魔界のと或る星。宇宙一武道会で悟空達からドラゴンレーダーを奪ったジフーミ達は、その星にある荘厳な城の中へ入り、奥の一室まで進んだ。その部屋には大きな玉座があり、玉座には小さな体で、顔が皺だらけの魔族が座っていた。この魔族こそが全ての元凶であるジュオウだった。ジフーミ達はジュオウの正面まで歩み、その場に跪いた。
「ジュオウ様。只今戻りました」
「ご苦労。随分大変な目に遭ったようだね。報告はジフーミから聞くから、ヒサッツは治療室で体を治してきていいよ」
「はっ。ありがとうございます」
ヒサッツは自力で歩く事もままならないほどの重傷を負っていたため、同じ部屋の中にいた兵士に支えられて退室した。ヒサッツが退室した後、ジュオウはジフ-ミと向き合い、報告を求めた。
「あのヒサッツが重傷を負うとは・・・。向こうの世界にも凄い奴等がいたのか?」
「一人だけ手強い奴はいましたが、そいつはヒサッツが傷つきながらも倒しました。他は大した事なかったです」
「それは良かった。ならば向こうの世界を支配するのは難しくなさそうだな」
ジュオウが言う向こうの世界とは、宇宙の事である。いずれ宇宙の征服を目論んでいるジュオウにとって、宇宙には障害になりそうな強者はいない方が都合良かった。
「それで、向こうの世界にもドラゴンボールはあったのか?」
「今は無いですが、過去には存在していたそうです。そして、かつてドラゴンボールを集めていた連中は、このレーダーとかいうのを使ってボールを探していたようです」
ジフ-ミはジュオウにドラゴンレーダーを差し出した。レーダーを受け取ったジュオウがそのスイッチを押すと、画面に複数の小さな光の点滅が表示された。
「光の点滅は全部で七つあって、その内の一つが中央に表示されている。ひっひっひっ、どうやら間違いないようだね。良くやったよ、ジフ-ミ。これでドラゴンボールを全部集められるぞ」
ジュオウは満面の笑みを浮かべて大喜びした。成果が出る可能性は低いと思い込んでいただけに、喜びも一入だった。そして、周りを憚らずに独り言を始めた。
「わしは魔界の新しい王となってみせる。そして、その後は魔界の大軍を率いて向こうの世界を攻め、全世界をわしのものにしてやる。偶然見つけた一個のドラゴンボールが、わしを暗闇から解き放ったのだ」
クーデターを成功させて魔界の支配者になれるはずが、ほとんどの魔族は従わず、それどころか魔界中から命を狙われ、親衛隊の陰に隠れて暮らす羽目に陥ったジュオウ。そんなジュオウが偶然一個の球を見つけた。当初は何なのか分からなかったが、古い古文書を紐解いて正体が分かると、一筋の光明を見出した。ただし、その集め方が分からなかったため、ジフ-ミとヒサッツに別世界である宇宙にまで情報を求めに行かせた。
「ようし、早速ジュオウ親衛隊の何人かに命じてボールを集めさせよう。ヒサッツを除く親衛隊全員を直ちに呼べ」
側にいる兵士に命じて別室にいる他の親衛隊を招集しようとしたジュオウだったが、玉座の脇に立っていた部下が声を掛けた。その部下は頭の左右の側面から一本ずつの角が生えている以外は人間と変わらぬ姿をしていたが、その男からはジフ-ミが嫌悪感や恐怖感を抱くほどの巨大で邪悪な気が感じられた。
「ジュオウ様、お待ち下さい。ジュオウ様がお造りになった我等ジュオウ親衛隊は、一人一人が素晴らしい力の持ち主ですが、残念ながら仲が良くありません。ジュオウ様の目の届かぬ所に行けば、ドラゴンボール集めそっちのけで殺し合いを始めてしまうかもしれません。ジフ-ミとヒサッツを向こうの世界に行かせたのも、元はと言えば、七人の中では比較的仲が悪くない二人だからではありませんか」
邪悪な気に似合わず、その男の口調は丁寧かつ穏やかだった。部下の忠告にジュオウは思わず唸った。
「た、確かにお前の言う通りだ。あの二人も仲が良いわけではないが、他の者達に比べれば遥かにましだ。酷いのになると、目が合った瞬間に殴りあう奴等までおるからな。本当に頭の痛い事だ。ジュオウ親衛隊の同士討ちは何が何でも避けねばならん。では、どうすればいい?一人を選び、そいつに集めさせるのか?ドラゴンボールは魔界中に散らばってるから、全部集めるのに随分時間が掛かってしまうぞ」
宇宙に比べれば圧倒的に狭いが、それでも魔界は広かった。一刻も早くドラゴンボールを全部集めたいジュオウにとって、一人だけにボール集めを任せるのは心許無かった。
