其の四十四 テキームの特異な体

悟空達に近付いてくる白い光。最初、それは単なる光にしか見えなかったが、接近してくるにつれ、それが実は光を放つ人である事に悟空達は気付いた。そして、その白い光を放つ奇妙な人物は、宙に浮いたまま悟空達に近づき、彼等の眼前で止まった。この奇妙な人物は、悟空達の目の前にいるのに、悟空達には気が全く感じられなかった。次の瞬間、悟空達の心の中に何処からともなく声が聞こえてきた。

『お前達に告ぐ。こちらの要求に素直に従わねば死ぬ事になる』

悟空達はそれがテレパシーであると気付いたが、誰からのテレパシーかは分からなかった。しかし、目の前にいる奇妙な人物以外に該当する人が思い浮かばないので、悟空は彼の仕業だと断定した。

「お前がテキームだな?何で目の前にいるのに話さねえで、わざわざテレパシーなんて使うんだ?」

悟空が問い掛けると、再び悟空達の心に声が響いた。

『いかにも私がテキームだ。そして、私は話せない。しかし、テレパシーは出来る。だから他人に自分の意思を伝える時は、こうしてテレパシーを使う。それではこちらの質問にも答えてもらおうか。この洞窟内に赤い星の入った黒い珠があるはずだ。それをこちら側に渡す意思はあるか?』
「冗談じゃねえ。誰が渡すか。ドラゴンボールが欲しければ力ずくで奪ってみな」

悟空の返答に、テキームの兵士達は一斉に笑い出した。テキームは声こそ出さないが、肩を震わせ笑っているように見えた。

『そう言うだろうと思っていた。お前達魔族は頑固者が多いからな。それにしても、よくドラゴンボールの名前を知っていたな』
「オラ達は魔族じゃねえ」
『ほう、そうなのか。だがそんな事はどうでもいい。お前達が素直にドラゴンボールを渡す意思が無いなら、お望み通り力ずくで奪うとしよう』

こうして悟空達とテキームとの戦闘は唐突に始まった。気を感じないのでテキームの力を推し量る事は出来なかったが、それでも悟空達はテキームを強敵と決めつけ、一斉に身構えた。対するテキームは微動だにせず、再びテレパシーで悟空達に語りかけた。

『お前達にハンデをやろう。一分だけ時間をやるから、好きなだけ私を攻撃しろ。私はその間、何もしない』

悟空達は唖然とした。これまで自信に満ち溢れた敵とは幾度となく出会ってきたが、ここまで自惚れの強い敵はいなかった。

「何よ大物ぶって。あんたなんか私が一撃で倒してやる」
「ま、待てパン!」

活躍の場を求めるパンは、悟空が止めるのも聞かず、テキームに飛び掛かった。テキームは宣言通り微動だにせず、パンの右のパンチがテキームの顔面に当たったかに見えた。しかし、パンのパンチは空を切った。パンは続けてパンチとキックを何度も繰り出したが、どれもテキームには掠りもしなかった。

「ええいどけ!俺がやる!」

打倒テキームに燃えているライタは、パンが攻撃を当てられないのに苛立ち、痺れを切らして飛び出した。パンを押しのけ、テキームに連続攻撃を加えたが、彼の攻撃も全て功を奏さなかった。

テキームには動いた様子が一切見られないのに、どうしてパンの攻撃もライタの攻撃も当たらないのか。テキームが誰にも感知出来ないほどの速さで二人の攻撃を避け続けている可能性もあるが、念のため悟空は傍にいた界王神に尋ねた。

「なあ、界王神様。一体どうなってんだ?テキームの奴、全然動いてねえのに、何で二人の攻撃が当たらねえんだ?」
「テキームには実体が無いんです。言うなれば空気みたいなものです。触れられないから攻撃が当たらないのです」

