていたレード様に発見された。レード様は俺達を何かに利用出来ると思って助けたのだろうが、そのお陰で俺達は助かった」「レードの事はもういい。要はここから魔界に行けるんだろ?腕が鳴るぜ」

ベジータは既に興奮状態で、早くも臨戦態勢だった。ベジータとは対照的に、冷静さを保っているピッコロはシーガに尋ねた。

「ジフーミ達も当然この門を通って、この世界に来たのか?」

ピッコロは「そうだ」という答えが返ってくると思っていたが、実際に返ってきた答えは意外なものだった。

「分からん。ここから来たのかもしれないし、他の門から来たのかもしれない。俺達はここしか知らないが、昔からこの世界と魔界を行き来する者は多く、そのために多くの門が造られたそうだ。ジフーミ達が別の門を利用した可能性も充分に考えられる」
「へー、そうなんだ。ひょっとしたら、地球にも魔界の門があるかもな」

悟空はすっかり忘れていたが、彼は子供の頃、攫われたミーサ姫を救出するために魔界の門を通って魔界に行った事があった。そして、魔界の武術の達人シュラと戦って勝利し、見事ミーサ姫を救い出していた。

「それでは皆さん、どうかお元気で。健闘を祈っています」
「ああ。色々とありがとうな」

門の前でリシパが見送った。それから悟空を先頭に、仲間達が次々と門の中へと入っていった。それぞれ不安と期待を胸に秘め、魔界へと旅立っていった。

この様子を、界王神界で水晶玉を通して老界王神とキビト界王神が見守っていた。その二人の手には古い巻物が握られ、脇には山と詰まれた巻物があった。現在二人は、魔界にあるドラゴンボールの謎を解明するため、魔界の歴史が記された巻物を読んでいる最中であった。実は界王神界には宇宙の創設以来、歴代の界王神達が記した全世界の歴史書が蓄えられており、二人の界王神は魔界の歴史に絞って調べていた。

「悟空さん達は、やはりジュオウ親衛隊と闘うつもりでしょうか?」
「ふん。サイヤ人達が戦いを避けるなど出来るはずがあるまい。しかも相手は自分達に一度は勝ったのじゃ。やられっぱなしで我慢出来るはずがないわい。悟空達は間違いなくジュオウ親衛隊に闘いを挑み、そして確実に殺されるじゃろう」

二人の界王神は悟空達の性格を良く分かっていた。悟空達が自分達の言う事を無視して、ジュオウ親衛隊と闘う事も見抜いていた。

「じゃが、悟空達が全員殺されても悲観するな。悟空達が殺された後、お前は直ちに地球かナメック星に行き、ドラゴンボールで悟空達を生き返らせればええ。ドラゴンボールを使う事は極力避けたいが、今回は止むを得ん。悟空達も一度痛い目に遭えば、わし等の言う事が正しかったと悟るじゃろう。さあ、それよりも早く魔界のドラゴンボールの謎を解くんじゃ」

二人の界王神は、本心では悟空達がジュオウ親衛隊を全員打ち破る事を願っていた。しかし、その願いは叶わないと決め付けていた。この一年、魔界の動静を観察してきた二人には、ジュオウ親衛隊の恐ろしさが分かっていたからである。

「ご先祖様。今は魔界のドラゴンボールより、ジュオウ親衛隊に対して何らかの対策を考える方が先じゃないんですか?更に言えば、魔界のドラゴンボールの謎を解いたところで、悟空さん達がドラゴンボールを破壊してしまえば、私達がドラゴンボールについて調べる事も無駄になるんじゃないんですか?」

キビト界王神は、間も無く破壊される魔界のドラゴンボールについて調べるのは無駄な作業だと思っていた。

「ふん。少し考えたぐらいで、ジュオウ親衛隊を倒せるような都合のいいアイデアなど出てくるものか。それに、わしは魔界のドラゴンボールが気掛かりなんじゃ。悟空達には欲深い魔族に使われないよう破壊しろと伝えさせたが、本当の理由は魔界のドラゴンボールから只ならぬ力を感じるからじゃ。地球やナメック星のドラゴンボールを遥かに越える力を持っているじゃろう。使い方によっては全世界の破滅も可能かもしれん」

老界王神は魔界のドラゴンボールをジュオウ親衛隊以上に危険視していた。もし全部集められたら、取り返しのつかない事態になると懸念していた。それと同時に、何のために強力なドラゴンボールが作られたのか、とても気になっていた。

「それってもしかして、魔界のドラゴンボールを使えば、ジュオウ親衛隊を倒せるんじゃないですか?だったら、破壊しないで悟空さん達に全部集めさせるべきですよ」
「馬鹿もん!確かに魔界のドラゴンボールを使えば、ジュオウ親衛隊を倒せるかもしれないが、奴等がドラゴンボールを狙っているのを忘れたのか!?集めている最中に奴等と遭遇し、奪われるのが目に見えておるわ。ドラゴンボールは破壊するに限る」

最強最悪のジュオウ親衛隊を倒せる唯一の手段として魔界のドラゴンボールを使うべきと提案したキビト界王神だが、魔界の地理に疎い悟空達が、ジュオウ親衛隊を出し抜いてドラゴンボールを全部集められるはずがなかった。

「それでは、ご先祖様。ドラゴンボールの謎を解くためとはいえ、なんで魔界の歴史を片っ端から調べなければいけないんですか?仮に魔界のどこかにナメック星人がいるとして、その者がドラゴンボールを作ったとしても、せいぜい三百年前でしょう。千年以上前の歴史を調べても意味が無いんじゃないですか?ナメック星人が千年も生きられるとは思えません。引き継ぎをすれば別ですが、それでもせいぜい数百年でしょう」

ドラゴンボールの作り手が死んでも、死ぬ前に誰かに引き継げばドラゴンボールは消えずに存在する。しかし、ずっと順調に引き継ぎが上手くいくとは考え難い。引き継ぎ前に死亡すれば、ドラゴンボールは消滅する。ナメック星のドラゴンボールだって、現存するのは先代の最長老が作った物であり、それ以前に作られたドラゴンボールは、既に消滅していた。

「魔界のドラゴンボールから感じる力は、遥か昔に感じた事があるからじゃ。太古の時代に作られた物に相違あるまい。さすがに作った人間は死んでおるだろうが、ドラゴンボールはその後も消えず、引き継ぎもせず、ずっと存在し続けたようじゃ。わしは気になるんじゃ。誰が何のために作ったのか」

界王神達がドラゴンボールに関して熱い議論を交わしている頃、悟空達は延々と続く長く暗い洞窟の中を歩いていた。ドラゴンボールを交えて、悟空達とジュオウ親衛隊との熾烈な闘いは、間も無く始まろうとしていた。

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