「私が魔法でレーダーを複数個にコピーし、それ等を親衛隊一人一人に持たせてドラゴンボールを取りに行かせたらいかがですか?それなら親衛隊同士が顔を合わせずに迅速に全てのボールが集まります。残るボールは六個。ヒサッツを除く親衛隊も六人。ちょうど数が合うではありませんか」
部下としては名案を述べたつもりだったが、ジュオウは渋い顔になった。
「確かにそのやり方ならすぐにドラゴンボールは集まるだろう。だが親衛隊が留守の間に、わしの命を狙う者が現れたらどうする?かなり大勢の魔族を殺したとはいえ、まだまだわしを殺そうと企む馬鹿の数は絶えない」
「ご安心下さい、ジュオウ様。私が城の周りに結界を張り、親衛隊とジュオウ様に忠誠を誓う者以外は中に入れないようにしますから」
自分の身の安全を確保出来る事で、ようやくジュオウも納得した。しかし、今度はジフ-ミが難色を示した。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。六人って事は俺もボール集めをするんですか?俺は帰ってきたばかりで疲れているんですよ。俺は行かなくてもいいでしょう?」
ジフ-ミは面倒臭がってボール集めの任務から逃れようとしたが、その態度がジュオウの怒りを買ってしまった。
「高速完全再生能力を持つお前が疲れるはずあるまい!下らん言い訳してないで、早くボール集めに行く準備でもして来い!」
ジフ-ミの生みの親だけに、ジュオウは彼の性格を熟知していた。ジフ-ミはふてくされて小声で呟いた。
「たく、相変わらず人使いが荒いんだから」
「何か言ったか?」
「何でもありません!」
ジフ-ミは慌てて退室した。宇宙一武道会では縦横無尽に暴れまわったジフ-ミも、ジュオウの前では、まるで駄駄っ子の様だった。ジフ-ミの退室後、ジュオウの脇に立って彼を警護していた部下も退室した。程なくして六人のジュオウ親衛隊が各自レーダーを持ち、兵を率いてボール探しのために魔界中に飛び散った。
一方、長い洞窟の中を歩いてきた悟空達は、とうとう魔界へと到着した。洞窟を抜けると、そこは辺り一面に煙が立ち込める灼熱の地であった。遠くの視界がぼやけるほど煙が多く、そして暑かった。その余りの暑さに、悟空達はすぐに汗びっしょりになった。
「何だここは?随分暑い場所だな。魔界って何処もこんなに気温が高いの?」
「いや孫悟天、ここが特別暑いのだ。何故なら、この星は火山が数多くあり、毎日必ず何処かの火山が噴火している魔界で最も暑い星、そして我等兄弟の出生の地でもある惑星セモ-クだからだ」
悟空達の現在いる場所は四方を火山に取り囲まれており、どれもすぐにでも噴火しそうな様相だった。シーガの言う通り火山の数が多く、すぐ近くにはマグマの湖さえあった。視界が悪いため注意して歩かないと、その湖に落ちてしまう危険な場所であった。
悟空達に同伴してきたシーガ達セモ-クの三兄弟は、一年ぶりに故郷に帰ってきて懐かしそうに周りを見渡した。周囲に人の気配はなく、建物は全て廃墟で、環境も劣悪なので、お世辞にも良い星とは言えなかった。しかし、環境状態が悪い事は、取りも直さず修行には向いている地である。悟空はこの星で修行するのも悪くないと思った。
「どうやらこの星には何も残されてはいないようだ。おそらくジュオウ親衛隊が全ての物資を搾取していったのだろう。人の気配が全くしないから、住人は皆殺し・・・。奴等、許せん!」
「それにしても、この異常な暑さは何だ!?今までこんなに暑い事はなかった。そして、この明るさ。一体この一年の間に何があったというんだ?」
この星の出身であるセモ-クの三兄弟でさえ、異常とも思える猛暑だった。
「たぶん今が昼だから暑いんじゃねえか?夜になったら涼しくなるだろ」
太陽が出ているから、その分暑いのだと推測した悟空は、頭上の太陽を指差して皆に教えてあげた。普段太陽を見慣れている悟飯達は魔界の太陽にも別段驚きはしなかったが、セモ-クの三兄弟は尋常でない驚きの表情で太陽を見上げた。
「た、太陽だと!?馬鹿な!何で太陽があるんだ?」
「どうした?まさか以前は太陽が無かったとでも言うのか?」
「当たり前だ!ここは暗黒魔界だぞ!太陽などあるはずなかろう」
魔界に突如として現れた謎の太陽。悟空達がその謎を知るのは後の事である。
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