界王神の返答に悟空達は驚愕し、一同開いた口が塞がらなかった。

「そんな馬鹿な!?何でそんな奴が存在するんだよ?あいつの体は一体どうなってんだ?教えてくれ!界王神様!」
「そ、そこまでは知りませんよ。ただ一つ言えるのは、テキームを倒す手段が全く無いという事です」

驚愕の余り気が動転してしまった悟空達。どんな攻撃も通じないと事前に聞いてはいたが、それを悟空達はテキームの体が恐ろしく頑丈で、今まで何人たりともテキームに傷を付けられなかった。あるいは超スピードの持ち主で、これまで攻撃を受けた事がなかったと予想していたが、それ等は見事に覆された。

どんなに防御力が高くても、それを打ち破る力を生み出してから攻撃を加えればいい。また、どんなにスピードが速くても、全員で取り囲んでしまえば捕らえる事が出来る。悟空達はそう考えていたし、出来る自信もあった。だからこそ今までテキームとの闘いを楽観視していた。

「何時までも消えねえ残像拳みてえな奴だ。これじゃあ、どんな攻撃もテキームには通用しねえ」

どれほど破壊力がある必殺技でも、当たらなければ意味が無い。界王神が言った様に、フュージョンや元気玉を使っても、テキームに勝てそうもなかった。そして、界王神の話が耳に届いていたライタは、自分の努力が徒労に終わる事を知り、攻撃を止めた。

『もう終わりか?更に時間を延長して、もっとハンデをやろうと思ったのだがな』
「あんたの体はどういう構造してるのよ!?何で出来ているわけ?」
『さあな。ジュオウ様が私を生み出した時から私の体はこうだった。おそらく、どんな攻撃も通じない戦士が欲しくて私を生み出したのだろう』

普段は勝気なパンも、この時ばかりは、ぐうの音も出なかった。

『やっと理解したようだな。私に敵対する事の愚かさを。ドラゴンボールを大人しく差し出せば、今ならお前達を見逃してやらんでもない』
「ふっ、確かに貴様には驚かされたが、そんな体で何が出来る?俺達が貴様に攻撃出来ないように、貴様も俺達を攻撃出来まい」
『私が攻撃出来ないだと?それはどうかな?』

ベジータの挑発に触発されたテキームの体から突風が吹き起こり、悟空達は後方に吹き飛ばされてしまった。

「い、今のは気合砲!?あいつ、そんな事が出来るのか?」
『この私を舐めない方が良い。私はお前達の体に触れずとも攻撃出来る。そして、私が出来る攻撃は、これだけではない』

テキームは近くにある岩山に右手を掲げると、その岩山が浮かび上がった。そして、岩山はバラバラに砕け、岩山の破片が悟空達に猛スピードで迫った。観戦していた魔族達は慌てて洞窟へと退避し、悟空達は迫り来る破片の一つ一つを、それ以上のスピードで避け続けた。

「い、今のは超能力。正確に言えばサイコシキネス。こっちは全く手出し出来ないのに、奴は思いのままに攻撃が出来る。一体どうすればいいんだ?」
「くっ、これまでずっと奴のペースだ。早く何か対策を立てないとまずいぞ」

何時もは冷静沈着な悟飯やピッコロも、焦りを禁じ得なかった。

『いかがかな。まだ私が攻撃出来ないなんて言うのかな?』
「大したもんだ。確かにお前は俺達に触れなくても攻撃出来るみたいだな。でも、勝ち誇るのは早過ぎないか?あんな程度の攻撃で俺達を倒せると思っているのか?あんなの何千何万発喰らっても、俺達を倒す事は出来ない。どうやら俺達がお前を倒せないように、お前も俺達を倒せないようだな」

今度はトランクスがテキームを挑発した。トランクスの言う通り、これまでのテキームの攻撃は、悟空達が知っている他の親衛隊のに比べると、全然大した事はなかった。

『減らず口を叩きおって。そこまで言うのなら見せてやろう。魔王ルーエをも葬った私のとっておきの技をな』

トランクスの挑発がテキームの闘争本能に火をつけてしまった。この先、悟空達は窮地に陥る事となる。

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