カイブとの死闘後、悟空達は惑星セモ-クに舞い戻っていた。惑星セモ-クは火山が多いだけに温泉も多く、中には湯に浸かるだけで傷を癒せる不思議な温泉まであった。悟空達は闘いの疲れと傷を癒すため、その不思議な温泉に浸っていた。唯一の女性であるパンを除いて。
その不思議な温泉の効能は抜群で、悟空達は驚くほど早く回復していた。ただし、完全回復した後も、誰一人として温泉から出ようとはしなかった。温泉に浸かるのが気持ち良かったからであった。
そんな折、キビト界王神が瞬間移動で悟空達の側までやって来た。キビト界王神の表情は険しく、悟空達の顔を見るなり苦言を呈した。
「やってくれましたね、皆さん。あれ程ジュオウ親衛隊とは闘うなと言ったのに、その禁を破って戦ってしまうとは・・・。これでジュオウ親衛隊との全面対決は避けられないものとなってしまいました。一体あなた方は何を考えているのですか!?」
何時もは穏やかなキビト界王神にしては珍しく怒っていた。悟空達が言われた通りにジュオウ親衛隊との対決を避けるとは思っていなかったが、魔界に着いて早々に禁を破った事に憤っていた。
「界王神様、ジュオウ親衛隊と闘っちまったのは確かに悪かった。けどよ、一人倒したんだぜ。界王神様が絶対に勝てないと言ったジュオウ親衛隊によ」
ジュオウ親衛隊の一人に勝利した後だけに、悟空も強気だった。しかし、キビト界王神も負けていなかった。
「私は何もカイブを指して絶対に勝てないと言ったのではありません。カイブも確かに強敵でしたが、あなた方の実力なら勝てると思っていました。私が絶対に勝てないと言ったのは、他の奴に対してです」
「そういやカイブも言ってたな。ジュオウ親衛隊には、あいつより遥かに恐ろしい奴がいるって。その恐ろしい奴が、オラ達が絶対に勝てない奴なのか?」
「絶対に勝てない」と言われて、悟空が怖気づくはずがなかった。むしろ悟空は目を爛々と輝かせた。この時、キビト界王神は嫌な予感がした。
「お、恐らくそうでしょう」
「ふん。言っておくが、俺は闘いもしないで絶対に勝てないと決め付けるつもりはない。本当に勝てないかどうかは、実際に闘ってから決めてやる」
悟空とキビト界王神の会話に、ベジータが割って入ってきた。悟空も「そうだな」と頷いた。彼等はキビト界王神が恐れる相手に興味を持ち始めてしまった。キビト界王神の悪い予感が当たった。
「なあ、界王神様。そいつが何処の星に居るか分かってるんだろ?オラ達をそいつが居る星まで瞬間移動で連れて行ってくんねえか?レーダーを頼りにしてたんじゃ、何時そいつに会えるか分からねえしな」
「それは良い考えだ。どうせ戦うのなら早い内が良いからな」
悟空もベジータも、キビト界王神の気持ちなど全く意に介さず、早くも闘う気になっていた。キビト界王神は、そんな彼等の態度に段々と腹が立ってきた。
「勝手な事を言わないで下さい!あなた方はテキームの恐ろしさを知らないからこそ、そんな事が・・・」
「へー、テキ-ムっていうのかそいつ。やっぱりカイブより強いのか?」
キビト界王神は興奮の余り敵の名を明かしてしまい、墓穴を掘ってしまった。事ここに至っては、キビト界王神に悟空達を抑えるのは不可能だった。
「実力で言ったら、テキ-ムはカイブより劣ります。ですが、あなた方が例え元気玉を使おうが、フュージョンを使おうが、絶対に勝てません。何故なら、テキームにはどんな攻撃も通じないからです。これだけ言っても、まだ闘うつもりですか?」
「どんな攻撃も通じないだと?面白い。だったら俺の攻撃も通じないのか試してやる」
これ以上の悟空達への説得をキビト界王神は無駄だと考え、失望して項垂れた。そんなキビト界王神とは対照的に、悟空とベジータは興奮冷めやらぬ様子だった。
「そんな顔すんなよ。オラ達がそのテキームって奴を倒して、界王神様達の不安を取り除いてやっからよ。さあ、オラ達を早くそいつの元に連れてってくれ」
「・・・分かりました。あなた方がそこまで言うなら、お連れしましょう。ですが、テキームと闘って勝てないと分かったら、殺される前に逃げて下さい。・・・それと、行く前にせめて服ぐらい着て下さい」
着衣した悟空達は、離れた場所で一人待っていたパンと合流し、キビト界王神の瞬間移動である星へと移動した。そこは大地が穴だらけの荒れ果てた星だった。魔界に来て以来、様々な星を見てきた悟空達だったが、ここまで酷い状態の星は見た事がなかった。
