トランクスが開けた穴の中にいた悟空達は、闘いに備えて地上に戻り、複数の邪悪な気の襲来を待ち構えた。程なくして、その邪悪な存在が悟空達の肉眼でも見える距離にまで近付いてきた。それは全員が白い龍の背に乗った異形の戦士達だった。やがて悟空達の目の前に、その謎の白龍軍団は降り立ち、その先頭にいる戦士が龍に乗ったまま悟空達に対し、横柄な態度で話し掛けてきた。
「おい、お前等。この辺りで赤い星の入った黒いボールを・・・って既に持っていたか。そいつを俺達に渡しな。死にたくなかったらな」
戦士は悟空の手にあるドラゴンボールに早くも気付き、その譲渡を求めた。当然の事ながら、悟空がそれに応じるはずがなかった。渡す素振りを一向に見せない悟空に、戦士は早くも苛立ってきた。
「俺達に逆らうつもりか?俺達はジュオウ親衛隊のカイブ様の軍だ。つまり俺達に逆らう事は、カイブ様に逆らうのと同じだ。分かったら、早くそいつをよこせ」
「ジュオウ親衛隊を恐れ、奴等の軍門に下った魔族の風上にも置けん奴等め!俺が引導を渡してやる」
「面白い。そのカイブとやらを連れて来い。貴様等三下じゃ話にならん」
ジュオウ親衛隊と聞いて、アストレーとベジータは即座に反応した。二人は目の前にいる雑魚を片付けてカイブを誘き出そうと企んだが、ウーブが彼等を制止した。
「待って下さい。こんな奴等を倒すのに皆で戦う必要ありません。俺一人で充分です」
「そうか。なら任せたぞ」
ベジータはこの場をウーブに任せて引き下がった。アストレーや悟空達も後退し、ウーブ一人だけが残った。
「貴様、俺達全員を一人で相手にするつもりか?」
「当たり前だ。お前等雑魚を倒すのに、俺達全員で闘う必要はない。無駄口もその辺にして、さっさと掛かって来い」
ウーブに挑発された白龍軍団は、一斉にウーブに襲い掛かった。龍は炎を吐き、戦士は気功波を放つ二面攻撃を仕掛けたが、如何せん相手が悪過ぎた。ウーブは上空に飛び上がって攻撃を避けると、彼等に向けてお菓子光線を放った。白龍軍団は一瞬にして飴玉になり、戦いが終わった。
悟空達は予想通りの結末に満足する一方、ウーブのお菓子光線が決まるのを目撃したセモ-クの三兄弟は大いに驚いていた。それと言うのも、宇宙一武道会で余り活躍せずに敗れたウーブを、彼等兄弟は大した戦力ではないと思い込んでいたからだった。一方のウーブも面目躍如とばかりに、いつも以上に燃えていた。
「今の軍団の中に強い気の奴はいなかった。カイブとかいう奴は、どうやら別の場所にいるらしいな」
自分の勝利に酔いしれず、ウーブは次の戦いを見据えた。その時、一際大きな気が、こちらに向かってくるのを感じた。先程倒した軍団のとは比較にならない巨大な気に触発され、ウーブを始め悟空達は一斉に気の感じる方角を見つめた。
やがて雲の合間から、その巨大な気を発する存在が姿を見せた。全長三十メートルはあろうかという巨大な白龍が飛来し、ウーブの前に地響きを上げて降り立った。
「で、でかい。こいつがカイブか?ジフ-ミ達とは大きさが大分違うな」
その巨大な白龍は、ウーブに向けて猛然と襲い掛かってきた。白龍は火炎の玉を複数吐いたが、ウーブは全て避けた。今度は左右の前足にある巨大な爪を振り回してきた。白龍は体に似合わず素早かったが、ウーブの方が一枚も二枚も上手だった。
全ての攻撃を避けたウーブは、白龍に向けてお菓子光線を放った。白龍は大きな体のせいで避けきれず、お菓子光線を浴びた。そして、白龍は高さ十メートルはあろうかという大きなショートケーキに姿を変えた。