「ここにテキームって奴がいるのか?割と大勢の気を感じるが、凄い奴の気は感じねえな。もうドラゴンボールを見つけて、この星から立ち去ったんじゃねえのか?」
「いいえ、お父さん。レーダーを見ると、ドラゴンボールの反応がありますから、まだテキームは居るはずですよ。ほら、見て下さい」
「本当だ。とりあえず、その反応がある所まで行ってみっか」
キビト界王神を含めた悟空達は、ドラゴンボールの反応がある場所を目指して飛び立った。飛行中、悟空達は地面を見下ろしていたが、至る所で大地が裂けていたり大穴が開いていた。自然に出来た裂け目や穴とは思えず、激しい戦闘の爪痕だと予想された。そして、セモ-クの三兄弟は、その大地を哀愁漂う表情で見つめていた。見かねたピッコロが、シーガに尋ねた。
「そんな顔して一体どうした?以前この星で何かあったのか?」
「この星は、かつて惑星ルーエと呼ばれ、魔王ルーエ様が住んでいた星だ。そして、ルーエ様率いる魔王軍と、ジュオウ親衛隊との闘いが行われた星でもある。まさか再度この星に来ようとは・・・」
「なるほど。どうりで大地が荒れ果てているはずだ」
裂け目や穴の深さから、かなりの激戦が繰り広げられたと予想された。また、大勢の魔族が死んだ割には、魔族の骨が余り見受けられない事から、殺された者達の大部分は気功波の類で消されたと推測された。
更に飛行を続ける中、トランクスがパンの方を振り向くと、何故かパンが膨れっ面だった。トランクスはパンが何かの原因で怒っていると気付き、彼女を宥めるために優しく話し掛けた。
「どうしたんだい、パンちゃん?そんな怖い顔して?何にそんなに怒ってるんだい?」
「怒ってちゃ悪い!?」
「うっ、も、もしかして、さっきパンちゃんだけ温泉に入れなかったからかな?ま、また後で入れる機会もあると思うし・・・」
トランクスはパンの機嫌が悪い理由は、パンだけが温泉に入れなかったからだと思ったが、トランクスの気遣いがパンの逆鱗に触れてしまった。
「そんなんじゃない!この前のカイブとの闘いで、皆それぞれ活躍したのに、私一人だけ観てただけなのよ!私は闘いを観に来たんじゃない!一緒に闘うために来たのよ!」
「そ、そんな事を言ったって仕方ないじゃないか。相手はジュオウ親衛隊なんだよ。一歩間違えれば全滅する可能性だってある危険な敵なんだよ。命があるだけでもありがたいと思わなきゃ」
トランクスはパンを宥めようと言葉を選びながら慎重に説得したつもりだったが、パンはトランクスのその態度すらも気に食わなかった。パンは自分だけ子供扱いされる事を極端に嫌っていた。
「人の気も知らずに、よくもそんな事を・・・。まあいいわ。終わってしまった事に対して後から文句言っても仕方ないし。まだ敵は残っているから私が活躍するチャンスだってきっとあるはずよ。どうせこれからジュオウ親衛隊の一人と戦うんでしょ?だったら次は私が一人で倒してみせるわ。ジュオウ親衛隊に、この私の実力を思い知らせてやるんだから!」
温泉での悟空達の会話を聞いていなかったパンは、これから自分達が恐るべき相手と闘う事を知らなかった。界王神いわく元気玉やフュージョンを使っても勝てない相手に、パンが一人戦って勝てるはずないのだが。
悟空も悟飯も子供の頃から大人達に混じって戦ってきたが、彼等は子供だからという理由で、周りから未熟者扱いされてはいなかった。仲間は彼等を頼りになる相棒として、敵は彼等を恐るべき対戦相手として見てきた。悟天だって子供の時、フュージョンを使って恐ろしい魔人ブウとの戦いに駆り出されていた。ところが、パンは仲間に頼りにされていなければ、敵から脅威とも思われていなかった。
パンは女の子とはいえ戦士である。自分が戦力になっていない事に我慢ならなかった。しかし、パンの置かれている状況は、悟空達の時よりも遥かに厳しかった。何故なら、闘いのレベルが悟空や悟飯の子供時代の時よりも格段に上だからである。味方も敵も自分より遥かに実力が上なので、パンが活躍の機会を見出すのは極めて困難だったが、それでもパンは自分の出番があると信じて疑わなかった。
パンの事は取り敢えず置いといて、いよいよ悟空達はドラゴンボールの反応があった場所の近くまで接近した。森の上を飛行中の悟空達に、突如として無数の光弾が下の方から飛んできた。悟空達は何者かによる奇襲を受けた。
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