「うわー、美味しそう」
甘い物に目が無いパンは、目の前の大きなショートケーキに目を輝かせた。魔界に来てから何も食べておらず、空腹だったパンはケーキに飛びつき、千切って食べ始めた。悟空達他のサイヤ人やウーブも続いて食べ始め、その光景をピッコロとセモ-クの三兄弟は遠巻きに見ていた。
ピッコロは苦戦が予想されたジュオウ親衛隊の一人を簡単に倒せた事に胸を撫で下ろし、悟空達が食べ終わるまで待つ事にした。そして、傍にいるシーガに話し掛けた。
「お前等は食べんのか?俺達に遠慮する必要は・・・どうした?顔が青ざめているぞ」
「あ、あの龍はカイブではない。俺達は一年前の戦争でカイブと闘ったが、奴はあんな龍の姿をしていなかった」
「何だと!?それじゃあ本物のカイブは何処に?」
ピッコロ達の不安をよそに、悟空達の食事は続いていた。悟空がケーキの上に飛び乗ると、そこには悟空の体と同じくらいの大きさの苺があった。
「へへへ、いただきまーす」
悟空は大口を開けて苺に噛り付くと、苺が動き始めた。苺は悟空を振りほどき、飛び上がって怒鳴り始めた。
「い、痛てー、何しやがるんだ!人が龍の背中の上で気持ちよく寝てたのによ!」
ケーキの上に吹っ飛ばされた悟空は、全身がクリームだらけになりながらも苺を凝視した。他の仲間達も異変に気付き、各自ケーキの上に飛び乗った。
「どうしました?お父さん」
「い、苺が喋った」
悟飯達は一斉に苺を見つめた。一方、苺の方も目の前の悟空達を見、再び話し始めた。
「お前達の仕業だな?俺をこんな姿にしたのは。後悔させてやるぞ!」
苺が煙に包まれた。やがて煙が晴れると、そこには一人の戦士が立っていた。二メートルを越す長身、筋肉隆々の褐色のボディ、腰のあたりまで伸びた長く白い髪の戦士だった。背丈は先程の巨大な白龍の方が上だが、気の大きさは戦士の方が数段勝っていた。
セモ-クの三兄弟は、目の前に現れた戦士を見た瞬間、揃って表情が一変した。そして、ライタは憎悪と恐怖を混同させた複雑な面持ちで、静かに話し始めた。
「こ、この男がカイブだ。間違いない。一年前に俺達の軍を一瞬で葬り去ったジュオウ親衛隊の一人カイブだ」
「この俺が貴様等の軍を葬っただと?覚えていないな。あの時は大勢殺したからな」
悟空達は突然現れた戦士に驚いていたが、一番驚いたのはウーブだった。
「お、お菓子光線を喰らい、お菓子になったにも拘らず、自力で元に戻っただと!?し、信じられない。こ、これがジュオウ親衛隊の実力か・・・」
前世の魔人ブウ時代を含め、お菓子光線を浴びてお菓子にされながら自力で元に戻った人間は、自分以外にいなかった。ベジットは飴玉にされながら話したり動き回れたが、自力では元に戻れなかった。ベビーと戦った折にウーブは自らのお菓子光線でチョコになりながら元に戻ったが、それは自身が作った光線なので戻り方を知っていたからだった。予備知識もなく自力で戻ったカイブの底知れぬ凄さに、ウーブは驚愕した。
カイブは悟空達の慌てぶりとは対照的に落ち着いた表情で、悟空が吹き飛ばされた拍子に落としてしまったドラゴンボールに目を向けた。
「お前達もドラゴンボールを狙っているようだな。どうやってボールを探し出せたのかは知らんが、俺の邪魔をする奴は一人たりとも生かしておかん」
遂にジュオウ親衛隊との対決の時を迎えた悟空達。カイブから発せられる巨大な気に触発された悟空は、興奮を禁じ得なかった。
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